2019年12月01日 (日) | Edit |
9月の拙ブログでも取り上げておりました佐野SAの労働争議ですが、

あっせんを申し立てた先が栃木労働局ということは、個別労働関係紛争として処理しようとしているようでして、労働組合が主体となって行うストライキ事案でありながら、栃木県労働委員会に対する労働紛争の調整(あっせん、調定、仲裁のいずれか)の申請でもなく、不当労働行為の救済申立てでもないというのが、集団的労使関係の現状を物語っているというところでしょうか。
(略)
しかし、ストライキが長引いて集団的労使関係の紛争処理が喫緊の課題となっているこの段階においては、集団的労使関係の構築を通じた労使関係の正常化が求められているというべきであり、まさにそこが労働委員会に求められる役割だと思うのですが、そういう話が当事者からもほとんど聞こえてこないところが、事態の深刻さを表していると思われます。

「「個別労働関係紛争と集団的労使関係紛争」再論(追記あり)(2019年09月23日 (月))」


社長交代で一応の決着が見られたと思われていたものの、新体制となっても結局使用者側の態度は変わらず、いよいよ労働委員会に対して不当労働行為の救済申立が行われたようです。

 一昨日、佐野SA上り線の従業員の労働組合(以下、佐野SA労組)が、使用者である株式会社ケイセイ・フーズが「組合つぶし」(労組法上の「不当労働行為」)を行っているとして、栃木県労働委員会に不当労働行為救済申し立てを行った。

 佐野SAは今年の夏にストライキで大きな話題となったが、いまだに労使紛争が続いている。佐野SA労組によれば、その原因が会社側の違法な「組合つぶし」にあるというのだ。

 実は、労働組合法では使用者側から労働組合に介入し、例えば金銭を支払って脱退を迫るなどの行為を禁止している。会社の組合への介入が禁止されていることや、それがどの程度であるのかは、ほとんど知られていないだろう。

出勤停止や損害賠償請求…違法性は? 佐野SAで「組合つぶし」についての救済申し立て(11/30(土) 12:00 Yahoo! Japan ニュース)


労組法上の不当労働行為に関する規定については今野氏の説明のとおりだと思いますが、こちらの説明はややミスリーディングではないかと思われます。

 だが、不当労働行為を禁止する法制度や運用には、実効性に欠けるという課題もある。

 不当労働行為は、たしかに労働組合法によって明確に禁止されているが、罰則が設けられていないからだ。したがって、不当労働行為によって直ちに経営者に刑罰を科せられることはない。

 とはいえ、不当労働行為救済申立制度(都道府県が実施主体)を設けられており、審査の結果として不当労働行為が認定されれば、救済命令が出ることになっている。

 だが、これも審査には約1年を要するという課題がある。命令が出る頃には、“時すでに遅し”ということになりかねないのだ。そのため、海外では不当労働行為に罰則を設けている国もあり、日本でも法規制を強めることを検討すべきという議論もある。

出勤停止や損害賠償請求…違法性は? 佐野SAで「組合つぶし」についての救済申し立て(11/30(土) 12:00 Yahoo! Japan ニュース)


不当労働行為に罰則がないのは、労働(雇傭)契約はあくまで民法の典型契約であって、民法における「契約自治の原則」の労使関係版として「労使自治の原則」に基づいて刑法上の刑事罰が適用されないからではないでしょうか。海外では罰則を設けているというのも、集団的労使関係紛争についての労働裁判制度があることが前提となるので、その審判を経ずに罰則が適用されることはないものと記憶しております。日本の裁判所では、労働契約法に基づいて個別労働紛争についての労働審判は行われていますが、集団的労使関係紛争に特化した労働裁判制度はありませんので、訴訟が提起されると通常の民事訴訟手続きによって裁判が行われることとなります。労働委員会の不当労働行為の審査も民事訴訟法に準じた手続きとなるため、不当労働行為の審査には、通常の裁判でも労働委員会の不当労働行為審査でも同じように1年程度かかってしまうわけです。

でまあ、そうした制度の限界はあるにせよ、労組法の規定によって労働組合は労使自治の原則に基づいて団体交渉を行い、不調に終われば労働争議を行う権利が認められていて、それに伴う不当労働行為と思われる事案があれば、労働委員会に救済を申し立てることもできますし、その損害について民事訴訟を提起することもできます。これに対して、争議行為によって使用者側に損害が発生しても、それが正当な行為である限りにおいて刑事罰が適用されませんし、使用者側が損害賠償請求することもできません。

という制度からすると、報道や今野氏の記事から読み取れる限りでは、労使ともに争点が混乱しているように見受けます。使用者側は争議行為(スト)による損害賠償を求めるとしていますが、労組法上の資格審査を経ない争議団に対するものであっても、その争議行為が正当である限りにおいて労働組合法違反であって、使用者側がそこで勝負するとなると、違法な損害賠償請求を適法であると使用者側が立証しなければならないので、わざわざ手がかかるやり方をしているなあという印象です。

労働者側も、使用者である株式会社ケイセイ・フーズが相手ではらちがあかないとして、「業務委託元であるネクスコグループのネクセリアに問題の解決に向けて動くように働きかけている」とのことですが、直接の雇用関係にある使用者に経営実態がないとか人事権がないというような場合は法人格否認の法理が適用される余地がありますが、使用者に経営実態がありながら上記のような無理筋の主張をして話が進まないのでその親会社とか委託元に働きかけるというのは、労働組合としては搦め手からの戦略にならざるを得ません。要は世論を味方に付けるという戦略なのですが、慎重に事を進めなければかえって労働組合に対する印象を悪化させかねない懸念もあります(今のところお客様アンケートは組合を応援する声が多いようですが)。

集団的労使関係の再構築の重要性を指摘している拙ブログとしては、こうした泥仕合を何とか終息させ、健全な労使関係構築に向けて、労使双方のみならず上部団体や労働委員会などのバックアップが望まれるのですが、労働組合の組織率の低下に徴表される集団的労使関係の衰退が衰退しているのは、そうしたバックアップ体制が衰退していることの表れでもあるわけでして、前途は多難と言わざるをえませんね。
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