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2015年08月12日 (水) | Edit |
ここしばらく業務の追い込みのため更新がすっかり滞ってしまい、2か月近く放置してしまいました。一応お盆中に何日かは休めそうですが、夏季休暇として設定されている日数を確保できるあてもなくちょこちょこと出勤しておりまして、その間にたまっていたエントリを書けるだけ書いてみるテスト。

まずは、荻野進介さんからご恵与いただいた野中郁次郎先生との共著『史上最大の決断』です(というか、ブログを放置している間に、fc2ブログはAmazonへのリンクが張れない仕様に変更されていたんですねえ…)。場末のブログにご配慮いただき改めて御礼申し上げます。

『失敗の本質』から30年。「偉大なる平凡人」にして連合軍の最高指揮官・アイゼンハワー、天才政治家・チャーチル、策士の大統領・ルーズベルト……多士済々の知略と努力が第2次大戦の活路を拓いた! 20人のリーダーたちが織りなす「戦場の意思決定」の軌跡。経営学の世界的権威が語る「危機の時代」のリーダーシップ
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史上最大の決断「ノルマンディー上陸作戦」を成功に導いた賢慮のリーダーシップ
野中 郁次郎/荻野 進介:著
定価:本体2,200円+税
発行年月: 2014年5月 取り扱い可能
判型/造本:A5並製
頁数:392
ISBN:978-4-478-02345-7

実をいうと登場人物を把握しながら読むのが得意ではないので歴史叙述的な文章は苦手なのですが、400ページ近い本書の大部分はノルマンディー上陸作戦が遂行される過程が描かれておりまして、読むのに時間がかかってしまいました。結局ご恵与いただいてから半年以上経ってしまい、その間に別の本はちょこちょこと読んでいたので改めて自分の読み込みの悪さを痛感した次第です。

その読み込みの悪さを棚に上げて本書の感想など書かせていただくと、ノルマンディー上陸作戦を遂行した最高責任者であるアイゼンハワーを題材として、「実践知」という概念から捉えたリーダーシップ論として学ぶところの多い本でした。拙ブログでは「実務知」という言葉を使っていましたが、私のような下っ端公務員とか普通の職業人が直面する実務を包括する概念として、「実践知」というものを観念する必要があるのだろうと思います。

 アリストテレスは『ニコマコス倫理学』において、知識をエピステーメ、テクネ、フロネシスに分けて説明している。エピステーメとは科学的、認識論的な客観知であり、「形式知」と言い換えることができよう。テクネとは実用的なスキルやノウハウであり、「暗黙知」と言っていい。われわれは暗黙知と形式知の相互変換螺旋(スパイラル)運動によって知識創造、すなわちイノベーションが生まれると考える。それを促進するのが第3の知識であるフロネシスである。
 フロネシス、すなわち実践知は実践理性という訳語もあるように、実践と知性を総合するバランス感覚を兼ね備えた賢人の知恵である。利益の極大化や敵の殲滅という単純なものだけではなく、多くの人が共感できる善い目的を掲げ、個々の文脈や関係性の只中で、最適かつ最善の決断を下すことができ、目的に向かって自らも邁進する人物(フロニモス)が備えた能力のことだ。予測が困難で、不確実なカオス状況でこそ真価を発揮し、新たな知や確信を持続的に生み出す未来創造型のリーダーシップに不可欠の能力でもある。

野中、荻野『同』pp.344.345

私が「実務知」といっていたのは、ここでは「暗黙知」に該当するのかもしれませんが、「暗黙知」といえば野中先生が『知識創造企業』においてナレッジマネジメントの中心となる概念として強調したものでして、私の考える「実務知」とはちょっとイメージが違うかなとも思います。まあそれはそれとして、あるプロジェクトが計画され、実行され、その結果が生じるまでのプロセスにおいては、そのプロセスを管理する組織が必要であって、その組織とは結局のところ、一人ひとりを取ってみれば知識も経験も限られた個人の集合です。その組織が単なる個人の集合ではなく、善い目的のためにプロジェクトを遂行する主体となるためにリーダーが必要であり、その人物が備えるべき能力が「実践と知性を総合するバランス感覚」としてのフロネシスということなのでしょう。

本書は、実際のプロジェクトを遂行する際にそのフロネシスを発揮した人物としてアイゼンハウアーを題材とするのですが、そのアイゼンハワーは「最も普通ではない状況に置かれた最も普通な人」(本書p.364)であり、凡人を非凡人に変えた鍵はフォックス・コナーによる徒弟制だったとのこと。

 置かれた場所で腐らず、驕らず、日々努力して高みを目指す人がいる。それを見て頼もしく思い、新たな知識を授けてくれたり、引き上げてくれたりする上司がいる。そういう人材が大きく羽ばたける制度と存分に活躍できる場も用意されている。凡人を非凡人に変えるプロセスをまとめるとこんな具合になる。
 そのプロセスを推進する最も大きな鍵は何か。
 それは、徒弟制だ。アイゼンハワーにとって、「戦史と教養の大学院」で、古典の素読をはじめ、軍事戦略からリベラルアーツ、物の見方まで、手取り足取り教えてくれたコナーの存在がやはり大きい。だが、彼らの間では、そうした知識の伝達だけが機械的に行われたわけではないはずだ。
(略)
 いくら頭がよくてペーパーテストでいつも満点が取れても、性格スキルに欠ける人は評価されないし、大きな仕事を任せられない。アイゼンハワーはコナーとの徒弟関係を通じて、知識だけではなく、こうしたスキルも大いに学んでいたと考えられる。
 徒弟制で培われたその高い性格スキルと幅広い教養が、置かれた場所で精一杯努力する無限追求の職人道とあいまって、凡人を非凡人に変えた。士官学校時代はフットボールとポーカーに明け暮れ、入隊後も戦場とは長らく無縁で、大佐で退役し、後は悠々自適の人生を送りたい、と思っていた平凡な男に、われこそは人類共通の敵を倒す十字軍の頭領たらん、という共通善を志向する志を与えたのである。

野中、荻野『同』pp.377-378

アイゼンハワーはノルマンディー上陸作戦を遂行した最高責任者でしたが、そこに至るまでに師となる上司がいて、その教えを着実に学んでいける徒弟関係があり、そこで培った能力を認めて重要な任務に当ててくれた上司がいたわけです。本書はあくまでリーダーシップ論ではあるのですが、そこで問われているのは組織内でリーダーとなる人材をどのように育成するべきかという人材育成論でもあります。その意味では「普通の人」といわれたアイゼンハワーがノルマンディー上陸作戦を遂行し、戦後はアメリカ大統領にまで上り詰めるという流れは一見サクセスストーリーとして読むこともできそうですが、当時のアメリカ陸軍がそのような人材育成ができる組織であったことも本書では指摘されていて、当然ながらだれでもどこでもできる話ではありません。当のアイゼンハワーも、「アイク・スマイル」と呼ばれた笑顔の奥の本心は家族にも見せなかったといわれていたとのことで、むしろ「最も普通ではない状況」に置かれてなお「最も普通な人」でいられたということは、やはり相当な非凡人だったというべきでしょう。

さて、そのような非凡人の話を正真正銘の凡人である私が読んで学ぶところが多いと感じたのは、リーダーに限らず「実践知」という概念は必要だと考えるからです。「形式知」を振りかざして「暗黙知」(実践)を軽んじるのはもちろん、その逆もプロジェクトを遂行するためには不適切なやり方です。しかし、そのことを理解するためには、やはりある程度の大きさの組織に属して、様々な実務を担当する者同士がそれぞれの「形式知」と「暗黙知」をフロネシスに転換していく作業を自ら行うことが必要だろうと思います。それは決してリーダー一人だけの問題ではなく、実務をこなす担当者がまさに直面する問題です。私も目の前の実務をこなすために、フロネシスの概念にまで転換できるように努力しなければと改めて考えた次第です。
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