2012年11月19日 (月) | Edit |
しばらく時間がとれずに積ん読を片づけるのもなかなか進まなかったのですが、以前坂倉さんのtweet関連で熊沢先生が絶賛されていた太田肇著『公務員革命』を読んでみました。

・・・が、もう冒頭から読む気をなくす記述ばかりで、最後まで読み通すのがこれほどつらい本も久しぶりです。読む気をなくさせている最も大きな要因は、本書が太田先生の「自分を承認してくれなかった古巣への敵対心」に充ち満ちているからではないかと思われます。

 私は経営組織論や人的資源管理(人事管理)論の研究者として、これまで民間企業を中心に研究してきた。しかし大学に職を得る前には、国家公務員、地方公務員として10年あまり働いた経験があり、その実体験を生かしながら公務員のマネジメントについて論じたいと思うようになった。とくに近年は、公務員を対象に講演やセミナーで話をし、彼らと意見交換する機会も増えた。また国内外の政府や自治体を訪ね、聞き取り調査を行う幸運にも恵まれた。
 本書では、そこから得た経験や知識・情報などを踏まえながら、かといって過剰にとらわれず、公務員の“やる気”を革命的に高めるにはどうすればよいかを述べていきたい。
pp.13-14

公務員革命: 彼らの〈やる気〉が地域社会を変える (ちくま新書)公務員革命: 彼らの〈やる気〉が地域社会を変える (ちくま新書)
(2011/10/05)
太田 肇

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※ 以下、強調は引用者による。

ううむ、もしかすると太田先生ご自身が国家公務員、地方公務員として「承認」されなかったという思いが強いために、自らが属した組織ではなく民間企業を対象に研究されていたのかもしれません。それはおそらく、公務員出身ということで「民間企業のことも分からないくせに」といわれる逆境を跳ね返すためにも必要なことだったのかもしれませんが、いやまあ、退職した途端に所属していた組織をdisるのは、脱藩官僚に共通する現象なのでしょうか。

それにしても、採用時点でコースわけが決められている国家公務員はよく分かりませんが、退職に至るまで同じ年次でも事務方のトップから現業の最前線まで見事なグラデーションが形成される地方公務員に対して、「承認されないからやる気がなくなる」とか言われてしまうと、少なくとも私は的外れなことを言っているなと思ってしまいますね。出世もある程度で止まり、承認もされない公務員が大多数なんですけど何か? この点は、海老原さんが「途中からノン・エリート」という第3の道の必要性を主張されている通り、日本型雇用慣行の問題点はすべての労働者(民間だろうが公務員だろうが同じです)がエリートとしての働き方を要求されるメンバーシップ型である点にあるわけで、「出世しなくても給料が上がらなくても承認さえ得られればやる気が出る」とはいまどきずいぶんステロタイプな公務員像にとらわれているものだなと逆に感心します。まあ、おそらく太田先生が若い時分に経験した「経験年数が少ないからといってこき使われて、仕事もろくにしないベテランばかり偉そうにしている」という「古き良き公務員像」に対して一言言わずにはいられないのかもしれません。

念のため、熊沢先生が太田本をどのように評されていたかを確認しておくと、

 多くの公務員は、仕事の内容をいちいち細かく命令されているわけではありません。経営学者の太田肇さんが『公務員革命』(ちくま新書、2011年)という本を出してします。いままで私とは意見の違いもあった方ですが、これはいい本です。公務員バッシング、査定や成果主義の強化、懲罰的統制は絶対だめという見解。公務員がモラールを発揮するに絶対必要なのは、要するに「自律」だという内容です。仕事のやり方、仕事のペース、労働時間の配分、キャリアの積み方…について徹底的に自律を促進することで、公務員の働き方を変えるという提言です。組合論の観点からの研究ではありませんが、基本的に賛成です。橋下「改革」のように、行政や教育の改革の主体から公務員労働者や教師を完全に排除して、統制と懲罰の管理強化をすることはグロテスクなのです。
p.70
熊沢誠「橋下「改革」対抗論−問われる公務員労働組合のゆくえ」

POSSE vol.15: 橋下改革をジャッジせよ!POSSE vol.15: 橋下改革をジャッジせよ!
(2012/06/05)
NPO法人POSSE、宇野常寛 他

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熊沢先生のこのインタビューに対する感想は、『POSSE.vol15』を取り上げたエントリのコメント欄に書いたとおりでして、「熊沢先生が太田肇著『公務員革命』を「いい本」として取り上げていて、一部それに依りながらお話をされている点について違和感を感じていまして、そちらを読んでから取り上げようかなと思って」いたわけですが、なんというか、太田本にも全く同じ感想を持ちましたので、改めて書くほどのこともありませんね。

というより、熊沢先生のインタビューも太田本も、そこで描かれる公務員増は、私が普段仕事をしている公務員の現場の感覚とはずいぶんかけ離れていると感じます。それは上記のコメント欄に書いた違和感にもつながっているのだろうと思いますが、ひと言でいえば、太田先生が若い頃に経験され、熊沢先生が公務員労組から聞かされている「古き良き公務員像」に依拠して、「公務員は自分の仕事が承認されないからやる気をなくしている」という紋切り型の公務員管理主義批判にとどまっているということになるのではないかと思います。いやもちろん、そういう面がないということではなくて、それって公務員じゃなくなって民間だって同じことでしょ?と思うわけです。

というわけで、個人的な習慣として本を読むときは感想を色分けした付箋を貼っているのですが、この本は疑問に思ったときに貼る色の付箋でいっぱいになってしまいました。それを一つ一つ取り上げて反論しようかとも思いながら読んでいたのですが、あまりに多すぎたので諦めます。あえて総論的に言えば、組織論を専門とされる研究者でありながら、個人のやる気とか承認に着目するあまり組織管理の面が等閑視されているというところでしょうか。まあ、もともと新書ですからボリュームの面では総論的になってしまうのもやむを得ないのでしょうけれども、それにしても個々の労働者の働きに着目しすぎて組織管理がないがしろになる組織論というのも不思議なものではあります。

典型的なのが、IT化によって仕事の中身が変わったというIdealな仕事論です。

 一つはIT(情報通信技術)化の影響である。以前だと役所の仕事の多くは、文書の作成や送付、登録、帳簿の整理、数字の計算、関係部局や関係機関を訪問しての意思伝達・調整といった、かなりの単純で定型的な作業が大きな割合を占めていた。ところがパソコンやインターネット、庁内LANなどの普及により、それらの仕事は大幅に効率化された。各部署で行っていた総務・庶務の業務も、事務センターで一元的に処理するようになりつつある。
 さらに財政事情の悪化から、業務を効率化し経費の削減を図るため、各種施設の管理、清掃、警備、情報処理といった業務は民間への外部委託が進んでいる。
 そうなると当然、浮いた時間と人手はIT化できない仕事、たとえば調査や分析、調整や判断、住民に対する指導や助言、質の高いサービスというような仕事に振り向けられることになる。
(略)
 ところが、調査や分析、調整や判断、質の高い住民サービス、政策立案や企画、それにプロジェクトの遂行というような仕事は、いずれも受け身では成果が上がらない。住民の先頭になってまちづくりや地域再生を成し遂げるとなるとなおさらだ。そして“やる気”のある職員は、ときには地域を一変させるほど大きな仕事をするが、“やる気”のない職員はほとんど役に立たない。いや、ときには事業を停滞させ、地域に大損害を与えることもある。職員一人一人の“やる気”と発揮される能力が、かつてとは比較にならないくらい重みをもってきたのだ。

太田『同』pp.55-56

だからそれが間接部門の軽視による組織運営の行き詰まりとか官製ワーキングプアの大量発生とかにつながっていて、「役立たずのコームインめ!」という感覚それ自体が「公務員バッシング」の典型だということに太田先生は気がついていないようですね。確かに太田先生は本書で「“やる気”を奪った「ポピュリズム型」公務員改革」と縷々説明されていますが、日本型雇用慣行に一切言及されずに説明されているため表層的な組織論になってしまうのだろうと思います。

ちなみに、日本型雇用慣行は大企業を中心に発展したものではありますが、それはゴーイングコンサーンを持つ組織としての組織管理上の必要に迫られた面があって、そのためにどんなに小さな役場であってもゴーイングコンサーンを持つ組織として日本型雇用慣行を取り入れてきたのが実態ですので、それを踏まえない議論が表層的に思われるのも致し方ないところなのでしょう。

ついでに言えば、太田先生が引用部で効率化されたといっている業務は、そのほとんどが効率化しようのない業務です。確かに表計算ソフトで計算事務が軽減されたりとか、帳簿が電算化されて入力が簡単になったという程度の効率化はあったかもしれませんが、IT化が進んだからといって計算の検算は手作業で行いますし、帳簿のチェックも目で行っています。「そんなことは非効率だ」とか言われてしまいそうですが、表計算ソフトの計算式が間違うなんてことはよくあることですし、帳簿の入力誤りは人がキーボードを叩く限り必ず発生する(帳簿入力の誤りで「消えた年金」とか騒いでいた某現政権党もありましたね)わけで、それは効率化のしようがないわけです。さらに、「IT化が進んだから仕事の質を求める」というまさに太田先生の主張される理屈によって仕事そのものは増えているわけで、たとえば何かのプロジェクトを新規に立ち上げたりすれば、そこに待っているのは膨大な「文書の作成や送付、登録、帳簿の整理、数字の計算、関係部局や関係機関を訪問しての意思伝達・調整といった、かなりの単純で定型的な作業」でして、IT化とか民間委託ぐらいで仕事が効率化されるはずもないんですけどねえ。

公務員バッシングの問題を考えたい方には、「組織学者」を標榜される太田先生のこうした表層的な組織論よりは、常見陽平さんの『僕たちはガンダムのジムである』を強くおすすめするところです。
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コメント
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https://twitter.com/takeonomado/status/269849769877323776
「市役所ひとつ見れば判る。これだけコンピュータとネットワークが普及したんだから、公務員・役人は今の2割もいれば済むだろ。銀行員も同じ。国家システムそのものが、時代遅れの社会保障事業になってる。そしてシステム崩壊を恐れて、一生懸命に洗脳して愚民を量産しようとしてる。 」
2012/11/23(金) 13:56:35 | URL | これとか #EBUSheBA[ 編集]
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2012/11/22(木) 01:36:46 | まっとめBLOG速報