2013年05月08日 (水) | Edit |
というわけで、処理しようとした積ん読の一部しか読めなかったわけですが、そのうちの労働関係の本の備忘録として手短に。

まずはPOSSEの今野晴貴代表による『日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか?』ですが、本書の趣旨からすると「日本の「労働」はなぜ「違法」がまかり通るのか?」という方が適しているような気がします。タイトルからざっくりと本書の内容をまとめると、「労働」が特殊であることもさることながら、それに引きずられて「違法」が特殊な状態にあることが日本の労働環境の特殊性を物語っているということを、主に労働法の観点から丁寧に解説した本といえるのではないでしょうか。その中で、自治体職員による「労働カウンセラー」(労働相談を受ける担当者)についても記述があります。

 まず、都道府県の労働相談窓口だ。
 彼らの立場は、基本的には中立である。気軽に相談し、指導やあっせんを頼める点では間口が広い。ただし、行政職員は専門職として採用されているわけではないので、他のカウンセラーに比べると、どうしても専門性に乏しくなりがちだ。
 そのため、しばしば、明らかな賃金不払いやパワーハラスメントの事案でも「あきらめろ」「あたなにも悪いところがある」などといった。ひどい対応を目撃する。
(略)
 そんななか、逆にものすごく勉強している担当者もいて、社会正義の実現のために、あの手この手の手法を開発する人もいる(「裏ワザ」のため、ここでは詳しく書けないが……)。
 また、社会正義の実現のためならば、他の窓口である弁護士や労働組合などにつなぐ場合もある。
 ある担当者は、労働法の学者や弁護士が集まる研究会やシンポジウムにも盛んに出席していたほどである。最新の法改正や裁判の動向にも恐ろしく詳しく、ほとんど私生活もそうした研究活動と化しているような状態。これはもちろん「個人的」な努力である。
pp.98-99

日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか? (星海社新書)日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか? (星海社新書)
(2013/04/26)
今野 晴貴

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以前は東京都に都立労働研究所があったり、東京都労働委員会でも多数のあっせん事件や不当労働行為審査事件を処理しているので、東京都庁職員には研究者かと思うほどの知見をお持ちの方がたくさんいらっしゃいますね。都庁職員の方々がすべて個人的な努力といえるかは分かりませんが、それはともかくとして自治体職員に個人差が大きいのは指摘されているとおりです。個人的に、東京都には足下にも及ばない弱小自治体にいてそれなりに労働行政に関わる機会があったので、他の職員に比べるとそこそこ雇用・労働関係の知識があると周囲から認識されているようで、その私がよく言われたのが「労働って普通の地方自治体の仕事と関係ないからね」という言葉でした。雇用対策という事業はたくさんあるのですが、労働(昔は「労政」という言葉が使われていたようですが)という言葉は部署名に使われる程度で、事業名としてはほとんどないというのが実情です。まあ、商工振興とか雇用対策とかいえば予算が付いても、労働というとほとんど予算が付かないのが自治体の現状といえるでしょう。

でまあ、今野書ではカウンセラーの質を見極める指標として、「労使のどちらの側に立って紛争に加入するアクターであるか」「どの法律・制度について専門性を有しているか」「社会性」の3点を挙げ、上記のような事情を抱える役所のカウンセラーに対しても厳しいご指摘があります。

 さらに、どうしても仕事は「お役所仕事」のようになりがちだ。つまり、ただ「こなす」だけのルーティンになる。「官僚化」といってもよい。
 役所の労働相談などは、常にこうなりがちだし、他の窓口も例外ではない。
 「お役所仕事」になると、努力して社会正義時の実現のために当事者をエンパワーしたり、法律の本来の水準での解決策を模索しようという努力を一切しなくなる。
 「ビジネス化」と「官僚化」は、社会性に対する「敵」なのだ。
 社会性のないカウンセラーによる労働相談は、法律上の正義の実現を遠ざける。場合によっては、社会を悪くしてしまうことに寄与してしまいかねない(ただし、役所には「決められた手続きを守る」という正義があることにも、留意が必要である。適正な手続きの運用に情熱と魂をかけている「役人」がいることも、忘れてはならない)。
今野『同』pp.96-97
※ 太字強調は原文。

法律を専攻されている今野氏はご承知とは思いますが、念のため「適正な手続きの運用」というのは「法律による行政」という行政法の大原則に基づくもので、公務員はこれに「魂と情熱をかける」ことが求められる仕事であって、「決められた手続きを守る」という正義によりながら法律上の正義の実現を図るという難儀な仕事でもあります。それをもって「お役所仕事」というのは言い得て妙ではありますが、それを批判されたところでどうなるものでもないよなあというのが正直な感想です。まああくまで公務員の立場からの愚痴に過ぎませんが、POSSEに対して個人的に抱いている「市民活動大好きな学生運動」という印象はぬぐえませんね。

で、本書の第3章以降では、拙ブログでもさんざん繰り返している集団的労使関係の再構築について丁寧な説明が続くのですが、自分と同じような主張をしているのを端から見るというのはなかなかに複雑な心境になります。第3章以降のご指摘にはほぼ全面的に同意するところなのですが、自分で集団的労使関係の再構築とかいっておきながら、それにしても遠い道のりだなと思ってしまいます。

なお、拙ブログでは雑誌『POSSE』を取り上げる機会が多く、そのほかにもPOSSE関係の書籍を取り上げたりしているところですが、先日『POSSEvol.18』に寄稿されたやまもといちろうさんが冷静なエントリをアップされています。

 当初は革命の闘士で最前線で戦っていた人が、数十年の時を経て一部上場の社長になったりするこの時代ですし、過去のいきさつは良く理解したうえでしっかりと定点観測して誤った道を歩んでいないかヲチをしながら行く末を生暖かく見守るのも大人の芸風なんだろうなあと思います。もちろん、あんな新左翼崩れが文化人や知識人の評価を得て一般社会での言論活動を繰り広げて信頼を得ているように見える、それはけしからん、という気持ちは分かりますよ。とても良く分かる。でも、世間はそこまで馬鹿ではないし、みんなちゃんと知っています。
(略)
 とりあえず、ユニクロ社員に労働組合を作らせよう。

常見陽平なりすまし祭開催からの津田大介ネタ(2013.05.04)」(やまもといちろうBLOG

やまもといちろうさんが「新左翼崩れ」と指摘される方が、集団的労使関係の再構築という点で私と主張が一致しているというのはそれが妥当な政策だからなのでしょう。まあ左翼的な主張にはほとんど賛同できない者としては、それでも主張が同じ方向を向いているということは、リフレ派と呼ばれる一部の方々の呉越同舟よりは理にかなった普遍性があるのではないかと思うところです。やまもといちろうさんがブログの最後に置かれるコメントは強烈な皮肉となっていることが多いのですが、今回の「とりあえず、ユニクロ社員に労働組合を作らせよう」は大まじめなコメントではないかと推察します。

そういえば、先週はメーデーだったわけで、ナショナルセンターを中心に盛り上がったはずなのですが、

「暮らしの底上げを」連合メーデー中央大会< 2013年4月27日 16:44 >日テレNEWS24

 労働組合の連合は27日、労働者の祭典であるメーデー中央大会を開き、「暮らしの底上げが必要だ」とあらためて訴えた。

 東京・代々木公園で開かれたメーデー中央大会には、主催者側の発表で約4万人が参加した。

 連合・古賀会長「最低賃金の引き上げや、社会的セーフティーネットの整備などを早急に実現すべきです」

 あいさつに立った古賀会長は「今、政府がやるべきことは家計の所得を増やし、雇用不安を払しょくすることで、国民の暮らしの底上げをすることが必要だ」とあらためて強調した。

 連合総研が今月、働く人2000人を対象に行ったアンケートによると、賃金が1年前より増えた人は約23%だったのに対し、減った人は約27%いて、いわゆる「アベノミクス」による賃上げは限定的だとの結果が出ているという。


というニュースに対して、先日リフレ派を自認されるとある労働者の方が「賃上げできないのは連合とかの労働組合がふがいないからだ」という趣旨のtweetをしているのを拝見しました。まあ「連合」という固有名詞で称される組織に問題があることはその通りだと思いますが、労働基本権の制限を受けている公務員としては、労働組合の主体(となりうる労働者)は誰なのか一度胸に手を当てて考えることをお薦めする次第です。
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コメント
この記事へのコメント
タイポのご指摘をいただきました。
「円パワー」

「エンパワー」
です。
お詫びして訂正するとともに、ご指摘いただいた方にお礼申し上げます。

なお、拙ブログではタイポに気がつくたびにこっそり訂正したりしています。今後タイポのご指摘をいただいた場合も、リプライなしで訂正することがありますので、あらかじめご了承ください。
2013/05/13(月) 00:21:33 | URL | マシナリ #-[ 編集]
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