2016年11月20日 (日) | Edit |
「経済学的に正しい」方々から続けてコメントをいただきましたので、エントリでまとめてご紹介しておきます。まずは、望月夜さんからいただいたコメントです。

>税の規模と政府の規模が不可避的に一致する必要がないからこそ、税収以上の政府支出を数十年にわたって継続している現状があって、それが「過小な」政府支出しかもたらしていないのであれば、それはとりもなおさず税収が「過小」であることの証左ではないか


これは、すでに論じた事項ではあるのだが、繰り返しで反論させていただくと、税の過少が政府規模の過少を招くとすれば、それは税の過少それ自体に基礎づけられているというより、均衡財政の神話(いつかはPB黒字化に向かわなければならないという根拠なき信仰)による政治的な迷妄に基礎づけられているわけであって、その場合、目指すべきは、税収の確保ではなく、因習の打破なのではないか、と私は理解している。
2016/11/17(木) 08:52:51 | URL | 望月夜 #-[ 編集]


増税の話をすると「均衡財政の神話」という反論をいただくことが多いのですが、いついかなるときも均衡財政を維持している国はおそらく古今東西存在しないのではないかと思います。国民負担率が50%を超えるドイツ、スウェーデン、フランスの政府債務の対GDP比はいずれも50%を超えていて、フランスに至っては100%を超えていますので、先進諸国が日本よりも高い国民負担率を維持している理由が、「均衡財政の神話に基づいて」いるわけではないのではないかと。
 国民負担率
(社会保険負担率+租税負担率)
社会保障負担率租税負担率対GDP政府債務残高
ドイツ52.6%22.2%30.4%82%
スウェーデン55.7%5.7%49.9%57%
フランス67.6%26.9%40.7%111%
アメリカ32.5%8.3%24.2%125%
日本41.6%17.5%24.1%240%

出典:国民負担率(社会保障負担率と租税負担率)は「国民負担率(対国民所得比)の内訳の国際比較(日米英独仏瑞)(財務省)」、対GDP政府債務残高は「General government debt (OECD)」の2013年度

さて、望月夜さんのご主張は、

緊縮ではない財政 http://sonicbrew.blog55.fc2.com/blog-entry-705.html …

「将来の経済成長の果実を過去の債務償還に食い尽くされる」

とのことなのだが、この表現はあらゆる所で散見されるにも関わらず、その具体的実務的形態が論じられたことがほとんどない。

望月夜 ‏@motidukinoyoru 10月29日


というtweetから拝見しているところですが、このtweetでおっしゃる「その具体的実務的形態」というのは結局「税収の確保ではなく、因習の打破」ということなのかもしれませんね。「因習の打破」という趣旨が不明ではあるものの、管見では「政府が債務と思っているのは因習のせいだから、会計上整理をすれば国債費を償還する必要はない」というのが一つの理解としてありそうです。となると、各年度に計上されている公債費(債務遺体する元利償還金)は不要な支出ということになります。まあ公債費がゼロになっても、平成28年度の一般会計(当初)でいえば、たったの58兆円程度の税収でもって、73兆円の政府支出だけでなく23兆円を超える公債費を計上して、34兆円を超える新規国債を発行していますので、そのうち11兆円程度の新規国債発行がなくなる程度ですけど。

ついでに、政府「債務」と呼ばれるのは、それが債権者にとっては債権として(保険会社や銀行などの投資機関の運用益等)の給付を受ける権利となっているからというのが一般的な理解と認識しているところでして、その債権債務関係を解消する「具体的実務的形態」についてすでに十分に議論し尽くされているとは思われませんが、まあその辺は残念ながら浅学非才な私には及び知らない世界があるのでしょう。

ところで望月夜さんは、さらに政府支出を増額してその分を新規国債で賄えばよいという立場かと見受けますが、その新規国債で賄うべき政府支出の額はどのくらいになるとお考えなのかは不明です。「政府債務の償還は因習である」とまでおっしゃるのであれば、政府支出は青天井として問題なさそうですので、各省庁なり自治体で選良の皆様が要求する事業にはすべて財源を用意して実施するというのも一つの考え方かと思います。なんというか、インフルエンス活動の全面解禁につながりそうですが、「しかし、実務というのは批判されたからといってすぐには変えられない(インフルエンス活動による効用が低い)から実務なのであって、消費者の批判に応えるためだけの実務なんてものには政策実現性(フィージビリティ)がそもそも担保されてはいません」ので、望月夜さんがお考えの「具体的実務的形態」の謎は深まるばかりという印象です。

次は初めてコメントをいただく方ですが、

初めまして。
「経済学的に正しい」こと(笑)を言わせて頂きますと、「経済学的に正しい」人達が目指しているのは無税国家ではなく、デフレギャップの解消ですよ。デフレギャップが解消され、インフレ圧力が問題になるときはむしろ緊縮財政せよと主張します。

あと、そういった面々(まあ私もそうですが)は最初から隠れ蓑など使わず一貫して増税派も浜田宏一岩田規久男リフレ派も批判してますので、認知的不協和は勿論発生しておらず、当然新たな理論なども全く待ち望まれてないですよ。
2016/11/20(日) 11:56:55 | URL | asd #-[ 編集]


「そういった面々(まあ私もそうですが)は最初から隠れ蓑など使わず一貫して増税派も浜田宏一岩田規久男リフレ派も批判してます」とのことで、asdさんのような方々にとっては私の懸念は杞憂に終わったようですので、誠にご同慶に存じます。

ということで、いただいた二つのコメントを拝見してみるに、ハジュン・チャン氏が指摘されるような様相を呈しているのは経済学方面の通常運転というべきでしょうか。

 大半のエコノミストの喧伝に反して、経済学には新古典学派の1種類しかないわけではない。本章では少なくとも9つの学派を紹介する。
 これら学派は不倶戴天の敵どうしというわけではない。むしろ互いの境はえてして漠然としている。経済学を概念化し説明する上ではさまざまな方法があること、いずれの学派も優位性を主張したり唯一の真理を自称できないことがわかればいいのだ。
チャン『同』p.102


いあまあ身も蓋もない指摘ですが、「経済学的な正しさ」というのは「ある考え方に基づいたときの推論」程度に考えるのが吉といえそうです。
(略)

 政府の失敗論は、経済あるいは市場の論理が政治に——そして芸術や学問など暮らしのその他の領域にも——優先すべきとするものだ。昨今ではとても広く受け入れられており、ほとんど当たり前になっている論だ。だがそこには深刻な瑕疵がある。
 第一に——エコノミスト以外にとっては当たり前だが多くのエコノミストにとっては受け入れ難いことに——そもそも市場の論理を暮らしの他の面に優先させるべき理由がない。人はパンのためにのみ生きているわけではないのだ。
 さらにこの議論は、何が市場に属し何が政治の領域に属するかをきっぱりと分つ「科学的」な方法があると暗に仮定して成り立っている。例えば、政府の失敗論者は、最低賃金規則や幼稚産業に対する関税保護などを、神聖冒さざる市場の論理に「政治的」論理を押し付けるものという。だがこれらの政策を正当化する経済理論は現に存在する。それなら彼らの実態は、他の経済理論に「政治的」とレッテルを貼って貶め、自分の主張が正当なのだ、これこそ経済理論だとばかりに言いつのっているにすぎない
チャン『同』p.364


折衷主義は、むしろ強み(2016年10月30日 (日))


なお、私が増税が必要だと指摘していることをもって「デフレ派」とか「反成長派」とか「反経済学派」に括られることも多いのですが、「結局のところ、拠出と給付の差し引きというネットの所得再分配機能の評価が重要になるわけです。まさに中里先生の資料の冒頭に出てくる「経済財政運営におけるナローパス」を慎重に求めることが必要」と考えていますので、できれば無用なレッテル貼りはご容赦いただけると幸いです。
スポンサーサイト


コメント
この記事へのコメント
>「因習の打破」という趣旨が不明ではあるものの、管見では「政府が債務と思っているのは因習のせいだから、会計上整理をすれば国債費を償還する必要はない」というのが一つの理解としてありそうです。


別に各債券の償還は随時行えばいいと思うのだが、借換(差し引きで見れば借り増しでもある)を並行して行えばいいという趣旨。
これは私がとやかく言うまでもなく、実際の政府財政実務で起こっていることだ。

これに対し、「いつかはそうやって積み増された政府債務についても完済していかなければならない」、あるいは、譲歩した見解としては「名目GDP比で見てある値以下にならなければならない」というもの(これらがいわゆる「因習」)があるのだが、いずれも「そうであるべき根本的理由」というものが薄弱である、と言いたいわけである。

もしインフレが問題だとすれば、指標にすべきはインフレあるいはインフレ予想のみにするべきであって、政府債務の完済であるとか、GDP比で見た低位安定だとかは目標たりえないわけだ。


あと、このブログの記述を見る限り、私の連ツイの趣旨、すなわち、「主流派経済学が過剰政府債務の問題を論ずるとき、どういうロジックに依って議論しているか」について本当にご理解いただけたのか、著しく不安になった次第をお伝えしておきたい。

2016/11/21(月) 08:50:29 | URL | 望月夜 #-[ 編集]
「インフレや経済成長に誘導しようとするのは全て浜田宏一や岩田規久男のようなリフレ派、又はその一派」という誤解が世の中には一定数あるようで、マシナリさんもそのような様子が見られましたので書き込みさせて頂きましたが、誤解が解けた?元から無い?ようで何よりです。

ところでマシナリさんの文章を拝読していて1つ大きく気になる点があります。自分の知っている知識から正しいと思われる経済主張をするという点で、数々の学派も私もそしてはっきり言ってマシナリさんご自身も、立派な「経済学的に正しいことを主張する人間」だと思いますよ。マシナリさんがチャン氏の数々の言葉・警告をあまりに他人事のように受け止められているのが、どうも引っかかるので失礼ながら書かせて頂きました。
2016/11/21(月) 19:18:26 | URL | asd #-[ 編集]
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック