2019年02月11日 (月) | Edit |
最近働く現場での問題が相次いで明るみに出ているようでして、国会では政府の統計調査がやり玉にあがっていますが、経済財政諮問会議では政府の統計部門の職員を一貫して減らすべしとの論陣を張ってきたところでして、厚生労働省での不適切な取り扱いが始まったとされる2000年代初めには「内閣府経済社会統計整備推進委員会」というところで報告書がまとめられています。

はじめに
「統計の整備は、日本再建の基礎事業中の基礎事業である」
これは、終戦直後から我が国の統計の立て直しに尽力し、昭和 24 年に吉田茂内閣総理大臣の命を受けて統計委員会の初代委員長に就いた大内兵衞氏の揺るぎない信念であった。
以来約60年、国民挙げての努力によって戦後の焼け野原は遠い記憶となり、我が国の経済社会は目覚ましい発展を遂げた。この間、様々な分野で整備され た統計は、過去を振り返り、今を知り、未来を見通すための指標として、政府の政策決定はもとより、事業者や国民の意思決定に幅広く利用され、まさに社会の発展を支える基礎となってきた。

(略)

本報告は、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」に掲げられた既存統計の抜本的見直しや統計制度の充実についての一つの具体案として提言するものである。時代の変化に対応した経済社会統計の整備に向けて、本報告の内容が近く策定される予定の「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005」に反映され、内閣府、総務省その他の関係府省等による今後の取組の礎となることを期待したい。

内閣府経済社会統計整備推進委員会「政府統計の構造改革に向けて(平成17年6月10日)」(PDF)


大変に高邁な巻頭言ではありますが、ではどんなことが提言されているかというと、特に職員体制については、

ウ 統計に携わる人材の育成・確保等
<取組に当たっての考え方>
 中央において「司令塔」機能が強化され、地方において実査組織の整備が進んだとしても、その運用に当たる職員の資質や能力、絶対数が伴わなければ、我が国の統計が大きく改善されることは期待できない。実際に、主要国の統計組織における職員数や構成をみると、我が国とは行政や人事の制度が異なり単純な比較は難しいものの、経済規模や人口に比して統計関係職員が絶対数で多いだけなく、その内訳においても大学等で統計に関わる専門課程を履修したスタッフの占める割合が高いことが見てとれる
 現在、統計を作成する主な府省は、府省全体の広範なローテーションの中で、それぞれの職場でのOJTや統計研修所(総務省)を始めとする専門の研修機関の研修課程等を活用して人材の育成に努めているが、統計を主要なキャリアパスとする専門的な人材は極めて限られており、裾野が広く厚みのある専門スタッフを確保・育成するには至っていない。
 統計は、その企画立案、設計、実査、集計・加工、審査、分析といった個々のプロセスにおいて、理論的にも技術的にも、あるいは実務の面からも、他の行政分野に比して高度の専門性が求められる。国際社会では、統計を一層発展させるための様々な取組が行われており、それらの動きを的確に把握し 国内にその成果を反映させることはもとより、より積極的に我が国としてそうした取組に貢献していくためには、国際会議等を舞台にした専門的な議論に積極的に参画してそれら諸外国の統計専門家に伍して議論をたたかわせることのできる人材を確保・育成していくことが不可欠である。

(略)

<具体的な取組>
 統計に関わりの深い関係府省においては、もっぱら統計に携わる職員について、政策担当部局や事業実施部局において一定の経験を積ませつつ、その育成方針・研修計画を策定するなどして、一次統計作成部局、加工統計作成部局、調整・審査部局、調査実施部局それぞれにおいて高度の専門性を身につけることができるような任用を計画的に行うとともに、それらの統計関係府省・部局間で一層活発にかつ継続的に人事交流を行うべきである。

内閣府経済社会統計整備推進委員会「同」


という次第で、さすがに当時の小泉-竹中の構造改革路線において「公務員人件費削減」の象徴としての「郵政選挙」が繰り広げられた2005年の報告書らしく、職員を増やすなんてことはせず、人事交流で経験を積めば高度な人材が育成できるという日本型雇用にどっぷり浸かった提言となっていますね。いやもちろん、現状の国家公務員の雇用慣行がメンバーシップ型である以上それに従って人材育成するしかないのですが、職員を増やすことはまかりならんという制約の中でなんとかひねり出したというのが実情かも知れません。

というか、この委員会の本当の目的は、報告書の参考資料6ページ(全体では41ページ目)をご覧いただくとお察しの通り、農林水産省の地方支分部局の統計職員が4351人と突出して多すぎるから削減しろということだったわけでして、その後経済財政諮問会議には「より正確な景気判断のための経済統計の改善に関する研究会」が設置され、その資料でその後の状況を確認できます。

資料1 統計リソースの現状と統計調査の質の確保について(PDF形式:795KB)

その4ページ(全体で6ページ目)によると、先ほどの2005年の報告書では2004年4月1日時点で本省庁1755人、地方支分部局4517人で合計6272人いた職員数が、2016年4月1日時点で本省庁1402人、合計1886人ですので、全体で3分の1以下、地方支分部局に至っては484人と10分の1近くまで、12年間で削減されているわけです。2016年の地方支分部局の内訳は不明ですが、まあ増えるわけないので、農林水産省だけで4000人程度削減されたと考えるのが自然でしょう。そして本省庁でも農林水産省で94人削減されていますが、厚労省も同程度の93人削減されているわけでして、その結果はご存じの通りです。とはいえ、今回の騒動のきっかけとなった毎月勤労統計調査の不正とされる処理は2005年の報告書がまとめられる前から行われていたようですので、上記の資料に示される人員削減がどの程度影響していたかは不明ですが、とはいえ、この国の人員削減は高度成長期から行われていたわけでして、無関係ではないでしょう。

さらに、人事院勧告によって民間の給与体系に準じることとしたために、民間企業で1960年代に普及した日本型雇用慣行としての職能資格給制度が、法に規定された職階制(2016年に廃止されましたが)に代わって適用されることになりました。つまり、GHQはあくまでアメリカ型のジョブ型雇用を国家公務員法・地方公務員法に規定したものの、官公労の労働争議の激化に業を煮やしたマッカーサーが公務員のストを禁止して人事院勧告を導入させたところ、結局ジョブ型雇用によって給与が決まるのではなく、メンバーシップ型雇用によって年功的に給与が決まる仕組みが定着してしまいます。このため、公務員の任用という行政処分における賃金決定は、民間より厳格な年功制に基づくことになり、公務員の年齢構成が高齢化すると自動的に給与原資が増加する仕組みとなっていたわけです。

そして、総定員法が制定された1969年は、民間企業が職能給に舵を切った時期でもありました。

市民の生活を保障しない国家(2018年07月21日 (土))


という状況を踏まえてみれば、少ない職員数で統計にかかる手間をできるだけ簡素化しようというのも自然な流れですし、「公務員人件費が多すぎる!職員を削減しろ!」と声高に主張されていた方々は、統計的手法によって悉皆調査による結果に近づけようと抽出調査したことそのものは、2005年の報告書で「高度の専門性を身につけることができるような任用を計画的に行う」とした具体的な取組に沿ったものと賞賛されても良さそうなものですが、いざその統計手法が明るみに出ると「不正な手段による統計調査を行うなんてけしからん!」と批判されるわけでして、まあいつものこの国の光景だなあと遠い目をするしかなさそうです。

後期高齢者医療制度の是非は措きます。仮に後期高齢者医療制度が批判されるべきものであるとして、であるならばそれが向けられるべきは小泉元総理であり、竹中元経済財政担当大臣であり、経済財政諮問会議でしょう。厚生労働省に対しては批判よりもむしろ、「あなたたちの見通しが正しかった。あのときに抵抗勢力扱いして、あなたたちの声に耳を傾けなかった自分たちが間違っていた」といった謝罪があってしかるべきです(後期高齢者医療制度が批判されるべきならば、という前提に立っています。為念)。しかるに現実は反対で、小泉元総理や竹中元大臣には依然として改革の推進者として賛辞が寄せられ、批判の矢面に立つのは厚生労働省なのですから、やってられなくなるのも無理はありません。

「厚生労働官僚のモラールが崩壊しかかっている件(2008-06-25)」(BI@K accelerated: hatena annex, bewaad.com)※リンク切れ

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