2015年08月16日 (日) | Edit |
お盆中の休みに片づけてしまいたいエントリがありながら、前々回のエントリに関連して就活について書いてみます。というのも、今年から採用活動が8月1日解禁となりましたが、この熱い中スーツを着て就活に励んでいる学生の皆さんには同情申し上げるところでして、「ジセダイ」という星海社が運営するサイトの「就活こわくない会議@B&B」と題したイベント内容を見ていると、いろいろと思うところがありました。

曽和:だから聞いていいのは、「どんな人が好きですか?」じゃないですか。だから僕は選社基準って言っているんですけど、会社選びの基準とか、仕事選びの基準とか、っていう風に聞けばいいのに、志望動機という言葉が流布しすぎていて。人事に聞いても、なんで俺のこと好きなの? とか思ってないんですよ。会社選びの基準とか、仕事選びの基準とかを聞きたいのに、志望動機を聞いちゃってるっていう変な状況になってるんですよね。

中川:なんでこうなるかって言ったら、素人人事がいっぱいいすぎるからなんですよ。素人人事って何かっていうと、現場の営業とかマーケティングとかをやっている人間に「お前面接出てくれよ」みたいな話がまず来ます。とにかく多数の学生をさばかなくてはいけないので、人事部だけじゃ手が回らない。で、そいつも普段は人事なんてやらないものだから、「志望動機を聞かなきゃいけないのかなァ……?」って思っているというのがあると思うんです。

曽和:それはあると思います。僕はリクルートの時は逆に志望動機は絶対聞くなって言ってましたから、2ちゃんねるとかみん就に「リクルートぜんぜん志望動機聞かねえ」みたいにいっぱい書かれてしまって。聞いたって結局、事業説明が返ってくるだけなんですよね。「人生の節目節目で情報提供することによって、自分らしい人生を送るお手伝を」みたいな。

中川:今回の本ではそういうこと書く奴は馬鹿だ死ねって書いたんです。

曽和:そうですね(笑) そういうこと聞いてもほんと無駄だと思っていて、だからESでも無視して選社基準書いておけばいいんですよ。「私はこういう人生を送ってきて、こういう価値観です。なのでこういうのが選社基準です。それがこういう部分で当てはまると思ったから来た。」くらいの感じで十分ですし、人事もそれで納得だと思いますよ。基本的に、志望動機エントリーシート撲滅したいです。

イベントレポート 【日本中の人事に嫌われてもいい!】就活が楽になるコツを、元リクルート人事が解説(ジセダイ 2015年08月11日)
※ 以下、強調は引用者による。

このイベントでは、「登壇者は『内定童貞』の著者でありライター/ネットニュース編集者/PRプランナーの中川淳一郎(@unkotaberuno)さん、『就活後ろ倒しの衝撃』の著者で株式会社人材研究所の代表取締役社長 曽和利光さん、『内定童貞』担当編集で『ジセダイ』編集長 今井雄紀(@seikaisha_imai)の3名」とのことで、上記引用部分はそのうち中川氏と曽和氏の対談部分でして、ある意味でhamachan先生がおっしゃるところの「就職活動ではなく就社活動」という就活の実態と呼応した内容となっていると思います。曽和氏がおっしゃる「選社基準」というのはおそらく、「あたたにこの会社のメンバーとなって滅私奉公してでも業績向上に貢献する意思があるか」を問うものであって、「あなたにこの会社で生かせる職業的スキルがあって業績向上に貢献できるか」を問うものではありません。そこにあるのは、「うちの会社にうまくなじんでスキルを上げることができるか」というその会社にとっての将来的な価値を推し量ろうとする意思です。

というと、「どちらも結局、会社の業績を向上させることができるかを問うものではないか」という疑問を持たれるかもしれませんが、会社のメンバーとしてうまくなじむことが求められる点が大きく違います。「うまくなじむ」というのをもう少し言い方を変えてみると、採用担当者が最重要視するのは「どこの課のどんな人の隣の席に座っていてもうまく仕事を回すことができるヤツかどうか」ということです。となると、採否を決定する基準は自ずと現在いる従業員ということになります。つまり、「現在いる従業員に比べて」うまくなじめそうにない人をふるい落とすのが面接の重要な役割となるわけです。

私自身学生時代は地方大学に在学しながら東京で民間企業を中心に就活しておりまして、経費や時間だけでなく、その会社にいるであろう高偏差値の大学出身者の面接員からどう見られているのだろうという不安を強く感じていました。今振り返ってみれば、今の職場に当てはめてみてそれはあながち的外れではなかったと思います。社風にも業務内容にもよるのであくまで役所で仕事をしている中で感じることですが、役所が担う行政の仕事は「法律による行政の原理」によって執行されるものである以上、現行法律を正しく解釈して運用する能力が必須となります。という状況では、法律用語とか民法総則を理解できないような職員には仕事を任せられません。もちろん、地方公務員レベルでは必ずしも法学部卒である必要はありませんし、実際に多くの法学部以外の学部の卒業生が普通の地方公務員として仕事をしていますし、そもそも高卒の職員もかなりの割合でいますが、少なくとも仕事に必要な範囲内では現行法律を解釈・運用して仕事をしているわけです。

そのような仕事の現場に配属された新採用職員には、現行法律を解釈・運用する能力が求められるのは上記のとおりですが、当然大学を卒業したばかりではそんな実務的な法律の解釈・運用ができるわけではありません。そこで、そのような能力を身につけるために、必要な知識やスキルを周囲の職員や仕事の関係者から吸収するための能力が求められます。このため、大雑把に言えば、この法律の解釈・運用の能力と吸収する能力という2つの能力を「どこの課のどんな人の隣の席に座っていてもうまく仕事を回すことができるヤツかどうか」という基準で判断するわけです。その基準に照らし合わせたとき、その2つの能力が高いというシグナリングを持つ大学卒(見込み)かどうかは大きな判断要因となるでしょうし、応募する側がそれを覆す自信がなければ「この職場は自分に向いていない」とさっさと切り替えた方がご自身のためかもしれません。

この2つの能力の重要性を、前々回エントリで引用した『史上最大の決断』から省略した部分を含めて再引用すると、

(略)真面目に仕事に取り組む、他人とうまくやる、前向きに物事に取り組む、さぼらない…これらが具体的な性格スキルである。これは認知スキルと違って教室では教えられない。手本となる師から個別の指導や助言を受け、師の人格に感化されながら、少しずつ学びとるしかない。性格スキルは能力であり、遺伝的特性ではない。家族や社会的環境によって形成されるものだ。フランスの社会学者ピエール・プルデューの習慣(ハビトゥス)や日本の「守・破・離」の型などもそうしたプロセスだろう。だから、きちんとした方法によって、育て伸ばすことができる。性格スキルの育成はダイナミックなプロセスなのだ。
 いくら頭がよくてペーパーテストでいつも満点が取れても、性格スキルに欠ける人は評価されないし、大きな仕事を任せられない。アイゼンハワーはコナーとの徒弟関係を通じて、知識だけではなく、こうしたスキルも大いに学んでいたと考えられる。
 徒弟制で培われたその高い性格スキルと幅広い教養が、置かれた場所で精一杯努力する無限追求の職人道とあいまって、凡人を非凡人に変えた。

野中、荻野『史上最大の決断』p.378

というように、認知スキルと性格スキルの両方を兼ね備えた職員を育成することが組織の要諦であって、新卒の場合はそれを取得できる見込みがあるか、中途の場合はその能力を相応に有しているかを基準に採否を決めることになるわけです。日本型雇用慣行が新卒有利で中途に不利といわれるのは、新卒はでその能力の有無を見込みで決定されるのに対し、中途では実績で決定されるため、前の職場で目に見える経験や実績(特に非正規就労が長くなるとその経験を実績として評価されなくなる傾向があります)がなければ採用されにくいことも一因です。まあ、能力とか実績といっても結局のところ上記のような採用担当者の主観でしか判断されないところが、日本型雇用慣行がジョブ型ではないことの証左ともいえましょう。

…さて、ここまで読んで「なるほど」と思っていただいた方には申し訳ありませんが、ここでどんでん返ししますと、「どこの課のどんな人の隣の席に座っていてもうまく仕事を回すことができるヤツかどうか」というのは、あくまで結果論にすぎません。私が上記でいろいろ理屈をこねたのはそれはそれで間違っていない(と思う)のですが、中川氏が上記の引用部分でおっしゃる「素人人事」で採否の判断をするためにそうせざるを得ないというのが実態だろうと思います。中川氏が在籍していた博報堂という一流企業ですらそうですから、地方自治体程度の組織では人事を専門で担当している職員数は限られていて、面接員には新採用職員の配属先として想定される部署の人員を動員して面接するのが通例と思われます。その職員は普段の業務では人事を専門で担当してるわけではないので、それぞれの職場の状況から「うちの課のどんな人の隣の席に座っていてもうまく仕事を回すことができるヤツかどうか」を基準に採否を判断するしかないわけです。

ということで、結論としては、海老原さんが『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』でおっしゃっていた「「日常のちょっとしたよいこと」は面接官の心を動かす、ということ。それは、相手も人間であり、「一緒に働きたい」と思う人を採用するからです。日常のちょっとしたよいことを、具体的に鮮明に語れるようにしておきましょう」ということに尽きるのですが、ここまで書いてみても結局、これから面接に臨もうという方にはほとんど「聞き飽きた」ということしか書いていないわけでして、結局必勝法とか裏ワザなんてものはないと考えていただければありがたいと思います。
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