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2019年02月12日 (火) | Edit |
前回エントリで「最近働く現場での問題が相次いで明るみに出ている」と書いたのは、いわゆるバカッターとかバカバイトとか言われるSNS上の炎上も話題となっていますが、千葉県野田市での児童虐待死事件での教育委員会や児童相談所の対応も同じ側面を持っているのではないかと考えております。というのは、虐待していたとされる父親が学校に乗り込んでアンケートを開示するよう要求し、その要求が通らないからと市の教育委員会に乗り込んで、子供の同意書まで用意して開示させたという経緯を見ると、プロフェッショナリズムの欠如を感じてしまうからです。

「いじめ」回答、父に渡す 野田市教委、保護抗議受け 小4死亡「配慮欠いた」(日経新聞 2019/1/31 11:11 (2019/1/31 12:38更新))

千葉県野田市立小4年の栗原心愛(みあ)さん(10)が自宅浴室で死亡した事件で、心愛さんが2017年11月に「父からいじめを受けている」と回答した学校アンケートのコピーを、市教育委員会が父、勇一郎容疑者(41)=傷害容疑で逮捕=に渡していたことが31日、市教委への取材で分かった。虐待を調べていた県柏児童相談所には事前に相談していなかった。

野田市教委は取材に、心愛さんが児相に一時保護されたことに対し、容疑者から学校側に激しい抗議があり、それを抑えるために手渡したと説明。「配慮を著しく欠いていた」と陳謝した。

野田市教委などによると、心愛さんは当時通っていた別の市立小で実施されたいじめに関するアンケートの自由記述欄に「父からいじめを受けている」と記載。児相は17年11月7日、虐待の可能性が高いとして一時保護した。

容疑者は一時保護解除後の18年1月12日、心愛さんの母(31)と共に学校を訪れ、「暴力はしていない」「訴訟を起こす」などと抗議。学校側が回答内容を口頭で伝えると「実物を見せろ」と要求した。学校側から相談を受けた市教委が同月15日、コピーを容疑者に手渡した。

市教委は2月20日、市や柏児相、野田署などで構成する「市要保護児童対策地域協議会」で、回答を渡したことを事後報告した。柏児相は「事前に児相に相談すべきで、不適切だったと考えている」としている。

児相は17年12月27日、親族宅での生活を条件に保護を解除。18年1月18日、死亡時の学校に転校し3月に自宅へ戻った。〔共同〕


私がこれまで経験した職場でも、要求が通らないと大声を上げて職員を恫喝する方が定期的に訪れるところがありました。幸い(?)その要求内容は法令上応じる必要がないことが明らかなものだったので、ガス抜きと割り切って対応しておけばよかったのですが、中には一線を越えて職員に暴力を働く方もいて(私は直接の担当ではありませんでしたが)、そうした役所のセキュリティの低さにはいつも辟易しているところではあります。まあその問題はそれとして、今回の件のように明確に法令に抵触するかどうかが不明な場合に、恫喝に屈して要求に応じる可能性はゼロではないだろうとも思います。

というのも、親権を有する親がその子供の同意書を持って本人の個人情報開示を請求してきた場合に、それを拒否する権限が役所にあるかどうかは、思うほど明確ではないように思われるからです。

野田市個人情報保護条例(平成12年野田市条例第25号)
(本人開示請求権)
第15条 何人も、この条例の定めるところにより、実施機関に対し、当該実施機関の保有する自己に関する個人情報(指定管理者に公の施設の管理を行わせるときは、当該管理の業務に関するものを含む。)の開示を請求することができる
2 未成年者若しくは成年被後見人の法定代理人又は本人の委任による代理人(以下「代理人」という。)は、本人に代わって前項の規定による開示を請求することができる

(本人開示請求の手続)
第16条 前条の規定による開示の請求(以下「本人開示請求」という。)は、次に掲げる事項を記載した書面(以下「本人開示請求書」という。)を実施機関に提出してしなければならない。
(1) 本人開示請求をする者の氏名及び住所
(2) 本人開示請求に係る個人情報を特定するに足りる事項
(3) 前2号に掲げるもののほか、規則で定める事項
2 前項の規定により本人開示請求書を提出する際、本人開示請求をしようとする者は、実施機関に対し、自己が当該本人開示請求に係る個人情報の本人又はその代理人であることを証明するために必要な書類で規則で定めるものを提出し、又は提示しなければならない
3 実施機関は、本人開示請求書に形式上の不備があると認めるときは、本人開示請求をした者(以下「本人開示請求者」という。)に対し、相当の期間を定めて、その補正を求めることができる。この場合において、実施機関は、本人開示請求者に対し、補正の参考となる情報を提供するよう努めなければならない。

(開示しないことができる個人情報)
第17条 実施機関は、本人開示請求に係る個人情報が次の各号に掲げる事由(以下「不開示事由」という。)のいずれかに該当するときは、当該個人情報を開示しないことができる
(1) 法令等の定めるところ又は実施機関が法令上従う義務のある国等の機関の指示により、本人に開示することができないとき。
(2) 個人の評価、診断、判定、選考、指導、相談等に関する個人情報であって、開示することにより、事務の適正な遂行に著しい支障が生ずるおそれがあるとき。
(3) 監査、検査、取締り、争訟、交渉、契約、試験、調査、研究、人事管理、市が行う事業経営その他実施機関の事務又は事業に関する情報であって、開示することにより、当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
(4) 第三者に関する情報を含む個人情報であって、開示することにより、当該第三者の正当な権利利益を侵害するおそれがあるとき。
(5) 未成年者の代理人により本人開示請求が行われた場合であって、開示することが当該未成年者の利益に反すると認めるとき。


野田市個人情報保護条例施行規則(平成13年野田市規則第3号)
(本人開示請求書)
第6条 条例第16条第1項第3号に規定する規則で定める事項は、次のとおりとする。
(1) 希望する開示の実施方法
(2) 代理人が開示を請求する場合にあっては、当該本人開示請求に係る本人の氏名及び住所
2 条例第16条第1項に規定する本人開示請求書は、個人情報本人開示請求書(別記第3号様式)とする。
3 条例第16条第2項(条例第27条第2項及び第30条第2項において準用する場合を含む。次項において同じ。)に規定する本人であることを証明するために必要な書類で規則で定めるものは、次のいずれかとする。
(1) 運転免許証
(2) 旅券
(3) 健康保険被保険者証
(4) 個人番号カード
(5) 前各号に掲げるもののほか、当該請求に係る本人であることを確認することができるもの
4 条例第16条第2項に規定する代理人であることを証明するために必要な書類で規則で定めるものは、当該代理人に係る前項各号に掲げる書類のいずれか及び次の各号に掲げる書類とする。
(1) 未成年者の法定代理人にあっては、戸籍謄本その他法定代理人であることを証明する書類
(2) 成年被後見人の法定代理人にあっては、当該成年後見に関する登記事項証明書その他代理人であることを証明する書類
(3) 本人の委任による代理人にあっては、委任状


おそらくどこの自治体でもほぼ変わらない標準的な規定だろうと思いますが、野田市の条例では未成年者を含む何人も、教育委員会を含む実施機関に対して、自己に関する個人情報を開示請求することができるとされています。その具体的な手続きは条例とその委任を受けた規則で定められておりまして、野田市の場合は条例15条で本人開示請求権が規定され、16条でその手続き、さらに17条でその請求権に対して開示しないことができる事由が規定されています。規則では、本人開示請求する場合に必要な書類等が規定されていまして、未成年者については、代理人の運転免許証等の本人確認できる書類と戸籍謄本があれば請求できるということになっています。

今回の事件では、親権者である父親は法定代理人となりますから、父親が運転免許証と戸籍謄本を持ってくれば、形式上はその子供の本人開示請求をすることが可能となります。報道によればおそらくこれらの書類は整っていたと思われますので、問題となるのは、条例17条5号の「未成年者の代理人により本人開示請求が行われた場合であって、開示することが当該未成年者の利益に反すると認めるとき」に該当するかの判断が適切だったかどうかということになります。

私自身は学校現場や児童相談所での勤務経験がないので以下は推測に過ぎませんが、公務員というのはこうした条文解釈が仕事ですので、おそらく学校の事務でも、その相談を受けた教育委員会事務局でもこうした形式が整っている請求への対応について検討が行われ、条例17条5号に該当するかどうかで判断が揺れていたのではないかと推測します。

日常的にこうした親権者とのトラブルに対応している学校現場と教育委員会事務局では、いったん要求に応じてその場を納めて、それから対応するという手法がとられることもあるのではないでしょうか。学校というのは問題が起きたときに一定の期間で子供と接するのではなく、長い年月をかけて子供と向き合う現場ですので、トラブルそのものを解決するというより長期的な解決を志向する傾向があるように思います。これに対して、児童相談所は問題を抱えた子供を一時的に保護する施設ですので、そうした緊急の場合には「開示することが当該未成年者の利益に反すると認めるとき」と判断されることが多くなると思われます。ここで学校(教育委員会事務局)と児童相談所の判断が(結果として)分かれてしまった可能性が考えられます。

ただ、どんな職場であってもクレーム処理とかトラブル対応というのは通常業務に加えて多大な人的・時間的リソースが必要な業務でして、そうしたリソースに余裕のない組織が十分に対応できないというのは前回エントリでも指摘した通りですが、そこにはさらに、冒頭で指摘したプロフェッショナリズムの欠如もあると思います。学校(教育委員会事務局)と児童相談所で「開示することが当該未成年者の利益に反すると認めるとき」の判断に揺れがあったということは、それぞれのプロフェッショナリズムによる適切な判断が現場でできていなかったということを意味します。学校教育の面での問題、児童の保護の面での問題、行政対象暴力の面での問題には、それぞれ学校(教育委員会事務局)、児童相談所、警察がプロフェッショナルですが、個人情報保護条例に基づいて開示しないという判断は、学校ではなく児童相談所が行うべきところ、学校が学校のプロフェッショナリズムによって判断し、その判断そのものも行政対象暴力の恫喝により錯誤の状態にあったと言えるのではないでしょうか。

特に教育委員会事務局では、学校の先生が配属されているポストもありますが、いわゆる首長部局の一般的な公務員が占めているポストも多くあります。もしかすると、「開示することが当該未成年者の利益に反すると認めるとき」という判断ができないような一般的な公務員が、形式的に整った請求に対してその開示の判断を行い、その結果が今回の事件につながったのかもしれません。「プロフェッショナリズムの欠如」というのは、こうした専門的知識を持たないで判断をすることが常態化している組織の実態にも現れているのではないかと思います。。

さて、前回エントリで指摘した通り、統計部門の職員がこの10年程度で3分の1以下に削減されていて、今回の統計の不正処理が脈々と受け継がれた実態があります。2005年の報告書の「統計関係府省・部局間で一層活発にかつ継続的に人事交流を行うべき」という提言に基づいて頻繁に人事異動している職員は、プロフェッショナリズムを獲得する機会にも恵まれず、不正があってもそれはそういうものと認識することになります。学校(教育委員会事務局)では、児童虐待についてのプロフェッショナリズムがありませんから、その判断が結果として不適切なものとなる可能性も高まります。バイトが店の評判を落とすような行為をするのは、そのバイトが低賃金で雇われていていてプロフェッショナリズムとはかけ離れた立場にありながら、安全管理が必要な業務に就いてしまい、その行為のリスクを適正に評価できないからではないでしょうか。

つまり、プロフェッショナリズムというのは、その特定の業務におけるリスクやプロ・コンを適正に評価し、判断するために必須の「能力」といえます。この「能力」と「職能資格給制度」における「職務遂行能力」が一致していればいいのですが、こと公務員については、それが乖離する方向で法改正が進んでいまして、さらにそれを「職務給の原則」として「給与は職務と責任に応ずるもの、すなわち、地方公共団体に対する貢献度に応じて決定されなければならないとする原則」と解説しています。

地方公務員法の有権解釈として参照されている逐条解説において、「職務といい、責任といっても、実質的には同じことを指しているといってよいであろう」と断言されている地方公務員については、職務と責任はセットで考えられているわけでして、職務と責任によって給与を区別されている地方公務員が「同一労働同一賃金」で給与水準が等しくなるためには、職務と責任もセットで変わらなければなりません。とりわけ給与水準が上がるならば、その根拠となる職務と責任についても「難易と複雑さの程度」が上がらなければならないということになります。

職務と責任(2017年07月02日 (日))


プロフェッショナリズムに裏打ちされた「能力」もないまま、「職務遂行能力」で処遇されて判断する責任を負わされるのが公務員の組織であるならば、野田市のような事例はこれからも続いていくのかもしれませんね。
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