2013年08月15日 (木) | Edit |
所得再分配を左派政策と呼ぶ方が多いようですが、拙ブログで主張しているのはヨーロッパで実践されている社会民主主義(social democracy)に基づく政策と認識しております。ただし、日本では「社会」という言葉がつくと「社会主義」と脊髄反射されますので、そのために所得再分配といえば左派政策という短絡的な評価につながってしまうのではないかと思われます。そういう方にとってはヨーロッパも社会主義しか見えないのかも知れませんが、日本におけるsocialという概念の理解の欠如がそのような現象を生み出しているのでしょう。

私もリフレーション政策を緩やかに支持する立場の者として、「左派リフレ派」という言い方には違和感を感じておりますが、かといってリフレ派と呼ばれる一部の方々には、サヨクとか社会主義と認定される方がいれば、その主張をいくら罵倒しても構わないと考えている方もかなりいらっしゃるようです。所得再分配が左派政策とかいわれてしまうようなsocialという概念の理解を欠いた日本では、所得再分配の拡充とか積極的労働政策とかをいうだけで左派認定されて罵倒の対象となってしまうわけで、日本で長らくサヨクとか社会主義を標榜していた方々の経済政策への無理解の罪はつくづく大きいものだと思います。

でまあ、個人的には緩やかにリフレーション政策を支持し、所得再分配の拡充と積極的労働政策が必要と考え、「その税収でより豊かな暮らしを享受できるのは低所得者層だったり、その方々に社会保障の現物給付を行う公的セクター(私もその一員です)や医療・福祉分野に従事する労働者」として、再分配を使途とした増税を「おおっぴらに支持」する立場ですので、増税により公共サービスの現物給付を担う人員の給与原資を確保することが死活問題と考えています。

アベノミクスで地方公務員は悲鳴、給与削減はデフレ脱却足かせにも(bloomberg.co.jp 2013/07/12 12:28 JST)

市安心安全課主査の吉田氏は市職員労働組合委員長も務める。「一体どこにアベノミクスの効果が見られるというのか。安倍政権は地方で実際に何が起こっているのか分かっていない。家計の先行きを心配している」と続ける。

安倍首相は民間企業に対し賃金引き上げを求めているにも関わらず、地方公務員の給与カットはアベノミクス効果を弱める要因となり得る。全大阪労働組合総連合の菅義人事務局長(53)は地方公務員給与の削減は民間企業の給与水準にもいずれ影響を与えると指摘する。 

クレディ・スイス証券の白川浩道チーフエコノミストは「地方公務員の給与水準は民間企業の賃金設定に大きなインパクトを与える意味において重要だ。地方公務員の給与削減はデフレ脱却とは矛盾する」との見解を示した。

(略)

政府は地方公務員の給与水準を7月から下げるよう要請している。地方公務員の給与は自治体が決めるというルールを無視した注文に反発も強く、実施については各地方自治体の判断が焦点となっている。安倍政権は来年度の地方公務員給与についてはまだ方針を決めていない。

和歌山大学経済学部の足立基浩教授は「全国270万人余りの地方公務員給与がカットされると、1%だけで年間1200億円の消費減速効果がある」とした上で、「現在、堅調な消費が経済成長の原動力になっている。公共事業をやるより公務員の賃金カットを避ける方がよい」との認識を示した。

※ 以下、強調は引用者による。

コメントしている公務員が労組の委員長という点ですでに罵倒の対象となりそうですが、税収の減を理由として公共サービスに従事する労働者の給与は減らされるわけで、公共サービス従事者が増税に賛同することは陰謀論でも何でもなく合理的な行動だろうと思います。でまあ予想通りではありますが、政府の要請によって地方公務員の給与は半分以上の自治体で引き下げられてしまっていますね。

自治体の46%が地方公務員の給与削減 交付税減額受け総務省調査(産経新聞 2013.8.2 11:04)

 国の要請に応じて7月1日から地方公務員の給与削減を始めたのは、全体の46・2%に当たる826自治体だったことが2日、総務省の調査で分かった。職員組合と協議中など今後の減額に前向きな自治体も合わせると65・5%に上る。

 政府は給与削減を迫るため、平成25年度の地方交付税を減額。国主導のやり方には反発が強かったが、多くの自治体が財政運営に影響が出ないよう国の要請を受け入れた。ただ、12・9%に当たる230自治体は国の要請は受け入れず削減しないという。

 調査は7月1日時点。給与を削減したのは39道府県と787市区町村だった。

 既に給与を引き下げるための条例を可決したり、職員組合と協議したりしているのは133自治体(7・4%)。既に国の給与より低いとして追加削減をしないのは212自治体(11・9%)だった。市区町村では削減を提案したものの議会で否決されたケースが20あった。

消費増税については徹底的に批判する方々でも、消費減退の要因となり得る労働者の給与削減には諸手を挙げて賛成される方も多いようでして、一方で経済団体に賃上げを要請する政府が、一方で公務労働者の賃金引き下げを要請するというのも、なかなかに興味深い光景です。

以前も引用させていただいた黒川さんのご指摘ですが、

俗論に惑わされていない介護関係者は、一日も早い財源確保を願っているし、税財政の仕組みを理解できる介護関係者は、一定の増税または保険料負担の増がない限り、自分たちの職場の改善はやってこないと理解していると思う。

●増税で不景気になると短絡的に説明する人には、1998年の不況ばかり指摘するのではなく、2000年の介護保険制度の導入による保険料負担の増が、不況を悪化させたと説明づけてほしいと思うことがある。価値を創造する勤労の対価を通じて社会に税収を放出すれば、不況にならないという事例ではないかと思う。介護保険料の負担が始まったと同じ裏側で雇用創出があったからだ。

9/21 介護関係者の期待は制度改善のための財源確保(2010.09.21)」(きょうも歩く

財源を確保して公共サービスと拡充し、市場で十分なサービスを購入できない中低所得者層の消費を促し、経済成長につなげるという経路が理解されないところも、socialという概念の理解の欠如した日本の特徴と言えそうです。特に陰謀論がお好きな界隈では、

これらの記事については財務省陰謀論だという批判も受けましたが、最近になって消費税増税に景気の落ち込みを防ぐために景気対策をするという記事が出てきて、正にこの時の僕の意見を裏付ける話だと思っています。
(略)

 ではなぜ、財務省は増税を指向するのか。それは、予算での「歳出権」の最大化を求めているからだ。予算上、増税は歳入を増やし結果として歳出を増やす。さらに、歳入は見積もりであるが、歳出権は国会の議決で決めるのが重要だ。実際の税収が予算を下回ったとしても、国債発行額が増えるだけで、歳出権が減ることはない。この歳出権は各省に配分されるが、それが大きければ大きいほど財務省の権益は大きくなる。このため、財務省が歳出権の最大化を求めるのは官僚機構として当然となる。

 この行動様式を踏まえると、財務省は今後どのような動きを見せるか。消費税増税のために、増税による財源を使った財政支出(バラマキ)は歓迎するだろう。この点は一部の族議員の利害とも一致する。アベノミクスで税収が上振れするだろうから、来年早々には補正予算の話にもなる。

 安倍政権は法人税減税を目論んでいるが、財務省にとって減税は「歳出権」を減らすので避けたい。小泉政権の時も、法人税減税が政治課題になったが、結局財務省は投資減税で手打ちをした。このあたりの財務省の政治的動きは老獪であり、小泉総理でもかなわなかった。

 安倍総理は、財務省とどのように対峙するか。経済政策で財務省をうまく扱わないと、まともな政策はできなくなるだろう。

参院選後に財務省はこう動く  | ドクターZは知っている | 現代ビジネス [講談社]

(略)
このように財務省が消費税増税にこだわる理由を考えると、「歳出権」の最大化という目標に行き着きます。そして、その「歳出権」の最大化という視点から様々な問題を考えると、これまでは見えなかった別の理由が見えてくると思います。

そのような考え方が行き着く先は、個人の権利が官僚の利権のために当たり前のように蹂躙される、今の中国のような社会ではないでしょうか。

「裁量権」のための消費税増税(2013-08-12)」(Baatarismの溜息通信

とのことで、まさにため息をつきたくなるような内容ですね。

ちなみに、上記のエントリで引用されているドクターZさんは、こちらでも論説されているようですが、

■[経済]「増税は必要ない、やるべきは減税だ!」in『言志』13号
 ウェブマガジンの『言志』に寄稿しました。ここしばらくの日本経済への消費税増税への批判、それに代わってリフレーション政策の推進を、政治経済的文脈も踏まえて書いてみました。僕のほかにも上念司さんらの政治論説、野口旭、田村秀男、高橋洋一さんらの経済論説など中味充実ですね。ご一読ください。


その方はこんなこともおっしゃっていますね。

 人口規模が大きく地方分権が必要な先進国では、消費税は地方の基幹税だ。社会保障の目的税になっている国はまずない。社会保障は、所得再分配を行うので消費税をその財源にするのは適当でなく、所得比例保険料が普通だ。その上、給付と負担を明確化するために、社会保障では社会保険方式のほうが望ましい(少なくとも、わざわざ社会保険方式から税方式に移行しない)。これらの点から、そもそも論としては消費税を社会保障財源とするのはセオリーとして出てこない。

 こうした理論上の話以外にも、増税の前にやるべきことがある。浅尾慶一郎衆院議員(みんなの党)が2月28日衆議院予算委員会で指摘した法人の情報把握不備のために社会保険料の未徴収、いわば「消えた保険料」が12兆円もあることだ。

 社会保障の国庫負担は、社会保険料で足りないところを補うものだ。もし12兆円も消えた保険料があるならば、これは消費税5%分に相当し、消費税率を5%から10%へ引き上げなくてもいいことになる。

消費税増税の前に、歳入庁を設立し、「消えた社会保険料12兆円」を取り戻せ( 2011年07月04日(月) 高橋 洋一 )3

「給付と負担を明確化するために、社会保障では社会保険方式のほうが望ましい」というのはまあ正論だと思いますが、雇用保険に埋蔵金があるとおっしゃっていた方がどの口でそれを言うかという気もしますし、歳入庁で劇的に捕捉率が上がることはないだろうとも思います。それはともかく、私のような凡人には数覚のあるこちらの方が「12兆円も消えた保険料があるならば、これは消費税5%分に相当し、消費税率を5%から10%へ引き上げなくてもいいことになる」というのは、増税を容認しているようにしか見えないのですが、お仲間は「増税は必要ない、やるべきは減税だ!」とおっしゃっていますし、socialという概念の理解が欠如する限り、所得移転についての混乱は続きそうですね。

(念のため)
社会保険は「税金と比べると、社会保険料は拠出の義務に対して受給の権利が対応し、原則として国会の審議を経ずに個別の支給額が決まるため、もっとも「色」が濃い財源」ですので、原則としては景気に中立となるため、高橋洋一氏がこの点を重視して、社会保険料の取りっぱぐれをなくせば景気減退の要因となる増税は必要ないという理屈がこの混乱の原因かもしれません。しかし、当然のことながら社会保険はリスクプレミアム以上の剰余金が残るように設計されていて、給付と負担が額面である時点で一致することはほぼないわけで、民間から政府への所得移転であることには変わりはありません。社会保険料が税と異なるのは、同じ所得移転でありながら個々人の拠出にまつわる権利性がべったりと張り付いているため、保険事故が発生すれば確実に個人として給付が受けられる点にあるのであって、保険事故がない限り新古典派的にいえば可処分所得を減らして死加重を発生させる点に違いはないと理解しております。こうした混乱を見ていると、経済学方面では拠出性に基づく防貧機能と最後のセーフティネットとしての救貧機能の違いについての理解が不足しているのではないかと思われます。

(さらに念のため)
現代ビジネスのサイトでも「数学の天才とも言われた気鋭のエコノミスト。その正体は……」と素性は明かされていませんのでドクターZさんの正体はよくわかりませんが、これだけの希有な才能をお持ちの方といって思い出されるのは私の狭い見聞では数覚をお持ちの脱藩官僚の先生でして、その方ではないかと勝手に考えております。事実でなければ撤回することにやぶさかではありませんので、ご存じの方がいらっしゃればご教示いただけると幸いです。

ただ、引き合いに出して恐縮なのですが、ドラめもんさんが

ドクターZ先生(追記:これゼットと窃盗を掛けてるとしか思えんのだが)ですが、ちなみに『数学の天才とも言われた気鋭のエコノミスト。その正体は……』(上記URL先の『著者』というのをクリックするとそういう紹介がでます)だそうでどこのどなたか存じませんが数学の天才な上に気鋭のエコノミストって凄いですねえ(棒)。

今朝のドラめもん(2013/08/06)

と掛けてしまっていらっしゃるように、その可能性は高いだろうと考えております。
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