2015年02月11日 (水) | Edit |
しばらくこのフレーズを使っていませんでしたが、今日で震災から3年11か月が経ちました。この間に、hahnela03さんの今年最初のエントリで教えていただきまして、昨年末に震災時のCFWの観点から緊急雇用創出事業をまとめたJIL-PTの労働政策研究報告書で公表されていましたので、早速拝読しました。

結局本エントリをアップするまでに1か月以上かかってしまったのですが、本報告書の執筆陣の中には、震災直後にCFWを提唱された永松先生も参加されていて、提唱した当人としてどのようにまとめられているのか大変興味を持って読み進めました…が、うーむ、これは公表するのはちょっと早すぎたんではないかと思うほどの誤字脱字っぷりです。まあ内容がしっかりしていれば誤字脱字も差し引いて読めるかとも思ったのですが、ここでもやはり緊急雇用創出事業の問題点は華麗にスルーの方向のようでして、あちこち引っかかりながら読んだところです。

とりあえず、緊急雇用創出事業の説明は厚労省の実施要領から引用しているようなので、大きな間違いはなさそうと思いきや…

 「緊急雇用創出事業」は、もともと東日本大震災のために作られた基金事業ではなかった。緊急雇用創出事業は、2008年、リーマンショック後の雇用の下支えと労働者の生活防衛のための緊急対策として創設されたもので、地域の雇用失業情勢が厳しい中、失業者に対して一時的な雇用機会を創出するために作られた失業対策のための事業である。基金は、都道府県に対して「緊急雇用創出事業特例交付金」を交付し造成される。
 緊急雇用創出事業は、失業者の救済目的として雇用をつなげる目的の事業(「緊急雇用創出事業」)と、介護、医療、農林、環境等成長分野における新たな雇用機会を創出するための人材育成も包括した事業である「重点分野雇用創造事業」の2つで構成されている。東日本大震災に対応した「震災等緊急雇用対応事業(以下、震災対応事業という)」は、この「重点分野雇用創造事業」の基金を二千億円積み増し創設された。
p.8

「復旧・復興期の被災者雇用―緊急雇用創出事業が果たした役割を「キャッシュ・フォー・ワーク」の視点からみる―」(労働政策研究報告書 No.169 平成26年12月25日)

いやまあ、緊急雇用創出事業そのものが拡充やら要件緩和やらで訳が分からない状態となっていて事業名の順列組合せがヒドすぎるのでやむを得ないとは思いますが、整理しておきますと、基金事業の総称が「緊急雇用創出事業」であって、その内訳としての事業の「枠」が緊急雇用事業、重点分野雇用創造事業の2つに大きく分けられます。「枠」というのは実施の条件が異なる事業ということで、たとえば本報告書でも例示されている(p.9)とおり、緊急雇用事業では厳密に雇用期間は6か月1回更新で1年までですが、重点分野雇用創造事業では1年のみで更新は不可(いずれも被災求職者は除きます)という要件の違いなどがあり、国から示された枠の中でしか予算化することができません。この後者の重点分野雇用創造事業は、震災前の時点で「重点分野雇用創出事業と地域人材育成事業の二つに分かれて、さらに地域人材育成事業のうちには「働きながら資格を取る」介護雇用プログラム(pdfファイルです)という事業が含まれています。で、今回拡充されたのは、重点雇用創出事業と地域人材育成事業(「働きながら資格を取る」介護雇用プログラムを含む)からなる重点分野雇用創造事業というわけです。あぁめんどい」というように細分化が進んでいたところ、震災後さらに震災等緊急雇用創出事業などが追加されたという流れです。あぁやっぱりめんどい。まあ詳しくは国の事業実施要領をご覧いただければと。

ということで、上記引用部で「失業者の救済目的として雇用をつなげる目的の事業(「緊急雇用創出事業」)」といっているのは、正しくは「緊急雇用事業」ですね。まあこの辺は「ん?」と思いながらも制度そのものがめんどくさいからしょうがないかなと読み進めていたのですが、その後も誤字脱字が散見されまして、せっかく震災の取組が取りまとめられる機会だったのに誰か校正できなかったのだろうかと少し残念な気持ちになりました。その他とりあえず目についた誤字としては
・気仙沼市が岩手県になっている(p.61、p.140)
・団体名の表記が違う(×岩手連携復興センター→○いわて連携復興センター、p,103)
といったところですが、私もお会いしたことのある(と思われる)方の役職が違っていたり(まあイニシャルだけで断定はできませんが)するので、各事業における用語の使い方も怪しい感じがします。

このような誤字脱字程度であればまだしも、上記のような制度にまつわる誤った認識は議論の方向性を誤る原因ともなりかねないので、制度についてはより慎重に吟味する必要があると思います。これもとりあえず目についたところですが、緊急雇用創出事業で実施される事業は、より広く雇用の機会を創出するために専門的な技能をもつ方を雇用する事業は実施できないとされているのに、「被災地内で調達不可能な専門職等や、実家が被災地にあるIターンの人材などを雇用できるような工夫がほしいところである」(p.48)とさらっと書かれています。専門的な技能を持つ方を雇用する事業を認めてしまうと、専門的な技能を持つ方以外の雇用の機会が制限されてしまうことになって、雇用の場を失った方のための雇用機会の創出という緊急雇用創出事業の目的から外れてしまうわけです。その内訳の事業である重点分野雇用創造事業も、現在は技能をもっていなくても研修などの人材育成を行うことで「これからの」重点分野となる事業を実施するものであって、いま現在必要な事業を実施するものではありません。

つまり、震災であらゆる社会的機能が失われた状況でそれを代替するのは、そもそも緊急雇用創出事業の事業目的には沿うものではないということになります。もちろん震災直後の状況でそんなスジ論をぶっている余裕はなかったわけですが、その緊急事態で無理矢理実施せざるをえなかった状況を前提としてCFWについて語ること自体に無理があると感じます。それが拙ブログで「「インフラを含め、ある程度大きな政府を前提とした新しい公共と、それらと相補的な民間活動」といういささか込み入った条件がなければ、雇用機会を提供する事業すら実施できない」と述べている理由でもあるのですが、本報告書ではこうした制度の問題はほとんど触れられていません。これまでの取組のまとめとしてはそれなりに意味はあると思いますが、今後の取組の参考としてはそれほど見るべきところはなさそうというのが正直な感想です。

 緊急雇用創出事業は失業対策のための事業のみではなく、災害対応・復興過程で発生する膨大な業務について雇用を通じて支援する制度と位置づけなおすべきであり、具体的には以下の 4 点があげられる。
 第1に、緊急雇用を特例的な制度でなく、国内のあらゆる災害・危機事象において発動できる常設の制度としておくべきである。
 第2に、雇用情勢ではなく、事業ニーズに応じて事業の継続の可否を評価すべきである。ニーズの高い優れた活動については引き続き継続できる制度とすることが望ましい。
 第3に、賃金設定はその地域での賃金相場とすることが望ましい。
 第4に、ボランティアや民間事業所の活動との共存である。民間による市場では供給されず、かつボランティアや自治会など自発的組織だけに依存することができないような分野において限定的に実施することが望まれる。
 また、大量の人材を雇用することによって発生する採用や労務管理が発生する。より効果的に機能するためには、労務管理上の現場の負担をいかに軽減するかが大きな鍵となる。
 同事業で実施されたコミュニティ支援の仕組みは一定の普遍性をもっており、高齢化が進み自治体が機能しなくなっている地域など、平時の地域課題の解決につながるヒントをも与えている。今回の東日本大震災の経験から学ぶことは大きいと思われる。

同pp.20-21

上記の第1の点は、常設となると「緊急」ではなくなるわけでして、それはつまり公共サービスを民間に委託する事業を常設するということになるのですが、それなら既にアウトソーシングとか指定管理とかで実績があるので、あえて震災のために特別の枠を設ける必然性はないでしょう。これは第2の点にも関係しますが、事業ニーズに応じて実施するということはつまり、恒常的にニーズのある事業は「緊急」雇用創出事業などではなく恒久的な事業として実施すべきと考えます。それはもちろん、公共サービスの現物支給として機能するものとなり、拙ブログで再三述べているような雇用創出効果を伴う再分配政策の拡充につながることになります。第3の点については後述しますが、第4の点については上記のとおり「「インフラを含め、ある程度大きな政府を前提とした新しい公共と、それらと相補的な民間活動」といういささか込み入った条件がなければ、雇用機会を提供する事業すら実施できない」ということを指摘されているのだと思います。

で、第3の点の賃金水準については、本報告書で興味深い指摘がありまして、

 このように考えると、緊急雇用の真の成果は失業者を減らしたということにあるのではなく、むしろ雇用の流動化を促進する点にあると考えるべきである。被災地に一時的に発生した余剰労働力を動員し、様々な組織が緊急事態に対処するための組織構造の変化を後押ししたという部分を評価するべきなのである。
 そしてそれは、たまたま東日本大震災でそうであったということを意味しているのではない。緊急雇用はもともとリーマンショックという大規模な経済変動に対処するために創設された。大規模な経済変動においても、ダインズとクアランテリが指摘した組織的適応は多くの場面で求められている。例えば平成金融危機の発生により1997~1998年にかけて日本では自殺者が約 35%増大したことが指摘されているし(澤田・上田・松林 2013)、2008年のリーマンショックにおいては、路上生活者が街にあふれ、その支援活動が活発化した。家計収入の減少を補うために主婦が労働市場に参入したため、保育ニーズが急上昇し、待機児童問題が深刻化したことなどは記憶に新しい。こうした社会的な問題に様々な組織が対応できる環境を構築する上で、緊急雇用はやはり重要な政策ツールとなり得ると予想される

同p.84
※ 以下、強調は引用者による。

これはまさに実務上の問題となっていた点ですね。つまり、流動化されるべき雇用が適切に事業の対象となっているかについては、緊急雇用創出事業ではまったくコントロールできないところでして、結局雇用の場を失って生活の糧を求めている方にはほとんど効果がないというのが震災前から問題となっていて、「短期雇用という巧妙な仕組みを活用しながら、既存の正規職員に求められる仕事上のハードルを維持して、長期的な業務経験によって培われるスキルを擁する正規職員の仕事を守るのが緊急雇用創出事業ということもできる」わけですね。震災の際も、「緊急雇用は期限の定めのある「非正規雇用」ですので、日本の場合は家計補助的な女性や若者が主に就労することになりますが、被災地で人材不足が深刻なのは水産加工業などの震災前には女性が主に就労していた業種」という状況だったわけでして、緊急雇用創出事業によって流動化されたのは、あくまで短期雇用(とそれを担う家計補助的な主に女性労働者)であったといえましょう。それをもって「社会的な問題に様々な組織が対応できる環境を構築する上で、緊急雇用はやはり重要な政策ツールとなり得る」といえるかはかなり微妙なところではあります。

そして、そのような短期雇用を前提とした緊急雇用創出事業における賃金水準は、日本型雇用慣行における外部労働市場に応じて決められることになります。もっと具体的に言えば、県や市町村が本来行うべき事業の実施を民間事業者に委任するという委託事業の趣旨からすれば、県や市町村の外部労働市場、つまり臨時職員や非常勤職員の賃金水準を基準とするのが自然でしょう。まあこういう話をすると「公務員は最低賃金で働け」とか「民間に合わせて賃金水準を下げるべき」とおっしゃる方もかもしれませんが、官製ワープアを生み出す可能性については慎重に考慮すべきだろうと思います。もちろん、役所の外部労働市場の賃金水準が「民間」より高いとしても、たとえばそれが「誘致企業にとって最低賃金の低い被災地の労働者というのは、「ほかに仕事がないから最低賃金まで買い叩ける」労働者でしかなく、それを超える待遇を求めようものなら、「そんなカネは払えない」といわれてしまうのが実情」という状況であれば、最低賃金のために人手不足となっている事業所を何とかすべきでないかとは思います。

もう一つ、本書で重要だと思う指摘がありまして、

 基金事業の使い方の「上手下手」は、具体的な計画を作り予算執行する自治体の手腕にかかっている。すなわち、①地域のニーズ、情報を獲得する力、②具体的に企画化する力、③事業開始後の運用の確認をしつつ、軌道修正させる力が必要となる。これらは、日ごろから行政がどれだけ地域住民と協働して地域づくりを進めているかに左右されるだろう。

同p.39

…うーむ、そんな自治体ごとに「上手下手」が分かれるようなCFWによって被災された方々の雇用の機会が左右されるのでは、何のための公共サービスかという気がします。拙ブログで地方分権とか地域主権とかに批判的なのは、こうした生活に直結するサービスの質が自治体(の担当者)によって異なるということに何の問題意識も感じられない点にあります。実際に被災地では刑事事件に発展するような問題が生じていて、金子先生からも厳しいご指摘をいただいているところです。

岩手県はともかく、福島県、宮城県における緊急雇用事業というのはすごいプロジェクトだったと思います。残念ながら、岩手県は大きければ大きいほど失敗しているという印象が強くあります。そのなかではここで取り上げられている@リアスのプロジェクトは成功している方でしょう(という評価をすると、釜石・大槌地区の友人に叱られそうですが)。もうちょっと、掘り下げて書いてもよかったんじゃないかな、と思います。

復旧・復興期の被災者雇用 2015年02月05日 (木)(社会政策・労働問題研究の歴史分析、メモ帳)

私が見聞きした範囲の印象論ではありますが、政令指定都市である仙台市を抱える宮城県や原発事故のために県庁が主体となって事業を実施した福島県とリアス式海岸に点在する小規模市町村が被災した岩手県とでは、事業実施をどのレベルで管理するかに違いがあったのではないかという印象です。つまり、宮城県は人口の多い仙台市を人員体制の整った仙台市役所に任せてその他の中小規模の市町村の支援に注力し、福島県は被災自治体が機能しない中で県が主体となって事業を管理したのに対し、岩手県は震災前に市町村や出先機関に権限を移譲した体制をそのままに出先機関や自治体に事業を任せ、任された出先機関や自治体ではほかに選択肢のないまま問題のある委託先に事業を委託せざるを得ない事案が発生したという面はあるように思います。まあこういう面についてはどこも触れたがらないでしょうし、私もあくまで印象論でしかないのでどこまで当てはまるか分かりませんが、もしこうした事業を常設することになるのであれば、その実施体制(委託事業とするか、誰が事業化するか、どのような事業メニューとするか等々)について慎重に議論することが必要ではないかと思います。
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