2014年07月21日 (月) | Edit |
これもだいぶ前に読んでいた本ですが、前回エントリで取り上げた海老原さんの「日・欧米のいいとこ取り」に対抗して(?)、アメリカ側から見たいいとこ取りがコンサルの本で指摘されていたので、備忘録として(実は、ちょうど(といっても1か月以上前)にhahnela03さんも取り上げていたので取り上げようとしていたのですが、すっかり遅くなりました)。

本書の内容はhahnela03さんのところでリンクされているこちらの記事をご覧いただくとして、私が興味深く読んだのは、マネジメントや人材管理の分野で職務記述書によるジョブ型の働き方を徹底的に批判している部分です。その前に、アメリカのジョブ型の労働者がどのような境遇にあるのか記述された部分を引用します。

 コンサルティングの世界では、物事を迅速に処理する能力が評価されるため、ただ考えるなど、何の付加価値ももたらさない行為とみなされる傾向がある。しかしじっくりと考えた結果、私が思ったのは、「労働組合に入っている従業員は非協力的でいい加減」などと聞かされていたのとは反対に、ほとんどの従業員は問題点をよくわかっており、自分たちでも何とかしたいと思っているのに、彼らには業務のやり方を変える権限すらなく、疎外されているということだ。
 現場の従業員と経営陣は敵対関係にあった。労使契約交渉が暗礁に乗り上げ、相互不信が募ったあげく、関係が完全にこじれていた。私がいたときに経営陣の誰かが現場に顔を見せたことなど一度もなかったし、従業員のほうも決して上層部に現場の情報を提供しようとしなかった。どちらも相手側のことを、意地悪で、強欲で、思いやりのないバカな連中だと決めつけ、ひとりかふたりの目に余るほど身勝手な人間の名前を挙げて、揃いも揃ってひどいやつらだとののしった。
pp.73-74

申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。
(2014/03/26)
カレン・フェラン

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ジョブ型というのはエグゼンプトされる上層部以外の労働者の雇用形態のことですから、ここでいうアメリカの労働組合はジョブ型労働者の労働組合ということになります。アメリカの労働組合を構成する従業員は現場の問題点をよくわかっているものの業務のやり方を変える権限がなく、そのため経営陣と敵対関係にあり、双方が双方をののしるという険悪な状態に陥っていたわけです。まあ「日銀や財務省などの陰謀論を熱く語る方々の中には、一方で反原発とか脱経済成長とかの左翼的な立場の方々に対して「馬鹿な奴」とレッテルを貼って罵詈雑言を浴びせかける方も多い…反原発とか脱経済成長な方々が好む理屈も、「既得権益による陰謀論」とか「現場も知らない馬鹿な政府・役人」というレッテル貼りですね。向いてる方向が別々でお互いに敵視している同士であっても、持っている道具は同じものしかない」というのはどこぞの国でも同じなわけでして、古今東西立場が違っても結局同じ方法で罵り合ってしまうことには変わりがないのかもしれません。

拙ブログではこれまでにも経営学っぽい本を取り上げたことがあるのですが、『事実に基づいた経営』とも方向性は大体同じようです。つまり、フェファーとサットンが「戦略の問題と言う前に、本当に現在のビジネスモデルがきちんと実行されているかどうかをよく見てみる必要がある」と述べるように、計画やら数値目標やら業績管理やらは手段であって、それをどうやって実行するか、その実行の結果として意図された目的が達成されたかどうかが問題なはずですが、現状は決まり切った手法を提案して、その結果には一切責任を負わないようなコンサルが跋扈していて、それが批判されているわけです。

数値目標については、私も「現場レベルでは大手コンサル(とそのスピンアウト組)によるハンドブック系が幅をきかせる分野となっておりまして、まあ、有り体にいえばコンサルの商売道具」と感じているところですが、本書でも数値目標の弊害が指摘されています。

 だが問題は、システムで組織を指揮管理しようとしても、組織は人間でできていることだ。あいにく人間は人間であり、機械のようには動かない。それどころか人間は命令されたり管理されたりするのを嫌うため、成果測定システムに対して思いがけない反応を示す場合がある。
 このような測定システムから私が学んだことのひとつは、目標を決めて設定し、それについて報酬や罰則を設けると、必ずといってよいほどその目標は達成されることだ。しかし、残念ながらそのせいで、測定できない大事な目標が犠牲になってしまうことが多い。
(略)
営業になじみのある人なら知っていることだが、売上げの数値は毎四半期の期末にぐっと伸び、翌期の頭に落ち込むのが普通だ。というのも、毎回の期末の締め日までに何とか顧客から注文を取りつけようとして、営業が値引きやリベートなどの手口を使うためだ。値引きやリベートを実施すれば、当然ながら利益は減ってしまうが、ほとんどの場合、営業の成績は利益率では評価されないため、知ったことではない。

フェラン『同』pp.111-112

この部分に引き続いて、地域担当マネージャーが、取引先の販売代理店に必要数よりも多めに発注してもらって売上げ目標を達成して退職し、その翌々四半期に大量の返品をもたらした事例や、自動車修理チェーンが売上目標を設定したために、従業員が顧客の同意のないまま勝手に修理をして詐欺容疑や訴訟で業績が悪化した事例、大手銀行で行員の差押え件数のノルマを導入したところ、書類も精査されずに抵当権が行使された事例などが列挙されています。いやまあ、世は数値目標がなければ政策ではないくらいの勢いですが、そこで数値目標として掲げられなかった目標については誰がどのように管理するのか聞いてみたいものですね。

業績管理についてのこの指摘も、普段の職場でのやりとりが走馬燈のように蘇ります。

 つまるところ、評価基準や目標を使って社員を統率し、報酬や株を支給してやる気を出させようとする方法が、会社にとってプラスになるという証拠などまったくないのだ。それどころか逆効果であることが証明されている。
 多大な時間とカネと労力を費やして、職務等級のレベル間を統一し、パフォーマンス基準や必要とされるコンピテンシーを設定し、評価スケールやボーナス目標や給与目標を取り決め、所定の書式とプロセスを設けて自動化し、必要事項を記入したら、それをもとに会議で全体のすり合わせを行って社員を通常の分布曲線に当てはめ、評価スコアをめぐって議論し、評価スコアに応じて報酬を分配し、社員と面接を行って各自の調書と短所について話し合い、総合評価と報酬を通知するという一連のプロセスは、社員のモチベーションにも会社の業績にも、有害な影響をもたらしている。
 いったいなぜこれが経営のベストプラクティスとみなされているのだろうか? 企業経営の専門家が思いついた興味深いモデルに、経営コンサルタントが飛びつき、これはさっそく取り入れようと、実際にどんな結果を招くかなど知りもせず、メリットばかり並べ立ててクライアントを説得したのだ。たしかに、資料の上ではすべてがきっちりとして立派に見える!

フェラン『同』pp.164-165

この5月に地方公務員法が改正されて「能力及び実績に基づく人事管理の徹底」が導入されたところですが、民間労働者の方々いつか来た道をまた歩くことになるのですねぇ(この地方公務員法改正の矛盾については次号の『HRmics』に掲載される連載で取り上げる予定です)。

で、ようやく冒頭で取り上げた職務記述書の廃止の話になりますが、本書では業績や能力での管理ではなく、職務適正を重視すべきとして次のように述べます。

 もっと重要なのは、社員のキャリア開発が本人以外の者たちの手に委ねられることなく、社員自身が責任を持って自分のキャリアを形成していけることだ。社員は異動を申請できる。本人も会議に参加して自分の能力や興味について話し、最も適性のある職務を一緒に探すことができる。上司は部下のキャリア開発に関して責任を抱え込む必要はない。そもそもそれは上司の責任の範囲外のことなのだ。そのかわり、部下の業績を上げることに集中すればよい。それこそ上司が責任をもって行うべきことだ。
 業績や能力ではなく適性について話し合うことで生じるもうひとつの利点は、たとえ適性のある職務が見つからなくて会社を辞めることになったとしても、業績が悪いからではなく、ただ適性がないだけなので、本人が恨みに思ったり恥をかいたり、あるいはもめごとになったりする可能性が低いことだ。
 また、この方法を成功させるためには、職務記述書も廃止するべきである。しかるべき理由があって職務記述書を用意する場合もあるだろうし、以前は、私も作成した。けれども、職務内容を定め、細かい要件を規定してから、それに見合う社員を探すのは、職務内容を社員に合わせる場合に比べてはるかに生産性が低い。

フェラン『同』pp.237-238

いやまさに、海老原さんが「欧米型の「ピッタリな仕事」にあてはめる考え方は、わかりやすい。即効性も高い。ただ、日本型の利点で、職務を決めずにいろいろやらせていけば、自ずからできる仕事に行き着く。そうしてじっくり育てれば、習熟度も増し、見えなかった仕事までこなせるようになる」と指摘されるとおり、日本型の無限定な働き方にはデメリットもありますが、従業員の適性を見極めて組織としての生産性を高めるという点では、大きなメリットもあるわけです。ほかの本を読んだときにも、アメリカの労働者の実態として示される労働環境があまりにも日本と似かよっているということを感じたのですが、お互いにいいとこ取りをしようと試行錯誤をしているところなのかもしれません。
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