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2016年06月04日 (土) | Edit |
前回取り上げさせていただいた海老原さんの新著は「そんじょそこらのマネジメント解説書よりも現実に即したもの」でしたが、それでは「そんじょそこらのマネジメント解説書」はどんなものかというと、「日本型雇用だからモチベーションが維持できる」という海老原さんのご指摘とは真逆のタイトルの本があって、内容を見てみると日本型雇用慣行についてのよくある思い違いを前提にして論じていました。

日本企業は労働法によって厳しく規制されており、社員の解雇は非常に困難である。

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日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?
著者:Rochelle Kopp
定価:本体1680円(税別)
発行日:2015/1/23
ISBN:9784844373957
ページ数:304ページ
サイズ:四六判(mm)
発行:クロスメディア・パブリッシング
発売:インプレス


※ 位置はKindle版の表示によるため、端末の表示方法によって異なります。

もうおなじみの思い違いですが、日本の実定法としての労働契約法には極めて限定的な解雇権濫用法理が規定されているのみであって、いわゆる正規労働者の解雇が難しいのは、使用者側に一方的な超勤命令やら異動やらの強大な人事権が与えられていることとの均衡を確保する必要があるからですね。そうした労使間の「バーター」が存在しないジョブ型雇用においては、労働者の解雇はそのスキルとジョブとの関係で行われるわけでして、本書でもそのような事例が紹介されています。

 更にネットフリックスでは、過去に優秀な業績を上げていても、現在組織が必要としているスキルを社員が持っていない場合、その社員を解雇することも必要であるとしている。パティ・マッコードはネットフリックスの簿記係であったローラを例に挙げて、この状況を説明している。彼女は「頭脳明晰で勤勉で創造性のある」人材で、映画のレンタル数を正確に把握するシステムを考案し、会社の初期成長に非常に貢献した。しかし2002年の上場後、公開企業として「公認会計士など正規の資格を持ち経験豊富な会計の専門家が必要となった」が、ローラはコミュニティカレッジの準学士しか持ち合わせていなかった。並外れた勤務意欲と社内での業績に加えて昔から好かれていた彼女ではあったが、仕事が必要とするスキルを持ち合わせていなかったのだ。「応急措置として彼女に新しい職務を与える」ことも話し合われたが、それでは会社の信念に相違があるように思われた。そこでマッコードはローラを呼んで状況を説明し、「彼女の素晴らしい貢献に対して、素晴らしい解雇手当で報いる」ことを伝えた。

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※ 以下、強調は引用者による。

いやまあ、見事な「会社都合による解雇」であって、ジョブそのものが不要となれば、そのスキルで対応できるジョブに対応して雇用されている労働者は解雇されるわけでして、正当な手当を支払って解雇するという手続きはまさに正当な解雇です。ところが、もしこのローラがメンバーシップに対応して雇用されいてる労働者であれば、一方的に超勤命令ができ、異動も命令できるような強大な人事権を持つ使用者側に「応急措置として彼女に新しい職務を与える」義務が生じます。これが整理解雇の4要件でいう解雇回避努力義務でして、日本の解雇規制がジョブ型雇用に比べて厳格であるのはこの点においてであって、実定法の解雇規定ではありませんね。

本書は日本企業の社員(もちろん労働者の意です)の「エンゲージメント」が欧米に比較して低いことを取り上げて、その「エンゲージメント」を高める方策を提言しているのですが、日本型雇用慣行に関するこのような思い違いが前提となっているため、個々に見ればそれなりに有効そうな提言もあるものの、トータルではそんな虫のいい話はないよなあとしか思えない仕上がりになっています。

その「エンゲージメント」というのは、本書によると、

 社員のエンゲージメントとは、社員の企業に対する関与の度合いと、仕事に対する感情的なつながりを表現するものである。社員のエンゲージメントは、社員が組織とその目標に対して抱いている感情的なコミットメントである。
 これは「活力、献身、没頭などに特徴付けられる、仕事に関連するポジティブで充実した精神状態」と表現することができ、エンゲージメントの高い社員は「仕事にエネルギッシュで効果的なつながり」を持っている。エンゲージメントの高い社員は、より深いレベルで仕事に関心を持ち、仕事への関与のレベルが高く、仕事に対してポジティブな感情を抱いている。もちろん職場の環境、給与、福利厚生などに対する社員の満足度も含まれるが、それ以上の、仕事に対して社員が感じている包括的な情熱というレベルにまで焦点をあてているのが、エンゲージメントの特徴である。

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とのことですが、これに対して、「複数の外資系企業の日本法人で人事部長を務めてきた経験豊かな日本人の友人」から「日本人の調査への回答の仕方は他国人と違うことを把握していないと意味がないから」と指摘されたそうです。本書ではその理由について、

 しかし、面白いことに、この友人の経験は社会科学の分野で立証された現象に基づいている。日本人は「肯定的感情表現の抑制」と呼ばれる行動を取る傾向が強い。子供の頃から日本人は、他人と上手く付き合っていくには、自慢話をしたり物事が自分にとっていかに順調に進んでいるかを吹聴しないようにと教育されてきている。これが先天的特性のようになり、非常にポジティブな感情を自分自身に帰することに違和感を感じるようになる。従って、社員のエンゲージメントに関する調査など、自分に関するポジティブな記述にあふれた質問に回答する際、他の文化圏の人々と比較して日本人は、自分自身を低く評価する傾向がある。

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としているのですが、それはあまりに一面的な評価だろうと思います。文化の違いが影響している可能性は否定しませんが、労働者と使用者の労働契約において、両者の明確な合意の上で特定の職務にアサインされているジョブ型雇用と、そもそも労働者と使用者の労働契約を規定する法律が制定されて10年程度で、労使の合意の核となるものは白紙の石板のみしかなく、(正規)労働者として採用された後は使用者側の命令でどんな職務にもアサインされうる日本のメンバーシップ型雇用では、その職務についての満足度が異なるのは当然でしょう。

なんなら、メンバーシップ型雇用で現に仕事をしている(正規)労働者のうち、自らの希望する職務に就いている割合なんて一握りであって、「銀行に入って地域経済を活性化させるぞ」と思っていたら為替の担当になったり、「商社に入ってグローバルに日本技術を展開するぞ」と思っていたら国内の食材の担当になったりというのが、メンバーシップ型雇用では大半ではないかと思います。さらに、ある程度の規模の企業組織を運営するために間接部門を置く必要があり、日本の学生の中に「会社に入って人事労務を担当するぞ」とか「経理部門で企業会計の精査を極めるぞ」と意気込んで入社する人はごくわずかでしょうけれども、実際にはそれらの間接部門が企業経営の根幹を握っている場面も多くあります。日本型雇用慣行における人事異動は、労働者側にとって「住めば都」というか「働けば都」となり、それらの部門に精通して「背番号」を背負っていくことが期待されていることも多く、結果的にそう思えるようになる前の(正規)労働者にとっては、希望する職務に就いた一握りを除いて、「エンゲージメント」の評価は低くなるものと思われます。

で、その人事異動について本書では、

人事部が社員に仕事を割り当てるプロセスは、全くのブラックボックスであると言ってよい。大抵の場合、割当の理由は不明瞭で、個人の興味、願望、才能、家庭の事情が考慮されることは殆どない。偶然興味がある仕事を割り当てられることもあるが、それは決して保証されているものではない。企業に命じられた仕事を、何であっても喜んで引き受ける態度が不可欠とされ、就職の時点でもそれが期待されている。

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というのもあまりに大雑把な批判ですね。「「異動」が会社内部の手続きとなるのは、定年退職とセットになった新卒一括採用のため、定年退職で空いたポストに順次「昇進」させながら、上から末端までの中間のポストに空きを作らなければならないという物理的な必然性があるから」であって、退職者と新採用の間に無数に発生する空きポストに玉突きで人事を割り振っていくのがすなわち「人事異動」です。日本型雇用慣行の運用の中では、大多数の「普通」の職員は空いたポストにある程度機械的に割り当てざるをえないわけでして、そうした「普通」の職員にとってはどこに飛ばされるかわからないという印象になるのもある程度やむを得ない面はあります。とはいっても、一定の「有望」な職員は上層部が意図を持って引き上げていくので、「全くのブラックボックス」というのは言い過ぎですね。

でまあ、こうした職能資格給制度に裏打ちされたメンバーシップ雇用では、雇用慣行を見直すということは給与を含む社内の「資格」を見直すということに他ならないわけで、労働者側も使用者側もそれを受け入れる覚悟はほとんどないのが現状でしょう。という意味では、本書で

 多数の発展途上国が電話サービスの普及を試みるにあたって、従来の有線電話システムのインフラが存在していないことから、その段階を飛び越えていきなり最新の技術を導入することを行っている。この劣等で効率が悪く割高なシステムを飛び越えて最先端技術を利用することを「リープフロッギング」という。
 日本企業は、人事管理の仕方に関してまさにこのリープフロッギングを必要としているのかもしれない。「典型的」な欧米の企業を模倣するより、最先端を行く例から学んだ要素を取り入れることは、一考に値する。

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と指摘される点は大いに賛同します。メンバーシップ型とジョブ型のいいとこ取りをうまく着地させることが、当面の課題なのではないかと思うところです。
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