2014年02月17日 (月) | Edit |
岩手県山田町の緊急雇用創出事業で先週大きな動きがありました。

使途不明金問題、岩手・山田町がNPO告訴へ

 東日本大震災で被災した岩手県山田町から、被災者の緊急雇用創出事業を受託したNPO法人「大雪(だいせつ)りばぁねっと」(北海道旭川市、破産手続き中)で多額の使途不明金が見つかった問題で、同町は近く、県警に業務上横領容疑で告訴する方針を固めた。

 県警は告訴を受理し、強制捜査に乗り出す。

 関係者によると、法人の2012年度事業費約7億9000万円のうち少なくとも3000万円が、岡田栄悟・元代表理事の親族が代表取締役となっているリース会社に振り込まれており、岡田氏が私的に流用した疑いが持たれている。

 法人を巡っては、県が調査を行い、11、12年度の事業費計約12億2000万円のうち、約6億7000万円が不適切な支出だったと指摘している。

 法人側はこれまでの取材に対し、「不正な支出や私的な流用はない」と説明している。

(2014年2月3日11時51分 読売新聞)

この報道が出た直後に、このNPO代表は実際に逮捕されました。

「大雪」元代表ら5人逮捕 3000万円横領の疑い(河北新報2014年02月05日水曜日)


岩手県警に逮捕され、捜査車両に乗り込む岡田容疑者=4日午前10時30分ごろ、旭川市

 東日本大震災の緊急雇用創出事業の事業費を私的に流用したとして、岩手県警捜査2課と宮古署は4日、業務上横領の疑いで、事業を岩手県山田町から受託したNPO法人「大雪りばぁねっと。」(北海道旭川市、破産手続き中)の元代表理事の無職岡田栄悟容疑者(35)=旭川市=ら5人を逮捕した。

 県警は5人の認否を明らかにしていない。県警は同日、5人を旭川市などから盛岡市に移送。宮古署に捜査本部を設置し、役割分担や巨額の事業費の流れ、使途などを調べる。
 5人の逮捕容疑は2012年10月上旬、12年度事業の事業費約7億9000万円の前払い金3000万円を横領した疑い。山田町が3日、県警に告訴状を提出し、受理されていた。
 捜査関係者によると、5人は前払い金をリース会社「タレスシステムアンドファシリティーズ」(旭川市)の口座に移し、私的に流用した疑いがある。同社社長は岡田容疑者の義弟で、同じく逮捕された会社員大柳彰久容疑者(30)=旭川市=が務めていた。
 町の内部資料や河北新報社の取材によると、町は法人の請求により、12年8月28日に3000万円の支出命令票を稟議(りんぎ)し、9月4日に支出した。
 タレス社が設立されたのは翌5日。法人は振り込まれた金をいったん別口座に移した上で、10月9日にタレス社の口座に移した疑いが持たれている。
 タレス社は直後の10月10日、旭川市内に土地やマンションの一室を相次いで購入。関係者によると、マンションには岡田容疑者の母で、同じく逮捕された自称法人元職員岡田かおり容疑者(53)=旭川市=が住んでいるという。土地、マンションともに金融機関から融資を受けたことを示す抵当権は設定されていない。
 町総務課によると、法人は当時、前払い金の請求理由を「事業費が足りなくなった」とだけ述べ、具体な使途は明らかにしなかった。前払いは法人が請求する都度、請求通り払っていたという。
 町は11、12両年度に法人に事業を委託し、2年間の総事業費は12億2000万円に上った。
 3人のほかに逮捕されたのは、岡田容疑者の妻で無職岡田光世(32)=旭川市=、法人の現地団体元幹部の派遣社員橋川大輔(35)=千葉県市川市=の両容疑者。

◎問われる町の責任

 東日本大震災の巨額の復興資金が不明朗に使われた問題は4日、岩手県警の捜査のメスが入り刑事事件に発展した。NPO法人が被災地の混乱に付け込んだ事件は、全容解明へ一歩前進した。一方で、法人に事業を委託した岩手県山田町も、ずさんな運営を許した責任を厳しく問われそうだ。
 業務上横領容疑で逮捕されたNPO法人「大雪りばぁねっと。」(北海道旭川市)の元代表理事岡田栄悟容疑者らは震災直後の2011年3月下旬、山田町で活動を開始。水難救助技術の普及に取り組んだ経験を生かし、行方不明者の捜索や支援物資の配分などをした。
 同年5月に町から事業を委託され、無料入浴施設の運営も始めるなど事業費は膨らんだ。被災者約140人を雇用するまでになった。
 しかし、12年度の事業費を途中で使い切り、法人は破産。その後、橋川大輔容疑者が代表を務めるリース会社を通した無計画な備品調達や使途不明金が次々明らかになった。
 元従業員の中には「震災後の苦しい中、給料を払ってくれた」と法人に感謝する声もあるが、結局はつけを町に残した。ボランティアのイメージを悪くした罪も大きい。
 山田町の佐藤信逸町長は同日記者会見し「補助金を被災者以外に使った。言語道断だ」と怒りをあらわにした。
 ただ、町は岡田容疑者の経歴も確認せずに事業を委託。震災で混乱していたとはいえ、その後、対応を再考する機会はあった。町の危機管理の検証も求められている。

この事件については、昨年のエントリで

実務なんぞやったこともない有識者とかいう連中が高邁な提言をしようが、政治家連中が「新しい公共」なんてほざこうが、緊急雇用創出事業は委託事業であって、都道府県や市町村が実施すべき内容でなければ事業立案できないし、事業立案しても委託先が想定されなければまともな積算もできず予算要求は通らないし、運良く予算要求を通っても、委託先を決定するにはよっぽどの理由がなければ随意契約なんかできないし、総合評価方式による入札やら企画競争による選考委員会を開催しなければならないし、そのために膨大な量の資料と関係者の日程調整をして会場を確保してホームページにアップして、説明会やら問い合わせに対応して委託先を決定して、委託先が決定したら契約書を作成して事業の進行管理やら労働者の従事状況の確認をして、年度末にはすべての事業の書類をチェックして完了確認しなければならないんですよ。それをどうやって現存の職員でこなせというのでしょうか?

「古い公共」の手続(2011年08月21日 (日))

というような委託事業*2のノウハウや人員が不足していた役場とそれにつけいるNPOが震災後のドタバタの中で不幸にも手を組んでしまい、その問題が資金繰りの行き詰まりと従業員の解雇という最悪の形で顕在化したものといえそうです。結局は、「実務なんぞやったこともない有識者とかいう連中が高邁な提言をしようが、政治家連中が「新しい公共」なんてほざこうが」現実に問題は起きるわけで、震災後に膨大な緊急雇用創出事業を押しつけられたツケを被災地が後始末させられるしかないのでしょうか。
補助事業と委託事業(2013年01月06日 (日))


と書いておりまして、そのツケの後始末として地元県警が業務上横領の容疑でNPO代表を逮捕したということになります。「非常時だから柔軟に制度を運用すべき」とかおっしゃっていた方々に、このような問題が起きた場合の対処法についても小一時間ほどお伺いしたいものです。

「業務上横領という犯罪を犯したんだから、しょっぴけばいいだろ」という方もいらっしゃるかもしれませんが、罪刑法定主義をとる日本の刑法では「疑わしきは罰せず」ということになりますので、業務上横領の罪が立証されなければ何もお咎めはありません。実際に逮捕されたNPO代表の弁護士は

岡田元代表「マンションは融資の担保」と弁護士を通じて主張 (2014年02月08日 17:55 更新)

山田町のNPOの復興事業費を巡る横領事件で逮捕された岡田元代表が購入したマンションと土地は、「リース料金を得るための融資の担保の予定だった」と話していることが分かりました。
これは岡田元代表の弁護人がきょう県庁で開かれた記者会見で明らかにしたものです。岡田栄悟容疑者の弁護人によりますと岡田容疑者は町から振り込まれた3000万円を使ってマンションなどを購入した事実を認めているということです。しかし、購入したマンションなどは密漁監視機材のリース料金として、金融機関からの融資を受ける担保にする予定でだったと話していてます。その上で弁護人は岡田容疑者に横領の意思がなければ、マンション購入などに違法性はないと主張しています。

ということで、容疑を全面的に否定する主張をしているわけで、有罪となるかはこれからの捜査の行方によります。そもそも、有罪となっても別途民事訴訟で求められている損害賠償がそのまま認められるわけではなく、実際に使い込まれたお金が戻ってくるわけではありません。「現場の裁量に任せた柔軟な制度運用」などという絵空事が、復興構想会議などという高尚なお立場から震災対応のために激増した業務に加えて現場に押しつけられ、その結果生じた犯罪まがいの行為については結局現場の責任が問われるという、まあはじめから予想されていた事態が粛々と進行しているというところでしょうか。

この事態について、CFWの提唱者でもある永松先生がコメントをされています。

緊急雇用に疑問の声/補助対象外事業費 町が穴埋め(2014年2月7日 読売新聞)

 関西大学の永松伸吾准教授(災害経済学)は、「緊急雇用創出事業がなければ、被災地の人口流出は今以上に進んでいただろう」と事業の効果を認めた上で、「消化しきれない予算が付く中で、国が『復興を急げ、急げ』と突きあげてくる。どうしてもチェックが甘くなってそこにつけ込まれる」と話す。多くの職員が犠牲となり、膨大な復興事業の事務に追われる被災自治体にあわせた運用の必要性を指摘する。

 県から補助対象外とされた結果、町が穴埋めするなどした法人の不適切支出6億7000万円、元従業員と他の町民の間に生まれた「溝」――。被災者の生活を支えた同事業を巡り、重過ぎる負の遺産が残る。 (この連載は、NPO事件取材班が担当しました)

(2014年2月7日 読売新聞)

マクロの評価として「緊急雇用創出事業がなければ、被災地の人口流出は今以上に進んでいただろう」というのはその通りだと思うのですが、「膨大な復興事業の事務に追われる被災自治体にあわせた運用の必要性」はちょっと一般論に過ぎるのではないかと思います。いやだから、その「被災自治体にあわせえた運用」はどうあるべきかという点を何も考慮しないまま、リーマン・ショックの際に導入された緊急雇用の枠組みをそのままあてはめたことが、事務の繁雑さに起因する不正経理を招いてしまったわけですから。

永松先生がこのコメントについて補足するtweetをされているのですが、

Shingo Nagamatsu ‏@shingon72 2月8日
この記事に自分のコメントが引用されているが、若干ミスリーディングなので以下補足する。〈下〉重すぎる負の遺産 : 地域 : YOMIURI ONLINE(読売新聞) http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/iwate/feature/morioka1391524094431_02/news/20140206-OYT8T01441.htm?from=tw …
https://twitter.com/shingon72/status/432159565430280192

Shingo Nagamatsu ‏@shingon72 2月8日
(承前)緊急雇用創出事業があたかも無理矢理雇用を作るために実施されているかのような記述だが、それは必ずしも正しくない。多くの地域では、被災地機の復興に向けてなくてはならない活動をしている。まずはそのことを知ってほしい。
https://twitter.com/shingon72/status/432160133360017409

Shingo Nagamatsu ‏@shingon72 2月8日
(承前)本当か?と疑う向きは、3月7日、17日に雇用創出に関するシンポジウムを実施するので、ぜひ聞きに来てほしい。http://cashforwork.disasterpolicy.com/event.html  良い仕事いっぱいあります。これがなければ被災地の復興は進まないです。
https://twitter.com/shingon72/status/432161044211834881

Shingo Nagamatsu ‏@shingon72 2月8日
(承前)そもそも、被災地の人材不足感は本当に緊急雇用のせいなのでしょうか?実は被災地の求人倍率の上昇は、求人数の増加よりも、求職数の減少によってもたらされている部分が多いのです。緊急雇用が労働者を奪っているというのは、かなり誤解されています。
https://twitter.com/shingon72/status/432161909417054209

Shingo Nagamatsu ‏@shingon72 2月8日
(承前)その原因のひとつには、アベノミクスによる景気改善が大きいと思います。沿岸自治体では今もなお、人口流出が、速度は落ち着いてきたとはいえ、続いています。去年の今頃は宮城・福島が求人倍率全国一位、二位でしたが、今は東京など他地域に取って代わられています。
https://twitter.com/shingon72/status/432162342197927936

Shingo Nagamatsu ‏@shingon72 2月8日
(承前)そもそも、さっきの読売新聞の記事は、緊急雇用創出事業だから、りばあねっとのような不正を生んだということを何一つ論証していません。被災地には膨大な資金が国から投入されて、緊急事態につけ込んで不正経理を許したということが問題なのであって、緊急雇用の問題ではないはずです。
https://twitter.com/shingon72/status/432163193041862656

Shingo Nagamatsu ‏@shingon72 2月8日
(承前)そういうことを記者には伝えたし、緊急雇用が問題という記事にはコメントしないと伝えたはずでしたが、こうやって読むと、なんとなく読売の記事のスタンスを擁護しているように読めるよなあ。
https://twitter.com/shingon72/status/432163926092943360

Shingo Nagamatsu ‏@shingon72 2月8日
(承前)でも、私には抗議する気もない。別にこの記事がそれほど自分の仕事に大きな影響を及ぼすとは思っていない。そもそもりばあねっとを今更叩いてどうするのか。経験上、ネタに困って書いた記事だなと思うし、その程度の読まれ方しかされないことの方が問題だと思うけどな。
https://twitter.com/shingon72/status/432164789142302721

うーむ、いろいろな論点が混乱しているような気がするのですが、まず、CFWは被災して仕事を失った方に雇用の機会を提供しつつ、その労働力を災害復旧や生活支援などの復興につなげるというものであったはずで、それは緊急雇用創出事業とは全く別の事業フレームです。震災発生時にたまたまリーマン・ショックで導入された緊急雇用創出事業があったからCFWに活用しただけであって、だからといって緊急雇用創出事業がCFWを実施するために適切な事業形態だったとはいえないでしょう。

個人的にはむしろ、失対事業の夢魔を避けるために設計された緊急雇用創出事業などという(民間に対しては)委託以外の事業形態を認めない事業でCFWを実施したことが、この事件の小さからぬ原因となっていると考えます。つまり、受託先が確保されない被災地で委託事業による雇用創出を事業化した結果として、震災対応の業務に忙殺された被災自治体が素性も分からない受託先に頼らざるを得ない状況をもたらし、そのNPOがまさに悪質だったからこそ不正経理が行われたわけです。

もちろん、不正経理が行われる経緯を把握できなかった地元自治体や交付金を交付した国、補助金を交付した県の責任が皆無ということではありません。その過程では何度か是正のチャンスがあったはずです。しかし、ほかの受託先がない自治体では、怪しいと思っていてもその受託先を頼る以外の選択肢はなかったというのが実態だろうと思います。傍から見ればいくらでも批判はできますが、だからといって現に雇用されている住民がいて、不正を働きながらもそれなりに活動をしている状況では、その受託先を切って捨てたところで、そこには失業した住民と活動がなくなって放置される現場が残るだけです。その代替手段が見つからないような震災後の非常事態にあって、多少の不正には目をつぶるという判断をせざるを得なかった状況があったとしたら、やはり制度の問題を看過することはできないと考えます。

今回事件となったNPOは震災直後からトラブルが絶えなかった団体でもあって、その意味では巨額の委託契約を締結した被災自治体の不手際は責められてしかるべきだと思います。しかし、軽重の差こそあれ、震災後はさまざまな団体がしでかしたトラブルには枚挙に暇がありませんでした。震災からまもなく3年を経過する現在になって、そのようなトラブルが表面化しないとも限りません。実際に事件として問題が発生した現状においても、震災直後のトラブルの後始末はあちこちで行われているはずです。災害復旧や復興事業だけが震災対応の業務ではなく、いつ会計検査院とオンブズマン(とそれを大々的に報じるマスコミ)に責められるかと戦々恐々としながらそうした後始末に追われるのが、変わらぬ被災地の現場なのだと思います。

ついでに、緊急雇用が「被災地の人材不足感」の原因となっていることはほぼ事実だろうと思います。緊急雇用は期限の定めのある「非正規雇用」ですので、日本の場合は家計補助的な女性や若者が主に就労することになりますが、被災地で人材不足が深刻なのは水産加工業などの震災前には女性が主に就労していた業種です。アベノミクスの影響で景況感が回復しているはいわゆる機械の製造業であって、食料品の製造業は今も昔も海外との熾烈な原価競争のために低賃金であって、ほかに時給のいい緊急雇用のような雇用があればそちらに流れるのは当然でしょう。被災地の雇用情勢を議論するためには、もう少し丁寧な分析が必要ではないかと思います。
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