2018年05月20日 (日) | Edit |
前回エントリで「立場の左右を問わず「働き方改革」でどのような働き方を目指すのかがあやふやなまま議論が進められてきたという経緯」と書いたところ、マイクロソフトの働き方改革がバズっているようで早速拝読しましたが、いやまさに「ジョブディスクリプション」が肝となっていると明言されていまして、メモしておきましょう。

我々の働き方改革という話をする時に、一応、私の肩書についてもお話ししておきたいと思います。
まず、マイクロソフト テクノロジーセンターのセンター長というものをやっています。これは全世界に50カ所あります。その50カ所に同じようにテクノロジーセンターダイレクターというのがいるんです。そのダイレクターというのは、みんな同じ仕事をするんですね。同じ仕事というか、評価をされるポイントがまったく同じになっています。
全世界でロールモデルが決まっている。そのロールモデルが協調されているというのがポイントとなります。

(略)

震災時に気づいた「クラウドで仕事ができるぞ」

環境としては、我々はすでにクラウド化がかなり進んでいて、どこからでもインターネットに接続さえすれば、社内の環境に繋がることができました。ワンクリックでセキュアなネットワークを張って基幹業務にアクセスすることができる環境になっていたんです。ですので、その環境が与えられていることに気付いたんですね。
つまり、会社にいることが仕事の中のオプションの1つでしかないとわかったんです。やらなきゃいけないことは会社に行くことではなくて「さっと決めて、すぐにやる」。これだけだったんですね。決めるためにはオフィスに行く選択をとる必要がないということに、我々はようやく気付いたんです。
一般的にはテレワークとは、例えば自分が患者の立場になったり介護する立場になったりしたときに仕事を切り出して自宅で行う状態だったんですが、会社の仕組みがこのままだとワークしないんです。
会議のために紙を配るとなっていると、在宅勤務の人には紙が配られません。だから、会議に参加できないんですね。マイクロソフトの場合は、いつでも、どこでも、誰とでも、とにかく全員が仕事をできる状態に考え方を変えました。
繰り返しになりますが、出勤することは仕事のうちではない。やらなければいけないのは、「あなたはこれを持って仕事をしたとみなす」というようなジョブディスクリプションを徹底的に満たすことなんですね。ですから、先ほどからしつこく言っているように、「全世界統一をされていますよ」「これをもって評価しますよ」が効いてくるんです。

(略)

テクノロジーとは、ビジネスを思いっきり推進するもの

それからもう1つ。あれもこれも手取り足取りで教えるような、子ども扱いをすると、残念ながら子どものようにふるまうんですね。社員はどんどん子どもになってしまいます。
ではなにをすればいいのか、「Accountability」、責任を明確にすることなんです。それは先ほど言ったジョブディスクリプションです。「あなたはなにをもって成果を出した」と評価するのか。これを明文化して合意を得ることなんです。
そして、そこに例外を認めない。いちいち例外を認めると無尽蔵に例外を認める羽目になります。すべてがリスクとコストなって跳ね返ってきます。ですから「No Exception」を徹底する。

日本マイクロソフト株式会社 テクノロジーセンター センター長 澤円 氏
「日本企業は「礼儀正しく時間を奪う」 マイクロソフトが働き方改革で歩んだ“地雷だらけ”の道(2017年11月14日)」(logmi)
※ 以下、強調は引用者による。

無限定で何でもしなければならない日本型雇用慣行では、「ジョブディスクリプション?何それ食えるの?」というところですが、それがあって初めて「ここまで仕事をすれば帰っていい」とか「自分の仕事以外は気にしなくていい」という働き方ができるわけですね。本文にもあるように、ジョブディスクリプションが明確に定まっていれば、「やらなきゃいけないことは会社に行くことではなくて「さっと決めて、すぐにやる」。これだけ」となるので、やるべきことを決めてそれをやってしまえば、あとは会社にいる必要はなくなるのが道理というもの。

逆に、「職務が無限定で、上司と部下がホウレンソウで常に情報を共有する」という働き方をしていれば、自分の仕事が終わっても周囲の仕事が終わっていなければ帰れませんし、お互いに情報共有するためにも上司が帰るまで帰れません。それが当たり前になると、新たな仕事が増えてもそのために人員を増やすことなく、無限定に働くことでカバーすることがスタンダードとなり、慢性的に人手不足の状態とすることが最適解となっていきます。そしてそれが最適解となった社会では、組織が相互にそのような体制を組むことを想定するため、時間外の突発的な業務に対応できることをアピールすることで競争力を獲得しようとし、お互いがお互いの首を絞め合う状況が作り出されていくという、見慣れた光景が完成するわけですね。

そうした組織の仕事の仕方ってどこかで見たことがあると思ったら、昔見た記事を思い出しました。


CIAは第2次世界大戦中に敵国にスパイを潜入させて、組織が機能しなくなるよう工作活動を行っていました。その中でも、「Simple Sabotage Field Manual」と呼ばれる極秘マニュアルには、組織を機能不全に追い込むためにはどのように行動するべきかという「組織の癌」とでも呼ぶべき愚者の心得が説かれており、ここには時代を問わず多くの組織で反面教師とするべき含蓄があります。

CleanedUOSSSimpleSabotage_sm.pdf
(PDFファイル)https://www.cia.gov/news-information/featured-story-archive/2012-featured-story-archive/CleanedUOSSSimpleSabotage_sm.pdf

Read the CIA's Simple Sabotage Field Manual: A Timeless, Kafkaesque Guide to Subverting Any Organization with "Purposeful Stupidity" (1944) | Open Culture
http://www.openculture.com/2015/12/simple-sabotage-field-manual.html

CIAがスパイに実践させた組織腐敗行動は以下の通り。このような行動は、すべての組織を機能不全に追い込むと考えられています。

◆組織と会議

・Insist on doing everything through “channels.” Never permit short-cuts to be taken in order to expedite decisions.
(何をするにも「指揮系統」を主張せよ。意志決定を早めるためのいかなるショートカットも認めないようにせよ)

・Make “speeches.” Talk as frequently as possible and at great length. Illustrate your “points” by long anecdotes and accounts of personal experiences.
(ひたすら「演説」せよ。演説は可能な限り頻繁に、そして尋常ならざる長さで行え。論点は、長々とした逸話や体験談で形作れ)

・When possible, refer all matters to committees, for “further study and consideration.” Attempt to make the committee as large as possible — never less than five.
(可能な限り、委員会(会議)に全ての項目を提示せよ。そして「さらなる調査と検討」を求めよ。委員会の大きさはできる限り大きなものにせよ。委員会は決して5人未満ではいけない)

・Bring up irrelevant issues as frequently as possible.
(できるかぎり頻繁に関係のない話題を持ち出せ)

・Haggle over precise wordings of communications, minutes, resolutions.
(解決策が出る直後に、正確な言葉をもって押し問答せよ)

・Refer back to matters decided upon at the last meeting and attempt to re-open the question of the advisability of that decision.
(前回の会議で決まった問題を持ち出して、その決定を再検討するように議論を蒸し返せ)

◆上官

・In making work assignments, always sign out the unimportant jobs first. See that important jobs are assigned to inefficient workers.
(課題を与えるときは、つねに重要でない仕事から先に割り当てよ。重要な仕事は能率の悪い部下に割り当てるように心がけよ)

・Insist on perfect work in relatively unimportant products; send back for refinishing those which have the least flaw.
(相対的に重要ではない仕事に完璧さを要求せよ。ささいな点でも修正するように突き返せ)

・To lower morale and with it, production, be pleasant to inefficient workers; give them undeserved promotions.
(士気を下げ、非生産的な部下が心地よいようにせよ。出来の悪い部下に不当な昇進を与えよ)

・Hold conferences when there is more critical work to be done.
(やるべき重大な仕事があるときこそ、会議を開催せよ。)

・Multiply the procedures and clearances involved in issuing instructions, pay checks, and so on. See that three people have to approve everything where one would do.
(許認可、指示、確認などあらゆる手続きを複雑化せよ。一人で決められる事でも3人の承認が必要なように取りはからえ)

◆部下

・Work slowly.
(とろとろのろまに働け)

・Contrive as many interruptions to your work as you can.
(できる限り多くの仕事の妨げになるよう企画せよ)

・Do your work poorly and blame it on bad tools, machinery, or equipment. Complain that these things are preventing you from doing your job right.
(仕事は下手くそにやり、道具や機械のせいにせよ。「こんな道具では仕事にならない」と不平不満の声を発せよ)

「CIAが敵の組織を破滅に追いやるために潜入スパイに実行させた「愚者の心得」をまとめたマニュアル「Simple Sabotage Field Manual」(2016年08月29日 08時00分00秒)」(Gigazine)

こちらに上げられている項目のうち、部下の部分はまあそりゃダメな部下の典型だろうなとは思いますが、最後の「こんな道具では仕事にならない」というのは、ろくな道具も与えずに精神論だけで何とかしろという使用者に対してはそのように主張する必要がある場面もあるでしょう。同様に、「組織と会議」や「上官」の項目についても、時と場合によってはそのように行動することが必要な場面があると思いますが、そう考えるとむしろ、そのように行動することがないように、組織の行動原理を構築しなければならないと考えるべきではないかと思います。

でまあ、特に「組織と会議」の項目は、我々公務員にとってはこれもまたよく見る光景だなと思うところでして、どこで見たんだろうと思うと、国会の議論はここに書いてある通りに進められるんですね。いやもちろん、国会はそもそも会議の場であってここで想定されている組織とは違うだろうと思いますし、国会そのものが仕事をするわけではありませんが、国会で決まったことを基に仕事をし、仕事の成果や課題を国会に説明しなければならない役所にとっては、国会の議論そのものが仕事であり、役所の仕事の効率性を決める大きな要因となります。その国会で上記のような「組織を機能不全に追い込むため」のマニュアルに沿った行動を取られれば、そりゃ役所の仕事が効率悪くなるのも宜なるかな。

とはいえ、国会が「仕事」をしようとするなら、国会の議論で役所を「組織を機能不全に追い込」んで法案や予算の執行を阻止することが最もダメージが大きい(それは当然、役所の仕事を通じて国民の生活にも影響がある)わけで、特に野党はそのような戦法を採る傾向があることも事実でしょう。最近でいえば、働き方改革法案をめぐって上西充子先生が提唱された「#ご飯論法」を野党の皆さんが国会でも取り上げているようでして、もちろん研究者としての上西先生が国会におけるデータの取り扱いを問題視して正確なデータに基づく議論を求めること自体は当然の行動だと思いますが、これを上記のような立場にある野党の皆さんが積極的に取り上げているということそのものが、どのような効果を狙って行われているのかは推して知るべしでしょう。そしてその行動が「組織を機能不全に追い込むため」のものである程度において、役所の仕事は非効率化していくわけでして、まあ役所の働き方改革が進むのはいつになるんだろうなあと遠い目をせざるを得ませんね。
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