2014年03月26日 (水) | Edit |
前回前々回の補足なのですが、こんなエントリを書くと「公務員批判を否定するのか」という反応をいただくところでして、かといってもちろん公務員を擁護しているわけでもありませんので、一方ではこういう反応もいただいています。

wxitizi
この人の地方公務員に対するイメージを悪くすることへの弛まぬ努力はすごいと思う。意図したものかそうでないかは別として。 2014/02/24
crcus
確かに"コームイン"とかの表記、自虐しているようでいて「俺たち公務員をバカにしている奴らってバカなんだよ」という意志が見えて、公務員に対する心象を悪くしているな。物言わぬ公務員は迷惑だろう。 2014/02/24

ちょっと趣旨が採りにくいところもありますが、「優秀じゃない公務員のことばかり書いていて、公務員が無能という印象を与えている」という趣旨であれば、拙ブログは「間接部門の軽視による組織運営の行き詰まりとか官製ワーキングプアの大量発生とかにつながっていて、「役立たずのコームインめ!」という感覚それ自体が「公務員バッシング」の典型」ということを繰り返し指摘しているところですので、ご指摘のとおりだと思います。「スーパー公務員でなければ公務員じゃない」という認識が広まれば、私のような下っ端で地味な内部事務に当たる普通の公務員はバッシングの対象から逃れる術がありません。私が拙ブログで想定している公務員は、決して華々しい成果をあげているスーパー公務員だけではなく、普通の組織運営を担っているような一般的な能力を有する公務員ですので、対外的には優秀じゃない公務員のことばかり書いているようにみえるのかもしれません。普通の公務員が間接部門や地道な分野で役所の仕事を回していることは、華々しい成果として評価されることがなくても、それは華々しい成果を支える組織内インフラとして必要不可欠のものであることをご理解いただけると幸いです。

あるいは、二つ目のコメントにあるように「公務員を自虐しているように見せかけて、それを理解できない相手を馬鹿にしていて、そんな姿勢が公務員に対する印象を悪くしている」という趣旨であれば、本望ではありません。私は地方自治体という組織全体のレベルの低さについては、自虐ではなく真剣に憂慮する事態になっていると考えています。それは、上記の内部事務に当たる公務員に限らず、華々しい成果を挙げる公務員にも当てはまります。その理由について、ヒントとなるエントリが黒川滋さんのところで掲載されていました。

2.要綱行政の改善と要綱の公開
(1)要綱行政の課題と問題
Q.地方自治法に明示されている条例、規則ではない要綱等が600もあって、内規にとどまっているうちはまだいいが、補助金や、人権を支えるための福祉の給付条件も要綱になっている。しかしその運用は役所が決めてしまっている。要綱とはそもそもどういうものか。
A(総務部長).自治体においては、判例では内規的なもの。これを背景に、個々の補助金等は双方同意の契約的なものとして位置づけられる。国の要綱はこれが行政処分になる
(2)要綱改定の手続きの確認
Q.そのような解釈であれば、人権である生存権、自由権、社会権を支える福祉分野の要綱を、役所が要綱をタテに給付を出したり切ったりすることは限界があるのではないか。少なくとも契約的なものであれば当事者集団との要綱の妥当性が評価されていなければならないと考えるし、それがなければ。今回の来年度予算案のように一方的に給付内容を削減して人権的に困る人がいたとすれば、元通りに給付せよと言って、市が臨機応変に変えることができる、ということになる。
そのような福祉国家における要綱の現実と、法解釈のずれを考えると、要綱改定にあたってはしかるべき当事者や有識者の意見や判断を求める必要があるてのばないか。
A(審議監).現在は庁内の手続きに留まっている。検討したい。
Q.市の総合振興計画などメインストリームのところでは市民参加が唱われているのに、人権に関わる行政施策のところで当事者との合意すらないというのは矛盾してしまう。
A.あるべき改定の仕組みについて検討したい。

3/19 わくわく号の改革、ハローワークの移転、樹木の剪定など聞く~一般質問から~(2014.03.21 きょうも歩く)
※ 以下、太字下線強調は引用者による。

これは黒川さんが市議を務める朝霞市議会でのやりとりですが、役所が日々の事務処理を効率的に進めるために、細かい解釈や手続きを明文化した要綱(呼び方は細則、要領、事務取扱等いろいろですが、ここでは行政庁内部の事務処理を事務レベルで定めたものを要綱と統一します)が欠かせません。その多くは法律に委任条項があり、政省令に委任があるものは中央官庁が立法意思に基づいて制定されますので、法令として一体のものとして施行されます。ただし、自治体が事務を行う法令では、「自治体が条例で定める」とか「首長が規則で定める」という委任条項も多く、必ずしも立法意思に基づかない規定が置かれる可能性が否定できません。さらに上記のような事務レベルの実務についての要綱は、その立法意思から乖離した条例や規則に基づいて規定される可能性もあるわけで、そうなると何が正しいのか分からなくなってしまいます。

その典型的な例が奈良県立病院事件でして、hamachan先生のところから奈良県知事の発言を引用してみましょう。

毎日新聞によると、奈良県知事が疑問を呈したそうですが、それがあまりにも低水準。

http://mainichi.jp/area/nara/news/20090424ddlk29040513000c.html

>「条例で給与や地域手当と計算基礎が決められている。算定基礎は国も同じで、条例で決められたことをいかんと司法が判断できるのか」と疑問を呈した。控訴するかどうかは検討中としている。

いうまでもなく、公立病院の使用者である地方自治体が自ら策定する条例で決めていることは、私立病院の使用者である医療法人が自ら策定する就業規則で決めていることとまったく同じであって、知事の発言は、

>オレ様が就業規則で決めていることをいかんと司法が判断できるのか

と中小企業のオヤジが吠えているのと論理的にはまったく同じなのですが、どなたかそのへんをきちんと助言する法務担当の地方公務員はいなかったのでしょうか。政策法務とか流行を追うのも結構ですが、まずはコンプライアンスから。

医師の当直勤務は「時間外労働」(2009年4月23日 (木) hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳))

この事案は、奈良県が条例や人事委員会規則で定めた労働条件が労働基準法に違反として問われた裁判でして、結果的には最高裁まで争って奈良県が定めた労働条件が労働基準法違反であったことが確定しています。その地裁段階の知事の発言が上記のようなものだったわけで、地方公務員の法務リテラシーの程度がうかがわれる好事例と言えるでしょう。

また,被告は,奈良県人事委員会が医師の当直勤務を断続的な勤務ととらえることを許可しているのだから,労働基準法41条3号に反しないと主張する。しかし,労働条件の最低基準を定めるという同法の目的に照らせば,行政官庁の許可も同法37条,41条の趣旨を没却するようなものであってはならず,そのために上記通達等(甲13)が発せられ医師等の宿日直勤務の許可基準が定められているのである。そうすると,奈良県人事委員会の許可も上記許可基準と区別する理由はなく,上記許可基準を満たすものに対して行われなければならないと解されるから,被告の主張は採用できない。

実体的な中身については今まで本ブログでも繰り返し書いてきたことなので、今更繰り返しませんが、法学的見地からみて興味深いのはこれが公務員事案であって、奈良県立病院の医師の「当直」を同じ奈良県人事委員会が許可するという「お手盛り」の仕組みであったという点ですね。
これは、そもそも民間と同じ労働基準法が適用されていながら、その監督システムが違うことの正当性という議論にもつながる論点です。



コメント欄
人事委員会事務局は全員県からの出向ですし、そもそも労働基準監督署的な権限を持つとの認識は全くないですね。給与の勧告しか考えていないと思います。また財政難だから仕方がないと当局はおもっとるようです。
投稿: NSR初心者 | 2009年6月11日 (木) 06時48分

県知事・被告側は主張をとりさげず控訴検討中とのことでしたが、どうなったんでしょうかね…
>一般職の地方公務員であり
 
 この辺の認識が違う、>>法律・条令を変えてやろうという勢いでしょうか
投稿: T | 2009年6月11日 (木) 08時25分

地公法58条の話ですよね? 労基法別表第1第13号の事業では人事委員会の監督で済ませられないはずですが…?
原告側が(その形では)スルーした、ということでしょうか…。
投稿: 臆病者 | 2009年6月17日 (水) 05時45分

そのとおりです。
私自身の文章でもそう明記しておりましたのに、
http://homepage3.nifty.com/hamachan/komurodo.html
>労働基準法の適用関係については、フーバーの怒りにまかせて全面適用除外としてしまった国家公務員法に比べて、地方公務員法では少し冷静になって規定の仕分けがされています。まずそもそも第58条で、労働基準法は地方公務員にも原則として適用されることと明記されました。上述のように、これは日本政府の当初からの発想でした。ただし、地方公務員の種類によって適用される範囲が異なります。地方公営企業職員と単純労務者は全面適用です。教育・研究・調査以外の現業職員については、労使対等決定の原則(第2条)及び就業規則の規定(第89~93条)を除きすべて適用されます。公立病院などは、労使関係法制上は地公労法が適用されず非現業扱いですが、労働条件法制上は現業として労働基準法がほぼフルに適用され、労働基準監督機関の監督下におかれるということになります。
投稿: hamachan | 2009年6月17日 (水) 10時17分

行政指導なら人事委員会ですが、労働基準法違反の摘発であれば司法警察員たる労働基準監督官が出てくることになります。
そこには地方公務員が独自解釈で釈明できる余地はありません。
禁固以上の罪を得て失職するまで、違法状態を続けるつもりなら、その対象を奈良県に求めるまでのことです。
奈良が早いのか、東京が早いのか、埼玉が早いのか、京都?滋賀?
全国の自治体で、競争していただくことといたしませう
投稿: Med_Law | 2009年7月14日 (火) 23時27分

奈良病院「当直」という名の時間外労働裁判の判決(2009年6月10日 (水) hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳))
※ 太字強調は原文。

という状況で、奈良県人事委員会は、「我こそが県立病院医師に関する労働監督機関である」という認識なんですね。地方自治体の事務には条例や首長の規則に委任されているものが多いのですが、その最たるものが人事委員会や公平委員会の規則でして、地方自治法や地方公務員法は、「人事委員会が規則で定める」とか「人事委員会の承認を得て」とかやたらに人事委員会に委任しています。ところが、その人事委員会が定める規則の基準とか、人事委員会が承認する基準は、「地方の実情に合わせる」というマジックワードでもって丸投げされているのが実態でです。つまり、人事委員会がいったん法律の読み方を間違えてしまえば、その誤った解釈がその自治体の労働基準として機能してしまう事態に歯止めをかけるものがなくなってしまいます。また、自治体で法規事務を審査する立場の法務担当も、自分の任用が雇用契約ではなく任用という行政行為だと理解していますから、労働法そのものについての理解が乏しい傾向があって、人事委員会の法律解釈には特にチェックが甘くなる傾向がありそうです。

2)について「情報公開決定」と回答してくるということは、公開されるべき文書があるということですね。どうも当局側は、本件において「医師に関して有効な労働基準法41条3号に基づく宿直許可申請書および許可書」が存在していると本気で思っているようです。
判決文からは、そのような文書の存在はうかがい知れないのですが、いったい何を出してくるつもりなのでしょうか。まさか奈良県の勤務時間規則をそのまま出してくるつもりとか。
奈良県にまともな法務担当職員はいないのでしょうか

奈良県立病院の「医師に関して有効な労働基準法41条3号に基づく宿直許可申請書および許可書」(2009年7月14日 (火) hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳))

もちろん奈良県職員も地方上級試験を合格しているでしょうし、学生時代には法律の勉強もしているはずなのですが、いったん仕事についてしまうと事務レベルの要綱を見るのが精一杯で、法令まで確認するということはなかなかないのが現状だと思います。これは自戒を込めてなのですが、日々の事務作業に追われていると、つい根拠法令まで確認するという手間を省いてしまい、後からよく考えると辻褄が合わない事務処理が慣例化されているという例は、これまでにも何度かありました。まあ私の場合は違法というまで深刻なものがなかったのが幸いですが、一歩間違えば奈良県立病院事件のように最高裁で違法状態であることが確定してしまう可能性もあります。

その意味では、窓口での対応が違法である可能性もある以上、それに対して疑問を感じた場合は根拠法令を基に異議を申し立てることが必要です。その過程で法律が規定している権利関係や利害調整の過程が明確になれば、住民と行政の両当事者にとって望ましいはずです。生活保護の手続きが違法かどうかについては様々な制約の中で判断しなければなりませんが、法律による行政の原理からすれば、問題は、実務のうえでどれだけ実現できるかという点にあるわけです。つまり、法律の規定が現実離れしているのか、その立法意思が現状とかけ離れていないか、現状が法律通りでない場合の制約は何か、法律の解釈は間違っていないか、その運用は解釈に沿ったものとなっているのか…という諸々の側面から十分に検討し、それらを踏まえながら日々の実務をルーティン化することが重要となるわけです。もちろん、それと同時に、そのルーティン化された実務と、その元となる法律の規定の乖離をいかに少なくするかという日々の実務の運用も同じくらい重要です。

我々のような下っ端の地方公務員は、こういう手間のかかる作業をこなすのが仕事なのですが、一般の方々にはなかなか理解されないだろうと思いますし、中央の官僚の中にすらあまりこうした実務を意識しない方も多くいらっしゃいます。ここに地方分権の大きなジレンマがあるわけで、私もその地域の実情に応じて住民意思を反映させるべき分野であれば地方分権すべきだろうとは考えていますが、そうではなく、全国レベルで脱法的な裁定行為が可能な分野や、人権を侵害してしまう分野で地方分権が行われれば、法の趣旨を逸脱した行政によって深刻な問題が生じる可能性があります。その辺を一緒くたにして闇雲なチホーブンケンとかいって、専門性が高くなく法律の解釈が怪しい自治体職員に丸投げしたりすれば、上記のような問題が生じてしまうわけです。

その現状でマスコミとして採りうる戦略は、七面倒くさい実務の現場の苦悩などではなく、一般の方が抱く疑問をいかにセンセーショナルに打ち出すかという点に集約されていきます。むしろ、そうした苦悩を解決するために「より一層の地方分権を!」とか言い出して、ますます自治体職員の怪しい法律解釈・運用が行われ、問題が発生していき…と、一部ではすでに悪循環に陥りつつあると思います。そうなると、さらに下っ端の公務員がこなしている地味なルーチンや運用の作業は理解されることがなくなっていきますが、それは同時に法律による行政の原理から逸脱した事務処理についてのチェック機能も低下させてしまいかねません。適正な法の運用のためには、行政がそれを解釈・運用するだけではなく、その運用について当事者の側から声をあげていくことが重要です。まあ、それが奈良県立病院事件では、労務管理を行う当局と、その労務管理に服する公務員と、その労務管理を監督する人事委員会が同じ県職員によって行われていたために、長年問題化しなかった原因ともいえそうです。
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