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2008年06月03日 (火) | Edit |
すなふきんさんのところでも取り上げられていたように自民党でも議論が進んでいるらしい道州制ですが、先々週の日経新聞の経済教室でも「再考・道州制」としてお三方が寄稿されていたので、2週遅れの感想など。かなりタイミングを外してしまった感がありますが、これ以上遅らすのもなんのでとりあえずのメモです。

すなふきんさんが

東京圏への集中を抑えるためにやるという考え方もあるだろうが、東京圏にリソースが集中してしまった理由は単純に市場メカニズムの働きによるものとすれば、それを人為的に何とかしようと考えるのは妥当なやり方なのかどうかも疑問が残る。
■[政治]今頃「地方分権」などナンセンスでは?」(すなふきんの雑感日記


とおっしゃる点については、以前コメントさせていただいたとおりに考えていたので、この話は結局「補完性原理」をどう捉えるかということにつきるんじゃないかと思ってました。ところが、濱口先生からご教示いただいたとおり、当のEUでも政治的な駆け引きのための大義名分として「補完性原理」というタームが使われているのであれば、「チホーブンケン」と対して内実では変わらないような気がしてきます。たとえば、5月20日の齋藤・中井論文から「補完性原理」について言及した部分を引用すると、

「補完性の原理」とは、欧州の「地方自治憲章」で規定された社会を構成する原理である。個人の自助・家庭の互助を原則として、できないことは地域で助け合い、それでも解決できない問題に対して、政府が、市町村(基礎自治体)、都道府県(中間政府)、国の順で関与することとされる。
齋藤愼(大阪大学教授)・中井英雄(近畿大学教授)「経済教室 再考・道州制>>上 財政的公平と効率追求を」日経新聞(2008年5月20日)


だそうですが、その直後で、

日本の場合、シャウプ勧告で地方自治に関して市町村優先の原則が打ち出され、基礎自治体は高い行政能力を持っている。これを前提にすれば、都道府県の事務を市町村に大幅に移譲し、道州は圏域単位の社会資本整備、広域的な環境保全・管理、地域経済・雇用政策など限定的(コンパクト)な役割に徹することが考えられる。保険、福祉、義務教育など住民に身近な行政は市町村が総合的に担うことになる。
齋藤・中井「同」


としている点には大いに疑問の残るところ。というのも、1949年に出されたシャウプ勧告ってそんなに後生大事に尊重しないといけないものなんだろうかというのが、その後の経済学理論の発展を踏まえると、どうも腑に落ちないんである。ブキャナンのリバイアサン政府とかティブーの足による投票とかオーツの分権化定理というような有力な財政理論が提唱される遙か以前の、少なくともサミュエルソンがリンダール均衡についての悲観論を提出する前に策定されたシャウプ勧告を、あたかもそれに沿ったものとして扱うってのは、あまり筋のいい話ではないように思います。まあシャウプ使節団にボーエンがいたということは、のちにボーエン=サミュエルソン条件と呼ばれる公共財の最適供給理論くらいまでは踏まえていたんでしょうけど。

念のため、シャウプ勧告の該当箇所を引いてみると、

われわれは各種の段階の行政機関の間における事務の配分を詳細に研究して、事務の再配分を行うことを勧告する。この研究は、この目的のために特別に創設され且つ内閣に対して勧告する権限をもつ特別な国の委員会によって行われねばならない。この委員会は、国政に対し専門的資格を持つと認められている五人の委員を以て構成すべきである。
うち三人はそれぞれ知事会議議長、市長会会長および町村会会長が任命し、二名は総理大臣が任命してよいであろう。この委員会には専門家および顧問を雇うための資金を与えねばならない。
この委員会の仕事は、次に述べる一般的原則の上に立っていなければならない。
(略)
3 地方自治のためにそれぞれの事務は適当な最低段階の行政機関に与えられるであろう。市町村の適当に遂行できる事務は都道府県または国に与えられないという意味で、市町村には第一の優先権が与えられるであろう。第二には都道府県に優先権が与えられ、中央政府は地方の指揮下では有効に処理できない事務だけを引受けることになるであろう。
シャウプ使節団日本税制報告書 付録 A地方団体の財政 D 職務の分掌 (Division of Functions)」(Roadside Library


となっていて、英語の本文は次のとおり。

We recommend that the division of functions among the various levels of government should be studied in detail, and a reallocation of functions effected. This study should be carried on by a special national commission created specifically for the purpose, and empowered to make recommendations to the Diet. This Commission should be composed of five persons having recognized professional competence in public administration. One member each might be appointed by the President of the Association of Prefectural Governors, by the President of the Association of Mayors of Cities, and by the President of the Association of Mayors of towns and villages. Two members might be appointed by the Prime Minister. This Commission should have funds provided for the employment of technicians and consultants.

The work of the Commission should be based upon the following general principles:
(略)
3. In the interests of local autonomy each function would be given to the lowest appropriate level of government. Municipalities would have first priority in the sense that no function would be given to the prefecture or national government which could be performed adequately by municipalities. The prefecture would be given second priority, and the national government would assume only those functions which cannot be administered effectively under local direction.
REPORT ON JAPANESE TAXATION Appendix A FINANCE OF LOCAL GOVERNMENTS Section D - Division of Functions」(Roadside Library


というわけで、戦前に国の出先機関だったのが突如完全自治体になった都道府県を挟んで、市町村やら国やらとの権限配分が不明確になっていた状況でこの勧告があって、それに基づく研究の結果が今の状況だということなら、何も今さら道州制にする必要はないんじゃないかとも思ってしまいます。そこにわざわざ「補完性の原理」なんて概念を導入して、同じことを繰り返す必要性がよく分からないというのが素朴な疑問。もし、その研究がもう古くなってしまっているというなら、その発端となったシャウプ勧告自体も古いんですよね。

で、翌日の林論文では、経済界が道州制に積極的な理由がさらりと指摘されています。

こうした権限のうちに、特に、大型公共事業や産業振興、許認可・規制に関するこれまでない大きな権限は、道州の首長や議員をめざす人々には魅力的だろう。道州制に対して積極的な意見を展開している経済団体にとっても、こうした権限は大きなビジネスチャンスになるのであろう。
林正義(一橋大学准教授)「経済教室 再考・道州制>>中 国との関係『融合型』に」日経新聞(2008年5月21日)


グッジョブ!さらに、日本が道州制になるとヨーロッパ各国と同じくらいの経済規模があるとかいう意見に対しても、

だが、今の日本の都道府県平均人口ですら、カナダ、オーストラリアなど連邦国家の州や、フランスやイタリアの「地域」の平均人口とほぼ同じ大きさ(三百万人弱)であり(表)、大規模な都道府県に限れば、その人口は北欧諸国の人口に匹敵している。そして、そうした規模の欧州諸国でさえ地方分権が政策課題になっている点は留意すべきだろう。
林「同」


として、国を現行より大括りに分けることが地方分権だというのは、日本の特殊な議論ではないかと疑問を呈されています。

ところが、翌日の中村論文では、その特殊な議論全開で道州制のメリットを強調します。

日本の統治機構は抜本的に改革され、国は国益を重視した政策に専念する一方、自立した道州が地域内の政策を担うことになる。道路網などのインフラ整備も地域の実情に応じたかたちで行われることで、各地に自立した広域経済圏が形成されるとともに、行政サービスの質的向上が図られる。
中村邦夫(日本経団連副会長)「経済教室 再考・道州制>>下 まず国の出先機関改革を」日経新聞(2008年5月22日)


「抜本的」とか「改革」とかの言葉を使われるだけでお腹いっぱいなんですが、この論文のメインとなる経団連の主張は、国の出先機関の業務が地方自治体と二重行政になっているから、それを整理・統合すれば六万八千人弱の国家公務員が地方自治体へ移管できて、さらにその半分の三万四千人の定員削減が可能、ということなんだそうな。お役所仕事とか無能とかさんざん批判されてきた三万四千人の失業者を、民間が雇ってくれるんでしょうかねえ。と思っていたら、

こうした一連の改革により、国から地方へ、さらに公的部門から民間部門へ、労働市場を通じて人材がシフトすることになる。雇用の流動化が促され、優秀な人材の再配置が行われることで、住民視点から見た行政サービスの向上、地域全体の活性化が進むことが期待できる。
中村「同」


って、ホントにそんなことができると思ってるなら、経営者としての見識を疑いますよ。中村氏の論理に従えば二重行政をするような余分な役人が削減されるわけで、その役人を優秀な人材として民間が雇ってくれて、それで地域全体が活性化するなんていわれてもワケが分かりません。

というわけで、日経新聞は2対1で道州制推進派を優遇する立場なんですが、ほかの大手新聞も似たり寄ったりで、しかも現政権党に対抗(?)して野党第一党は二層制を推進する始末。

小沢氏は地方分権に関し「今は国と都道府県と市町村、地方ではそこに国の地方分局が加わって、4層構造だ。これは2でいい。1つは中央政府、あとは基礎的自治体に全部やってもらう」と述べ、「中央政府」と、同党が主張する全国で300の「基礎的自治体」の2層構造に再編する考えを示した。

また「都道府県を同じ性格のまま道州まで大きくするのは実際的ではない。何となく流行(はやり)で道州制、道州制といっている。大切なのは私たちの生活に近い基礎的自治体の方だ」と述べ、道州制に否定的な姿勢を示した。
小沢民主党代表、道州制に否定的 国と基礎的自治体の2層構造に」(MSN産経ニュース


100点満点で30点の答案に対抗して10点の答案を書いたって、どっちも赤点なんだけどねえ。
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2008/06/03(火) 07:52:40 | すなふきんの雑感日記
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