2013年08月25日 (日) | Edit |
最近雇用・労働ネタから離れていましたが、hamachan先生の『若者と労働』を拝読しました。おそらくこの書評(というか感想文)も捕捉されてしまうとは思いますが、ほかの方がしっかりした書評をされていますし、こちらでは本書の内容からやや外れた感想となってしまいますのでご容赦ください。

本書で示されている「若者と労働」をめぐる諸問題は、特にhamachanブログの愛読者にとっては目新しい内容があるわけではありません。それでも新書としてまとめられたおかげで、歴史や制度の筋道の見通しがかなりすっきりと示されていて、この問題に関心を持つ方には必読の書であることは間違いないと思います。問題は、「この問題に関心を持つ方」というのは誰なんだろうかという点でして、実を言えば、この点ではroumuyaさんの感想に近いことを感じてしまいました。

ただまあきっとそういう反応になっているだろうなと思ってウェブ上をざっと見てみたところ案の定だったのですが、この本を若者、特に職探しをする(典型的には就活に臨む)若者に推奨するというのはどうなんでしょう。もちろん、若者が知っておくことが望ましい知識はたいへん多く含まれていますし、若者に限らず、若年労働についてあれこれ言いたいならこのくらいのことは知っておけよなという内容の本でもあるのですが、著者の価値観にもとずく記述が随所に入り込んでいて若者がそこまで鵜呑みにすると危ないかなとも思うわけです(そういう人を増やしたいという意図であるならそれはそれで非常によくわかるわけですが)。

■[読書]濱口桂一郎『若者と労働』(2013-08-22)」(吐息の日々
※ 以下、太字下線強調は引用者による。

この本を読んでしっかりと若者と労働について認識を改めて実践するべきは、堅く言えば使用者側、ぶっちゃけて言えば「メンバーシップ型」の雇用にどっぷりと浸かってしまった大人の側ではないかと思います(的確な現状認識が求められる立場の論者に限って、この本も読まずに俺様理論を開帳し続けるという徒労感満載な展開が予想されてしまうところがアレですが)。その一方で、これからその世界に浸かってしまう若者にとっては、予防線として知るべき知識ではあっても、現時点では残念ながら実践すべき知識ではないだろうとも思います。

この点については、hamachan先生も

拙著へのネット上の書評と言えば欠かせないのが労務屋さんの辛口書評ですが、今回も『若者と労働』にちくりとわさびをきかせた短評を書かれています。

お待ちかね労務屋さんの拙著書評(2013年8月22日 (木))」(hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)

として上記で引用した部分を紹介されていて、もちろんそうした感想があることは織り込み済みなのだろうと思います。本書では、若者をめぐる労働問題の歴史的経緯や制度を見通しよく示しておきながら、若者自身の問題としては、本文を締めくくった後の「あとがきに代えて」で労働教育の強化を提言されています。

 そこで働く若者の側にブラック企業の行動の違法性を明確に意識する回路がきちんと備わっていれば、どんな無茶な働かせ方に対してもなにがしか対抗のしようもあり得るはずですが、日本型雇用システムを前提とする職業的意義なき教育システムは、そもそも労働法違反を許されないことと認識する回路を若者たちに植え付けることを必要とは考えてこなかったのです。
(略)
 このため、学校教育とりわけ高校や大学における労働教育を強化し、共通の職業基礎教育の一環として明確に位置付け、十分な時間をとって実施することが必要です。とりわけ教育課程においては、全員「就職組」である生徒を教える立場になるということを考えれば、憲法と並んで労働法の受講を必須とすべきでしょう。
 また、さまざまな生涯学習の機会をとらえ、その中に有機的に労働教育を組み込んでいくことも有効でしょう。労働教育と消費者教育は、今日における市民教育の最も重要な基軸と考えるべきではないでしょうか。
pp.277-278

若者と労働 「入社」の仕組みから解きほぐす (中公新書ラクレ)若者と労働 「入社」の仕組みから解きほぐす (中公新書ラクレ)
(2013/08/10)
濱口 桂一郎

商品詳細を見る

「教育」という言葉が使われていますが、若者やその労働に関係する方々が「若者と労働」を知識として理解し、それを自分のこととして実践できるかどうかがこれからの課題なのだろうと思います。

ただ、私のように現場で下っ端公務員をやっていると就活中の若者の話を聞く機会がそれなりにあるのですが、こうした問題を的確に認識し、問題提起を行う若者はほぼ例外なく就活に苦労しているようです。メンバーシップ型の「入社」でなければ日本のほとんどの会社に就職できないために、鍛えようのない「人間力」を重視され「即戦力」を期待されてしまうという就活の現実は、確かに若者にとって多くの矛盾を含むものではあります。しかし、その就活に直面している若者がそれを「抗うべき現実」と考えてしまうと、「メンバーに相応しくない」として「入社」そのものができなくなってしまうというジレンマに陥ってしまうわけです。

実は、この傾向が強く見られるのは女子学生です。女性の場合はメンバーシップ型で「入社」しながらも、「入社」後はコース別で人事管理されてしまうため、その現実を知った女子学生が問題を的確に認識し、それを「抗うべき現実」と考えるようになってしまいます。つまり、「入社」するまでと割り切ってしまえばメンバーシップの一員として迎えられる男子学生と、「入社」するまでの割り切りに加えて「入社」後もコース別人事管理に割り切りを迫られる女子学生では、後者の方が問題意識を持ちやすくなるようです(もう少し詳しく言えば、男性なら就活を乗り切って「入社」すれば、サビ残も転勤も受け入れるという次の割り切りでメンバーシップに浸かりきってしまえますが、女性の場合は、結婚や出産のために「入社」後の割り切りが難しく、メンバーシップの中で不利な立場にあります)。

ついでに言えば、キャリアカウンセラーとかキャリアコンサルタントという資格をお持ちの方の割合も、私の半径数キロの範囲ではありますが女性のほうが多くなっています。お話を聞いてみると、社内での扱いが男性正社員と違っていたことに疑問を感じたり、母子家庭になって就活の困難さに直面したりして資格を取るに至ったという女性も多くいらっしゃいます。学生も大人も関係なく、女性にそうした問題意識が強いのは、日本型雇用慣行で「割を食う」立場だからなのでしょう。逆に男性の場合は、学生も大人も関係なく、日本型雇用慣行の問題について話をしていてもピンとこない方が多いですね。

この点については、本書でたびたび引用されている本田先生も、

とおっしゃっているように、hamachan先生が推奨する「ジョブ型正社員」の実現を阻むのは、「メンバーシップ」を構成する男子学生・男性正社員です。その意味で、本書は「一見女性が自身のキャリアを考えることを薦めておきながら、その実私のようなアラフォー男性はもちろんのこと、高齢者や若年者に対するエールかつ重要な問題提起にもなっている」海老原さんの『女子のキャリア』とも共通する広い射程を持つ内容だと思います。「男性正社員は幹部候補生でなければけしからんという「建前」が男性のみならず女性の過重労働をも正当化」している状況を変えるのは難しい道のりではありますが、その処方箋を考える前提を共有するために、本書は広く読まれるべきだろうと思います。

もう一つ、これも本書の内容とは関係ないのですが、たびたび指摘されているとおり日本の労働法制そのものはジョブ型でスタートして、高度経済成長期までは労働政策もジョブ型を指向していたはずなのに、当時の労使はジョブ型ではなく戦時体制から続くメンバーシップの強化を選択した経緯があります。これが大きく転換するのがオイルショック後で、整理解雇事案で整理解雇の四要件説が確立され雇用維持のための雇用調整助成金が創設されたわけですが、労働省としては判例法理がメンバーシップ型雇用慣行を補強し続けたことをどう考えていたのか気になります。労働省の本音では、「日本はメンバーシップなんだから労働法制もそっちに合わせた方が素直だけど、今さら変えられないから判例法理に任せる」というスタンスだったのか、逆に「ジョブ型の法律なのになんで司法が勝手にメンバーシップに変えたんだこのやろう」というスタンスだったのか、最近の「ジョブ型」の盛り上がり方を見ていると後者のような気もします。

本書にも労働省の矜持が表れている(と思われる)記述がありまして、

 序章で述べたように、2000年までは労働省の若者雇用に関わる担当部門は学卒係という一係に過ぎませんでしたが、毎年中学、高校、大学などの新卒者の内定状況、就職状況を調査し、発表していましたから、90年代半ば以降、新卒労働市場の状況が急激に悪化し、就職できないまま卒業する若者が急増してきていることは当然認識していました。前章で述べたように、世間では依然としてフリーターの「甘え」を批判する言説が垂れ流されていたとはいえ、政策担当者は目前に起こりつつある事態に対し、できる範囲で対策を講じなければなりません
 厚生労働省は文部科学省とともに「高卒者の職業生活の移行に関する調査研究会」を開催し、2002年3月に最終報告書をまとめましたが、そこではこれまで一定の役割を果たしてきた指定校制度、一人一社制、校内選考といった慣行が弊害をもたらしているという認識を示し、そうした就職慣行を見直すことを求めるとともに、就職を円滑にするためのサポート、キャリア形成の観点からの教育内容の改善、学校とハローワークの連携など、それまで意識されてこなかったさまざまな政策課題を示します。
 これを受けて、2002年度から未就職卒業者就職緊急支援事業が始まりましたが、これが日本における若者雇用政策の出発点といえるでしょう。
濱口『同』p.185
※ 太字強調は原文。

「霞が関は現場も知らない机上の理論」とか「役所はデータを意図的に解釈して都合のいいことばかり言っている」とかおっしゃる方には熟読していただきたい部分でありますが、まあ的確な現状認識が求められる立場の論者に限って、この本も読まずに俺様理論を開帳し続けるか、あるいは読んでも「自分の都合のいいようにまとめただけ」とかいって無視するという、何重にも徒労感満載な展開が予想されてしまうところが重ねてアレですが。
スポンサーサイト


コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック