2020年05月05日 (火) | Edit |
ここ数か月アップできていなかったエントリをCOVID-19関連の話題にかこつけて一気にアップしたところですが、実は最初にアップしようとしていたのは『POSSE vol.44』の非正規公務員の記事でした。というのも、前回エントリの付記2でちらっと指摘した会計年度任用職員を含めて公務員の意思決定が歪んでいる実態がありまして、それについて記録しておくことでこの頃流行りの退職エントリとしておこうかという魂胆です。

その題材として『POSSE vol.44』の上林氏の記事に大変示唆的な記述がありまして、

現場を知らない正規と、決定権限のない非正規への二分化

 非正規化や民営化が進むことで、「正規公務員の仕事は公権力行使の仕事」というように発想が転換していきます。つまり、決定や処分をすること、生活保護なら支給を決定するとか廃止するのが公務員の仕事であって、支援対象となる住民と直接接触するのは公務員の仕事ではないとなっていきます。住民と直接かかわることは民間ないしは公権力行使に携わらない身分である非正規にやらせておけばよいとなるのです。新自由主義化と公権力行政化は同じトラックを走っています。
 一例を挙げると、生活保護の申請者の状況を一番知っているのは非正規ケースワーカーなのに、彼らはケース判定会議には参加させてもらえていないのです。それから婦人相談員の例でも、DVに遭って逃げてきた女性に面接をしてアセスメントしているのは直接接触している女性相談員なのですが、いざ一時保護の決定をするための会議には参加できない。
 このように、現場の業務と決定・処分が分離してくることによって、正規公務員が現場の様子を知らない、わからないという状況が広がっています。
(略)
 …ある児童相談所の課長からうかがった話によると、正規として公務員に入ってくる人で、児童相談所を希望する人はまずいない。あるいは、ケースワーカーとして福祉事務所に来るという人はまずいない。難しい公務員試験のために予備校にまで通って入ってくる人たちのなかには、「貧乏人を世話するのは自分たちの仕事じゃない」と本当に思っている人も多いのでしょう。
 だから、「三年経ったら必ず他に異動させるから」という約束がなければ人が入ってこない。そうすると、生活保護受給者や生活困窮者に対応するケースワーカーや、児童虐待に対応するソーシャルワーカーのようjな臨床経験を必要とするところは、業務経験が三年以下の正規公務員だけだと「素人」ばかりになってしまうので、資格があり長い経験を持つジョブ型雇用の非正規の人たちが重宝されるのですね。だから雇い止めもできない状態になっている。さりとて正規化もできない。
pp.31-33

上林陽治「公務員の非正規化がもたらす行政現場の歪み」

POSSE vol.44
発行:堀之内出版
A5判 168ページ 並製
価格 1,400円+税
ISBN978-4-906708-83-3CコードC0036
初版年月日2020年4月3日


役所というところは「理屈」がなければ動けないところですので、非正規を増やして仕事を割り当てるためには「正規公務員は公権力の行使という地方公務員法24条に規定する「職務と責任」を持ち、それによって職務給の原則の建前の下、職能資格給制度の適用を受ける必要があり、従って職務と責任に職務遂行能力を獲得するため異動する」という理屈によって、正規公務員と非正規公務員の処遇の差を説明してきました。これを突きつめていくと、役所の現場では上林氏が指摘するような事態が発生します。つまり、正規公務員は公権力を行使するための職務遂行能力を獲得せねばならず、その職務遂行能力は異動によって複数の部署を経験することによって獲得されるのだから、真に対象者と接する現場を知る必要なんかないわけです。メンバーシップ型がトートロジカルに運用されていることは以前も指摘しておりましたが、

4 長期雇用と「職務遂行能力」

ここで注意が必要なのは、組織の規範とは別に独立しているスキルに習熟した労働者が、積極的に「職能資格」の枠の外に置かれたということです。それは長期に固定化する人件費を抑制したいという使用者側の思惑に応えると同時に、テンポラリーな労働者と常用労働者との代替を防止するというメンバーシップ型労働者(とそれを維持したい日本的左派の方々)側の思惑にも応えるものでした。
(略)

5 「職能資格」と規範の内部化

さらに注意が必要なのは、「職能資格」は採用時から連綿と積み重なるものであって、メンバーシップにおける管理職としての適性はその「職能資格」によって裏打ちされるという運用になっていることです。「運用」という言葉を使ったのは、結局「青空の見える労務管理」とは上層部にいたる道を通すだけで、その道を通る資格は労働者が自ら獲得するという建前は堅持しているからです。つまり、制度として道は通すが、そこを通るための「職能資格」を獲得するためには、労働者自らがメンバーとしての規範を身につけなければならないということです。

もちろん「職能資格」が同一組織内でのみ獲得されるものであるため、少なくとも採用時のスタート時点ではすべての正規労働者に等しく与えられますが、それを「長期雇用による経験」によってどこまで積み重ねられるかは正規労働者個々の適性と成果に応じて決まるわけです。しかもその「長期雇用による経験」は強大な人事権として使用者の裁量に任されているわけですから、積み重なる「職能資格」がつまるところジョブローテーションによって獲得される以上、人事異動を含むジョブローテーションによってどれだけ組織の規範を内部化するかが重要になります。平たくいえば、「デキる社員は出世コースを異動する」ということですが、これはメンバーシップ型がトートロジーによって成り立っていることを見事に示した言葉でもあります。

労働史観の私的推論(前編)(2018年11月10日 (土))

トートロジーを通り越して本末転倒な運用がされているのが役所の実態といえそうです。もちろん、役所と同様にメンバーシップ型が高度に発達した大企業では多かれ少なかれ生じている現象だろうと思いますが、民間の労働法規が適用除外された非正規公務員が従事する業務にそのひずみが集約されているということかもしれません。

この状況に対して上林氏が示す処方箋は、

 正規公務員の皆さんから猛反発を受けることを覚悟で申し上げると、まず定数管理をやめてしまうということです。…新しい行政需要が生じたら、人件費の範囲内で正規として雇っていくというようにしないと、いつまでも新しい行政の仕事や新しい需要に対して対応できず、定数外の非正規公務員や低賃金の民間委託労働者に丸投げすることになる。
 もうひとつは、正規化するにも一工夫必要で、異動が前提のジェネラリスト型公務員をいくら増やしても公共サービスの質は上がりません。ジョブ型の正規公務員、つまり異動限定の専門職型公務員の採用類型を本気で考えるべきです。
(略)
 でも、これを本気でやろうとしたときに最も抵抗するのはおそらく正規公務員組合でしょうね。正規公務員という身分に賃金が支払われていた状態から、異動をせず一つの仕事に従事して、その分だけ賃金水準が低い人を使った方が公共サービスが回り始めるのですから。
p.36
上林陽治「公務員の非正規化がもたらす行政現場の歪み」POSSE vol.44

一点目はジョブと定数を連動させることとし、単に前年度比いくら減ったと一喜一憂するような定数管理をやめるということですし、二点目はジョブに従事するための専門職型公務員の導入ということで、前回エントリの付記2で引用したhamachan先生のご指摘を具現化したものといえます。まあまっとうな考えができればそうなるわけですが、個人的にはもう一点付け加える必要があると考えています。

つまり、これまでの繰り返しになりますが、

日本の現場では長らく「全体最適」がマジックワードとなっていて、「それぞれが自分の担当に閉じこもってしまう部分最適ではダメだ。全体最適を目指すべきだ!」といえば、何か言った気になることができる風潮があります。おそらくそこには、専門的な見地は局所的な視点に陥りがちだから、全体を俯瞰して判断しなければならないという、それ自体は誠にもっともな理屈があるのでしょうけれども、その裏には「職能資格を積み重ねた上司の判断に従う」という日本型雇用への信頼があるものと思われます。しかしそれは、専門性を軽視し、「全体最適」なる合理主義にお墨付きを与え、「合理主義自体が深いところで持つ志向が、グロテスクに拡大された」全体主義体制に容易に通じてしまうという危険性を孕むものと思われます。

「全体最適」なる合理主義(2020年02月27日 (木))

というように、組織規範としての職務遂行能力を身につけ、組織内政治に長けて職能資格給制度を昇進していった上司は、「専門性を軽視し、「全体最適」なる合理主義にお墨付きを与え、「合理主義自体が深いところで持つ志向が、グロテスクに拡大された」全体主義体制に容易に通じてしまうという危険性を孕」んでいるわけでして、専門性を持ちながらジェネラリストよりも賃金水準が低い職員のいうことを素直に聞き入れるとは限りません。というより、そうした組織規範に則った意思決定が是とされる風潮が変わらなければ結局、役所という組織の公共サービスの質が向上することはないでしょう。

ということで、私なりの退職エントリの結論は、日本型雇用慣行にどっぷり浸かった組織である限りにおいて役所のサービスの質が下がることはあっても向上することは望めないだろうという点にあります。現在の職場がモノカルチャーのサービスを提供していることもあって、まさにジョブ型雇用の世界となっておりまして、現状でも地場ではかなりサービスの質が高いほうだと認識しておりますが、これをさらに向上させることが私のMissionとなっています。メンバーシップ型にどっぷり浸かって仕事をしてきた身としては慣れない部分もあるのですが、このMissionを実践していきたいと考えています。
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