2015年05月10日 (日) | Edit |
中央公論の2015年6月号が発行されましたので、5月号に掲載された書評をアップします。

「新刊この一冊 評者 マシナリ/東北の地方公務員 『危機と雇用』玄田有史著(中央公論2015年5月号 書苑周遊)」

「忘れないでほしい」。この言葉から始まる本書は、千年に一度とも言われる東日本大震災が人々の雇用に与えた影響について、詳細なデータによる分析を行った労働経済学の書である。ただし、説明は平易な文章で、専門知識がない読者でも読み進められる。これはもちろん、冒頭の言葉に込められた玄田氏の思いの表れであろう。
 本書は、国が二〇一二年に実施した就業構造基本調査を使用し、東日本大震災の仕事への影響について尋ねた結果に着目して、労働者への影響を分析している。その結果によると、震災前から雇用が安定的でなかった層では、さらに雇用が不安定化したと本書は指摘している。
 また同じ調査で、雇用の場が直接失われたことよりも、なじみのない土地に避難・転居を余儀なくされ、地域住民同士のつながりが解体されたことのほうが、仕事への影響が大きいことも解き明かした。私は被災地の近隣住民だが、実際、震災前に培った地域内のつながりを失ったため、働くことができなくなったケースをよく聞く。
 たとえば水産加工業などの地場産業の多くは、女性パートや外国人技能実習制度に依存した低付加価値産業である。漁師などの男性が家計を支えている限り、低賃金の不安定雇用でも特に問題はなかった。ところが震災後に海から遠い高台などに移住したことによって仕事を失い、その後、地場産業が復興しても家計を支えるための働き口とはなりえないため、こうした地場産業が人手不足に陥るという「雇用のミスマッチ」も生じている。
 また、たとえ近隣であっても、なじみのない土地に転居すると、自分の生活を確保したうえで、それに見合った仕事を見つけることが難しくなる。故宇沢弘文氏が提唱した「社会的共通資本」とは、住民同士が一つの地域に住み続けることによって獲得できる経験、知恵、関係、信頼など住民全体によって形成される社会的価値を生み出す力とされる。同書が指摘する通り、震災後に住宅再建の見通しが立たないため避難・転居せざるをえず、就業困難に陥った人々の状況を具体的に把握し、対策を講じる必要がある。
 このほか本書では、職場のチームワークを自社の強みと考える企業よりも、むしろ経営者のリーダーシップが強いいわゆるワンマン企業のほうが被災地では雇用を守ったという興味深い調査結果も報告されている。 
 これらの分析から玄田氏は、リーマン・ショック時の緊急雇用対策が震災後に活用できたのと同様に、平時から財源を確保し、柔軟に対応できる環境づくりが必要であるとしている(実際に玄田氏は、震災後の雇用対策の策定に携わっている)。しかし、リーマン・ショック後の緊急雇用対策では、国(ハローワーク)が実施した雇用調整助成金や給付付きの職業訓練の不正受給が問題となった。また緊急雇用創出事業は、雇用政策のノウハウもない自治体(県や市町村)が実施し、短期の資金を当てにした受託者の不祥事が相次いだ。本書を有効な政策提言とするためには、これらの問題に対処する実務にまで踏み込んだ検討が求められる。
 玄田共編『<持ち場>の希望学』と併せて、東日本大震災の「記憶」が薄れていく中で、次に起きるであろう危機に備えるために、貴重な「記録」として広く読まれるべき書である。

ということで、一般の方が購読される雑誌での書評は初めてだったのですが、改めて読み返してみると私の思いはおろか、玄田先生の分析の紹介も道半ばの感が否めません。hamachan先生からは「被災地で活躍する地方公務員ならではの台詞がもう一つ二つ欲しかった」というご指摘もいただいたところでして、私としても結局玄田先生の分析の紹介が道半ばになったので、どうせなら

 このほか本書では、職場のチームワークを自社の強みと考える企業よりも、むしろ経営者のリーダーシップが強いいわゆるワンマン企業のほうが被災地では雇用を守ったという興味深い調査結果も報告されている。 
 これらの分析から玄田氏は、リーマン・ショック時の緊急雇用対策が震災後に活用できたのと同様に、平時から財源を確保し、柔軟に対応できる環境づくりが必要であるとしている(実際に玄田氏は、震災後の雇用対策の策定に携わっている)。しかし、リーマン・ショック後の緊急雇用対策では、国(ハローワーク)が実施した雇用調整助成金や給付付きの職業訓練の不正受給が問題となった。また緊急雇用創出事業は、雇用政策のノウハウもない戦後の失業対策事業が長期滞留する労働者を抱え込んだトラウマから、期間限定の委託事業による短期雇用でしかない。小泉内閣時の「集中改革プラン」で極端な人員削減を強いられた自治体(県や市町村)が、短期雇用で震災後のマンパワー不足を補うために実施し、短期の資金を当てにした受託者の不祥事が相次いだ。本書を有効な政策提言とするためには、これらの問題に対処する実務自治体の貧弱な人員体制にまで踏み込んだ検討が求められる。

というくらいまで書くのもおもしろかったかなと思います。ただまあ、「戦後の失業対策事業」とか「小泉内閣時の「集中改革プラン」」とか解説なしでは誰も知らないでしょうし、さらに地方における委託事業の受託側の貧弱さも不祥事の要因となっており、そこまで説明したら字数内に納めきれないだろうとカットしてしまいました。限られた字数内で伝えるというのは難しいですね。。
(補記)hamachan先生が直近のエントリで紹介した書評について、「近いうちに入手して読んでみたいと思います。そういう意欲をそそってくれるよい書評」とおっしゃっていまして、正にhamachan先生ご自身が実践されていることですね。上記の書評が少しでもその役目を果たしていれば幸いですが、もっと精進したいと思います。

なお、大竹先生が毎日新聞に寄稿された書評と、「忘れないでほしい」という出だしが丸かぶりしてしまっておりましたが、玄田先生の分析を鵜呑みにされて、

 基金事業による雇用創出という仕組みは、自治体の主体的な判断で活用できるため、柔軟性が高くスピード感があり、非常に有効だった。「今後起こるかもしれない緊急事態に際しても、基金事業の活用は、雇用創出という面では一定の効果を発揮することが証明されたといってよいだろう」と著者は述べる。それが震災後の対策に活かされたのだ。

今週の本棚:大竹文雄・評 『危機と雇用−災害の労働経済学』=玄田有史・著 毎日新聞 2015年04月05日 東京朝刊
注 上記リンク先は会員限定ページです。

とおっしゃるのには大いに異議を申したいところです。その点、roumuyaさんが

加えて著者が各章において提示している研究課題、たとえば社会的共通資本の喪失による就職困難対策や、雇用創出に対する支援のあり方(グループ補助金か集中型の雇用促進税制か、など)、補助金・助成金などの政策効果の評価手法、そして孤立化・孤独化の拡大を阻止する施策などについても、今回の分析に加えて既存研究の成果も踏まえられており、その重要性を納得できる。

■[読書]玄田有史『危機と雇用』書評(吐息の日々 2015-04-07)

と慎重に評価されているのは、さすが実務家だなと思います。機会があれば『危機と雇用』をお手にとって、(畏れ多いですが)それぞれの書評と読み比べていただければと思います。
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