2016年06月12日 (日) | Edit |
日付が変わりましたが、昨日で震災から5年3か月が経過しました。いま現在の国内の震災と言えば熊本震災になりますが、東日本大震災から5年程度で最大震度7を記録するような直下型地震が発生する地震大国であることを、改めて認識しなければなりません。その熊本震災からの復旧・復興はこれから本格的に動き出さなければならない段階に入りますので、その意味でも東日本大震災の経験を伝えていくことは重要な取組です。

(私の同業者ではないものの)私の周囲に熊本県の現地で支援活動をしてきた方がいらっしゃって、その話を聞く機会があったのですが、東日本大震災とは異なる直下型地震のため、被害の発生状況がまだら模様になっており、通常営業しているコンビニの隣に潰れた家屋が並んでいるなど、支援が必要な人とそうではない人の扱いが難しいという状況もあるそうです。そして、避難所の運営や物資の供給などでは東日本大震災の経験はほとんど活かされてないという印象で、これまでの自分たちの取組は、やはり遠くの土地の方にとっては他人事だったんだなと無力感を感じたとのこと。いやもちろん、私自身も阪神・淡路大震災や中越地震などは他人事に感じていましたし、初めて経験するような非常事態にすべてのことが円滑に進むという方が無理な想定でしょう。さらに、5年という時間の経過も微妙に影響しているかもしれません。

ということで、震災の経験を伝えていき、現時点でその経験がどのような形に表れているかを折に触れて確認することは、被災された地域かどうかに関わりなく重要なことだろうということで、例年3月頃に向けて発行される震災関連本を3冊ほど読んでみました。拙ブログの主な関心分野が社会保障や労働の分野ですので、どうしてもそこに注目してしまうのはご容赦いただきたいところでして、読んだ本すべてで「人材育成」とか「教育」に震災の経験を活かそうとすることが強調されているのが気になりました。まずは前回エントリでもちらっと取り上げた陸前高田市出身の元国連職員による活動報告ですが、

 インフラの復興も、産業の復興も、コミュニティの復興も、それを担うのは人です。全国、全世界から集まってくださった“人”の力、寄せられた“人”の思いで、陸前高田は絶望の深い闇を乗り越え、前に進むことができました。
 そう考えると、これから10年後、30年後、100年後の復興を可能にし世界に恩返ししていくためには、この岩手の地から“人”を育て、世界から“人”を集めることこそ眼目となるでしょう。
 思えば、私が外資の世界や国連でやってきたことの一つも「人事研修」という、いわば教育の仕事でした。それで、2014年4月に岩手大学の地域防災研究センターと人文社会科学部それぞれの客員教授に就任し、あわせてグローバル教育センターのアドバイザーもお引き受けすることにしました。
pp.187-188
陸前高田から世界を変えていく
元国連職員が伝える3.11
■ 著者名: 村上清
■ カテゴリ名:書籍/単行本
■ 発刊日:2016年03月05日
■ 判型:四六判
■ ページ数:224
■ 税込価格:1,620 円(本体 1,500 円)
■ ISBNコード:9784267020476
■ Cコード:0095


※ 以下、強調は引用者による。

「人事研修」が「教育」というのは、英語でいえばtraininingとeducationなのでかなり強引な結びつけではないかと思うのですが、村上氏ご自身も日本型雇用を前提にしている節があるので、ここでいう「人事研修」は全人格的なコミットメントを求める日本的な人材ということのようです。いやもちろん、村上氏ご自身がアメリカでは「ホワイトカラー・エグゼンプション」に該当する働き方をしていたわけで、それがある程度の長期雇用によるスキル習得を必要とする雇用形態であれば、ある程度は日本型雇用慣行に接近するのでしょうけれども、少なくともそれは、特定の「職務」に必要とされるスキル習得のためのtrainingではないだろうと思います。

たとえば、最近自治体が自衛隊での研修を取り入れて一部で批判を受けているようですが、

加東市の新人職員、自衛隊で研修 規律意識向上へ(2016/5/25 05:30神戸新聞NEXT)

 兵庫県加東市の新人職員11人が24日、研修の一環で、小野市桜台の陸上自衛隊青野原駐屯地で体験入隊した。25日までの日程で、屋外での集団行動などを通してチームワークや規律意識の向上に努めた。
(略)
 職員たちは、開講式に続いて、災害時の地方自治体と自衛隊の連携の重要生などについて講義を受けた。その後、屋外グラウンドに移動して、「気をつけ」「敬礼」などの動作を身に付ける「基本教練」に挑戦。隊員から「共に行動することで団結力が強まる」などと指導を受けながら、きびきびと縦列行進した。

「災害時の地方自治体と自衛隊の連携の重要生(ママ)」はまだしも、「「気をつけ」「敬礼」などの動作を身に付ける「基本教練」」は自治体職員の「職務」はほとんど関係ないですね。いやまあ、「公務員の接遇はなってないから厳しく指導されるべきだ」というならまだわからないでもないですが、それを研修する場所が自衛隊なのかというのは大いに疑問です。

本書で村上氏が指摘されるように、復興を担う人材が必要というのはその通りだと思いますし、その取組は学校教育の段階から行われるべきだとは思いますが、役所や企業の「研修」で行うというのは、職務に関係する以外は自己啓発とかボランティアの範疇にどこまで関与するか整理しておく必要があると思います。もちろん、自己啓発やボランティアに積極的に取り組むことで仕事の進め方にもいい影響が出る可能性があり、それを役所や企業が期待して「研修」として実施するということはありうると思いますが、そうであるならその目的をはっきりさせないと、引用した新聞記事のように目的が曖昧な「研修」になってしまうことが危惧されます。

現役の朝日新聞記者が岩手県大槌町駐在として取材した手記では、学校段階の取組が取り上げられています。

 伊藤教育長は1996年から3年間、米・ワシントンで日本語学校の校長を務めたことがある。「人としてどうあるべきか」を教えようとする日本に対し、米では「自分とは何か」に迫る教育をしようとしていた。目からうろこが落ちた。大槌に帰り、子供たちに昔話を聞きに行かせたり、田を一年中借りて農作業をさせたりして、自分の生まれたふるさとを実感させる授業を採り入れた。
 震災を経て、その気持ちはさらに強くなった。「まちづくりは人づくり。今こそ『3.11』まであったふるさとの継承と、新しいふるさとの創生。両方をしっかり教えないと」。
 震災3カ月後、伊藤教育長は武藤美由紀指導主事を教育長室に呼んで提案した。
「『ふるさと科』というのをつくってみたい。教育復興の柱にしたい」
 伊藤教育長は、小中合同の仮設校舎ができるのを前向きにとらえ、小中一貫校にする構想を立てた。9年間を通す軸に、これを据えようと思った。
p.97

理念なき復興 新刊
岩手県大槌町の現場から見た日本
東野 真和 著
ISBN 9784750343174
判型・ページ数 4-6・312ページ
出版年月日 2016/03/11

大槌町内の学校再開については以前取り上げた本が詳しいのですが、「「人としてどうあるべきか」を教えようとする日本に対し、米では「自分とは何か」に迫る教育」というのは大変示唆的な言葉ですね。学校が「社会人」を準備する機能を有するとすれば、「人としてどうあるべきか」は「社会人としてどうあるべきか」ということであって、その「社会人」がメンバーシップ型の日本型雇用慣行を前提とする以上、「メンバーシップとして働くためにはどうあるべきか」に容易に転化していくわけです。これに対して、ジョブ型の働き方を前提とするアメリカでは「自分とは何か」に迫ることで、自分が就くべき「職務」を意識せざるを得ないものと思われます。つまり、自分がこれからどのような形で社会に参加していくかを考える場が学校であり、そのために必要なスキルを身につけるのが学校の重要な機能であるのは日本でも欧米でも共通しているはずですが、その目指すところの違いが、日米の教育の違いに現れているといえるのではないかと。

その「ふるさと科」では、地元の若手自営業者がさんかする「はまぎく若だんな会」が作成した「117選 大槌お宝マップ」を教科書代わりにしているとのことで、内容は郷土料理や伝統行事などがメインのようですが、若手自営業者が自らの職域についても語ることができれば、まさに「職務」を通じて社会に参加する一助となるのではないかと思います。新しい取組が復興を担い、地域を担う人材を育成する新たなルートとなることが期待されます。

ただし、本書もさすがの朝日新聞クオリティで、

 2016年1月、おおつちさいがいエフエムは、3月末で閉局することを正式に決めた。2012年3月から4年間、町民に親しまれてきた。碇川豊前町長当時、国に要望し、災害FM局の経費に国の緊急雇用創出事業の助成金が継続してあてられるようになり、来年度までの予算を確保していた。しかし、平野公三新町長が事業見直しをした結果、「一定の役目を終えた」と判断し、打ち切った。

東野『同』p.161

いやだから緊急雇用創出事業は委託事業であって助成じゃないと何度言えば…。まあ制度のことは知らなくても記事は書けるわけですから新聞記者はお気楽な仕事ですなあなどと嫌みを言いたくなるのをぐっとこらえて、本書の記述自体は、冒頭で筆者が「この本は「税金の無駄だ」と告発する本でもないし、「被害者は可哀想」と同情心をあおる本でもない」という通り、中立的に書こうとしている意思は感じます。とはいえ、特定の立場や団体に肩入れしている雰囲気はかなり感じるところでして、情報源には批判を抑えているのではないかと思われる記述が散見されますので、その点には注意が必要ではないかと思います。

で、3冊目があの岡本全勝氏の編著による本なのですが、…さらに長くなりそうなので次のエントリに続きます。
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