2015年02月22日 (日) | Edit |
前回エントリで取り上げた「発達障害」とか「発達凸凹」の傾向がある方の就労についての補足になりますが、私自身も「発達凸凹」の傾向がある程度当てはまるだろうとは思うものの、幸いにも(小さな困難はありますが)それほど大きな問題を起こすことなく仕事ができているのには、公務員という仕事の特性もあるのだろうとも思います。というのも、最近はネット上でも「発達障害」とか「発達凸凹」の傾向がある方についての関心が高いようで、「最近になって増えてきた、発達障害を考える。「自己診断付き・学習障害や症状解説など」」というサイトで「向いている職種」の1つに公務員が挙げられていまして、なるほど私の仕事もそれなりに適性があるということかもしれません。まあ、これをどうとらえればいいのかちょっと難しいところもありますが、特に地方自治体での公務員の仕事は定型的な業務が占める割合が大きいという面もあるでしょうし、「発達障害」という言葉が一般的になる以前は職員の一定割合はそのような傾向があることを前提として、そうした職員でもできる業務を寄せ集めた部署を用意していたということもできそうです。実際、役所の業務ではどの部署にもいわゆる「庶務」担当が置かれていて、各部署の経理や労務などの定型的な業務を一括して担当する職員が必ず一定割合いたものです。

しかし、その流れが大きく変わるきっかけとなったのがいわゆる2001年(平成13年)度の「地方財政ショック」(当時は「交付税ショック」という言い方だったと思いますが)ではなかったかと思うのですが、実際にはバブル崩壊後に不採算部門の切り離しを進めていた民間の動きに倣うように業務のアウトソーシングが進められていて、それが「地方財政ショック」で一気に加速したというところでしょう。具体的には、「「まずはムダの削減がなければ負担を受け入れるわけにはいかない」という理屈でもって「まず間接部門が率先して人員を削減する姿勢を見せざるをえなくな」ったわけでして、「確かにそういった間接部門には処理能力は高くても対外的な交渉能力が低かったり、役所の掟に精通している以外にこれといった取り柄のない職員もいました。そういった職員が「現場にも出ないで役所の中で座っているだけのムダな人員」とされるのも理解できなくはありません」」が、結果として対人スキルに乏しくても処理能力の高い職員がその能力を発揮できる間接部門が削減されていくことになりました。

その例が、たとえば「総務事務の外注化によって削減される人員は20名弱なわけですが、その人員を企画的な業務に就かせることによって生産性を上げる*2のが狙いとのことです。一方で、後段の引用部によると、総務担当にお願いすれば済んでいたことを自分でやるという「サービスの低下」の影響はすべての県庁職員に及びます。これを「トータルで見ての効果は十分上がっていると静岡県では考えている」とする静岡県」ですね。リンク先のエントリでは、ルーチンワークのノウハウを蓄積した職員が職場にいなくなることによってほかの職員の負担が増えていることについての考察がないことを批判しておりましたが、それは同時にそうした分野で処理能力を発揮する職員の居場所をなくすことでもあったわけです。

さらにこの時期には、指定管理者制度によって公的施設の管理運営もアウトソーシングすることができるように制度改正されました。公的施設の管理運営も定型業務が占める割合が大きいため、対人関係スキルに乏しい職員や現業労務担当の職員が配属される部署だったわけですが、そのような部署も地方財政ショックによる人件費削減のかけ声の下、大々的に指定管理者への移行が推し進められました。でまあ指定管理者制度の問題点はWikipediaの指定管理者制度の項によくまとめられているとおりでして、

問題点

  • 制度導入の真の狙いが運営費用と職員数の削減にあることから、行政改革の面だけが過剰に着目される
  • (略)
  • 指定期間の満了後も同じ団体が管理者として継続して指定を受けられる保証は無く、選考に漏れるなどによって管理者が変更した場合は殆どの職員が入れ替わってしまうことも考えられる。また、指定期間が3~5年程度と短期間であれば正規職員を雇用して配置することが困難となるなど人材育成は極めて難しくなり、職員自身にも公共施設職員としての自覚や専門性が身につかない。
  • 指定期間の短さは人材育成と同時に設備投資や運営面での長期的計画も阻んでいる。特に教育・娯楽関連の施設では経費節減のために「場当たり的な運営」しか出来なくなることで集客力が減少し、それに伴う収益の減少によって必要経費も充分捻出できなくなり、結果として更に客足が遠のくといった悪循環に陥る可能性が高い。

指定管理者制度(wikipedia)
※ 以下、強調は引用者による。

という状況になっています。指定管理者制度もその実態は委託と同じですので、前述の総務事務センターなどの間接部門のアウトソーシングと同様に、長期雇用の普通の公務員はムダだからという理由で短期雇用の非正規職員に公的サービスの提供を低コストで行わせるものであり、ノウハウの蓄積を通じた職員の人材育成が期待できなくなるものではあるのですが、自治体にとっては行政改革として成果を誇るものとなるわけです。

全国で初めての「総務事務センター」を設置

  • 本庁では、平成10年度から、各部局の主管室において、職員の給与や旅費、非常勤職員の報酬費の支払などの総務事務を集中化してきました。
  • 平成14年度からは、さらなる事務の効率化を目指して、全国で初めて「総務事務センター」を設置し、集中処理を行っています。
  • また、職員の効果的な配置や経費の削減を目指し、アウトソーシング(民間委託)の導入を積極的に進めています

「総務事務の集中化」(静岡県)


前置きが長くなりましたが冒頭の障害者雇用の話に戻りますと、障害者雇用は公的機関が率先すべきとの考え方により法定雇用率が民間よりも高く設定されていますが、上記のようなアウトソーシングと指定管理者制度によって定型的な業務を行う部署が大きく削減されてしまい、障害のある方を職員として配置できる部署が少なくなっていることが大きな壁として立ちはだかっています。公的機関が率先すべきというのは趣旨は理解できるものの、特に法律上はジョブ型の雇用を前提としている地方公務員の採用に当たって、業務がなければ雇用できないのは当然の成り行きでして、障害があっても業務遂行できる職務内容や職場環境を外部化してしまった役所には、そもそも障害者を雇用する余地がなくなってしまっているわけです。

実は、茨城県ではこれを逆手にとって総務事務センターでの障害者雇用を進めているという記事が総務省発行の雑誌に掲載されています。

 茨城県では、県庁での障害者雇用を拡大するに当たり、障害者がその障害を負担とせずに活躍できる業務や職場の在り方が課題となっていました。そこで、県庁内の業務を分析・検討した結果、職員の給与・旅費の計算を始めとする総務事務については、パソコン等を用いたデスクワークが中心であり、障害者にもなじみやすい業務の1つであると考えられました。
 一方で、本県では、行政改革の観点から効率的な事務処理を推進するため、平成23年度から、それまで庁内各課で行っていた総務事務を集約し、一元的に処理する「総務事務センター」を設置することとしていました。
 総務事務センターの設置により、庁内から集約された大量の総務事務を処理する職員の確保が必要となることから、同所において障害者が働きやすい職場環境を整備するとともに、通勤負担がかからない勤務時間の割り振りや痛飲などに配慮した勤務日の変更を行うことで、積極的に障害者雇用を進めることとしました。
(略)
 このような総務事務の集約化組織に多人数の障害者を直接雇用しているのは、都道府県では茨城県が初めての取組で、現在は、身体障がい者7名、知的障害者1名、精神障害者2名の計10名が週29時間勤務の非常勤嘱託職員として勤務しており、総務事務センター全職員の一割強が障害者で構成されています。

「障害者雇用の促進に向けた取組(茨城県総務部人事課)」(地方公務員月報 平成27年2月号p.25)

茨城県が都道府県で初めて取り組んだとのことでして、民間で言う特例子会社の取組に類似した形で障害者の方が働きやすいように職場環境を整備した部署を設置したという点で、画期的な取組と評価するべきでしょう。しかしその一方で、週29時間勤務の非常勤嘱託職員というのは、法的にはいろいろありますが実務的にざっくりいえば、労働時間が週29時間を超えると常勤の職員との待遇の違いを規定した地方公務員法上、特に雇用終了の取扱いが面倒になるからですね。つまり、あくまで長期雇用を前提としない非常勤の雇用形態としていることが伺われまして、同じ記事で紹介されている「いばらきステップアップオフィス」でも、「職員が県での就業体験を活かして最終的に民間企業等に就職(一般就労(ステップアップ))することを目標としているため、雇用期間は最長三年としています(同p.26)」としているとおり、上記のような長期のノウハウの蓄積や人材育成は始めから想定外としているわけです。

もちろん、障害者であっても通常の業務をこなせるような知能やスキルを持った方もいらっしゃいますが、残念ながらそのような方が活躍できる場やバリアフリーな働き方ができる部署が、財政難で経費削減に追われる自治体の役所にはほとんどないことがより根本的な問題ではあります。さらにいえば、メンバーシップを前提とした日本型雇用慣行においては、量をこなすための担当者レベルの仕事の人事評価が低いため、「定型的業務=短期的雇用」という結びつきが強くなる傾向があります。

これらが組み合わさると、茨城県のように障害者を雇用する枠は作るとしても、そこで実際に働く障害者は短期雇用で定期的に入れ替える仕組みとし、長期的に障害者が働きやすい職場環境の整備までは至らないということになります。それは結局のところ、障害者を「メンバー」として長期に処遇する財源的裏付けがないからでして、この点は特例子会社でも同じような状況はあると思われるところですが、自治体の事業として「バリアフリー」とか「ダイバーシティ」とかのかけ声は威勢がいいものの、こと自分のところの職員として処遇できないというのは、「メンバー」として使い勝手のいい職員を雇用することを前提とした人事制度と財政民主主義の原則の下で、財源が確保できずに長期的な人件費を計上することのできない自治体の限界といえるでしょう。

まあ役所というのは「理屈」さえあればそれなりに予算をつけることはできるところでもありますので、精神障害者の雇用義務化についてではありますが、この荻野さんの指摘は重要な視点となると思います。

 さきほど、精神障がい者を雇用するメリットを三つあげたが、どうも、もう一つあるようだ。それは、職場が本来の職場の姿を取り戻す、ということ。うつ病の人には仕事の時間管理が、統合失調症の人には業務の定型化が必要、と書いたが、それは何ら特別なことではない。相手が障がい者でなくても、仕事を割り振る人間なら備えておくべきスキルとモラルに他ならない

理想は本人、企業、社会の「三方よし」

 そうだとすれば、不機嫌な職場が精神障がい者の雇用で変わるかもしれない。障がい者が、ぎすぎすしがちな職場を変える可能性があるのだ。一方、企業は精神障がい者にも雇用を生み出すことでより大きな社会的責任を果たすことになる。本人は仕事を通じて堂々と社会参加し、そのことが社会経済の発展を促進する。そうした「三方よし」が実現できたら、理想的だ。

 障がい者雇用というと、これまでは特例子会社をつくり、障がい者のみで仕事をしてもらう方式をとる企業も多かった。ところがそれは身体障がい者、知的障がい者向きのやり方だったのだろう。これから重要なのは、既存の職場と障がい者をいかに共存させるか、ということではないか

変わる?障がい者雇用:精神障がい者の雇用義務化がもたらすもの 2012/11/15(Recruit Agent 法人サービストップ > 中途採用ノウハウ > 採用の達人 > 業界トレンド/採用動向 >)

予算はもちろんのこと、「メンバーシップ」で使い勝手のいい職員を相手にしていた人事管理の限界に正面から向き合う覚悟が必要とされているわけです。
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