2014年03月16日 (日) | Edit |
例え話というのはあくまで例えであって、物事の一面を表すことはできてもその他の面では的外れになるのであまり多用するのも考え物だとは思いますが、とある方面を見ていて思いついてしまったのでメモ。

ある女性が営業の仕事で訪れた海沿いの町で、果物屋の軒先においしそうな地元産の果物を見つけました。お土産にしようと店に入った女性は、お洒落な内装の店構えが気に入ってしまいました。目的の果物を買ってから時間もあったので、ニコニコと愛想のいい店のおじさんと雑談していました。すると、何かの話の流れで、

「そういえばドラゴンフィッシュっていうの聞いたんだけど、何のことかな?」

なんて話になりました。

その果物屋のおじさんは、店で取り扱う果物や店の経営のことでは誰にも負けない自信があります。その探究心が高じて、本を読んではうんちくを語るので近所では物知りで有名でした。しかし、さすがの果物屋のおじさんでもドラゴンフィッシュとかいう言葉を聞いたことがあるような気がするものの、その姿を見たことはありません。果物屋のおじさんは、

「ドラゴンは竜、フィッシュは魚か…竜の魚…たつのさかな…ははあ、さてはタツノオトシゴだな」

と思いつき、

「お客さん、そりゃタツノオトシゴのことだね。あの姿はまさしくドラゴンフィッシュって感じだよなあ。実は、この辺ではタツノオトシゴはたまに食べるんだよ。見た目はちょっとだけど、あのしっぽも頭もうまいんだよね。そういえば、近所の魚屋でタツノオトシゴ売ってることもあるから、ちょっとのぞいてみたら? まあ、あそこの魚屋は古くさいし、特にそこのオヤジは口が悪くて嫌な奴なんだけどね。それに比べれば、うちの店では毎朝新聞で経済情勢と市場の動向をチェックしてるし、この間は偉い○○先生のセミナーにも行って勉強してきたんだよ。だいたいこのごろの経済政策はうんぬん…」

と得意気に話しました。その女性は、おじさんがニコニコしながらも経済学の用語を交えて詳しい話をし始めたので、自分の営業の仕事でも参考になると思って聞き入ってしまいました。ひとしきりおじさんの話が終わったところで魚屋までの道順を聞いて、御礼を言いながら果物屋さんを後にしました。

果物屋のおじさんに教えてもらったとおり歩くと、ほどなく魚屋が見えてきました。その魚屋はたしかに古い店構えでしたが、隅々まで掃除が行き届いていて並んでいる魚も活きが良さそうです。その女性は、ちょっと勇気を出してコワモテのおじさんに話しかけようとしましたが、果物屋のおじさんが口が悪いというそのおじさんに気後れしたのか、

「ドラゴンフィッシュっていうタツノオトシゴは食べられますか?」

と、ちょっと意味不明な聞き方になってしまいました。魚屋のおじさんはちょっと苦笑いしながら「ん? 何のこと?」と突然の質問に戸惑っています。女性は、おじさんが思ったほど怖そうでもないので気を取り直して、果物屋さんで話した内容を順を追って話しました。すると魚屋のおじさんは、

「またあの果物屋がでまかせ言いやがったか…あのね、ドラゴンフィッシュとタツノオトシゴは別物だぞ」

と話し始めました。

「ドラゴンフィッシュっていうのは、ナマズみたいな姿で中南米に生息している魚のことだ。タツノオトシゴは知ってるだろ。ほら」

と、乾燥したタツノオトシゴを出してきました。

「乾燥させて漢方の材料にしたりお守りにしたりするけど、食べ物じゃねえよ。あの果物屋みたいな物好きなら食うかもしらねえけどな。あっはっは」

と笑いながら教えてくれました。女性は目の前のタツノオトシゴを見つめながら、ニコニコと親切に教えてくれた果物屋さんの顔を思い浮かべました。いろいろなことに詳しいあの果物屋のおじさんが嘘をいっていたとは思えない。目の前の魚屋のコワモテのおじさんが言うことが、にわかには信じられませんでした。

「でも、漢方の材料になるということは、タツノオトシゴが食べられないわけじゃないんでしょう? だったら果物屋さんのおじさんが嘘をついているわけじゃないんじゃないですか?」

女性はちょっとムキになって反論してしまいました。すると魚屋のおじさんは、

「まあ、食えるか食えないかっていえば、そりゃ食えないことはないがな、味はしないよ。知らないくせにあれをうまいって人に勧めるのはちょっとどうかねえ。タツノオトシゴの卵ならご飯にかけて食うこともあるけど、果物屋のヤツも素直に知らないって言っておけばいいのになあ。あっはっは」

「おいしいかどうかなんて、食べた人の好みじゃないですか。そんなにいうなら私が食べてみます。そのタツノオトシゴください!」

女性はなぜか後に引けなくなってしまいました。魚屋のおじさんは苦笑いしながら、

「まあ、たまにいるんだよ。果物屋の言うことを真に受けてそうじゃないと気が済まなくなる人がね。分かった分かった、自分で食べてみな」

女性は早速、受け取ったタツノオトシゴを少しかじってみました。…たしかに味はしませんが、ほんのり潮の香りがしないでもありません。

「こ、これおいしいじゃないですか。カリッとしていてどこか潮の風味があって…」

「乾燥させりゃなんでもカリッとするさ。海で採ったのに潮の風味が全然しなかったらおかしいわ。それでも果物屋が言う通りタツノオトシゴを食べたければ、好きにすればいいよ。あまりほかで言わない方がいいがね」

「タツノオトシゴの卵なら食べるんですよね? タツノオトシゴの卵を食べてるんだから、タツノオトシゴを食べないっていうのも嘘ですよね?」

「タツノオトシゴのしっぽと頭がうまいって言ったのは果物屋だろ? 文句があるなら俺じゃなくてあいつに言いなよ」

魚屋のおじさんは相手にしきれないという様子で適当にあしらいました。女性は納得がいかない様子で、

「卵でも何でもタツノオトシゴを食べるって言ったのはおじさんですよ? 素人相手に意地になるなんて大人げないんじゃありません?」

と引き下がりません。魚屋のおじさんは諭すように言いました。

「自分が素人だと思うんだったら、誰の話を聞くべきかよく考えるんだな。あんたは最初ドラゴンフィッシュのことが知りたかったんだろ? タツノオトシゴを食べるかどうかなんて、果物屋の奴がでたらめを言わなきゃあんたにはどうでもいいことだったんじゃねえのかな。んで、今度何か分からないことがあっても、現物も知らないで知ったかぶりして教えてくれる奴がいたら、そいつはあんたをだまして利用しようしていると疑った方がいい。たまに息を吐くように嘘を言う奴もいるしな。まあ、ドラゴンフィッシュがタツノオトシゴじゃなくて、中南米産のナマズみたいな魚だってことが分かっただけでも、あんたにとってはよかったんだよ」



この話はもちろん、制度を知らずに制度を批判したり、財政状況(経済情勢ではありませんので為念)も理解せずに経済政策を論じる方々について感じる違和感をたとえてみたものです。思ったより長くなってしまったので余計なことも書いてしまいましたが、たまにはこんなのもありということで。
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