2008年05月24日 (土) | Edit |
『労働法律旬報』という日本労働弁護団の方々がよく利用されている雑誌があって、そのNo.1671(2008.5.10)で「丸亀市公平委員会採決取消請求事件の高松地裁判決が載ってました。以前のエントリで団塊の世代の期待利得となっている役付ホワイトカラーの高賃金を減額することは裁判所が認めないだろうということを書いたんですが、(入り口の時点の判断ではありますが)まさにそのとおりの判決となっていて、やっぱりなというかなんというか。

事案の概要として『労働法律旬報』のリード文を引用すると、

市町村合併に伴う意に反する降任処分に対し公平委員会に不服申し立てをしたところ、原告らは合併により新市の職員として採用されたもので旧市における身分との間には継続性がなく、地方公務員法49条1項、49条の2第1項に規定する不利益処分に該当しないとする裁決につき、合併特例法9条2項に定める合併市町村の身分の公平取扱いの趣旨及び地方公務員法上の身分保障の規定の趣旨からすると、新設合併の場合において、合併市町村の職員が合併に際し、意に反する降任等不利益処分を受けた場合には、地方公務員法49条の2に基づき、公平委員会の審査を受けることができると解するのが相当であるとして、本件裁決を取り消した事例。
『労働法律旬報No.1671-2008.5.10』p46


というもの。

もう少し補足しておくと、市町村合併にはもとあった市町村が廃止されて新しく設置される「新設合併」と、もとある市町村にほかの市町村が編入される「編入合併」があって、丸亀市の場合は前者の新設合併のパターン。このため、旧市から引き継いだ職員の新市での格付けが問題になって、課長補佐職から係長職へ「降任」されたとする原告二人が丸亀市の公平委員会という人事問題を審査する機関へ不服を申し立てたというのがことの発端になっています。

いろんな論点はあるけど、とりあえず冒頭で書いたような団塊の世代の期待利得を主張した原告の主張を抜粋すると、

上記からみられるのは、原告らの担当職制上、同一の職制である課長補佐級である副課長が存在するにもかかわらず、原告らをいずれもその下位である係長級の担当長として任用したことである。こうした不公正な降格がなされたのは、新丸亀市発足に当たり、人事当局が合併に伴う人事の承継を公正に行うべき立場から逸脱し、若手職員を登用するという別の目的を実践することを考慮して行うこととし、いわば団塊の世代を従来の職制上の地位からはがして劣位につけるという不公正な処遇をしたからであった。これは、合併における人事の公正要請に反する。
『労働法律旬報No.1671-2008.5.10』p52


だそうです。論旨がよく分からないところもありますが、要は団塊の世代を飛び越して若手を登用するなんてけしからんということですね。

結局、この事案についての裁判所の判断は簡潔で、原告らの11%の管理職手当が5%の職責手当になって減額されたことと、代決権がなくなったことを認定して、

そうすると、原告らが、本件各発令により、地方公務員法49条1項に定める不利益処分を受けたことは明らかというべきである。
『労働法律旬報No.1671-2008.5.10』p59


とあっさり不利益だと認めてしまいます。まあ、裁判所に求められているのは、公平委員会が審査しないとした裁決を取り消すことなんで、とりあえず形式上は不利益が生じているんだから、実態として不利益かどうかは公平委員会が審査しなさいといっているだけなんですが、もちろんそれが公平委員会の本来の業務ではありますが、裁判所が形式上とはいえ不利益としたものを公平委員会が不利益ではないとか相当だとかいうことは、かなり難しくなりそうです。

実はこの点について、上で補足した「新設合併」であることが影響しています。この判決で、

丸亀市の○○職員課長は、平成17年6月10日の定例会総務委員会で、「平成17年3月21日に一市二町がなくなって、同月22日に新丸亀市が誕生し、職員を採用したので空白はない。身分現給保障はしたが、新設合併なので、課長等の数に限りがある。課長職等は編入合併でなければ保障できない。間があく訳ではないので、宣誓は省略した」。
『労働法律旬報No.1671-2008.5.10』p55


と事実認定において引用しているように、そもそも管理職などの間接部門を減らして人件費をカットすることが市町村合併の主要な目的の一つであったと考えられます(気になるのは、判決では旧丸亀市と新丸亀市の管理職ポスト数を比較して増えているとしている点で、ほかの二町の管理職ポスト数を旧丸亀市と合計すれば減っているんじゃないでしょうかね)。

となれば、合併に伴って管理職ポストや管理職手当を削減したときに個々の職員の扱いに形式上の不利益が生じるのは当然の帰結です。この点については、判決でも上記の職員課長の発言に先立って、

丸亀市の××総務部長は、平成17年6月2日定例議会において、「適材適所の配置が大前提である。合併協議において、具体的な配置については、合併時より職員の交流を可能な限り実施し、職員間の一体感の情勢を促進し、団塊の世代後を考慮して、若手職員の登用を積極的に実施するとの協議原則に伴い人事配置を行った。」と答弁した。
『労働法律旬報No.1671-2008.5.10』p54


と事実認定において引用しているとおり、新丸亀市は合併で新体制に移行するのに合わせて適材適所な人事配置をしつつ人件費の削減を実施しようとしたけど、裁判所はそれは不利益だと認定したわけです。

この判決に至る流れをまとめると、
新設合併した

管理職が減った

合併前に管理職だった人が降任・減給した

「意に反した」として、合併前に管理職だった人が公平委員会に申し立てた

公平委員会は不利益じゃないとして申し立てを却下した

却下の取消を求める裁判を提起した

裁判所は、不利益なんだから審査しなさいと却下を取り消した ←今ここ
ということになります。

で、ここで注意が必要なのが、『労働法律旬報』に丸亀市職員組合のコメントも載っていてそこで言及されているように、この新丸亀市の市長さんというのは、ご多分に漏れず「改革」好きの地方分権教らしいこと。濱口先生にご教示いただいたのでブログにコメントさせていただきましたが、労働組合は社会的公平推進の立場から中央集権を志向してしかるべきなのに、日本では労働組合を支持母体とする政党がよりラジカルな地方分権を推進していて、組合はとっとと見切りをつけないと自分が大変な目に遭うんですが。

本市は、平成17年3月の新市移行前後に、国の三位一体改革による地方交付税の大幅な減額と競艇事業収入の皆減という未曾有の歳入不足に直面し、このままでは財政破綻は必至の状況となりました。このため本市では、市政の最重要課題を財政再建と位置づけ、人件費の削減など合併効果を最大限生かした行財政改革の断行に着手し、新たに平成20年度を財政再建の目標年次に、これまで市民の皆様のご理解とご協力に支えられながら、経常経費の計画的な圧縮に取り組んできたところであります。
特に、職員数の削減につきましては、3年前の合併当時の職員数1,253人に対し、本年4月1日の職員数は1,044人と、209人減員となっておりまして、人件費に換算すれば、14億円を上回る経費削減となっています。
そして、これを受け編成されました平成20年度一般会計予算につきましては、経常経費に対する財源不足を大幅に解消することができるなど、財政再建への明かりが見えてきたところであります。
賑わいに感謝!「丸亀お城まつり」・必ずや成し遂げます!「財政再建」 (H20.5.7~)」(香川県丸亀市


マクロ的にいえば、その地域に対する14億円の人件費に相当する政府支出が減ったわけだから、減った職員の賃金分だけ財・サービスの消費なり貯蓄が目減りすることになって地域経済には悪影響なわけですが、そんなことはお構いなしですかそうですか。

「無能な怠け者」だった団塊の世代の地方公務員が、「改革バカ」という「無能な働き者」の下で進められた合併で不利益取扱いをされたと騒ぎ、裁判所は形の上では不利益があるんだから公平委員会で審査しとけば?と言い放ち、事実上は不利益扱いを認めて自分で何とかしろという構図。大阪府でもこんなことが多発するんでしょうなあ。
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