2013年12月01日 (日) | Edit |
業務の都合で1か月以上ほったらかしになってしまい、11月のエントリが0件となってしまいましたが、先月の11日で震災から2年8か月が経過しました。ということで、いろいろと積み残しのエントリがありますので、手短に。

現在の担当が直接復興に関連した業務ではないため、この間被災地に行く機会はありませんでしたが、仮設住宅についての行政の当事者が書いた本で考えさせられたことが多々ありました。というのも拙ブログでは以前、「東日本大震災という災害が発生して多くの方が住居を失ったにもかかわらず、住宅政策が国の社会保障として位置付けられることはなさそうです。拙ブログでは再三所得再分配の拡充の必要性を指摘しているつもりですが、単に既存の分野の手当を厚くするだけではなく、社会全体で支えるべき制度は何かという問いが必要なのではないか」と指摘していたところでして、緊急的に住宅を供与する応急仮設住宅という制度の実際を本書で確認することは、今後の災害対応のためにも自治体職員なら知っておいて損はないでしょう。

本書の筆者は国土交通省の技術系のキャリアで、震災発生当時に岩手県県土整備部建築住宅課総括課長として仮設住宅設置の責任者だった方です。まずは、仮設住宅についての説明を本書の冒頭部分から引用しておきます。

 仮設住宅は、正式には「応急仮設住宅」という。災害救助法という法律に基づき、被災者に対して供与するものとされている。災害救助法は、災害に際して応急的に必要な救助を行い、被災者の保護と社会の秩序の保全を図ることを目的としている。応急仮設住宅の位置づけは、食品の供与、救出、医療、埋葬等と同列であり、非常時に緊急的に提供されるものという色彩が強い。
 応急仮設住宅には大きく分けて、新たに建設することによって提供される住宅と、民間の賃貸住宅等の借上げによって被災者に提供される住宅の2種類がある。以降、建設によるものを「仮設住宅」、民間賃貸住宅の借上げによるものを「みなし仮設」、両者を含めた全体を「応急仮設住宅」と記すことにする。
p.9

実証・仮設住宅: 東日本大震災の現場から実証・仮設住宅: 東日本大震災の現場から
(2013/08/30)
大水 敏弘

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で、災害発生時に災害救助法を所管していたのは厚生労働省だったわけですが、なぜ国土交通省から地方自治体への出向官僚が本書を書いたかというと、

応急仮設住宅の所管はこれまで厚生労働省だった


 応急仮設住宅は、災害救助法に位置付けられているものであり、その所管はこれまで厚生労働省であった。一般的には、国土交通省が所管しているものと思われがちであるが、無理もない。東日本大震災において仮設住宅の建設状況を公表していたのは国土交通省住宅局。震災後5月末までに3万戸完成という目標を立てたのは大畠国土交通大臣(当時)。仮設住宅の建設については、国土交通省が前面に出て、厚生労働省が表に出ることはほとんどなかった。では、所管が厚生労働省であったのに、なぜ国土交通省が前面に出たのか。
 これは、仮設住宅の特性によるものと言えるだろう。仮設住宅は短期間に大量の住宅を供給しなければならない。この大量供給のノウハウはプレハブ建築メーカーに蓄積されている。したがって、住宅の大量供給を迅速に行うためには、住宅業界を所管する国土交通省が指揮を執ったほうが、速やかに事が進むということになるのだ。また、実際に仮設住宅建設の発注をする都道府県においても、仮設住宅建設工事の進捗管理や住宅の仕様の決定などは、日ごろから建設工事の発注や住宅政策を担っている建築・住宅部局が行うこととなる。
 ただし、災害救助法の所管は厚生労働省であり、法律に基づく運用を行うのは厚生労働省。そして、仮設住宅建設のための予算措置や、仮設住宅の標準面積など建設のための基本的な基準づくりを行っているのは厚生労働省なのであった。なお、この点については、平成25年の災害救助法の改正により、所管が厚生労働省から内閣府に移管されることになった。
大水『同』pp.9-10


という事情があったからなんですね。そもそも災害救助というものが生活のあらゆる場面に必要であって、その意味ではミクロ官庁ではなくマクロ官庁に移管することは理解できるのですが、かといって実働部隊は結局各省庁に分かれるわけで、内閣府が所管すれば万事解決するものではないことも留意が必要でしょう。

で、本書で繰り返し強調されているのが、何戸の仮設住宅をどこに設置するかという当初の見込みが大切だという点にあることも印象的です。震災直後に書いたことでもありますが、ロジスティクスが毀損されていた被災地では、限られた物流を使ってどの物資をどのようにどのくらい調達するかという見積が決定的に重要になります。特に、避難所を早期に解消させて住居を確保することが最優先となっている状況では、限られた物流システムの中で、避難所での生活を維持しながら迅速に仮設住宅を設置するという微妙なバランスが求められます。慎重になりすぎて仮設住宅が不足しては元も子もありません(実際には一部で不足しましたが)し、仮設住宅が多すぎても、またぞろ復興予算の無駄遣いという批判を招いてしまいます。本書ではその辺の経緯が切迫した臨場感で描かれていて、読みながら私も当時の状況を思い出してしまいました。

また、みなし仮設の功罪についても触れられていて、現場の実務の視点からの指摘として読まれる価値があるでしょう。特に、「利権陰謀論という結論を書きたくて復興予算が過大と主張しなければならない」本で「人口減少と高齢化で、三陸の山に土地はいくらでもある」とのたまう一部のリフレ派と呼ばれる方は熟読玩味すべきでしょうね。しないでしょうけど。

さらに、阪神・淡路大震災以降、全国の都道府県が社団法人プレハブ建築協会(プレ協)との災害時協定を結んで仮設住宅を設置することとなっています。そのプレ協には企画建築部会と住宅部会があり、前者は工事現場のプレハブに近い構造、後者は本設の住宅に近い構造となるため、後者の方が居住性に優れている点など、被災地ではよく聞く話ですが、これからの災害対応の際にも知っておくべき情報だと思います。

その上で、プレ協だけでは供給能力が整わずに設置が遅れたため、震災後1か月を経過した2011年4月から、福島県と岩手県では地元工務店にも発注することとされます。

 これに対し、岩手県の公募で特に配慮したのは、中小の工務店も応募できるようにということであった。岩手県内の仮設住宅団地は平地が少ないがゆえに、小規模な用地をもかき集めて建設地とする方針としていた。中小工務店には、こうした小規模団地を割り当てて建設してもらおうと考えていた。
 応募の要件は思い切って低くし、岩手県内に本店又は営業所を有する事業者であって前年度施行実績が5戸以上あり、仮設住宅の供給可能戸数が12戸以上あれば応募可能とした。プレ協と同程度の仕様を示して建設提案書の作成を求め、買い取り価格は、プレ協と同等の価格を基本としつつ極端な価格競争に陥らないように一定の範囲(プレ協価格の0.9〜1.1倍)を設定した。このほか、工期をプレ協の標準的な期間(当時は30日程度であった)より長い45日間とした上で、中小工務店の資金繰りに配慮し、代金の前払いや部分払い(複数棟建設する場合)を可能とした。
 募集戸数については、岩手県では2千戸以上と設定した。「以上」としたのは、公募同時まだ仮設住宅の必要戸数が確定しておらず、2千戸以上は発注可能だと考えていたが、どれだけ上積みできるかは読めなかったためである。応募もどれだけあるのか全く読めなかったが、公募の反響は大きく、89もの事業者・グループから応募をいただいた。これらの事業者・グループの供給可能戸数を積み上げると1万1千戸以上にも上った。地元工務店等でも相当な供給能力があることが明らかになったことは大きな成果だった。
大水『同』pp.78-79

普段はチホーブンケンに懐疑的なことばかり書いている拙ブログですが、こうしたきめ細かい対応こそが地方分権の必要な分野と言えるでしょう。この取組を主導したのが出向官僚だったというのも、地方分権の実務を考える上で貴重なサンプルだと思います。

ただし、本書の記述からは、被災して住居を失うというような緊急的な場合でしか、日本では住宅が公的に供与されないということも改めて確認できます。上で引用したとおり、「この大量供給のノウハウはプレハブ建築メーカーに蓄積されている。したがって、住宅の大量供給を迅速に行うためには、住宅業界を所管する国土交通省が指揮を執ったほうが、速やかに事が進むということになる」ことはそのとおりなのですが、だからといってそれで住居が確保されて万事解決となるわけでは当然ありません。この点について本書では、

重要となる住宅確保のための総合対策

 災害救助法ほの所管は厚生労働省であるが、都道府県や市町村において実際に仮設住宅を建設するのは建設住宅部局の仕事となる。建設住宅部局に所属する職員の多くは技術職であり、都道府県や規模の大きい市であれば建築士等の資格を有するものも多く、仮設住宅を建設するために必要な、住宅の性能や工法等に関する技術的な知見は十分備わっている。
 一方で、ともすると陥りがちなのが、仮設住宅を建てることばかりに関心が集中してしまうことである。仮設住宅の建設は、被災者のための住宅確保策として有効な手段であるが、住宅を確保する手段は仮設住宅建設だけに限られるものではない。公営住宅や民間地帯住宅など既存ストックを活用することも合わせて検討されなければならない。
 また、入居後のことを考えれば、福祉的な支援やコミュニティの形成促進、バス等の交通手段の確保、日用品の買い回りなど生活利便性の確保も重要となる。
 被災者向けの住宅対策は、全体を俯瞰した総合的な対策でなければならず、建築住宅部局のみで課題に対応することはできない。
 そのため、都道府県や市町村においては、住宅確保に関する総合的な取組が行われるよう、建築住宅部局のほか、福祉部局、企画部局など関連する部局が相互に連携できるような体制を構築することが望ましい。
(略)

部局間連携不足による問題

 部局間の連携が重要であるのは確かだが、一方で連携というのは骨の折れる仕事だ。相手の部局と役割分担、進捗調整、見解が異なった場合の協議などを行っていかなければならず、部局内で済ますことのできる業務の何倍も手間がかかることになる。
 通常業務ならまだしも、災害時対応において、部局間調整を行うことは困難を極める。時間との勝負である仮設住宅の建設に、より時間のかかることを持ち込むことは、引いてはマイナスの効果しか生まないおそれもある。
 東日本大震災においては、仮設住宅の建設時における他部局との連携は、グループホーム型仮設住宅やサポートセンターの設置など、限られた範囲では行われたが、さらに踏み込んだ連携はあまり行われなかった。このため、仮設住宅団地のほとんどは、仮設住宅ばかりが建ち並ぶ、無機質な団地にならざるを得なかった。
(略)
 こうした行政の縦割りの弊害を除去するには、専門家の智恵が必要だ。
 釜石市と遠野市には、東京大学高齢社会総合研究機構の有識者が入り、コミュニティケア型仮設住宅の建設が提案された。これは特許を必要するものでも何でもなく、仮設住宅に入居する被災者の視点から、部局横断型で仮設住宅団地を作るという提案である。全体を俯瞰し、入居後のことを考え、仮設のまちを被災者に用意するという発想であった。

大水『同』pp.185-187

ここで「行政の縦割りの弊害」とされているのは、単に建築住宅部局が住宅建設のことしか考えていないということではないかとも思うのですが、当事者にとっては、調整や協議は時間がかかってかえってマイナスだとのことです。いかにも霞が関的な発想だなあと思うと同時に、より根源的な問題として、特に困窮者や災害時の住宅政策が福祉政策として位置付けられていないことがあるのではないかと思うところです。そのために、災害救助法の所管が厚生労働省とされていたのではないでしょうか。住宅政策を個人資産と位置付けて、数十年単位で建て替えることが当たり前となっている現状では、住宅を失って生活に困窮している方に対する施策が、福祉的な側面を捨象してしまう「弊害」を生んだと考えるべきではないかと思います。

筆者である大水氏は、2013年4月から大槌町の副町長として着任し、自らその仮設住宅に住んで業務に当たっているとのことで、終章の「災害救助法について思う」では次のような問題提起をされています。

 人が生活するために必要となるのが「衣食住」であり、災害救助法では被災者にとってこれらが満たされることとなるような措置をとることとされているわけだが、「衣食」に比べて「住」は圧倒的に費用がかかる。「住」は土地に定着する不動産であり、時間間隔も』まったく異なる性質のものだ。「応急」の仮設住宅であるがゆえに建てられる住宅はあくまで仮のものとなり、建築基準法の規定を満たさなくてよい代わりに、仮設なのだから設置期間は原則2年3か月までしか認められないという扱いとなる。
(略)
 仮設住宅への入居は原則2年で、その後は災害公営住宅か自宅の再建で恒久的な住まいへ、というのが仮設から本設の住宅への流れとされているが、今回の震災では、このバトンタッチに5年以上かかる復興計画が作られているのが実情だ。被災した土地の区画整理事業や高台に移転する土地を確保する防災集団移転事業は、用地の取得や造成などにどうしても時間がかかる。これらの復興まちづくりによって再建のための土地が確保される被災者にとっては、自宅を再建するまでの間、原則2年の仮設住宅で長期間の仮暮らしを強いられることになる。しかし、5年以上に及ぶ復興まちづくりとの空白期間を埋めるための方策やビジョンは練られていない。
 復興まちづくりに5年以上かかることがどうしようもないのであれば、仮の住まいの期間は5年以上としなければならない。バトンタッチの第2走者のスタート地点が遠くなるなら、第1走者の走る距離を長くするよりない。しかし、5年以上という期間は「応急」と呼ぶにはあまりに長い。災害時における緊急救助を目的とする法律で未曾有の災害における「住」を扱うこと自体、無理があるように思われる。
(略)
 住宅のみに特化してしまった仮設住宅団地は、住宅そのものの機能は徐々に改善されてきているが、生活機能という面から見れば、残念なことに戦前に建てられた同潤会仮住宅より退化してしまっている。仮設住宅団地の中で、被災者が商売を再開することは現行制度では認められないが、何か手立てはないものだろうか。被災者の生活に目を向け、「急場しのぎの住宅」ではなく、「いったん腰を据えて生活できるまち」を作っていくことが必要だ。
大水『同』pp.225-225

ここで指摘されていることは全面的に同意するところですが、「被災者の生活に目を向け、「急場しのぎの住宅」ではなく、「いったん腰を据えて生活できるまち」を作っていくことが必要」だからこそ、生活困窮者に対する住宅政策を福祉政策として位置づけて、それに対応した行政組織や仕事の進め方を平常時から整備していく必要があるのではないかと思います。
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コメント
この記事へのコメント
 体調でも崩されているかと思っていましたが、元気そうで何よりです。被災地ではあのプレ協の図面を見て断念し、がれき撤去等の業務委託事業へ向かったのとは別に、内陸部の建設業者にとっては、被災地へは入りやすくなったという事でもありました。「仮設の街」については、今回の震災への対処というよりも、土地区画整理事業である被災地復興が復興特区の改正による土地収用法を超える超法規的措置を当然とする方達によって歪めるられていく現実はどうにもならないことなんでしょう。
 本来は関東等の震災対応も含め対処可能な用地をどのように準備し、権利関係を含めた再生をどのような合意形成で準備すねことが、未来に対する責務であったのが、現実は無理やり理想な都市の再構築を無理やりやろうとして軋轢を生むだけになっています。
 このままだと2年後には事業終了となりそうですね。
2013/12/04(水) 16:02:34 | URL | hahnela03 #V76W3knM[ 編集]
> hahnela03さん

ご心配いただきありがとうございます。なんとか元気でやっております。

> 本来は関東等の震災対応も含め対処可能な用地をどのように準備し、権利関係を含めた再生をどのような合意形成で準備

公共事業のためには用地確保が不可欠で、その用地確保には権利関係について地権者の合意が必要という通常の手続が、震災復興の場面では重い負担となってしまっている実態がありながら、日本全国にあるその現実はほったらかしにして、「特区」とかで被災地では財産権を軽視する風潮があるのは懸念されますね。

もちろん復興そのものはできるだけ時間をかけずに進めることが望ましいとしても、それが財産権を侵害するのであれば、慎重に進める必要があると思います。事後的にそれが難しいからこそ、日本全国で災害に備えて土地の権利関係を整理することが求められるのでしょう。現に災害が起きてしまった被災地ではそうもいってられないとは思いますが、長いスパンの取組となることを前提としなければいろいろな計画が行き詰まるという実態と、そろそろ正面から向き合った取組が必要になっているように思います。

12月4日で震災から1000日が経過しましたが、記憶が風化する中で、本書の「バトンタッチの第2走者のスタート地点が遠くなるなら、第1走者の走る距離を長くするよりない」という危機感が共有されることは難しくなる一方ですね。。
2013/12/05(木) 02:08:00 | URL | マシナリ #-[ 編集]
 アベノミクス特区である「国際戦略特区」法案が通りましたが、「特区」で財産権を簡単にできると考えている方達にとっては、「解雇自由特区」なども同様な手法でできると考えているのではないかと思います。
 いささか乱暴ではありますが、たとえば、第三者委員会の名簿に記載登録した時点で売買契約(土地収用)が成立し、その後に権利者が名乗るまで対価を確保することになっていますが、同様に「解雇自由特区」において第三者委員会を設立し、解雇者を名簿登録するとその時点で解雇が成立。その際に解雇者に対する金銭を第三者委員会に供託する。解雇者は第三者委員会に申し出ることで金銭を受け取れる。
 金銭の算定については、解雇予告手当に有休休暇の残日数を加算とかその他の加算項目をすることが考えられます。有休休暇日数を金銭に変えることを主張しているのはそういう金銭解雇を考えているからだろう感じられるからです。
 ただそういう場合に対処するための福祉政策としての住宅政策の準備も急ぐ必要に迫られるのかもしれませんね。
 
2013/12/06(金) 17:41:52 | URL | hahnela03 #TVNdHuFs[ 編集]
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