2019年08月18日 (日) | Edit |
前回エントリの中で書いたところ、長くなったので別エントリとします。

ついでに、公益事業での勤務経験と経営経験をお持ちの方が、「正しいストライキのやり方について」を解説されているのですが、

サラリーマンが会社に対して自分たちの意見を言うためには、まずは労働組合があることが前提になるのです。

そして、通常、団体交渉に於いて自分たちの要求は「要求書」にまとめられていますが、その要求書を作るためには各職場で「職場集会」というものを何度か繰り返しながら、内容を練り上げていきます。

そして、最終的に要求書が出来上がると、その要求書に対して「スト権投票」を行います。

これはその組合の内部規定に基づき、例えば全組合員の3分の2以上の賛成等により可決されるもので、要求書に対してスト権投票が可決されることを「スト権の確立」と言います。

組合の代表者である委員長以下三役は、団体交渉で要求を提出するときに「スト権が確立している」旨を会社側に伝えます。この要求書の内容が認められなければ自分たちはストライキも辞さないという決意を団体交渉の席上で会社側に伝えるのです。

この要求書の提出により、会社側に従業員が考えていることが伝わります。そして、その内容が個人的な要求ではなく、労働者の総意であることも理解することになります。

「正しいストライキのやり方について」(鳥塚亮 | 元いすみ鉄道社長、NPO法人おいしいローカル線を作る会理事長 8/18(日) 9:45)

という部分は、日本の労働組合の手続きとして標準的なものだろうと思うのですが、

次に労働組合が行なうことは、その要求書と確立したスト権を届け出ることになります。

まず厚生労働省へ行き、スト権が確立している要求書を提出します。

これを「スト権ファイル」と言います。

スト権がファイルされると官報に掲載されます。

(略)

次に組合代表は労働委員会に赴きます。

労働委員会というのは国が所管する中央労働委員会〈中労委)と各都道府県の労働委員会というのがありますが、会社の規模によって、例えば事業所が2か所以上の都道府県に存在する場合は国が所管する中労委へ出向くことになります。

労働委員会では、組合代表は要求書の内容、要求書作成の経緯、会社の状況などを説明します。

そして、その説明と要求書の内容を見て、要求が妥当なものかを判断します。

「正しいストライキのやり方について」(鳥塚亮 | 元いすみ鉄道社長、NPO法人おいしいローカル線を作る会理事長 8/18(日) 9:45)

というのは、一部に大きな誤りが含まれてしますので、一応指摘しておきます。

まず、直前の引用部の前半で厚労省と中労委に届出を提出しているのは、労働関係調整法37条に定める争議行為の予告通知を指していますが、はてブでも指摘されている通り、これは同法8条1項に規定する公益事業にのみ適用されます。

争議行為の予告通知について
(1) 概要
 公益事業(*1)に係わる事業で関係当事者(*2)が争議行為(*3)を行うには、少なくとも10日前までに、労働委員会と厚生労働大臣又は都道府県知事に通知する必要があります。
 予告なしに争議行為を行った場合は、その争議行為の実行について責任のある者は処罰の対象となります。

(略)

(*1)  [公益事業]
 労働関係調整法が規定する公益事業は以下の事業です。
イ  運輸事業(*5)
ロ  郵便又は電気通信事業
ハ  水道、電気又はガス供給事業
ニ  医療又は公衆衛生事業

「争議行為の予告通知について」(中央労働委員会)

ということで、争議行為の予告通知を解説した部分は、ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長と労働組合書記長、元いすみ鉄道社長としての経歴を持つ鳥塚氏にとっては義務だったのでしょうけれども、本件はサービスエリアの飲食・小売業ですので、該当しません。

さらに、直前の引用部の最後の「労働委員会では、…、要求が妥当なものかを判断します」は明らかな間違いです。労組法、労調法とも、労使自治の原則に従い、他の法令に規定するものを除いて何を団体交渉事項とするかは自由としており、予告通知の内容をもって要求が妥当かどうかを労働委員会があらかじめ判断することはありえません。もしかすると、労働委員会の職員が届出に記載された交渉事項の確認をした際に、手続き的な観点で「これでストライキをやるのは無理ですよ。」とか、「この要求書の内容なら、社会の同意も得られますよ。」と雑談したのかもしれませんが、労使交渉に関与する趣旨であるなら労使自治への介入となり認められるべきではありません(すべての事業が対象となる争議行為発生届については追記をご覧ください)。

他の法令に違反する事項はその所管機関がその法令に基づいて処理することになるわけでして、

まあ、労働条件に関することを団体交渉事項とすることができますので、労使双方の合意があれば労基法違反の是正を団交事項とすることはできなくもありません。しかし、これに対して使用者側が交渉を拒否するなど労働基本権を侵害する行為を行ったとして労働委員会に不当労働行為の救済申し立てをする場合には、労基法違反の是正は救済を申し立てる内容からは除かれます。つまり、上記の法律に基づく紛争解決の腑分けによって、労基法違反は労基署で、法違反を除く民事上の紛争は不当労働行為の救済申し立ての内容として労働委員会で処理されることになるわけです。

Unfair Labor Practice(2014年08月31日 (日))


というわけで、この後も鳥塚氏の解説を僭越ながら採点してみますと、

ストライキというと通常は鉄道会社やバス会社、航空会社などの輸送機関が大きなニュースになります。それは社会に与える影響が大きいからですが、高速道路のサービスエリアもまったく同じで、社会に与える影響は大変大きなものがあります。

このように社会に公的なサービスを提供する会社というのはそれなりの使命があるわけで、そこで働く従業員というのはその使命をきちんと理解している必要があります。

は、前述の通り本件は公益事業に該当しないので誤り。

朝、職場に誰も出勤せず、営業を開始することができない状態を作り出すことを予告なく行うことで会社に対して実力行使に出たわけですから、労働争議の方法としては認められるべきことではありません。

これはストライキではなく「職場放棄」「サボタージュ」と呼べるものです。

したがって、今回の行為は社会的に認められるものではないということになります。

は、労働組合が決議したものでない限りにおいて「労組法上の救済を得られない」というのであれば正しいのですが、労働組合が決議したものであるならこの指摘は当たりませんし、そもそも鳥塚氏が「社会的に認められるものではない」という場合の「社会」がどういうものか、ちょっと怪しいですね。

と思って読み進めると、

では、なぜ、こういう職場放棄が起きるのかという問題ですが、ひと言でいうと労働者が法律を知らないことが原因です。

ストライキを実施する場合の手順がわからないのです。

では、なぜ労働者が法律を知らないかというと、その理由は「世の中が豊かになったから」だと考えます。

(略)

このようにして労働組合は弱体化していきました。

折からバブル崩壊、湾岸戦争、リーマンショックなど不景気要素が続き、労働者が置かれている労働環境はどんどん厳しくなっていきました。

賃金が上がらないばかりではなく、過労死や自殺なども社会問題になってきました。

もし、会社の中で労働組合がきちんと機能していたら防げたかもしれないような事象がたくさん見られるようになりました。

でも、労働者は自分たちではどうして良いのかわからない。これが今の時代です。

この(略)とした部分の前後のつながりが、「世の中が豊かになったから」といいながら、「労働者が置かれている労働環境はどんどん厳しくなって」、「労働者は自分たちではどうして良いのかわからない」というのは、いかにも辻褄が合いませんね。拙ブログでも集団的労使関係の再構築は何度も取り上げていますので、参考までにリストアップしておきます。

自らの交渉力を低下させる労働組合(2009年06月14日 (日))
紛争になってからではもう遅い(2009年10月15日 (木))
個別労働関係紛争を狙う労働組合(2009年11月13日 (金))
集団的労使関係の未来とは(2011年10月10日 (月))
つまみ食いをすることは許されません(2016年06月19日 (日))
企業内組合の里心(2019年05月03日 (金))

(追記)
本件は争議行為の予告通知には該当しませんが、労調法9条の規定により、全ての事業において争議行為が発生したときは、その当事者は、直ちにその旨を労働委員会又は都道府県知事に届け出なければならないとされています。この場合においては10日前という制限がないので、スト権確立の時点ではなく実際に争議行為が発生した後(「直ちに」なので時間的即時性は強くなりますが)に経過等を届け出ることになります。なお、争議行為の予告通知は罰則がありますが、争議行為発生届は罰則はありません。
参考:争議行為発生届について(中央労働委員会)
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