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2016年06月13日 (月) | Edit |
ということで、前回に引き続いて今年の3月に向けて出版された震災関連本の一つですが、こちらは現役の復興庁事務次官(付記:福島復興再生総局事務局長への就任が6/14発表されました)である岡本全勝氏の編著となります。岡本氏については拙ブログでも何度か取り上げさせていただいているところでして(「岡本全勝」でググると上位に拙ブログのエントリが表示されるのは勘弁してほしいのですが)、その岡本氏は震災発生から1週間後に政府に設置された被災者生活支援本部の事務局責任者に任命され、そのまま審議官を経て2016年6月までは事務次官を務められています。被災された地域のために粉骨砕身ご活躍される姿勢には、心から感謝申し上げるとともに改めて敬意を表するところでして、本書ではご自身が陣頭指揮を執ってこられた官民の復旧・復興の取組が体系立てて整理されており、この5年間の動きを把握することができる内容になっています。

岡本氏がそのような要職に任命された理由についてのご自身の分析は、

 「岡本なら、この危機に対処できるだろう」と考えた人がいたのでしょう。(略)この仕事において、これまでの自らの経験を活かすことができた事項を列挙しておきます。
 私は旧自治省に採用され、自治体の現場を何度も経験してきました。(中略)
 政府では、総理大臣秘書官として霞ヶ関全体を見たことで、様々な指示や以来をどの役所にすれば効率よく動くか、見当がつきました。(中略)
 2001年に行われた中央省庁改革を担った、中央省庁等改革推進本部での勤務も、有用でした。そこで全省庁と付き合い、各省と民間からの混成部隊を動かす経験を積むことができました。
p.35
東日本大震災
復興が日本を変える
―行政・企業・NPOの未来のかたち
編著者名 岡本全勝/編著  藤沢 烈、青柳光昌/著
判型 四六判
体裁 単行本
定価(価格) 2,160円(税込み)
本体 2,000円
ISBN 978-4-324-10127-8
図書コード 5108234-00-000
発行年月日 2016年03月11日

※ 以下、強調は引用者による。

とのことで、自治体から霞ヶ関、民間まで一緒に仕事をしてきたという経歴が被災者支援にうってつけだったわけですね。そのような経歴を生かしてご活躍をされている岡本氏の編著になる本書を批判的に取り上げるのは、再び心苦しいものはありますが、霞ヶ関的に言えば、上記引用部で挙げられている1点目より2、3点目の方が評価されていそうな気もします。特に次のような記述を拝見すると、3点目の省庁改革の経験は、岡本氏の行政機構に関する視点に大きな影響を与えたのではないかと推察されます。

 先に1(1)(273ページ)で述べたように、西欧近代国家は、安上がりの政府から出発しましたが、都市化や産業化による社会問題が発生し、19世紀後半に社会問題に取り組む積極国家、サービス国家に転換しました。さらに生存権を保障することが国家の責任となり、20世紀半ばには福祉国家と呼ばれるようになりました。
 福祉国家は、次に「安心国家」に変化しつつあると、私は考えています。教育、衛生、公共インフラ、福祉など、国民の要望をひととおり充実させたら、違った不安と不満が見えてきたのです。それは先ほど述べたように、古典的なリスクが深化したり再発見されたりしたものや、新しく出てきたリスクです。すると政府の主たる任務が、サービスの提供から、安心の提供へと変化しているのです。

岡本ほか『同』pp.290-291

なにやら頭がクラクラしてきましたが、福祉国家が提供するような社会的インフラとしての社会資本とか各種の給付金や医療福祉などの現物サービスはすでに国民の要望を充実させているから、あとは「安心」を保障するのが政府の役割だとおっしゃるわけですね。うーむ、現金給付・公共サービスの対GDP比がフランスやスウェーデンの6割程度しかない中で、高齢化により高齢者向け支出(年金)がその約半分を占める日本で政府の役割が充足しているというのは、日本国民はなんて慎ましやかなんでしょう!

いやもちろん、岡本氏の主張は政府がすべての国民の要望をかなえるわけにはいかないという趣旨であって、そりゃまあそうだろうと思いますが、では(岡本氏の主張によれば国民の要望はすでに充実されているそうなので、もし仮にではありますが)満たされない国民の要望があった場合はどうなるかというと、例のアレが登場します。

 サービス提供がひととおり整備されたので、サービス提供という視点自体が、時代遅れになっています。これは、サービス提供が不充分で、それを充足するにはどうすれば効率的かという問題意識からの発想です。そのために行政自らがサービスを提供するほか、企業や提供者(例えば私立学校や保育園)に補助金を出し、業界団体を指導しました。これは提供者を育てる発想です。
 すでに提供する仕組みをつくり上げたのなら、これからは、サービスの受け手(顧客)である住民や生活者の立場に立って考えるべきです。例えば、提供者に補助金を出すのではなく、サービスの受け手の人に補助金を出して、サービスを選択させる方法が有効になります(バウチャー制度)。医療や介護の保険制度では、受給者が病院や介護書を選び、一定の負担をしてサービスを受けるという仕組みができています。

岡本ほか『同』p.295

政府の事務方トップからこんな言葉が発せられるとは、ミルトン・フリードマンも草葉の陰で泣いて喜んでいそうです。とはいえ、確かに医療や介護では既にそうした制度もあるにはあるのですが、政府の再分配政策としての介護従事者や保育従事者の低賃金が問題となっている現状を踏まえると、バウチャー制度がその解決策になるというのは私のような実務屋にはあまり想像がつきません。そんな実務屋の見ているようなせせこましい世界ではなく、政府の事務方トップには光り輝く未来が見えていらっしゃるのですね。

当然のことながら、本書の著者の皆さんは岡本氏と共通のご認識をお持ちのようでして、岡本氏のパートではありませんが、日本財団ソーシャルイノベーション本部上席チームリーダーの青柳光昌氏のパートでもこのような記述があります。

 「失われた20年」と言われて久しいですが、NPO法が誕生する前後から、社会の状況も大きく変化をしてきています。経済成長の鈍化と超少子化・高齢化の進展による人口減少などにより、政府の財政状況が切迫してきていました。こうした背景から、行政自身で提供する公共サービスを縮小し、小さな政府を目指す方向性になっていきます。そこで具体的に実現したことは、行政が提供するサービスの民間への外部委託です。この民間には、企業だけでなく、当然NPOも含まれています。NPOに予算を提供し、政府よりも効率的にサービスを提供してもらうことで、小さな政府を実現しようというわけです。先述したように、行政組織は機動性・効率性に欠ける傾向があります。そこで、専門性が高く、機動力のあるNPOへの委託が増加してきました。小さな政府を目指すことは、非営利セクターの発展にとっては、一つの転機であったともいえます。ちなみに、この状況は、日本だけではなく、欧米をはじめとして先進国においてはおおむね同じ傾向でした。
 そのような方針を進めていくなかで、社会的なニーズは増大し、NPOの数もそれに従って増加していきました。一方で、行政の財政が逼迫している状況が、中長期的には好転することはありませんでした。そのため、限られた財源の中で、多様化・増大するニーズに、行政やNPOは今後どのように対応していくのかが課題となっています。

岡本ほか『同』pp.215-216

うむむ、さらに頭がクラクラしてきますね。「失われた20年」では確かに「行政が提供するサービスの民間への外部委託」が進められましたが、そこで進められた「効率化」というのは、公的セクターの業務をより低賃金の労働者に担わせることで低賃金労働化することではなかったでしょうかと小一時間問い詰めたくなってきます。

ただ、私自身も、「「小さな政府」で縮小した事業分野に民間事業者を進出させようという思想が透けて見える」と考えていますので、青柳氏のご指摘は素直に現在の日本の現状を言い表したものといえましょう。そして、岡本氏のような考え方が政府内に浸透している事態こそが、この本から読み取るべき最大のメッセージだろうと思います。安定した収入を確保できなければ、将来の固定費となることが予想される人件費や回収に時間のかかる公共投資を削減しようとするのは民間も役所も変わるところはありません。いつもの繰り返しですが「リスクをプールするために、景気が減退しても国民の消費を下支えするように税金を誰のためにどれだけ使うかということが重要」です。まあこういう話をすると増税忌避という思考停止に陥った方々から一斉に批判をいただくわけでして、その状況を骨身に染みて痛感している政府の事務方トップからすれば、「安心国家になれば、あとは民間で自由にやれるからいいでしょ」と言いたくなるのも宜なるかな。

ということで、福祉国家なんて古くさいものは捨て去って、「安心国家」へ転換して「民間に任せれば万事うまくいく」というメッセージに敏感に反応する方もいらっしゃるわけでして、あのイケダハヤト氏が絶賛されていました。

昨日「国・政府は「最低限」何をすべきなのか?」という記事を書いたところ、助けあいジャパンの野田さんから素敵な記事を教えて頂きました。

被災地から見える「町とは何か」 ~NPOなどと連携した地域経営へ~ 岡本全勝・復興庁統括官(2012/08/31 13:11 【47行政ジャーナル】 )

国家の役割は、サービスの提供から安心の保障へ

記事を書かれたのは岡本全勝さん。復興庁統括官を務める官僚の方です。

(略)

今はとにかく何でも「行政・政治頼み」な構図がある気がしますが、政府がプラットフォームとしての側面を強めていけばいくほど、行政は何もしてくれなくなります。Appleに「こんなアプリつくってよ!」と言っても、Appleが相手にしてくれないのと同じです。サービスを提供するのはプラットフォームではなく、基本的にサードパーティのプレーヤーなのです。

こういう時代になると、「行政は何をしているんだ!」的な批判は意味をなさなくなってくるでしょう。行政が行うべきことは変質していきますし、財政事情も考えると、提供サービス自体も減少していくでしょう。「何をしているんだ!」と怒る暇があるぐらいなら、自分で何かをはじめるべき、という当事者性が求められる社会になるということです。

「「政府のプラットフォーム化」と当事者意識(2012年11月12日)」(まだ東京で消耗してるの?)

なるほど、財政事情があるから政府ではなく国民が自ら行動しなければならないよね行動しないような国民のことなんてしらないよ行動してうまく立ちまわった奴が勝者なのにそれもわからずにまだ東京で消耗しているの?プゲラ …と見えてしまうのは私の心が汚れているからですかそうですか。

いやまあそれにしても素晴らしき「小さな政府」礼賛者同士の邂逅でして、実は本書の第4章は、イケダハヤト氏が「素敵な記事」としてリンクしている47ニュースの記事を加筆修正したものとなっていますので、是非リンク先を開いてそのエッセンスをご堪能下さい(47ニュースでは図表がリンク切れになっていますが、イケダハヤト氏のブログに一部再掲されています)。そして、増税忌避が「行政自身で提供する公共サービスを縮小し、小さな政府を目指す方向性」を促進している現状に思いを馳せてていただきたいと思います。
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