2014年07月27日 (日) | Edit |
やや旧聞に属しますがまたもや緊急雇用創出事業で「問題」が発生したと騒がれたようでして、報道を見ていると緊急雇用創出事業についての根本的な誤解は全く解消されていないようです。

DIOジャパン 復興装い補助金目当てか」(赤旗2014年6月11日(水))

 東日本大震災からの復興のために「人材育成事業」として次々と子会社を設立したものの、業務実態に疑問がもたれ、自治体が調査にのりだした会社があります。国の補助金と密接にかかわりながら業務を拡大してきた実態を追いました。(山本眞直)

 福島県いわき市で8日、「コールセンターへの委託事業を考えるつどい」が開かれました。40代の女性が「1年契約でしたが、継続雇用もある、との説明を信じて、一生懸命に働いたが1年で雇い止めされた」と、涙ながらに訴えました。

 女性が働いていたコールセンターは、DIOジャパン(本社・東京都中央区、資本金4・6億円)が2012年2月に立ち上げたいわきコールセンター。東北地方を中心に相次いで子会社のコールセンター14社を設立。その“第1号店”です。

 国の緊急雇用創出基金事業を活用して、企業などの電話対応業務を行うコールセンターをつくり、雇用を創出しようという「コールセンターオペレーター人材育成事業」の一つです。いわき市が実施し、同コールセンターに委託しています。

 いわきコールセンターの受託内容を見ると、委託期間は1年で、育成する人数は200人。委託金額は7億5000万円。人件費が中心で、研修費、物品のリース料なども公的補助の対象で文字通りの補助率100%です。

 DIOによる委託申請書には、こうありました。「いわき市への進出にあたっては、いわきコールセンターとし新規法人を設立する予定で、総合力あるコールセンター事業を展開し、地域雇用の確保に努めていきたい」

この部分だけでもいろいろと事実誤認があるわけですが、まず何度も繰り返しているように雇用創出事業そのものは委託事業であって補助事業ではありません。ただし、上記のとおり基金化した県から市町村にその原資を交付する際は、「県から市町村への補助事業」となりますので、ちょっとややこしいですね。図式的に言えば、財源の流れとして国→県は交付金、県→市町村は補助金として交付され、財源を交付された県または市町村において事業を実施する際は、県または市町村が直接雇用するもの(直営事業)と、県または市町村が民間企業等に委託するもの(委託事業)の2種類に分けられます。委託事業として実施する場合は、補助事業の交付申請とかの手続きではなく、公募等で委託先を決定して委託契約書によって事業を実施しますので、上記の記事にある「委託申請書」なるものは(通称として使用されているのかもしれませんが)形式的には有り得ない書類です。むりやり推測すれば、いわき市が事業を実施する際に公募しているはずですので、その公募に対してDIOジャパンが提出した企画提案書のことかもしれません。

でまあ、確かに財源の流れや事業形態が複雑なうえに変遷していて分かりにくいのはそのとおりでして、当初リーマンショック時に創設された際は単に「緊急雇用創出事業」だったものが、元々雇用情勢が厳しい地方の要請を受けて重点分野だの地域人材育成だのと拡充されて、震災後には「震災等緊急雇用対応事業」なる事業も追加されて何でもありの状況になっていました。厚労省のWebサイトに記載のある経緯を見ても、いかにこの事業がときの政権によって都合よく使われてきたかがよくわかる(厚労省担当者の怨念を感じますねえ)とおり、事業開始当初は「失業対策事業の夢魔」を避けるために「短期の簡易な作業に限って雇用を創出する」という事業であったものが、成長分野と期待されている重点分野とか地域ニーズに応じた人材育成のための研修を実施する事業が追加され、なし崩し的に自治体が失業者の雇用を確保するためのツールとして位置づけられるようになったわけです。厚労省のWebサイトでも、いつの間にか事業名から「緊急」の文字が消えていますが、「失業対策事業の夢魔」を避けるためにあくまで「短期の簡易な作業に限って雇用を創出する」事業であることには変わりありません。

こうして、自治体が失業者の雇用を確保する事業として雇用創出事業が位置づけられるにつれて、自治体で企業誘致に雇用創出事業を使いたいと考えるようになるのは自然な流れです。つまり、自治体が誘致したい企業に雇用創出事業を委託することで、企業が雇用する従業員の人件費を自治体が支払うことができるため、その企業が立地する際のコストが抑えられるとセールスするわけです。これに気がついた多くの自治体で、企業誘致のために雇用創出事業を使おうとしたと想像されるところですが、しかし「短期の簡単な作業に限って雇用を創出する」事業で企業誘致なんかしたら、短期の事業が終了した時点でその企業は撤退する可能性が高くなります。

実を言えば重点分野とか地域人材育成とか拡充される前に私の職場でも同じような話がありまして、そのときは上記の理由によりお流れになりました。まあそもそも、リーマンショックで業績が悪化して施設が過剰となっている事業所に、その余剰施設等を利用して失業者を雇用する事業を委託するという緊急雇用創出事業を、これから設備をフルに活用して企業を立地しようとする事業所に委託すること自体が矛盾しているわけで、「緊急雇用で企業誘致」がいかに筋の悪い事業であるかは明らかです。

しかし、今回問題とされているコールセンターの雇用創出事業は、その後に創設された「地域人材育成事業」で実施されたものでして、おそらく事業化する際に「コールセンター業務ができる人材を育成することによって、地域ニーズとして成長が見込まれる」とかいう理屈がつけられたのだろうと思います。とはいっても、所詮は緊急雇用創出事業の一種ですから、事業期間が終了すれば雇用が終了し、その企業が撤退する可能性は予想されていたはずです。それでも事業化されてしまったということは、「地域ニーズ」なるものについての地元自治体の見込みが甘かったとの批判は免れません。

まあ自治体の側の立場に立ってみれば、岩手県山田町での緊急雇用創出事業問題について「ほかの受託先がない自治体では、怪しいと思っていてもその受託先を頼る以外の選択肢はなかったというのが実態だろうと思います。…その代替手段が見つからないような震災後の非常事態にあって、多少の不正には目をつぶるという判断をせざるを得なかった状況があったとしたら、やはり制度の問題を看過することはできないと考えます」と述べたとおり、実態として背に腹は代えられないという判断があったのかもしれません。しかし、個人的には上記のとおりいくらなんでも「緊急雇用で企業誘致」はないでしょ?と思います。

結局、「地元企業との密な関係性が地元からも首長からも要求されていて、それに特化した人材を長期的に育成することが自治体の課題でもあるわけです。そしてそれが、震災後の企業支援に良くも悪くも影響している」のも事実でして、今回の事案は企業支援が悪い方に出た典型例ですね。

というわけで、「短期の事業で雇用の創出を図る」雇用創出事業としてきちんと事業期間に雇用が創出された限りにおいて、制度上の問題はありません。今回の事案が「問題」とされているのは、「緊急雇用で企業誘致」という安易な事業を実施した自治体(の企業誘致担当)の思惑の甘さにあるはずなのですが、自治体の花形である企業誘致担当と大ボスからなくしたいと言われる程度の雇用担当の力関係は歴然としてますから、企業誘致の理屈が優先されて、その尻ぬぐいをするのは雇用担当という構図は国も自治体も同じなのでしょう。

という状況を踏まえて報道を見てみると、いつものとおり制度の趣旨を全く理解しないで飛ばし記事を書き続ける朝日新聞は安定のクオリティですね。

被災地のコールセンター、撤退・解雇相次ぐ 助成で誘致(牧内昇平、佐藤秀男 2014年6月18日09時57分 朝日新聞)
 東日本大震災の被災地3県の自治体が、失業対策の国の助成金25億円を使って震災後に誘致したコールセンターで、事業撤退や雇い止めが相次いでいる。東京の運営会社が開設した10カ所で計900人以上を雇う計画だったが、現在は約350人まで減った。震災後約3年で多くの雇用がなくなる異例の事態に、厚生労働省も事実関係の調査に乗り出した。
(略)
 急拡大の背景には、税金を財源とする雇用創出基金が、チェック不足で使われてきた点がある。
 この基金は各都道府県に設けてある。DIO社に基金による研修事業を委託した市町は、各県の担当部署に事業計画を提出し、審査を受けた。
 県と市町の二重チェックを経ているようにも見えるが、岩手県雇用対策・労働室の担当者は「事業計画に明らかな無理がなければ通す。DIOは実績があり、あえて疑問は持たなかった」と話す。一方、ある自治体の担当者は「事業費は基金から全額賄われる。市の単独予算では通せない事業だ」と打ち明ける。
 雇用創出基金をめぐっては12年、岩手県山田町から業務を委託されたNPO法人の放漫な運営が発覚。町が法人の代表理事を相手取り、6億7千万円の損害賠償を求めて提訴している。
 基金を利用して研修しても、その後の継続雇用は義務づけられていない。厚労省の担当者は「基金の第一の目的は一時的な雇用機会を設けることだが、安定的な雇用につながることが望ましい。基金を管理する都道府県に対し、現状の報告を求めている」と話す。(牧内昇平、佐藤秀男)

いやだから、厚労省、県、市町の担当者がそれぞれ述べているように、市の単独事業ではない(からこそ補助事業になる)事業について、事業計画に明らかな無理がなく、一時的な雇用機会を設けることで「地域人材育成事業」としての要件を満たした事業が終了しているわけでして、その事業が終了した後に生じた「問題」について「急拡大の背景には、税金を財源とする雇用創出基金が、チェック不足で使われてきた点がある」ってどういう意味で書いているのか理解不能ですな。制度の趣旨を理解するつもりもなく、役所を叩ければ何でもいいという安直な記事を書いているマスコミの方に、「緊急雇用で企業誘致」という安直な事業を実施した自治体(の企業誘致担当)の思惑の甘さが見えないというのは、まあ両者とも似た者同士だからなのかもしれませんねえ。
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