2016年06月25日 (土) | Edit |
前回エントリでちらっと触れた伝左衛門先生のtweetがtogetterでまとめられていましたので、こちらに貼っておきます。

伝左衛門 @yumiharizuki12 2016-06-06 03:16:38
リフレ派の本質は、日本の茶会運動。敵は今のところ消費税で、消費税率をゼロにすればすべて良くなると思ってる人たち、ということでよいだろう。
ですよね。消費税を廃止すれば日本経済は回復するんですよねw

伝左衛門 @yumiharizuki12 2016-06-06 03:23:56
日銀が国債をすべて買い取り、名目金利をゼロに抑え込むことが出来れば、自然利子率がプラスとして、フィッシャー方程式から、自然利子率分のデフレが発生する。経済が消費税率ゼロで活性化すれば、デフレでもプラスの名目成長は可能。つまり、元々、インフレかデフレかはどうでもよかったのですw

伝左衛門 @yumiharizuki12 2016-06-06 03:26:38
@myfavoritescene リフレ派が、財政政策で何か具体的提案を、バラバラでなくやってる印象がないんですがw
要するに「税金減らせ、社会保険料減らせ」しか聞こえて来ないのでw

伝左衛門 @yumiharizuki12 2016-06-06 03:33:28
@myfavoritescene だからマネタイズはどうぞやってくださいw
何でもいいから財政政策やれには、あまり賛成しません。内容によります。社会保障充実なら賛成しますが。
クルーグマンを信用するのそろそろやめようという心境です。

「東京財団モデルに不満のある人は、、、」(togetter)
※ 以下、太字下線の強調は引用者による。

その他の細かい部分には思うところもありますが、まあ概ね賛同いたします。一部のリフレ派と呼ばれる方々やその主張を賛同・支持されている(た)方々は、総需要不足こそを最大の問題点と認識し、その原因を消費税率引き上げに代表される重税によって、あるいは構造改革による規制緩和によって、可処分所得が減少したことに求める点でのみ一致しているのであって、その原因さえ克服できればインフレだろうがデフレだろうが実際は関係ないように見受けます。実質の購買力の低下こそが悪なわけですから、それが増税によるものであってもインフレによるものであっても、忌避すべきであることには変わりありませんよねえ。

でまあ、総需要という言葉で連想される支出が個人の耐久消費財とか食費とかになるのは、通常の生活をしている方々にとっては致し方のないことだろうとは思うのですが、人は病気にもなるし不慮の事故で障害が残ることもあるし先天的に重い障害を持って生まれてくる場合もあります。一般的な社会人が決まった日時・時間帯に就労している現代にあっては、親に代わって(の保育を補完して)社会が子供の出産から就学までの保育を確保する必要がありますし、その子供が就労するまでには親はもちろん社会が学習の機会を提供することによって稼得能力のある社会人として成長させなければなりません。さらに、稼得能力が衰えてしまった(を得ることができない)高齢者や障害者にはその生活を保障するために公的な支援が必要となる場合もあります。

これらの財・サービスへの需要も当然総需要に含まれるわけでして、その需要が供給側の未整備や不足によって制限されるようなことがあれば、それも総需要不足の大きな原因となります。その公的支援の供給を第一義的に支えるものが税収であることからすれば、税収を確保して供給体制を整備することが総需要不足の解消につながると考えるのがスジと思われるのですが、いやまあ茶会運動の方にこの理屈が通じるはずはありませんね。

ついでに、上記の引用部分で伝左衛門先生が「クルーグマンを信用するのそろそろやめようという心境です」とおっしゃるように、拙ブログでも「国際経済学者であるクルーグマンは「アメリカン・ケインジアン」な主張から「ソーシャル」な主張まで幅広く論じているのですが、それぞれのモードに限ればそれなりに整合性があるものの、トータルで見るとあちこちで齟齬を来しているように見受けます。特に日本では、どマクロな「「アメリカン・ケインジアン」のしかも金融政策に偏った主張をしてきたために、かえって「ソーシャル」な政策についての日本における理解を妨げてしまったのではないかと思うところ」でして、クルーグマンの言説を見るときには、アメリカ国民向けのアメリカ的「ソーシャル」モードなのか、他国向けのアメリカン・ケインジアン的な「リベラル」モードなのかを十分に吟味する必要があると思います。

まあ拙ブログでもこの読み方を習得するまでにかなりの時間を要しましたし、通常はこちらのブログ主さんのように、

最低賃金制の有害性としてクルーグマンが挙げる具体例はこんな感じ。

  • ファストフードの店長が従業員をクビにして、自分の息子を代わりに使った。(タダで、という意味でしょう)
  • 最低賃金を上げると職が少なくなるので、職探しが長期化する。
  • 非合法な仕事がはびこる。
  • 政府の検査官に賄賂を贈る。
  • 若年労働者の失業が発生する。
  • 一定以上の事業所に最低賃金規制がかかるため、規制を避けるために零細企業が増加する。(非効率になるでしょうね)
こんな感じ。
ほかの教科書と本質的に同じですわ。
読んでみて思ったのは、日本にはクルーグマンのファンが数多いて、クルーグマンによる最低賃金上げの政治的言説を信じ込んで飛びついていたりするので、「きっとクルーグマンの本しか読んでいないからなんだろう」と考えていましたが、私は間違っていましたね。
彼らはクルーグマンの教科書すら読んでいません。
クルーグマンは日本では芸能人と看做した方が良いのでしょう。

「2015-11-28 クルーグマンの教科書も認める最低賃金の有害性」(Maddercloud)

と教科書を読んで理解しようとされるだろうと思います。この『ミクロ経済学』でクルーグマンは、「政府の役人はしばしば下限価格規制の帰結に関する警告を無視するが,その理由は供給と需要のモデルが彼らの関係する市場を満足に記述していないと信じているからか,あるいはもっとありうるのは,彼らがそのモデルを理解していないからだ(p.112)」と最低賃金で規制する政府(役人)を批判していますし、リフレ派と呼ばれる方々の領袖とエースによる岩田・飯田(2006)で「政策当局が経済学の分析を無視することによって、社会に不必要な負担をもたらしている例」とおっしゃるのも、こうした世界標準の経済学の考え方(棒)に則ったものでしょう。

ところで、クルーグマンの『マクロ経済学』にも最低賃金の項がありまして、

 一般的に,拘束力を持つ最低賃金は構造的失業をもたらすものだ.だったらなぜ政府は最低賃金を課すのだろう,と思うかもしれないね.その合理的根拠は,最低賃金は働く人々が最低限の快適な生活様式を維持するだけの所得を得る助けになる,というものだ.だがこれには代価がある.もっとも低い賃金で働いてもいいと思っている労働者たちから仕事の機会を奪うことになるのだ.図15-2は,労働の買い手より売り手のほうが多いだけでなく,最低賃金で働く労働者数(QD)は,最低賃金がなかった場合に働く労働者数(QE)より少ないことを示している.
 ここで注意しておくべきことがある.図15-2で示したように,高い最低賃金が雇用削減効果を持つことには経済学者の間で広い合意があるが,それがアメリカで最低賃金がどう作用するかを示すふさわしい説明かどうかには若干の疑問があるということだ.(中略)だがほとんどの経済学者が,最低賃金を十分に高くすれば構造的失業が生じるということに同意している.
pp.431-432

クルーグマン マクロ経済学クルーグマン マクロ経済学

クルーグマン,P.著/ウェルス,R.著/大山 道広訳/石橋 孝次訳/塩澤 修平訳/白井 義昌訳/大東 一郎訳/玉田 康成訳/蓬田 守弘訳

ISBN:9784492313978
旧ISBN:4492313974
サイズ:B5判 並製 664頁 C3033
発行日:2009年03月20日

※ 太字強調は原文。


汎用性を最優先すべき教科書において自らの見解を書かないのはそれはそれで公正な姿勢だとは思いますが、それによって「教科書嫁」厨を喜ばせるだけになってしまっては教科書の汎用性よりも重大な問題を孕むものと思われます。とはいえクルーグマンは、『マクロ経済学』で「十分に」と絶妙な留保をつけている通り、

Until the Card-Krueger study, most economists, myself included, assumed that raising the minimum wage would have a clear negative effect on employment. But they found, if anything, a positive effect. Their result has since been confirmed using data from many episodes. There’s just no evidence that raising the minimum wage costs jobs, at least when the starting point is as low as it is in modern America.

Liberals and Wages Paul Krugman JULY 17, 2015

「少なくとも現代のアメリカくらいに低い最低賃金からスタートするなら、最低賃金の引き上げがジョブと引き換えになる(失われる)証拠はない」と言い切っていますね。岩田・飯田(2006)のようなおっちょこちょいを巧妙に避けているところこそが「世界標準」ではないかと思うところでして、maddercloudさんの言葉をお借りすればそれがクルーグマンが一流の芸人たる所以でしょう。

真面目にいえば、最低賃金を引き上げることによって労働市場に影響が出るのは、そもそもの賃金水準が最低賃金の網にかかるくらいに低いような低所得国であって、日本やアメリカのような先進国では『ミクロ経済学』のような極端な例は生じないという趣旨で『マクロ経済学』の説明を理解すべきだろうと思います。事ほど左様に経済学の理論やモデルというのは制度などの前提条件で結論が変わるものでして、高橋是清とか石橋湛山とか引き合いに出して現代の日本にそのまま当てはめようとするおっちょこちょいな方々も多いようですが、まあそういうことですね。

(追記)
ぶくまいただいたのですが、

API クルーグマンのモデルも東京財団のモデルと同じく、非現実的だしね。
リンク 2016/06/25

経済学のモデルっていうのは非現実的でもいいからベンチマークを提供するという程度のものではないかと思うところでして、飯田先生もお気軽なライフハックの思考法をオススメされていますね。

 大変便利な「その他」ですが、一つだけ気をつけて欲しいことがあります。それは、重要な項目を「その他」に入れないことです。自分が考えたいと思っている項目を「その他」にいれて、関心度の低い項目とごちゃまぜにしてしまうと、せっかく問題を整理しようとしているのに、意味がなくなってしまいます。まずは、今自分が考えたいことをしっかりと羅列したのちに、「その他」を使うようにしてください。
 余談ですが、本書で登場する思考に関する例が非現実的だと感じるとすれば、その理由の一つは、あなたの興味において重要なものが、本書にとっての「その他」に入ってしまっているからだと考えられます。しかし、あなたと私が一心同体でない以上、これは避けることができない事態です。
p.66

思考の「型」を身につけよう
人生の最適解を導くヒント
飯田 泰之
ISBN:9784022734808
定価:821円(税込)
発売日:2012年12月13日
新書判並製 232ページ 新書380

(略)
そりゃまあ、当面は困らない範囲なら深淵に見える問題をいったん脇においてもいいでしょうけれども、特にマクロの政策はあらゆる利害関係を調整しなければ実施できません。飯田先生が提唱される「思考の型」では、そのいったん脇に置いておいた問題について、現在の経済学が有効な政策を導くことはできないことを自ら示しているものと思います。

「陰謀論とレッテル貼り以外の道(2013年06月15日 (土))」

お気軽ライフハックですべての問題が解決するならそれはそれで素晴らしいだろうと思いますが、「モデルに現実性がない」という批判をされる方の経済学に対する考え方はなかなかに理解しがたいものがあります。

まあ以前は「売文家」を自認されていた飯田先生のライフハックはともかく、経済学におけるモデルの位置づけはマクロ経済学を専門とされている研究者の評価を参照するのが吉かと。

3. 将来の消費税率を変更した時に、経済成長率が影響を受けないことが、「非現実的」だと批判する人もいるらしいが、この仮定は中立的だという意味でリーズナブルだと思う。消費税率(あるいは一般的に経済政策)を変えた時に経済の動きがどのように変わるかということを考え出すと、どうしてもモデルの結果が恣意的になるので、経済政策が経済のパフォーマンスに影響を及ぼさないという仮定をきちんと明示した上で使う限り、この仮定でいいと思う。

4. 例えば、himaginaryさんがこのエントリで、消費税が引き上げられた時に経済成長率が下がる方が「現実的」(ブログのエントリのタイトルでは「もっともらしい」といっている)だと主張して、そのような要素を加えたモデルを考察しているが、こんなもん、現実的でもなんてもない、(もっともらしく見せた)恣意的な議論の好例である。消費税(あるいはVAT)が高い国は経済成長率が長期的に低いというような証拠は見たことがない(あったら教えて欲しい)。いわゆる(経済の構造が比較的似通っている)「先進国」の歴史を見ると、消費税の税率は国ごとに異なっているし、税率も時とともに変化しているけれども、経済成長率が消費税率と強く相関しているような話は聞いたことがない。(長期的な経済成長率が外生の)普通のモデルで考えても、消費税率を上げるとGDPの(成長率ではなく)「レベル」が下がることは考えられるけれども、その効果は一時的であり、成長率は長期的には元の外生的に設定されたものに戻るだけである。日本のデータにおいてこのようなモデルのインプリケーションが正しいかどうかは、期間が短い上に様々な要素をコントロールしなければならないので、良くわからないというのが正直なところだが、消費税率を上げると必ず経済が(長期的に)停滞するような証拠も乏しいと思う。

「Random Thoughts on a Model by Tokyo Foundation (Sunday, June 05, 2016)」(unrepresentative agent)

中立なモデルを「非現実的だ」と批判される方には、「あなたの興味において重要なものが、本書にとっての「その他」に入ってしまっているからだと考えられます。しかし、あなたと私が一心同体でない以上、これは避けることができない事態です」という飯田先生のライフハックをオヌヌメいたします。
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