2008年05月10日 (土) | Edit |
前回エントリのコメント欄で旧自治省は改革バカ率が異常に高いということを書きましたが、むしろ旧自治省ではそれがデフォルトと考えた方がいいのかもしれないと思い始めた。

知事を踏み台にして国政や大学教授へ順調にキャリアアップしていたり(増田前岩手県知事、浅野前宮城県知事、片山前鳥取県知事、田中前長野県知事、橋本前高知県知事、北川前三重県知事)、刑事罰を受けて淘汰されてしまったり(木村前和歌山県知事、佐藤前福島県知事、梶原前岐阜県知事)といろいろな末路をたどっている元「改革派知事」ですが、この流れをくんで「闘う知事会」を気取っているのは、いまでいうと古川佐賀県知事、山田京都府知事、飯泉徳島県知事、平井鳥取県知事、石川静岡県知事あたりなわけで、「『せんたく』名簿(注:pdfファイルです)」にも名を連ねているこの5人が旧自治省出身者といえば、その雰囲気を察していただけるのでは。というより、そのまんま東とか橋下弁護士あたりの新規参入組は、実はこういう人たちのエピゴーネンみたいなものといったほうがわかりやすいかも。

これに対して、上に挙げた元「改革派知事」の中では、増田、浅野、片山、木村、梶原が中央官僚出身者で、それぞれ建設省、厚生省、自治省、自治省、通産省(採用時)という顔触れであることを踏まえると、現在は都道府県知事の旧自治省への回帰がより進んでいるともいえそう。ある地域で改革バカがどれだけのさばっているのかは、旧自治省がどれだけ地方自治体に食い込んでいるかで測ることができるのかもしれません。

で、そういう点で興味深いサンプルが岡本全勝氏です。『月刊地方自治』5月号という旧自治省(の自治行政局)のプロパガンダみたいな雑誌に「不思議な公務員の世界―ガラパゴスゾウガメは生き残れるか」という不思議な文章を載せていらっしゃるのですが、ガラパゴスゾウガメといわれているらしいワタクシのような地方公務員には全く理解できないのです。個人的な感覚でいうと、『地方財政改革論議―地方交付税の将来像』までのテクニカルな解説には勉強させていただきましたが、『新 地方自治入門―行政の現在と未来』で語られる岡本氏の理想像を全く理解できなかったのと同じ印象です。

いろいろと不思議なところはあるんですが、特によく分からないのは「役所の生産性」について、次のようにおっしゃります。

例えば農水省や県の農林部が、残業をして頑張っています。でも、農家は減り、食糧自給率も下がっています。ここで問題にする「役所の生産性」とは、そういう意味です。私は、かなり低い職場があるのではないかと考えています。国民が求めるだけの成果を出していない、しかもムダな労力をかけていると思います。公務員一人ひとりは、優秀です。しかし、組織としての成果が低いということです。
岡本全勝「不思議な公務員の世界―ガラパゴスゾウガメは生き残れるか」『月刊地方自治』5月号p5


・・まあ、こういう方々が地方自治体の幹部として「無能な働き者」となるのですから、「無能な怠け者」とそれから突然変異した「無能な働き者」しかいない地方公務員が成果なぞ上げられなくて当然でしょうね。食糧自給率の向上についてはすなふきんさんのところで盛り上がったように、少なくとも経済学的に見ても議論の余地のある政策であって、もしかしたら農水省が頑張ったおかげで食糧自給率が今の水準に達しているかもしれないという可能性すら考慮せず、とにかく「食糧自給率をもっと上げなければ」を是として担当を断罪する時点でなにをか況んや。

実は岡本氏については当ブログでも一度取り上げたことがあるけど、あれが昨日審議入りした「内閣人事庁」構想にも影響を与えているように思われるのは気のせいだろうか。「国家公務員制度改革基本法案の概要(注:pdfファイルです)」でいう「総合職」って「スーパーゼロ種官僚」のことだよねえ。
これについてはbewaad氏の論評を引用させていただきます。

以上のような岡本課長の縦割りを弱めた後に彼が理想とする政策運営や、昨年の某主計官の騒動、最近の経済財政諮問会議の人間力の議論、官僚ではできることに限界があるとして政界に転身する人間の主張などを見るに、出身省庁にとらわれない国全体の見地というのは、単に確たる現実基盤を持たない空理空論に流れたものがその過半を占めているようにしかwebmasterには思えません。
■ [government]内閣強化への疑問」(archives of BI@K


基本的に旧自治省キャリアのアイデンティティは、「俺は国家公務員だけど地方の現場で専門性にこだわらずにいろんな仕事をしている」という自負があって、それに導かれる「国は縦割りで専門性が高いけど、俺たちは現場に密着した総合的な仕事をしている」というジェネラリスト志向と、逆にそれを負い目に感じて「旧自治省や地方自治体が総合的に判断して仕事をしているのにもかかわらず問題が起きるのは、専門性が高くて縦割りの霞ヶ関に問題があるからだ」という反霞ヶ関志向でしかないというのが、うちのところに来た旧自治省キャリアの幹部なんかと接した感触。これを岡本氏流に言えば、

役所では、特に事務職は一年や二年で異動することが多いです。多くの職員が、一年から二年たつと異動を心待ちします。しかし、一年や二年で異動して、専門家になれるのでしょうか。ジェネラリストといえば聞こえは良いですが、何らかの専門分野を持たないと、何でもできるが何にもできない職員になります。
岡本全勝「不思議な公務員の世界―ガラパゴスゾウガメは生き残れるか」『月刊地方自治』5月号p11


ってことですが、だからそんな地方公務員に地方分権なんかしていいんですか? というか、そういう専門性の不足が問題になるのは旧自治省とか地方公務員だけであって、それ以外の省庁で訓練された専門性を持った官僚がきちんとした制度を作るべきだと考えるのは普通でしょうに。他省庁(といいうよりは特に財務とか経産あたりでしょうが)に対する単なるやっかみでしかないよなあ。

また、岡本氏はこれまでのそういった人事を「名簿型人事、閉鎖型」といかにも古色蒼然としたものとしてますが、いくら氏の提唱する「公募型人事、開放型」にしたところで、役所という民間とは違う原理で運営される組織でしか通用しないスキルがなくなるわけではない以上、それは組織運営の必要性に要請された制度として今後も存続するはずです。もちろん、それができるケースも皆無ではないでしょうが、逆を考えれば、民間でいくらスキルを積み上げたとしても政治や法令に縛られる官僚組織を運営できるとは限らないのと同じように、全職員をそういう処遇にする必要はないし、むしろそんなことしたら大変なことになるでしょうね。

というわけで、労働に関しては濱口先生にご登場いただきます。

 また不完備契約理論については、これも労働経済学では、転職すると企業内での教育投資の効果が発揮できなくなるような当該企業固有の投資、これを企業特殊的投資というんですが、これがあるから不完備契約になるという理論があるのですが、そんな投資は普遍的ではない。多くは、どの労働者にとっても共通の知識、技能であると言って、その根拠を否定します。また、企業が機会主義的行動をとるという前提に対しても、そんな蓋然性はあまりない、もしその企業が機会主義的な行動をとるのであれば、雇用契約を完備契約、つまり、起こり得ることをすべて書き込んだ契約に近づけるために詳細で客観的な契約条項を規定すればいいんだ、それが大事だという言い方をします。
学界展望における福井論文の紹介とコメント」(EU労働法政策雑記帳


これは福井・大竹『脱格差社会と雇用法制―法と経済学で考える』での福井論文「解雇規制が助長する格差社会」についてのコメントなわけですが、企業特殊的投資を一切否定する議論には論拠が乏しいという意味で、岡本氏もその陥穽にはまっているといえそうです。

ついでに、細かいことですが、

「公務員はストをしてはいけない」という発想も、変だと思います。役所の統計部門がストをしても、住民は直ちには困りません。しかし、電力会社の原子力発電所運転管理職員や、ガス漏れの際に駆けつけるガス会社職員などがストをすると、市民生活に大変なことが起こります。公務員だからではなく、従事している仕事が止まったら困るかどうかで、ストを禁止するなどの特例を定めることになるでしょう。
岡本全勝「不思議な公務員の世界―ガラパゴスゾウガメは生き残れるか」『月刊地方自治』5月号p10


というのもお役人の割には制度をご存じない。電力会社については、戦後頻発した電産ストによる混乱に対処するため、「電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律」第2条で「電気事業の事業主又は電気事業に従事する者は、争議行為として、電気の正常な供給を停止する行為その他電気の正常な供給に直接に障害を生ぜしめる行為をしてはならない。」と明確に禁止されてますし、ガス会社についても「労働関係調整法」第8条第1項第3号で公益事業に指定されていて、第37条では争議行為を行う十日までに予告通知を行うことが罰則を含めて定められているんですよね。公務員のスト権については、岡本氏が昭和53年採用とはいえ、その当時国鉄の「スト権スト」が官公労にも波及したり、その処分を巡って訴訟に発展したことをご存じないことはないと思うのですが、さて?
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(前注)このブログではいつも書いていることを久々に書く。以前から自分が不思議に感じているのは、「反地方分権」「反『中央集権解体』(と称する実質的田舎者自己責任化計画)」を唱えるブログが(少なくとも自分の知る限りは)ほとんど見当たらないことだ。都会人(主に
2008/05/14(水) 18:26:52 | HALTANの日記