2018年11月24日 (土) | Edit |
軽減税率をめぐる迷走が日々混迷を深めているわけですが、中田大悟先生が4回にわたってその弊害を主に経済学的な見地から指摘されていました。拙ブログは軽減税率に一貫して反対の立場ではありますが、こうしてまとめていただくと私自身の頭の整理にもなるので、ぜひ多くの方に読まれていただきたいと思います。

なぜ軽減税率は最悪の選択だったのか(1)- 資源配分のゆがみ(10/18(木) 15:01)
なぜ軽減税率は最悪の選択だったのか(2)- まやかしの逆進性対策(10/21(日) 1:22)
なぜ軽減税率は最悪の選択だったのか(3)- 膨れ上がる徴税コスト(10/30(火) 10:51)
なぜ軽減税率は最悪の選択だったのか(4終)- 軽減税率をめぐる誤解や錯誤(11/4(日) 17:27)

とはいえ、1回目から3回目までの経済学的な分析はおそらく実務的にはほとんど顧みられることはないだろうと思います。それはもちろん、現実の政策は必ずしも教科書的な説明の通りにはいかないという現実主義的な偏見によるところもあるかもしれませんが、「政策は、所詮、力が作るのであって正しさが作るのではない」という権丈先生の箴言の通り、リクツなんかで世の中は動かないという要素が大きいといえましょう。

私も3回目までの指摘だったら特に取り上げる必要もないと思ったんですが、4回目の議論は現実の政策過程を考える上で大変示唆に富む内容となっていると思います。

「欧米では一般的だ」

(略)
つぎに、欧米では長年にわたって軽減税率が定着している、という主張です。これは、特に欧州での軽減税率の導入の過程を無視した議論です。

歴史的に、付加価値税(消費税)が最初に導入されたのは、1960年代から70年代にかけての西欧諸国です。これらの国々は、経済統合を目指すために各国の財政状況を調整する必要がありました。そこで、付加価値税を導入して、売上税などの既存税制の整理が行われたのです。ですが、この時すでに、さまざまな個別消費税などが設定されており、それらを一足飛びに単一税率の付加価値税に統合することは政治的に不可能でした。これらの国々では、付加価値税が10%以上でスタートしています。この高税率に、ゼロ税率や非課税、低税率のもの全てを同時に統合するのは難しかったのです。

その結果として、西欧各国では、数多くの軽減税率が導入されることになります。つまり、欧州各国での軽減税率の殆どは、付加価値税導入のために政治的な事情で入れざるを得なかった税率、と解釈することができます。西欧諸国は、この後、軽減税率をなんとかして簡素化、廃止したいと悪戦苦闘しますが、政治的な圧力から、止めるに止められない税制として存続させざるを得ず、今日に至ります。

(略)

軽減税率のもうひとつの「メリット」

痛税感に関連して、軽減税率がもたらすもうひとつの「メリット」についても説明しましょう。

軽減税率は、それが消費者の認識バイアスや錯覚に起因するものとしても、消費者にとっては、納得しやすい税制です。これを利用すれば、軽減税率によってさらなる消費税増税が容易になります
(略)
この抵抗感の減少こそが、軽減税率の最大の「メリット」と言って良いでしょう。先に述べた、付加価値税を初期に導入した西欧諸国は、一般に非常に高率の標準税率を設定しています。なぜ、このような高率の税率(概ね20%以上)を設定できるのでしょうか。ここに軽減税率が寄与しています。軽減税率があるからこそ、その国の国民は、増税を受け入れやすくなるのです。

なぜ軽減税率は最悪の選択だったのか(4終)- 軽減税率をめぐる誤解や錯誤(11/4(日) 17:27)
※ 太字強調は原文、太字下線強調は引用者による。


ほかにも税制改正のオーソライズの所在の問題など興味深い論点がありますが、結局のところ軽減税率という「分かりやすい」対策が取られなければならないほど、この国における「痛税感」が強いということなのでしょう。

この点については、拙ブログでも

ということで、私のような下っ端地方公務員はことの成り行きを見つめるしかないわけですが、付加価値税率が高いヨーロッパ各国で軒並み軽減税率が導入されているのは、増税に対する抵抗をいくらかでもそらなければならないという政治的な事情が大きいのではないかと思います。そうした側面については、abz2010さんのご指摘が参考になります。

そして、ここから派生するもう一つのメリットは消費税率の上げ下げが比較的容易になることである。 もちろんどのような形であっても増税には常に逆風が吹くわけであるが、 生活必需品を軽減税率の対象とすることにより、「低所得者への負担増が・・・」、「逆進性が・・・」といった消費税増税の本質的な問題を(相対的にではあるが)軽減できる為、消費税増税(減税)をフレキシブルに実施することが可能になる。(念のために書いておくと、上記は軽減税率そのものが低所得者対策として有効という話ではなく、消費税増税による低所得者の負担増を相対的に軽減する事ができるという話である。尚、より直接的な低所得者対策が必要であれば消費増税で得た財源を元手に別途行なえばよい。)
(略)
そして欧米並みの税率となるまでの道程とそうなった場合の低所得者への配慮を考えるとこのあたりで軽減税率の議論を真剣に行うことは避けては通れないだろう。 もちろん軽減税率の代わりに低所得者用の還付金を採用する等、他の方策も十分検討の対象となりうるが、「生活必需品の税率は軽減される」という基本部分のわかりやすさ・納得感も考えると軽減税率も巷でやたらと批判されているほど悪いものでもないというのが筆者の考えである。

「軽減税率のメリットについて(カンタンな答 - 難しい問題には常に簡単な、しかし間違った答が存在する2014-11-25)」



個人的には、軽減税率を「批判されているほど悪いものではない」とまでいえるかはかなり疑問ではありますが、政治プロセスを考えると「議論を真剣に行うことは避けて通れない」というのはその通りだと思います。そして現在、軽減税率の導入のためにどの財政支出を削るかという真剣な議論が行われているところなわけでして、政治的プロセスの中で経済学的な正しさがどのような行方をたどるのか大変興味深いですね(なお、社会保障の財源を公債に頼ることは、スティグリッツの批判の通り軽減税率と同じくらい公共経済学的に無理筋だろうと思います)。

軽減税率のメモ(2015年11月03日 (火))

ということでabz2010さんのご指摘を参考としてメモしておいておりましたが、政治的なプロセスを考えると、軽減税率という「分かりやすい」政策でもって財政錯覚を起こさせて、消費税率引き上げという実を取る戦略と捉えることもできるかもしれません。

とはいえ、「世界一の高齢化率を誇る日本で高齢者向けの年金給付が社会的支出の半分を占めているといっても、まあまだ低い水準といってもよさそうなものです。いうまでもなく、現役世代向けの現金給付や医療などの公共サービスの水準が高いフランスやスウェーデンでは、その社会的支出を支える国民負担率が高いわけでして、その3分の2程度の国民負担率しかない日本では、現役世代向けの現金給付や公共サービスがクラウディングアウトされるのは当然の成り行きでありましょう」という現状において、これほど痛税感を強く感じる国民性がなぜ形成されたのかを考える必要もあるのではないかと感じるところです。

結局、生活を保障するのは(民間と公務員の別にかかわらず)使用者であって政府ではないという、世界に類のない小さな政府かつメンバーシップ社会が現出することとなったわけですね。という次第で、いまや「可処分所得を確保するために正社員を増やせ!経済成長のために増税なんてけしからん!」などと知った顔して声高に煽る方々が「経済左派」を自称される世の中になってしまったわけでして、市民を雇わない国家どころか、市民の生活を保障しない国家と人手不足でも職能資格がなければ賃上げをしない社会をつくり出したのは一体誰だったんだろうと考えてみるのもまた一興です。

市民の生活を保障しない国家(2018年07月21日 (土))

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