2015年08月17日 (月) | Edit |
前回エントリの流れでこちらのネタも書いておこうと思いますが、拙ブログでも何度か取り上げさせていただいている出井智将さんの『派遣新時代』を拝読して、日本型雇用慣行における正規と非正規の壁についてこちらもいろいろと考えてしまいました。

本書で就活について触れているのは「第8章 派遣が日本を変える日」の中でして、

派遣が就活も変える

 先に触れた「就労弱者」とは対照的に、多くの大学生が在学中から積極的に就職活動に取り組んでいます。そんな彼らも、いまはまさか就労弱者となってしまうとは考えてもいません。
 しかし、毎年多くの人たちが残念ながら就活に失敗して、うつ病になる人や罪を犯してしまう人、自ら命を絶ってしまう人が出てきます。イスラム国に戦闘員として加わろうとして中東行きを計画した学生が、その理由について「就職活動がうまくいかなかったから」と語っていたことも、記憶に新しいところです。
 現在の日本の就職活動は、どのような仕事をしたいかと考える就職ではなく、どの会社に就職するかを中心にすえて「就社」の状態となっています。しかもチャンスは一度きりのように見えてしまいますから、社会経験の少ない大学生が就活に失敗すれば、即、自分が社会全体からドロップアウトしてしまったと思い込んでしまうのも仕方のないことでしょう。
 また、たとえ就活に成功したとしても、入社後、実際の仕事内容とのギャップで「こんなはずでは……」と悩み、早期に退職してしまう。このようなケースも後を絶ちません。原因はともかく、一旦ドロップアウトしてしまうと、先の巨大な壁を登りきれず、不本意な働き方を漂流することになってしまうのが、今の日本の雇用環境です。
pp.153-154
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派遣新時代~派遣が変わる、派遣が変える~
派遣労働の謂われなき誤解を解き、日本の雇用を未来へ開く。

ジャンル ビジネス・経済・キャリア, 幻冬舎ルネッサンス新書
シリーズ新刊
著者 出井智将・著
ISBN9784344972377
判型新書・160ページ
出版年月日2015/6/23
価格800円+税

とてもコンパクトに日本型雇用慣行における就活の状況をまとめていらっしゃり、こちらの頭も整理されます。本書ではこの後で「派遣を経て企業に新卒採用」という仕組みが提言されていまして、以前海老原さんも提言されていた「公設民営」型派遣と同様の内容となっています。これはリンク先のエントリでも書いた通り、緊急雇用創出事業で新卒で就職できなかった若年者支援対策として各自治体で取り組まれた実績もあり、効果も課題も蓄積があるものと思いますので、その蓄積を活用すべき段階にあるのではないかと思います。

で、前回エントリでは「日本型雇用慣行が新卒有利で中途に不利といわれるのは、新卒はでその能力の有無を見込みで決定されるのに対し、中途では実績で決定されるため、前の職場で目に見える経験や実績(特に非正規就労が長くなるとその経験を実績として評価されなくなる傾向があります)がなければ採用されにくいことも一因です。まあ、能力とか実績といっても結局のところ上記のような採用担当者の主観でしか判断されないところが、日本型雇用慣行がジョブ型ではないことの証左ともいえましょう」というようなことを書いたところですが、この日本型雇用慣行のルーツを辿っていくと、正規と非正規の「巨大な壁」を作り上げて維持しているのは、実はその組織内の常用代替を認めない人間だったというどこかの巨人が進撃してしまうような話に辿り着いてしまいます。つまり、正規労働者の業務を奪ってしまうような「なんでもできる」非正規は、組織の内部の正規労働者にとっては「敵」でしかないわけですね。そのような「敵」を内部に入れないために「常用代替の防止」を死守するのがこれまでの派遣法の目的だったのですが、今回の派遣法改正によってやっと非正規にカテゴライズされる派遣労働者の保護に一歩踏み出すことになったので、これを新卒時点での就活にも活用しようというのが出井さんの御提言の趣旨となります。

この状況を生み出しているのは、とりもなおさずこれも前回エントリで書いた「どこの課のどんな人の隣の席に座っていてもうまく仕事を回すことができるヤツかどうか」という採否の判断基準でして、これを言い換えると「(常用雇用の業務を担当している)どんな課のどんな人の隣の席に座っていてもうまく仕事(常用雇用の業務)を回すことができるヤツかどうか」ということになります。つまり、その組織のメンバーシップを与える代わりに、東に辞令があればどこにでもどんな業務でも異動し、西に疲れた従業員がいれば行ってその書類の束を負い、南に死にそうとかほざいている従業員がいれば行ってやる気が足りないと言ってやり、北に業務繁忙な仕事があれば(たとえそれが常態化していても)残業も厭わない、そんな社畜に私はなりたいというメンバーに相応しい人材を求めているのが、今の採用活動の本音ということになります。逆にいえば、認知スキルや性格スキルに適性を欠くと判断された応募者にはメンバーシップを与えず、非正規としての処遇を与えるのが日本型雇用慣行での就活における選別の結末となるわけです。

しかし、これだけ売り手市場といわれる状況にあっても大企業の正規労働者として社畜に進んでなろうとする若者は後を絶ちませんが、大企業でもない地方自治体では採用数の確保に四苦八苦しているのが現状といえます。これは、地方の再分配機能の貧弱さもあって、就労に制限をかけざるを得ない家庭が多いことの裏返しでもあるわけでして、出井さんのこのご指摘には大いに共感します。

 しかし地方や都会の中小都市ではすでにジョブ型正社員という働き方は一般化しています。事業所が狭い地域に限定されていれば転勤はないし、通勤時間が短いので勤務時間も限定されます。私の地元である山梨県では、実質的にジョブ型正社員という働き方が大半です。
 今後日本は、高齢化と人口減による働き手不足を受け入れる柔軟な雇用環境が必要となってくるでしょう。現在主流である、全生活を会社に奉仕してしまう働き方、若者たちからは「社畜」と揶揄されていますが、こういう働き方を拒否する労働者は、どんどん増えていくでしょう。気がついたときには、メンバーシップ型の正社員はなり手がいない、そんなことにならないとも限りません。

出井『同』p.145

私も地方在住の身として、このような事態がそう遠くない未来に到来するだろうと実感しております。私も含めて壁の中の人間がジョブ型の働き方を受け入れられるかを、特に地方では本気で考えなければならないと思うのですが、地方のメンバーシップ型の正規労働者はそのような状況の変化に疎く、現状維持バイアスが強いという傾向もあって、なかなか前途は多難ですね。
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