2016年04月10日 (日) | Edit |
新年度が始まってマスコミなどでは電力自由化などが話題になっていますが、この4月から地方公務員の働き方も大きく変わったことは、当の地方公務員にもあまり意識されていないようですね。というのは、平成26年5月に成立した改正地方公務員法がこの平成28年4月1日に施行されておりまして、任用の方法が根本的に変更されていまして、その内容は以前連載させていただいていた「HRMics」の2014年8月発行のvol.19でちょっと詳しく取り上げております。

民間の経験を踏まえた職階制の廃止
 今回の改正によって、職務給原則による職階制を廃止したということで、名実ともに公務員も職能資格給制度が取り入れられることになりました。…といいたいところですが、地方公務員法24条1項の職務給原則についての規定は、今回の改正後もそのまま残っています。職階制を廃止したのに職務給原則は変わらないというのは、どういうことでしょう?
 総務省が作成した地方公務員法改正の資料をみると、「職員がその職務を遂行するに当たり発揮した能力及び挙げた業績を把握した上で行われる人事評価制度を導入」と書いてあります。なるほど、職階制を廃止して人事評価制度を導入するわけですね。
 さらにその資料にはこうあります。「職務給原則を徹底するため、地方公共団体は給与条例で「等級別基準職務表」を定め、等級別に職名ごとの職員数を公表するものとする」…なんとも理解に苦しむ文章ですが、この文面どおりに解釈すると、まず給与を決めてそれに見合う職務を決める「等級別基準職務表」を定めることになります。つまり、職務給原則の徹底といいながら、その実態は、等級別に区切られた職務遂行能力に給与を連動させる職能資格給とし、そこに人事評価を加えるものということになりそうです。
 となると、今回の地方公務員法改正によって「職階制」は廃止されましたが、それは実態上の職能資格給制度を追認しつつ業績連動部分を大きくする趣旨と理解すべきでしょう。
 民間と公務員に共通する日本型雇用は、すでに以前のような厳密な意味での年功序列ではなくなっており、実態との整合性という意味では一歩前進したのかもしれません。しかし、「公務員は親方日の丸で年功序列だから成果主義の導入を!」と意気込んだ結果が日本型雇用だったわけでして、結局のところ、公務員も民間も等しく無限定に働くことが求められる現状には変わりがなさそうです。

「公僕からの反論 公務員は「親方日の丸」でも「年功序列」でもない」HRMics vol.19(2014年8月)p.40
※ 以下、強調は引用者による。


ここで引用している総務省の資料というのはこちらのページに掲載されている概要ファイルです。
概要PDF【196 KB】
実は、この地方公務員法改正は平成19年の国家公務員法改正と連動しておりまして、ほぼ同じ内容となっています。その平成19年の国家公務員法改正は、同年4月の閣議決定の内容を具体化したものとなっています。

2.国家公務員法等の改正
(1)能力・実績主義
①人事管理の原則
 職員の任用、給与その他の人事管理について、職員の採用試験の種類や年次にとらわれてはならないこと、人事評価に基づいて適切に行うことといった基本的な原則を明らかにする。
②能力本位の任用制度の確立
イ 昇任、転任等
 職員の昇任及び転任は、職員の人事評価又はその他の能力実証によるものとする。また、職制上の段階の標準的な官職と、その官職に必要な標準職務遂行能力を明らかにしておき、標準職務遂行能力及び適性を、昇任又は転任の判断基準とする。
ロ 採用昇任等基本方針
 職員の採用、昇任、降任及び転任に関する制度の適切かつ効果的な運用を確保するための基本的な方針(採用昇任等基本方針、閣議決定)を策定する。
③ 新たな人事評価制度の構築
職員の人事評価を「任用、給与、分限その他の人事管理の基礎とするために、職員がその職務を遂行するに当たり発揮した能力及び挙げた業績を把握した上で行われる勤務成績の評価」と定義し、これを公正に行わなければならないこととする。
ロ 職員の執務について、その所轄庁の長は、定期的に人事評価を実施。
ハ 人事評価の基準及び方法に関する事項その他人事評価に関し必要な事項は、人事院の意見を聞いて政令で定める。

「公務員制度改革について」(平成19年4月24日 閣議決定)


さらに、この閣議決定に至る前には、平成13年度(18年度一部改正)の「公務員制度改革大綱」で基本的な考え方が示されています。

(1) 能力等級制度の導入
① 基本的考え方
 新人事制度の基礎となるものとして、職務(官職)を通じて現に発揮している職務遂行能力に応じて職員を等級に格付ける能力等級制度を設け、これを任用、給与及び評価の基準として活用することにより、トータルシステムとしての人事システムを構築する。
 能力等級制度は、上級幹部職員(現行の指定職俸給表の適用を受ける職員に相当する職員をいう。以下同じ。)を除く職員に適用する。

② 具体的措置
ア 能力等級表
 職員一人一人の職務遂行能力の評価及び等級への格付けを適正に行うためには、公務部門の多様な組織や職務の実態を踏まえて等級ごとに職務遂行能力基準(以下「能力基準」という。)を適切に定める必要がある。このため、府省共通の能力等級表を設け、同表において、組織段階ごとに、基本職位、代表職務及び能力基準を定める。
 組織段階は、本府省、地方支分部局等に応じて複数設け、組織段階ごとに典型的な職制段階(課長・企画官、課長補佐、係長、係員など)に応じた複数の基本職位を定めるとともに、基本職位ごとに代表職務(基本職位の前提となった職制の代表的な職名)及び対応する等級を定める

公務員制度改革大綱(平成13年12月25日閣議決定 平成18年6月16日一部改正)


・・・さて、ここまでの改正法とか閣議決定の文書を読んで、違和感を感じる日本人の勤め人はどれだけいらっしゃるでしょうか。もう一度確認しておきますと、国家公務員法も地方公務員法もいずれも「職務給の原則」を掲げています。これに対して、19年の閣議決定では「職制上の段階の標準的な官職と、その官職に必要な標準職務遂行能力を明らか」にするとし、13年の閣議決定では「職務(官職)を通じて現に発揮している職務遂行能力に応じて職員を等級に格付ける能力等級制度を設け」るとしていますね。それでは、職階制を廃止した国家公務員法と地方公務員法の改正は、「職務給の原則」を徹底しているといえるのでしょうか?

まあ、こんな問いには日本の勤め人の皆さんはほとんど関心がないでしょうし、むしろ、この改正は民間では当たり前だと感じる方が多いでしょう。つまり、民間でも公務員でもおよそ日本人が違和感を感じるのは「職務給の原則」のほうであって、上記の閣議決定文書にいうような能力に応じて職制上の官職(ポスト)に処遇する「職能資格給」の説明のほうがしっくりくるのではないかと思います。結局、国家公務員法と地方公務員法の「職務給の原則」が、その言葉とは正反対に「職能資格給」として機能している現状を追認したのが、国家公務員法から地方公務員法に連なる改正の内容ということになります。だからこそ、「職務給の原則」を支える(はずだった)職階制は廃止されなければならず、その代わりに能力に応じて官職を割り当てるための人事評価を規定しなければならなかったわけです。

という次第で、こういうことを書いていても「それのどこが問題なのか」というのが大方の反応だとは思うのですが、実は、平成13年の閣議決定の前の段階の文書では、より「職務給」を指向していたと思われる記述があります。

4 能力・実績に応じた昇進・給与を支える人事評価

【基本的考え方】

 公務員については、組織的な職務遂行が求められること、収益等による明確な評価ができないこと等、民間企業と比べ、業務の性格上人事評価が困難な面があるが、能力・実績主義を徹底した人事を支えるため、各職員の能力・実績を的確に把握しうる客観性・公正性の高い人事評価システムを整備することが必要である。
 現行の人事評価の中心である勤務評定制度については、現に就いている官職における短期的な勤務実績の評価の観点から設計されているものであり、昇進管理・人材配置に用いるべき中長期的視点をも踏まえた能力評価のためには、必ずしも十分なものとは言えない。
 今後は、(1)執務の結果である短期的な勤務実績等の的確な評価、(2)職員がある役職段階や官職に昇任・異動するために必要な能力の基準を満たしているかどうかの中長期的観点を含めた的確な能力評価の双方を一層公正かつ客観的に行うことができるよう、人事評価制度を整備すべきである。
 また、職員の能力を十分に発揮させ、その能力・実績を的確に評価できるよう、個々の職員の職務範囲を明確にするとともに、職員が創意工夫をもって仕事に取り組めるような職務編成としていくことも重要である。  同時に、能力評価の結果を昇進管理のみならず能力開発にも十分活用すべきである。  また、職員の職務に対する意欲を高めるためには、職員個人の自主性に配慮していくことが重要であり、職員の自主性、志向を取り入れる評価制度の構築という観点も重要である。  なお、具体的な改革方策を検討していくに当たっては、専門的な検討の場を設けることが必要である。

「公務員制度改革の基本方向に関する答申」(平成11年3月16日 公務員制度調査会)


この平成11年の段階では「職務範囲を明確にする」として、「職」を基準にするような議論も一部にみられたものの、2年後の平成13年には「職務(官職)を通じて現に発揮している職務遂行能力に応じて職員を等級に格付ける能力等級制度」という「ヒト」を基準とする制度にすり替わってしまうところが、日本型雇用慣行における「職能資格給制度」の堅牢さを物語っていますね。

いやもちろん、雇用・労働の問題にきちんと向き合っている方々にはこうした制度変更の問題点は認識されているところでして、

地方公務員法改正にともなう条例改正では、地方公務員法が本来目標としていた職務(ジョブの種類)職階制を廃止し、職位だけで「職務」を定義して総合的に人事評価するやり方は、職務無限定で働かせる日本の労働慣行を見直して一億総活躍と言っている時代に逆行する改革である、と反対しました。

「3/24 3月定例市議会おわる(2016.03.28)」(きょうも歩く)

黒川さんがこの短文で的確に指摘されている通り、長時間労働やら正規と非正規の格差やらサービス残業やらワークライフバランスやらが叫ばれながらその対策が奏功せず、景気が回復しても企業ごとの賃金交渉には波及しづらく、同一労働同一賃金の実現を難しくしているのが、職務無限定の日本型雇用慣行であり、それを支えているのが職能資格給制度なわけです。結局は国家公務員法も地方公務員法も、現状のまま日本型雇用慣行を追認するようにしか改正されていないわけでして、4月に施行されても誰も気がつかないのは、まあそういうことですね。
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コメント
この記事へのコメント
日本で公務員の職務給が定着して欲しいですね。
メンバーシップ型の堅牢さを考えるとあと20年は現状維持な気がしますが
2017/01/24(火) 18:16:35 | URL | とってぃ #-[ 編集]
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