2016年05月29日 (日) | Edit |
年度の切替時期で積ん読も貯まりに貯まっているところですが、海老原さんの新著が発行されたとのことで早速拝読してみました。この新著では、海老原さんがリクルートで薫陶を受けられた故大沢武志著『心理学的経営』を基に、前著で取り上げられていた「個」のマネジメントと「組織」のマネジメントのうち、前者に的を絞ってより具体的なマネジメントの実践について解説されています。

ということで、前著で基礎理論として強調されていた「2W2R」を実態に即してどのように実践すべきかという指南書になっていまして、説明内容そのものは前著とほぼ同じですが、新著では2Rのうち「range」についてのさらに充実した説明が加えられています。私自身、前著を読んで以来、自分の仕事でも「2W2R」を常に意識しながら仕事をしてきたつもりでしたが、なかなかさじ加減が難しいのが「三つのギリギリ」とこの「range」でした。

もしかすると同じような感想を持つ方が多かったのかもしれませんが、本書ではこの「三つのギリギリ」と「range」を関連づけて説明されていて、ようやく腑に落ちた感があります。

 ここまでお読みになった読者の方だと、新たな機会を与えるということなので、「三つのギリギリ」を頭に浮かべる人が多いでしょう。
 その定理にしたがうと、二つのことが減点対象にあげられそうです。
①いきなり新規事業開発は無理だろう。これでは「活かし場」がない。
②社長は「だめなら戻ってこい」と話している。これだと「逃げ場」が残っている。
 しかし、この指摘はどちらも間違いです。実は「三つのギリギリ」の理解を深めるために、あえてひっかけ問題として意地悪な作りにしました。
p.118
即効マネジメント ─部下をコントロールする黄金原則即効マネジメント ─部下をコントロールする黄金原則
海老原 嗣生 著

シリーズ:ちくま新書
定価:本体760円+税
Cコード:0234
整理番号:1188
刊行日: 2016/05/09
※発売日は地域・書店によって
前後する場合があります
判型:新書判
ページ数:208
ISBN:978-4-480-06892-7
JANコード:9784480068927Ω

この部分の前までは比較的発展途上の段階にいる部下をいかに育成するかという設問だったのが、ここではエースと呼ばれる部下に対する社長の指示をどのように評価するかという設問になっています。この場合の適切な指示方法については本書を手にとってご確認いただきたいのですが、私自身が「三つのギリギリ」と「range」の間で悩んでいた理由についても本書にヒントがありました。

風土に反する指示は、迷惑でしかない

 上司がきちんと四隅を示して「自由に遊べ」とRangeを作ったとしても、部下がそれを実行できないことがあります。その場合も、部下だけに責任があるわけではありません。それは、上司が常日頃から「自由に遊べる」風土を作っていないからそうなってしまうことが多いのです。
 上司が「責任は自分がすべて持つ」「尻は拭く」とこういう言葉を連発しても、普段それと逆の行動を取っていた場合、部下は信用しません。
 以下のようなマネジメントをしていたら、「自由」「自律」など部下に期待できないのです。
・失敗すると厳しく怒る。
・従来は安全策を唱え、事なかれ主義だった。
・責任は、部下本人に押し付ける。
・意見や発案に対して、前向きに受け止めない。
 こんな風土では、誰も自由な挑戦などできませんね。そう、風土・土壌を無視して、いきなりきれい事を言われたりしても、部下にとってそれは迷惑でしかないのです。

海老原『同』pp.131-132

…こういわれてしまうと、私自身の力不足を反省すると同時に我々の業界ではなかなか難しいなとも思います。もちろん、私自身は私の力の及ぶ範囲で「自由に遊べる」環境を作りたいと思っていますが、それだけではどうにもならない部分があるのも現実ですね。特に、地方自治体の首長選挙では「民間感覚」をもったカリスマ的リーダーがトップダウンで政策を決めるという主張をする候補が強い傾向があります。往々にしてそういう方々は任期途中とか道半ばで退任されることも多く、「責任は自分がすべて持つ」「尻は拭く」なんていう職員よりも、そうしたトップのイエスマンによって上層部が固められることも多いように見受けます。

まあそれはそれとして、本書がそんじょそこらのマネジメント解説書よりも現実に即したものとなっているのは、故大沢武志氏の理論が優れていることはもちろん、海老原さんが日本型雇用慣行の実態を的確に踏まえて説明を展開していることも大きく寄与しています。本書では第5章でその経緯が説明されているのですが、端的に言えば、日本型雇用慣行が「白地の石板」を従業員に与えるのみで職務が無限定であるために、「2W2R」を実践できるという優位性があるということになります。そして、そのようなメリットの反面には、「女性」「学生」向けに非正規雇用という低賃金労働の区分が設けられ、それが今や正規労働者になれない「男性」をも取り込みつつある現実があるわけで、この点もきちんと指摘されています。

「誰もがエリートを夢見る社会」の裏側

 さて、この話の続きを書く前に、日本型の働き方の問題点も、公平に書いておきます。欧州(それ以外の多数の国でも)では、誰もが階段を上がることができません。ところが日本はそれができる。
 なぜ、こんなことが可能なのでしょうか。
 その答こそ、日本型の悪い点とも言えます。
 それは、「正社員」のワクから外れた人たちに、そのしわ寄せが大きく行く構造になっているのです。
 日本でも働く人の3割以上が非正規社員です。彼らの給料はどうでしょう。(略)これでみると、パートタイマーはフルタイム非正規よりもはるかに年収が安く(年収換算で50万円の差がつく)、どんなにがんばっても欧州の無資格労働者ゾーンにも達しません。
 しかもです。欧州の労働者は、年間1400時間程度の労働時間でこの年収を手に入れているのです。対して、日本の非正規労働者は(フルタイム換算なので)年間1900時間を超える労働をして、この年収です。時給レベルで考えると、日本の非正規社員のそれが極端に低いことがわかるでしょう。
 さらに言うと、こうした待遇の悪い非正規、なかでも特に時給の低いパートタイマーの大部分を「女性」が占めています。勤続して階段を上り続けなければならない社会だから、産休や育休で階段から外れる「女性」たちが、正社員から押し出され、非正規パートタイマーとなっていく。
 正社員で働く限り「誰もが階段を上がれる」裏には、こうした問題があるのも事実です。

海老原『同』pp.153-154

本書ではこの部分だけがトーンが違っていて少し違和感を感じないではないのですが、逆にいえば海老原さんだからこそ、この短いセンテンスで日本型雇用の問題点を見事に描き出すことができたといえましょう。そしてそれは、海老原さんの従来からの主張である「入口は日本型、途中から欧米型、という接ぎ木型の接地」への布石ともなっているというのは、少々裏読みしすぎでしょうか。

いずれにしても、このマネジメントを実践する上司が増えていって、Rangeがうまく作用する風土・土壌を持つ組織が広がっていくためにも、本書が多くの方に読まれることを期待しております。
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