2014年07月21日 (月) | Edit |
というわけで、前回エントリに引き続きhamachan先生の『日本の雇用と中高年』で、個人的になるほどと思った部分を備忘録的に。

hamachan先生の前著『若者と労働』の感想の中で、「労働省の本音では、「日本はメンバーシップなんだから労働法制もそっちに合わせた方が素直だけど、今さら変えられないから判例法理に任せる」というスタンスだったのか、逆に「ジョブ型の法律なのになんで司法が勝手にメンバーシップに変えたんだこのやろう」というスタンスだったのか」というところが気になっていたところですが、本書の中にそれとなくそのスタンスが見え隠れているように思います。

産業構造転換への内部労働市場型対応

 雇用保険法自体は政策当局としては意図せざる政策転換という面が強かったのですが、その後に策定された経済計画は、政策思想の転換を明確に謳いあげるようになりました。
(略)
 ここで高らかに謳われた新たな雇用政策思想の背後にあるのは、いうまでもなく職務の特定が希薄で、使用者の命令によって様々な職務に従事することを当然と考える日本独自の雇用契約の発想です。職務限定型の雇用システムを有する欧米では、やりたくてもそう簡単にやれない政策です。もっとも因果関係としては、こうした雇用政策思想に基づく企業内部の教育訓練を通じた雇用維持施策が、社会全体に職務無限定型の意識を強化していったという側面もあるのかもしれません。
pp.53-56

日本の雇用と中高年 (ちくま新書)日本の雇用と中高年 (ちくま新書)
(2014/05/07)
濱口 桂一郎

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政策当局としては意図せざる転換ではあったのですが、それは日本独自の雇用維持政策としてすでに現場で実践されていたものに政策としてお墨付きを与えたという側面もあったのでしょう。現場で実践されていた人事労務管理の手法が制度化されていくという点では、本書でもそれにつながるような記述が何度か出てきます。たとえば、

 しかし、労働側は配置転換を受け入れるだけではなく、それに伴って労働条件が維持されることを要求し、実現していきました。この時期は経営側が職務給への移行を唱道し、それを労務管理の近代化と称していた時代です。賃金が職務によって決まるべきであるならば、配置転換によって移動した労働者の賃金は、転換先の職務によって定まるべきでしょう。しかし、それではどの職務に異動するかによって、労働者間で不公平感が生じます。この不公平感は、配置転換や合理化その者に対する労働者の反発を強め、実施を困難にします。どの職務に異動しようが、賃金はその労働者のそれまでの経歴の延長線上に位置づけられるという年功制を確保することによって、技術革新に伴う配置転換は容易に実行できたのです。
 日経連が職務給を熱心に唱道していたときに、傘下企業の労務担当者たちはそれが現代社会の要請に応えるものではないことを無意識のうちに認識していたといえるでしょう。近代的と称する職務給は、かえって生産活動の近代化の妨げになるのであり、捨て去るべきとされる年功賃金こそが、却って近代化に役に立つというパラドックスです。これがやがて大きな声となって日経連の賃金政策そのものをひっくり返すことになります。

濱口『同』pp.67-68

この年功制によって職務給の弊害を克服しようという理屈は、たしかに高度成長期に取り入れられたものですが、ドッグイヤーなどと称される最近でも十分に通用しそうな理屈です。というか、それこそが現在においても「六本木で働いていた元社長の個別的な見解が当然のことと受け止められる」素地を形成しているというべきかもしれません。

また、本書で私もうーむと唸らされたのが、いわゆる小池理論を引き合いに出して、内部労働市場における「知的熟練」の議論がある時期までは日本型雇用システムをうまく説明できたものの、まさに現場の労務担当者が近代化に役立つと認識していた年功制が維持できなくなるにつれて、むしろ中高年労働者の「知的熟練」の虚構が暴かれてしまうという第2章の展開です。これについてはhamachan先生ご自身が解説されているのでそちらをご覧いただくとして、ある理論がある特定の時期の社会情勢を説明できるからといって、それを普遍的なモデルとして政策を論じることの危険性については、モデルを多用する学問(まあ経済学のことですが)では十分に注意する必要があると感じた次第です。

で、本書の中心的なメッセージ(と思われる政策)については、本書の最後の方で「「ジョブ型正社員」とは実は中高年救済策である」(p.205)という節を設けて論じられています。

「追い出し部屋」などという奇怪な存在が可能である唯一の根拠は、そこに配転されても雇用契約上文句が言えないような労働者がその雇用形態にしがみついている点にあるのではないでしょうか。前述したように、雇用維持のために認められた広範な人事権が、排出のための間接的な手段として利用されるという皮肉ですが、とはいえ、労働者の側がその広範な人事権と表裏一体であるメンバーシップにこだわっている限り、(ついうっかり「辞めさせる」などと口を滑らしたりしない限り)その論理的帰結である配点を否定することができないという絡み合った関係にあるわけです。

濱口『同』pp.206


その処方箋については、海老原さんの「入口は日本型、途中から欧米型、という接ぎ木型の接地」をはるかに現実的と評されていまして、その海老原さんの現実的な処方箋がRIETIのスペシャルリポートとして公開されています。

新しい日本型雇用とは、キャリアコースの前半が旧来の日本型雇用で、中盤以降が欧米型のそれになるということが前章までお分かりいただけたと思う。
これを可能にするための法律(狭義のエグゼンプション)はそれほど事細かな規定を設けるわけではない。ざっと、以下のような要素になるだろう。
①インターバル規制(Ex.日 11 時間、週 35 時間)
②代償休日の適用拡大(Ex.インターバルが保てなかった場合および超過が月 40 時間)
③代償休日と有給の時季指定権を企業に持たせる
④年間労働日数に上限を設定(Ex.225 日)
⑤相応の熟練(Ex.10 年、またはそれと同等の能力)と高い収入(Ex.初任給の 1.5 倍以上)
⑥上記①~⑤を満たす労働者には残業代の支給対象から外せる。
法律で決めるのは、この程度となり、あとは各社の人事管理に任せることになる。その必要条件は以下のようになるだろう。
⑦異動・配転の事前同意制
⑧業績連動給
⑨職能等級を排し、職務(ポスト)制に
ここまでで日本型エグゼンプションはほぼ完成だが、規定を作ったとしても、残業は減らず、自律的な労働もできないことになれば、それは、ただの労働条件悪化となってしまう。
そこで、企業や個人が、スムーズに自律的な働き方を受け入れられるように、変化を促すための工夫を以下に一つ、盛り込んでおきたい。
⑩休日は、半日単位の取得を可能にする。
p.30

「RIETI Special Report 日本型雇用の綻びをエグゼンプションで補う試案」(海老原嗣生(株式会社リクルートキャリア・株式会社ニッチモ))」(注:pdfファイルです)

⑩はすでに平成22年度の労基法改正で一部法制化されているので、新たに法制化すべきは①〜⑥くらいでしょうか。これによって海老原さんは、「代休や有休を「半日」ですます社員が多々現れると、社内にはいつも休んでいる人が誰かいる状態となっていく。とすると、たとえば育児や介護などに直面する社員たちも、その雰囲気ならば、気兼ねなく早退や遅出をできるようになっていくだろう(p.31)」とされておりまして、その「社内にはいつも休んでいる人が誰かいる状態」というのが職務が明確に定義されたジョブ型の職場の姿だろうと思います。その接ぎ木を落とし所として海老原さんが提言されるのは、「途中まで日本肯定型」です。

今までの「日本型全否定」から「途中まで日本型肯定」に

と、ここまで考えると、欧米型移入については、日本型の良さを殺さないための配慮が十分に必要となる。それを考えてみよう。
・強大な人事権をある程度は残す。
・若年期には日本型雇用を残す。
これらを両立するための方策として、「ある年代までは日本型、そうして習熟を積んだあとは欧米型」という接ぎ木型が落としどころだと見えてくるはずだ。(人事権についても、若年期は強い人事権と雇用保障、習熟者は自律と流動性、となる)。
つまり、今までの議論は「いきなり欧米型」「フルモデルチェンジ」だったものを、「途中から欧米型」とする。それは日・欧米のいいとこ取りとなるだろう。
その変化への促進を法的にバックアップするために、「日本型(習熟者向け)エグゼンプション」というものを提起した。
この施策により、ある年代以降の習熟者は、全員、エグゼンプションを経る。そこで、自律的に働き、時間管理を脱し、そして、雇用保障を緩く失うことを経験する。
そうして、そこからさらに昇進して、課長→部長と進む人たちも、洗礼を受けたあとなので、もちろん、自律かつ緩い雇用保障に慣れていくだろう。当然、彼らには職能等級的な部下なし管理職などはなくなり、欧米型の課長・部長といったポスト登用のみとなる。つまり、課に課長は一人、部に部長は一人という正常な状態になるだろう。

海老原「同」pp.38-39

海老原さんが指摘されるとおり、これを実現するための法改正はそれほど多くありません。逆にいえば、社内の規定をある程度整備することで現時点でも実行は可能です。メンバーシップ型にどっぷり浸かった経産省の研究所にこれが載っていることに多少の皮肉も感じますが、ホワイトカラー・エグゼンプションを目の敵にするような左派的思想をお持ちの方を含めて、ジョブ型正社員への接ぎ木について冷静な議論が進められることが望まれます。
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