2015年05月03日 (日) | Edit |
先週ネパールで発生した地震では今日時点で6000人を超える方が亡くなったとのことで、心から哀悼の意を表します。現地の映像を見る限りでは、内陸で発生した地震なので阪神・淡路大震災と同じように古い建物などの倒壊による圧死がほとんどのようですが、日本よりもハード・ソフト両面での社会的インフラが脆弱であるネパールとその周辺国では、喫緊の被害者救出だけではなく、これからの復旧・復興にも大きな困難が伴うのではないかと危惧されます。私は募金する程度の支援しかできませんが、現地の方々の暮らしが少しでも安定することをお祈りします。

毎年書いているような気がしますが、4月から5月は年度の変わり目で前年度と当年度の業務が錯綜する時期でして、特に震災後の業務の増加もあってGWも仕事をするのがデフォとなっております。という状況ではありますが、以前のエントリで予告していた震災の記録について、仕事の合間で書きためていたエントリをアップしようと思います。ただ、今回はいわゆる「社会的弱者」と呼ばれる方々の記録ということもあり、本の記述のあちらこちらに左派的記述が散見されまして、個人的には全面的に賛同できる内容ではありません。まあ、拙ブログも見る方によってはサヨク的と思われているようですが、私自身は「左派的な思想を否定はしないけど、左派の方法論は使い物にならないと考えて」おりますので、特に弱者を守るためには強者である「国」とか「大企業」を批判しなければならないという安易な「日本的」左派の方法論には何重にも眉につばをつけて読むようにしております。もちろん、そのような主張であっても、「役所の事業について深刻な利害を有する関係者からの利害表明は、それが誤解に基づくものであっても必要と考えております」ので、今回取り上げる本のそうした部分は貴重な証言として受け止めなければならないものと考えております。

被災弱者 (岩波新書)被災弱者 (岩波新書)
(2015/02/21)
岡田 広行

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こちらは宮城県内の被災された地域の状況をつぶさに取材したもので、役所などの公的支援が十分に行き渡らない方々の現状が「可視化」されていきます。

 筆者が本書を執筆するきっかけをくれたもう一人は、第1章で紹介する宮城県気仙沼市在住の村上充さんだ。
 地震も被災者である村上さんは、気仙沼市の仮設住宅93カ所のうち40カ所以上を自主的に訪問し、手弁当で住民の困りごとの解決に尽力してきた被災地でも希有な人物だ。仮設住宅の自治会長から頼りにされる村上さんの元には、市役所に依頼しても解決されない難題の多くが持ち込まれてくる。しかし、いくら問題解決に汗をかいても、村上さんの活動は行政や地元医療界から公式に認知されることはない
 チーム王冠や村上さんのように、被災者に寄り添いながら、長期にわたって活動を続けるボランティアは被災地でも少ない。
 筆者は、問題を可視化する彼らの能力に驚嘆するとともに、彼らによる取材協力を通じて、被災がいまも続いている事実を強く認識した。
(中略)
 取材を進める中で、仮設住宅では高齢者の認知症が進み、世話役を務める住民が右往左往していた。津内浸水区域では、資金がないために住宅の修理が終わらない高齢者、復興事業によって住み慣れたわが家の立ち退きを迫られている在宅被災者がいた。みなし仮設住宅では、震災前のような安定した仕事に就けず、転居の見通しが立たない働き盛りの男性にも出会った。災害危険区域に指定されたために、生活基盤である集落の崩壊に見舞われた被災者もいた。いずれも震災から4年がたとうとする現在のことである。
岡田『同』pp.ⅹ-ⅺ
以下、強調は引用者による。

「はじめに」の部分で早速違和感のある記述が出てくるのですが、「公式に認知されることはない」というのはややミスリードではないかと思います。本書で指摘されている問題については、行政も地元医療界も当然認識している(はず)であるとしても、ただちに行政が対応できるかはまた別問題です。つまり、その問題を行政が取り扱うべき課題となるためには、法令にその根拠を求めた上でその解決のために予算をつけるというプロセスを経なければならず、そのプロセスの中で、その対象から外れてしまうものが少なからず生じているというのが実態ではないかと推測します。もちろん、全ての課題を行政が把握することの困難さはあるとしても、では行政が把握した問題を全て行政が対応するかといえば、そこには法令や予算などの手続き的にクリアしなければならないハードルがあるわけです。それが法律の留保の考え方に基づく法律による行政の原理でして、これをなし崩し的に行うとそれはそれで大問題に発展する可能性もあり、行政として慎重に手続きを踏むのはやむを得ないことだろうと思います。

さらにいえば、行政が対応しようにもマンパワーが絶対的不足していて手が回らないという状況があるわけでして、まあそれもこれも突きつめれば、行政の対人サービスという現物給付を嫌う住民の選好の表れということもできます。財政政策とか再分配とかを重視すると自称される経済学方面の方々は、何かというと給付金やら給付付き税額控除(負の所得税)とかおっしゃるわけですが、対人サービスが供給されなければいくらマネーがあっても購入することはできないところでして、被災された地域の状況はそれを如実に物語っているといえましょう。

ただし、これはあくまで平常時における行政の業務の進め方についてであって、震災のような緊急時にはそれがうまくいかない事態もありえます。というより、本書で取り上げられているのは、そうした緊急時の対応がうまくいっていない方々、特に「在宅被災者」となっている方々です。

支援対象外の被災者

 「在宅被災者」(在宅避難者、自宅避難者ともいう)の存在をご存じだろうか。
 今回の大震災では地方自治体が防災計画であらかじめ指定していた避難所(指定避難所)の多くが津波で被災し、かろうじて残った避難所も被災者であふれかえった。そのため、遅れてたどりついた被災者は避難所に入れてもらえなかった。身内に障害者や要介護者を抱えた被災者の中には、避難所の劣悪な環境に耐えられずに浸水した自宅に戻った人も少なくなかった。そうした「在宅被災者」は、津波被害を受けた自宅の二階などで電気や水道もない生活を数カ月にわたって余儀なくされた。
(中略)
 しかし、この厚労省の通知では支援の方策が不明確だったため、市町村の対応は大きく分かれた。多くの市町村は形の上では在宅被災者も食糧支援の対象としたものの、現場では避難所に取りに来なければ渡さないという対応がされた。町内会への配布などを通じて津波震災区域に届けた例もあったものの、町内会長が死亡していたり、避難などで連絡が取れなかったりする場合には、在宅被災者は食べるものに窮することとなったのである。
 宮城県南部の山元町は震災直後に浸水区域を「危険区域」に指定市、住民の居住や立ち入りを制限した。身内に障害者を抱えて危険区域での生活を余儀なくされた住民から食糧支援を求められても、町は自治会長の了承がないことを理由に食糧の配布をしなかった。
岡田『同』pp.48-49

チホーブンケン教(チーキシュケンでもチホーソーセーでもいいですが)の皆様におかれては、地元の市町村が国の通知に基づいて市町村が独自に判断したこの事態についてどのようなご認識なのかご意見を拝聴したいところですね。まあ、「自己責任論が世論の支持を得るようになって初めて地方分権の議論が進んだという時代背景を考えれば、チホーブンケンの旗を掲げる限り自己責任論からは逃れられない構図になっているわけで、被災自治体に自己責任を押しつけてしまう現実よりも、チホーブンケンという理想が優先されている」現状では、それも「中央ががんじがらめに縛っているから地方が誤った判断をするんだ」とかいうよくわらかない理屈で批判されそうですが。

本書の記述にはややミスリーディングではないかと思われる部分もありますが、本書では前述の「公式に認知されることはない」という状況についての説明もあります。

 震災を生き延びた後、仮設住宅や復興公営住宅での多数の孤独死を生んだ阪神・淡路大震災の教訓から、厚生労働省は東日本大震災に際して、高齢者などの災害弱者への見守りの仕組みを新たに設け、これに基づいて気仙沼市では被災者生活支援事業として四つの委託事業を実施、100人以上のスタッフが日常的に見守りや孤立・引きこもり防止の活動に従事している
(1)応急仮設住宅入居者等サポートセンター活動(地域支え合い体制づくり事業)
(2)震災被災地域高齢者等交流推進事業活動(緊急雇用創出事業
(3)震災被災地域高齢者等友愛訪問事業活動(緊急雇用創出事業
(4)「絆」再生事業(社会的包容力構築・「絆」再生事業)
(中略)
 だが、これだけの布陣にもかかわらず、住民からは支援事業そのものが「今ひとつ物足りない」(仮設住宅の自治会長)という評価が多いのも事実だ。
 実は前出の女性・男性いずれも、サポートセンターなどのスタッフが見守りの対象としていた。スタッフは本人への戸別訪問や仮設住宅の住民からの聞き取りで把握した情報を、「地区支援者ミーティング」や「仮設住宅等訪問事業打ち合わせ会」、市の関係各課との「サポートセンター長連絡会」などで報告し、共有している。
 反面、身の回りの世話をしていたのは仮設住宅の自治会長や見守り役・世話役を買って出た女性だった。前出の男性の場合は、見守り役の住民が食料を届けたり、病院につれていったりしていた。本来であれば、何らかの公的福祉サービスにつなげられるべきだと思うが、ケアマネジャーがつくこともないまま、病院から退院していた。それが原因で、要介護認定の更新手続きも放置されていた。問題を抱える被災者に十分な支援が行き届かない現実がある。
(中略)
あくまで(2)〜(4)のスタッフが集めた情報はサポートセンターが「総合相談窓口」となり、高齢者対応については地域包括支援センターに、行政対応については保健福祉課に提供してそれぞれの持ち場で具体的な解決を図ることになっている。その際にサポートセンターは問題案件を「かかえ込まないこと」と明記されている。
 つまり、見回りで見つけた問題点はサポートセンターにまずつなぐ。実際の運営に際して、「毎週木曜日に開催している会議において、情報を共有する」「行政で関わる人をすみ分けし対応する」としており、明確なラインにもとづいた対応に徹することが求められている。行政の委託事業である以上、こうした仕組みには合理性があるのかもしれないが、古屋医師のいうようにマンパワーが不十分な場合には早急な解決が必要なケースであっても後回しにされるリスクをはらんでいる。また、財政上の理由などで、生活困窮者を生活保護制度につなげるインセンティブが働きにくいという問題もある。見守り活動にかかわるスタッフ自身は住民から相談を受けてもその場で問題解決に動けないというジレンマもはらんでいる。
岡田『同』pp.4-8

4つの見守り事業のうち2つを緊急雇用創出事業が担っているところですが、緊急雇用創出事業の実務経験からいえば「マンパワーが不十分な場合には早急な解決が必要なケースであっても後回しにされるリスク」というのは逆ではないかと思うところです。つまり、そもそも国も地方も平時からマンパワーが足りない状態であったところに震災が発生し、当然のことながら震災対応に割くだけのマンパワーが足りないから緊急雇用創出事業で経験の有無を問わずに雇用したというのが実態だろうと思います。経験の有無を問わないのは、「専門的な技能を持つ方を雇用する事業を認めてしまうと、専門的な技能を持つ方以外の雇用の機会が制限されてしまうことになって、雇用の場を失った方のための雇用機会の創出という緊急雇用創出事業の目的から外れてしまう」からですが、そうした経験のない方に過重な責務を与えない実務上の工夫が「サポートセンターは問題案件を「かかえ込まないこと」」だったわけです。そうした手続き上の制約を取り払うためには、マンパワーとその人件費(その業務を担うための職業訓練経費を含む)を賄う財源を拡充することが不可欠でして、そうしたフローの再分配の財源としてフローの税収が必要となるのですが、国債というストックで賄えばいいという上げ潮な方々に阻まれているのが現状といえます。

と、ここまで反論めいたことばかり書いてしまいましたが、本書ではこうした行政の制約を目の当たりにして「地域コミュニティ」が強調されていて、これは大変重要な指摘だと思います。行政のマンパワー不足や制約によって行政の支援が届かない「被災弱者」には、NPOなどの外部の方による支援も有効ですが、日常生活で接する機会の多さではやはり同じ地域に住んで同じような生活をしている近隣住民にはかないません。ただし、その生活の距離の近さを嫌う方もいますし、障害者や要介護者を抱えた家族はなかなか地域に溶け込むことができないという現実もあります。

 被災者が安心して暮らすことができない現状をどう考えるべきか。
「石巻住まいと復興を考える連絡会議」(石巻すまい連)の代表委員として被災者による住民組織作りを支援してきた佐立昭さんは、石巻の復興を困難にしている要因として、(1)地域社会の崩壊、(2)石巻に相応しい復興政策の欠如、の二つを挙げている。「(1)については、住民の多くが仮設住宅などで避難生活を送ることにより町内会など残された地域コミュニティの機能が失われている。(2)は、持ち家率の高さから自宅再建を望む被災者が多い中で、十分な支援の手立てがない」(佐立さん)。道路建設などの復興事業が進む中で問題はさらに複雑化しているが、行政の対応は後手に回っている。
 住まいの問題の解決こそが生活安定のよりどころだが、そこにたどりつけないことに多くの被災者が苦しみ続けている。
岡田『同』pp.191-192

行政の対応が「後手に回っている」という指摘と、「地域コミュニティの機能が失われている」という指摘の関係は、行政の支援が遅いから「地域コミュニティ」の機能が復活しないという趣旨と思われます。「行政が支援する地域コミュニティ機能」という、一見すると矛盾しているような対応が求められるのは、特に行政による再分配機能が貧弱な地方の課題を示していると理解するべきではないかと思うところです。そして、そこで地域コミュニティの形成を阻んでいるのは、行政の支援の不足だけではなく、雇用を保障する代わりに会社に全人格的なコミットメントを求める日本型雇用慣行(それは日本の貧弱な再分配機能を補完するものでもあります)でもあることにも目を向けるべきだと思います。
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