2012年10月28日 (日) | Edit |
海老原さんから新著をご恵投いただきました。いつもながら場末のブログを気にとめていただきありがとうございます。前著で「今後は、周辺領域で上梓の遅れているジェンダー関連や、高齢者雇用などの残課題についていくつか発表を行った後」と宣言されていた通り、今回はジェンダー関連で『女子のキャリア』というタイトルです。すでにhamachan先生も取り上げられており、そのコメント欄で海老原さんご本人も登場して「あとがきのあとがき」的な本書の狙いも語られていますので、私も本書を拝読する上で大変参考になりました。

本書の趣旨からはやや筋違いの話になってしまいますが、hamachan先生のブログでコメント欄で海老原さんとhamachan先生がやりとりされている内容から考えさせられることは、かつての日本型雇用慣行において「女子のキャリア」がいかに重要な役割を果たしていたかということです。海老原さんご自身の言葉では、ジェンダー関連は周辺領域とされているわけですが、制度とか慣行を考えるときに不可欠な視点は、メインで見えているものはあくまで制度の束の一部であって、それを支える周辺的な制度や慣行によって成り立っているという自明の理(その意味では、メインとか周辺という区別は便宜的なものに過ぎません)であって、本書はそのことを鮮やかに描き出していると思います。海老原さんのコメントから引用させていただくと、

欧米型は、多数のノンエリート層が低い給与で夢も働くから、モチベーションが維持できません。会社は彼らのWLB維持に躍起とならざるをえません。こうした熟練の低賃金労働者がいるために、若年が市場からはじき出されます。つまり、モチベーションと若年受け入れにおいては、日本型の勝利でした。
ただ、こうしたノンエリート型社会は、出世しないわけだから出入り自由であり、長期勤続の必要もなく、いつまでも現役なので腕がさびません。そして前述の通りWLBが充実している。つまり、女性と高齢者の雇用では、明らかに日本型が負けています。
この帳尻を合わせる時期に日本は来ているのだと思います。

投稿: 海老原嗣生 | 2012年10月17日 (水) 07時08分
海老原嗣生『女子のキャリア』 コメント欄(2012年10月15日 (月))

日本型雇用慣行の功罪を峻別して対比させることで、「若者かわいそう論」とか「ネットカフェ難民」とかそれぞれの世代や時代ごとに生じている(ように見える)問題に対して、より深くその真相を考察することができるようになります(いやもちろん、個人的にそこまで言えるのだろうかという疑問点が、特に専門的な議論が展開される第6章にはないわけではありませんが、海老原さんご自身が「真摯に受け止める心づもりでおります」(p.211)とされていますので、これから議論が展開されていくことを期待しております)。そうした本書で海老原さんが女子に送っているエールが、一見女性が自身のキャリアを考えることを薦めておきながら、その実私のようなアラフォー男性はもちろんのこと、高齢者や若年者に対するエールかつ重要な問題提起にもなっていることが、その議論の深さを表しているのでしょう。

 さて、社会はこんな風に変化をしているところです。その流れに先んじて、すでに女性のキャリアはどんどん変化してきました。総合職女性が増え、結婚と出産は後ろ倒しとなったために、女性のキャリアは普通に30代中盤まで延びています。
 にもかかわらず、人々の気持ちのほうはこの変化についてこれず、いまだに1980年代のまま。OLモデルさえ消え去りません。そう、ズレて、軋みを起こしている真っ最中なのです。
 だから多くの女性にこの本を読んでほしいのです。
 そして、トップランナーたる30代女性たちには、変化の荒波の中でどう対処していくべきか、そのヒントの一つにでもしていただきたい。
 20代女性たちには、変化とズレの軋みをとらえて、OLモデルや80年代的価値観とどう向き合っていくべきかを、考えて働いてほしい。さらに、20歳前後の学生さんたちには、あなたが30代になるころ、社会は相当変わっている、そのことを頭にインプットして、歩き始めてほしい。
 そう、どの年代も、変化の波をかぶるという意味では共通なのです。だからこそ「共通のターゲット」として、この本を作りたかった。それが著者としての想いです。
pp.222-223

女子のキャリア: 〈男社会〉のしくみ、教えます (ちくまプリマー新書)女子のキャリア: 〈男社会〉のしくみ、教えます (ちくまプリマー新書)
(2012/10/09)
海老原 嗣生

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実は、このメッセージの裏には「男はもっと家事をやれ」というメッセージが隠されているとのこと。本書でもたびたび取り上げられていますし、上記のコメントにもありますが、男性正社員は確かに正規社員として雇用も保障され賃金水準も年功序列で高くなっていくのですが、定年間近になると実務を離れてほとんど忘れてしまい、身の回りのことすらできない「濡れ落ち葉」に成り果てていきます。もちろんそれは、若い頃に現場で猛烈に仕事をした経験を元に、中高年以降は管理職として判断する立場に専念した結果ではありますが、いびつな「会社人間」となって退職していく男性が、一方では「社蓄」批判の対象となっていたのも事実でしょう。「誰でもが管理職になれる」という男性正社員の未来像が実は使い物にならない中高年でしかないのであれば、それは本人にとっても会社にとっても不幸なことです。女子のキャリアはこうした男性正社員の働き方を支えていたものでもあったわけで、女子のキャリアを考えることは必然的に男性正社員のキャリアを考え直すことを迫るものとなります。いやあ深いですね。

ところが、hamachan先生のところでやりとりがありましたが、この海老原さんのコメントに対して後藤和智さんが痛烈に批判されていて、頭を抱えてしまいました。後藤さんの専門領域である俗流若者論の一つとして海老原さんの主張が批判されているわけですが、若者だけが問題ではないという複数の問題設定をすることに対して批判されているのであれば、後藤さんの批判はあまりに教条的に過ぎるのではないかと感じています。

私のような一介の下っ端チホーコームインでも、端から見ればムダな社会経験かもしれませんが、アラフォーともなればそれなりにムダな知識やら人脈やらができて、仕事の上でもプライベートでもそれなりに身の回りの方々の働く現場やもめ事やらに巻き込まれて、利害や意見の対立は解消しようのない前提でそれなりに世の中が動いているということを肌身で感じるようになります。世間からは「既得権益」の塊のようないわれ方をする私からすれば、奇しくも後藤さんがご自身で述べられているこの点が、後藤さんの批判の最大の弱点だろうと思います。

濱口氏の「りふれは」批判は、少なくともここでは、はっきり言って暴走しています(私も俗流若者論批判、ニセ科学批判の時にたまに暴走するので他人のことは言えないことを承知の上で言っています)。初期の「景気の問題に触れない言説はまったく意味がない」という言説への批判や、あるいはそのシングルイシューを支持してくれるだけで歴史修正主義や陰謀論に傾倒する言説への批判にとどまっていればよかったものの、少なくともここで持ち出されている濱口氏の「りふれは」批判は、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、というものでしかありません。それこそ「りふれは」や池田信夫と同じ思考ではありませんか。

濱口桂一郎氏の批判に応える(後藤和智/後藤和智事務所OffLine@仙台コミケ「C」16 · 11 10月17日 21:24)

世の中がシングルイシューで片づけられることばかりではないという「りふれは」への批判に理解を示すのであれば、俗流若者論というシングルイシューを叩けば問題が解決するわけではないことも後藤さんご自身が理解されているはずです。もう少し踏み込んでいえば、シングルイシューのみを問題とすることでその問題が構造的な何者かにすべて帰着してしまい、結局は具体的な行動に結びつかないということも懸念されます。シングルイシューを巡る議論はそれ自体が問題なのではなく、シングルイシュー化することで結果と原因が一対一で特定されてしまい、その原因となったものが徹底的にバッシングされる一方、それを成り立たせている周辺的要因が看過されてしまう点にあるものと考えます。私の考える一部のリフレ派と呼ばれる方々の問題点もその点に集約されます。

実は、筑摩書房から送られてきた本書には、上野千鶴子先生との対談(「ちくま」11月号だそうです)も添えられていまして、上野先生の「私は、30年間既存の組織が残ってきたというのは、バブルが崩壊した後も、政財官労の合意で、既得権益集団が、成功体験にもとづいた組織を現状維持しようとした間違った選択が尾を引いたと思っています。ですから、人災だと思っているんです」という発言を読んで、後藤さんのコメントと同じように頭を抱えていたわけですが、人災だから防止も解決もできるという「信仰」ほど厄災を生むものはないと思われるわけで、こうした言論は結局のところ悪者を叩いて終わるだけの生産性のないものでしかないと思います。

海老原さんのメッセージを特定の世代や階層にターゲットを絞ったものではなく、日本型雇用の影響を受ける日本社会の一員一人一人へのエールと理解している私からすれば、hamachan先生が「りふれは」を持ち出して後藤さんに示している懸念が上記のような観点から理解できるように思うのですが、まあ、私のようなおっさんのいうことなんて俗流若者論と同じと見なされるのでしょうねえ。
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