2016年05月07日 (土) | Edit |
前回エントリとは違いますが、こちらの件についてもわかったようなわからないようなコメントがありましたので、簡単にメモしておきます。

信用失墜行為 停職中に旅行でカニ食べ投稿、懲戒免職に(毎日新聞2016年5月2日 21時22分(最終更新 5月2日 22時34分)

岐阜・池田町の30歳女性主事 フェイスブックに

 停職期間中に不適切な内容をフェイスブックに投稿したとして、岐阜県池田町は2日、同町民生部住民課の女性主事(30)を地方公務員法(信用失墜行為の禁止)違反に当たるとして懲戒免職にした。免職処分について、田口貴弘総務部長は「反省すべき停職期間中に町の信頼を損なう行為をした責任を重くとらえた。反省の様子もみられず妥当な処分」と話している。

 町によると、元主事は勤務時間外に名古屋市で接客の仕事に従事し、300万円程度の報酬を得たとして昨年11月、停職6カ月の懲戒処分を受けた。その直後、自身のフェイスブックに旅行先で食べたカニの写真や「ママ友と海鮮ざんまい」とのコメントを投稿。住民から町に「停職中なのに不謹慎」との批判が寄せられた。

 上司が注意したが、元主事は今年3月、旅行先の奈良県で食事した時の様子をフェイスブックに投稿。肉や野菜の写真とともに「食べ過ぎて撃沈。動けない。誰か助けて」とコメントしていた。【渡辺隆文】


この報道だけでは懲戒免職に至った詳しい経緯まではわかりませんが、これに対する反応の一つがこちらです。

ええと、「公務員の「停職」って本来の勤務時間中は自宅にいなきゃいけなくて外出するにも上司の許可がいるっていう厳しい処分」というのは、私のそこそこ長い公務員生活でも聞いたことがないですね。そもそも、懲戒処分というのは「使用者が従業員の企業秩序違反行為に対して課す制裁罰」であって、企業秩序の範囲を超える労働者の自由についてまで、使用者が制限することは原則としてできません。こうした労働問題について疑問があるときは、JIL-PT(独立行政法人労働政策研究・研修機構)の解説を確認するのが確実です。

〈懲戒処分とは〉

法的には対等な契約関係である使用者と労働者の関係において、なぜ使用者が(企業秩序を乱したとはいえ)労働者に制裁としての罰を課すことができるのか、理論的には問題となります。判例は、使用者は企業秩序定立権の一環として当然に懲戒権を有すると考える立場のようですが(前掲 関西電力事件)、現在の学説の立場は、懲戒処分が通常の人事権の行使等とは異なる特別の制裁罰である以上、契約上の特別の根拠が必要であり、労働契約上の根拠に基づいてその限りで懲戒権を有すると考える立場が支配的であるといってよいでしょう(懲戒処分が適法か否かに関する具体的な判断枠組みについては、本節のQ13を参照してください)。

「Q12 懲戒とは何ですか。(独立行政法人労働政策研究・研修機構)」

いやまあカイカク派が執拗に廃止を主張していたJIL-PTはかくも役に立つわけですが、それはともかく、「法的には対等な契約関係である使用者と労働者の関係において、なぜ使用者が(企業秩序を乱したとはいえ)労働者に制裁としての罰を課すことができるのか」が常に問題となるような懲戒処分で、憲法で基本的人権として保障されている「人身の自由」まで拘束できるわけではありません。ちょっと古いですが、人事労務担当の実務者が参考にしている『労政時報』に掲載された解説も確認してみましょう。

2.自宅謹慎(待機)を命じることの可否

 以上のご説明は、「出勤停止」、つまり会社における「就労を禁止」する処分についてのものですが、さらに「自宅謹慎(待機)」、つまり「外出を禁止」することまで命じることができるのでしょうか。

(1)懲戒処分としての出勤停止の場合
 懲戒処分として出勤停止を命じる場合に、さらに自宅謹慎も命じることは、基本的人権である「人身の自由」(憲法18条)を奪うことになる以上、いくら懲戒処分といえども、認められないと考えます。
 したがって、懲戒処分として出勤停止を命じる場合に、さらに自宅謹慎も命じることはできないと解されます。
 ご質問のケースでは、出勤停止中に知り合いのところへアルバイトに行っている事実が判明したとのことですが、この点については、兼職禁止等の就業規則違反があれば、別途、懲戒処分を行うことで対処すべきでしょう。

(2)業務命令としての出勤停止の場合
 これに対して、業務命令として出勤停止を命じる場合には、さらに自宅謹慎ないし待機を命じることは、相当な理由が存在する限り、認められると解されます。  相当な理由としては、前述の裁判例で指摘されているように、事故発生、不正行為の再発、証拠隠滅のおそれなどが存在する場合が挙げられます。その他にも、裁判例では、取引先と直接接触するセールスマンが、仕事上関わりがあったデモンストレーターの女性と不倫関係に陥ったことが原因で、会社の信用が失墜した場合につき、そのままセールス活動を続けさせることは業務上適当でない等の理由から、自宅待機命令(2年間)は相当な理由があるとしたものがあります(ネッスル事件[東京高判平2・11・28労民41-6-980][原審は静岡地判平2・3・23判時1350-147、判タ731-150、労判567-47等])。また、降格処分を確定するための調査・審議のため(1か月間)及び飲酒による肝機能障害の療養・禁酒のため(その後の3か月間)の自宅待機命令は人事権の濫用には当たらないとしたものがあります(星電社事件[神戸地判平3・3・14労判584-61])。

「出勤停止は自宅謹慎まで義務付けることができるか?」(弁護士 小林 昌弘(ロア・ユナイテッド法律事務所)2001.09.05)

この解説にある通り、企業秩序違反という事実が確認されてその制裁として行われる懲戒処分ではなく、業務命令としての出勤停止の場合であれば、企業秩序を確保するために必要と認められる範囲において自宅謹慎を命じることは可能ですが、報道された件は懲戒処分としての停職ですので、これも該当しません。

ちなみに、長期不在となる際に届け出を義務づけている自治体もあるので、上記のTwitter主はこれと混同している可能性もありますが、その際も上司の許可までを要するものではありません。

(長期不在時の届出)
第8条 職員は、傷病のため勤務に従事できない期間が10日以上に及ぶときは、医師の診断書を添えて、上司に状況を報告しなければならない。
2 職員は、私事旅行等により長期間住居を離れる場合は、その間勤務先からの連絡に対応できるよう努めなければならない。

○横浜市職員服務規程(平成21年3月25日達第3号 庁中一般)


ということで、停職処分中の私的な行為が企業秩序(人事院規則では「職場内秩序」としていますが)に違反する行為とされるのかは、慎重に判断される必要があります。今回の懲戒処分については、記事で「信用失墜行為」と見出しがつけられていますが、では、日々激務に追われている公務員が数年ぶりにまとまった休みが取れて旅行に行った先で「かにを食べた」とSNSにアップした場合も、この件と同じように処分されるのかは難しいところでしょう。

と考えてみると、この元職員は、今回の処分の直接の理由となったSNS以外にもいろいろと企業秩序に違反する(と認められる)行為を行っていたのかもしれません。その辺の事情が報道ではよく分からないのでなんともいえないのですが、そもそも停職処分の理由となった営利企業の兼業禁止違反というのも、「公務員だから」と一概にいえる問題ではないんですよね。

地方公務員法と国家公務員法はいろいろと違うのですが、地方自治体の実務の現場では基本的に人事院規則を参照していますので、懲戒の指針についての人事院規則の運用通知を確認してみましょう。

懲戒処分の指針について
(平成12年3月31日職職―68)
(人事院事務総長発)

懲戒処分の指針

第1 基本事項
本指針は、代表的な事例を選び、それぞれにおける標準的な懲戒処分の種類を掲げたものである。
具体的な処分量定の決定に当たっては、
① 非違行為の動機、態様及び結果はどのようなものであったか
② 故意又は過失の度合いはどの程度であったか
③ 非違行為を行った職員の職責はどのようなものであったか、その職責は非違行為との関係でどのように評価すべきか
④ 他の職員及び社会に与える影響はどのようなものであるか
⑤ 過去に非違行為を行っているか
等のほか、適宜、日頃の勤務態度や非違行為後の対応等も含め総合的に考慮の上判断するものとする。
個別の事案の内容によっては、標準例に掲げる処分の種類以外とすることもあり得るところである。例えば、標準例に掲げる処分の種類より重いものとすることが考えられる場合として、
① 非違行為の動機若しくは態様が極めて悪質であるとき又は非違行為の結果が極めて重大であるとき
② 非違行為を行った職員が管理又は監督の地位にあるなどその職責が特に高いとき
③ 非違行為の公務内外に及ぼす影響が特に大きいとき
④ 過去に類似の非違行為を行ったことを理由として懲戒処分を受けたことがあるとき
⑤ 処分の対象となり得る複数の異なる非違行為を行っていたとき
ある。また、例えば、標準例に掲げる処分の種類より軽いものとすることが考えられる場合として、
① 職員が自らの非違行為が発覚する前に自主的に申し出たとき
② 非違行為を行うに至った経緯その他の情状に特に酌量すべきものがあると認められるとき
がある。
なお、標準例に掲げられていない非違行為についても、懲戒処分の対象となり得るものであり、これらについては標準例に掲げる取扱いを参考としつつ判断する。

第2 標準例
1 一般服務関係
(略)
(10) 兼業の承認等を得る手続のけ怠
営利企業の役員等の職を兼ね、若しくは自ら営利企業を営むことの承認を得る手続又は報酬を得て、営利企業以外の事業の団体の役員等を兼ね、その他事業若しくは事務に従事することの許可を得る手続を怠り、これらの兼業を行った職員は、減給又は戒告とする。


件の公務員は、報道によると「勤務時間外に名古屋市で接客の仕事に従事」とのことですので、「兼業の承認等を得る手続きのけ怠」による減給は又は戒告にとどまらず(そのけ怠があったかどうかは不明ですが)、その兼業の内容に応じたものとして停職6か月というかなり重い処分としたように思われます。「標準例に掲げる処分の種類より重いものとすることが考えられる場合」に該当するということかもしれませんが、であれば、SNSの信用失墜行為は最後のピースだったのでしょう。

個人的には、SNSという職場内秩序に直接関係のない私的行為を最後のピースとして処分することは、懲戒処分の目的と限界からすると大いに疑問を感じます。この点では、マンマークさんと同じく

 正直、停職期間中の行為として「ママ友と海鮮ざんまい」がはしゃぎ過ぎかとも思うし、不謹慎だと言われればそうかとも思いますが、それが免職に値する行為だったかというと、それもどうかなと思います。

 だから、私の内面のどこかから、この職員に向けた「裁判しろ、裁判で争え!」という声が湧き上がってきています。
 これは、決して焚き付けているわけじゃなく、停職中の行動範囲と内容の基準をどこに置くのか、一自治体という組織から離れた中立的な立場の判断を聞いてみたいからです。
 
 もっとも、これについては過去に判例があって、それを私が知らないだけ、ということも十分に考えられますが…。

「停職について。(2016-05-04)」(市役所職員の生活と意見)


司法がどのように線を引くのかに大変興味がありますが、そこまで発展する問題なのかは、「能力」に着目した長期雇用を前提とする日本的雇用慣行では難しそうですね。

ちなみに、JIL-PTでは

(54)【服務規律・懲戒制度等】私生活上の非違行為

1 ポイント

(1)職務遂行に関係のない職場外の労働者の行為であっても、その行為が企業の円滑な運営に支障をきたすおそれがある場合や会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような場合には、その行為を理由とした懲戒処分が許される。
(2)労働者の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、労働者の行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から総合的に判断して、労働者の行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない。


ということで、過去の判例が引用されていますが、SNSで私的な旅行について投稿したことが懲戒解雇(免職)に該当するかは、かなり微妙な判断になりそうな気がします。
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