2016年06月05日 (日) | Edit |
前回取り上げた「そんじょそこらのマネジメント解説書」は、日米で人材コンサルタントとして活動する方の書でしたが、そこでは日米(というか日本とそれ以外の世界)の雇用慣行の違いについて根本的な思い違いが前提となっているという状況でした。では、本場アメリカではジョブ型雇用で問題がないのかといえばもちろん話はそう簡単ではないわけでして、「労働環境を見るとアメリカが日本の後追いをしているようにも見え」たりとか、アメリカで活躍するコンサルが「マネジメントや人材管理の分野で職務記述書によるジョブ型の働き方を徹底的に批判してい」たりとか、むしろ日本型雇用に対する「憧れ」のようなものも感じるところです。

で、Googleの人事制度を紹介した本をしばらく前に読んでいたんですが、あのGoogleですら、どちらかというとジョブ型を徹底するより日本型雇用慣行に近づけようとしているようです。

 研究者や上級幹部が、あなたや周囲の人々を成長させる環境を整えるには、まずその環境に対して責任をとる必要がある。職務記述書に記載されていようといまいと、許されていようといまいと、これは事実である。
p.55

ワーク・ルールズ!ワーク・ルールズ!
ラズロ・ボック著/鬼澤 忍訳/矢羽野 薫訳
ISBN:9784492533659
旧ISBN:4492533656
サイズ:四六判 上製 560頁 C3034
発行日:2015年07月31日


※ 以下、強調は引用者による。

Googleの人事トップが「労働者は経営者目線たれ」というところは、全員が幹部候補となるメンバーシップ型そのものともいえそうです。ただし、さすがにGoogleともなると、ただいいとこ取りをするのではなく、メンバーシップ型雇用らしく長期雇用にコミットメントするような人事制度をとっているとのこと。

 私たちは人材斡旋会社と契約した。だが、そうした企業がこちらの求めるものを理解するのは難しかった。というのも、私たちが雇いたかったのはエキスパートではなく「聡明なジェネラリスト」だったからだ。自分が携わっている仕事を熟知している人より、賢明で好奇心旺盛な人を雇いたがっていることに、人材斡旋会社は当惑した。彼らの混乱がフラストレーションへと移行したのは、私たちがこう主張したときのことだ。殆どの顧客企業がしているように顧問料を支払うのではなく、採用が成立した場合にのみ料金を支払うと。それだけではない。私たちは数十回の面接を要求し、求職者の99%を不採用とし、たいていの場合、求職者が現に手にしている金額よりも低い報酬を提示した。
p.124

 私の知る限り、業績評価や昇進審査にグーグルほど時間をかけている組織は、大学のほかはパートナーシップ的に経営される企業しかない。両者とも、昇進は結局のところ、就寝教授や共同経営者として家族の永続的メンバーになることを意味する。長期的な約束をするのだから、細心の注意が払われるのだ。
p.283

 そんなわけで、「業績不振」の社員を解雇するという従来のやり方とは違う手段をとることにした。私たちの目標は、底辺の5%に該当する全社員に、その事実を伝えることだ。だが、そのときにこんなメッセージを伝えれば多少やりやすくなる。「あなたの成績はグーグル全体でしたから5%です。そう聞いて気分がよくないことはわかります。わざわざ私がそれを伝えるのは、あなたに成長し、向上してもらいたいからです。
(略)
 実のところ、グーグルは採用時に役割に関係した知識をあまり重視しないため、こうした問題には弱い面がある。仕事の進め方を知らない人を雇いたいからだ。ほぼ全員がいずれはそれを理解するはずだし、その過程で「経験済み」の人間よりも斬新な解決策を編み出す可能性が高いと信じているのである。
p.296-297

ボック『同』

最後の引用部は、いわゆるPIP(Performance Improvement Program)に類似した内容だろうと思いますし、PIPそのものの実態は自主退職を促すという面もあるわけで、解雇回避努力義務というまでのものではないかもしれませんが、そうはいっても、本書で引用されているようなジャック・ウェルチ流の「Up or Out」(「down or out」ともいいますね)とは明らかに違う方向を指向しているものといえましょう。

つまり、ゼネラリストを採用して長期雇用しようとすれば、内部で人材を育成しながら昇進させる必要があり、その一方でローパー社員をいちいちクビにしていたら採用コストばかりかかって内部での人材育成の効率も悪くなるため、その育成に資源を投入する必要も生じます。Googleでは外部労働市場のみではなく内部労働市場も重視しているということになり、金子先生が指摘されるような「ジョブ型もまた、クラフトタイプの内部労働市場」ということの現れなのかもしれません。

実は、復興関連で読んだ中で、アメリカでキャリアを積んだ方が被災地支援に当たられた方の本でも、日本型の長期雇用を前提とした異動のメリットが強調されています。

 国連というのは、いわば「人類の議会」です。国際社会の課題を解決し、よりよい世界を築いていくうえで非常に重要な役割を担っています。そのためにも、そこで働く一人ひとりが最優秀でなければなりませんし、よりよい世界を作っていくのだという強い意志を伴っていなければなりません。
p.61-62

 もちろんUNHCRスタッフにもさまざまな国の人がいますが、やはりそういった過酷な現場で生活しながら働くというのは苦しい。豊かな国の人であれば、そのストレスは大変なものです。赴任が長期化すれば精神的にも危機が生じます。
 これを回避するために、一つには公正で適切な配置換えが必要です。もう一つは専門家による精神的なカウンセリングです。これらの人事制度システムを整えなければなりませんが、簡単な話ではありませんでした。
(略)
 ジュネーブやニューヨークのような“良い場所”と、紛争地帯のような過酷な場所では、当然ですが「任期」も変える必要があります。前者が5年なら後者は1年とか2年にしてあげないと負荷が大きすぎます。公正さを保つため、昇格・昇任するためには、厳しい環境での勤務を一定年数やらなければいけないというようなルールも考えました。
 人事の公正なシステムがないと、別の悪い問題も生まれます。地域の人事を決めるレップたちが、能力ではなく情実や縁故で採用をし、自分が選抜した人間を子飼いにして不適切な利害関係が生じかねないのです。上の人間が別の地域に移動すれば、いつのまにか仲間も一緒について回るというようなことも珍しくありませんでした。
p.76-77


陸前高田から世界を変えていく
元国連職員が伝える3.11
■ 著者名: 村上清
■ カテゴリ名:書籍/単行本
■ 発刊日:2016年03月05日
■ 判型:四六判
■ ページ数:224
■ 税込価格:1,620 円(本体 1,500 円)
■ ISBNコード:9784267020476
■ Cコード:0095

著者の村上さんは高校まで岩手県陸前高田市で過ごし、アメリカの大学を卒業して、ジョブ型雇用のアメリカでキャリアを積んだ方なのですが、そのような方であっても公正な人事制度として構想するのは「コンピテンシー」を取り入れた日本型の長期雇用だったわけですね(なお、本書は出版社が気になるところでしたが、少なくとも本書からはあまりそうした雰囲気は感じませんでした)。

まあ、こうした人事制度は法制度もさることながら、組織の業種とか組織形態によって決まる面も大きいわけでして、日本型雇用慣行としてのメンバーシップ型が長期雇用維持するために特化した雇用形態であるならば、長期雇用によるメリットがある企業においては、日本型雇用への接近が見られることになるのでしょう。
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