2012年08月13日 (月) | Edit |
更新に手間取っているうちに震災から17か月が経過しました。被災地とひと言でいえば「復興はまだまだ進んでいない」ということになりますが、被災地といっても着々と復旧の進む地域もあれば、がれきの撤去すらなかなか進まない地域もあります。これを個々の世帯ごとにみれば、同じ地域でも仕事や家族の状況によって状況はさまざまですし、さらに世帯内の同じ家族の中でも復興に向けて歩みを進める人、そこから前に進めない人がそれぞれいます。

昨日はオリンピック最終日で男子マラソンの中継がありまして、日本勢は残念ながらメダルには届きませんでしたが、すべての選手が目指すのは同じゴールです。しかし、最終的に一位でゴールする選手は一人ですし、一位から最下位まで一人一人のランナーが全力で走った結果として順位がついてしまうのがマラソンという競技の厳しさです。子供の頃に読んだアシモフの子供向け図書で、月の満ち欠けと地球の干潮・満潮の関係を説明する際に、「マラソンではランナー全員が同じゴールを目指して一斉にスタートするが、ゴールに近くなるほどランナーの列は縦に長くなる」という例えがありまして、誰かが抜け駆けしたわけでも、誰かが怠けたわけでもないとしても、その進み具合には差が出るという自然の摂理に不条理さを感じたことを思い出します。

自然の摂理は不条理であるとしても、人間のような社会性をもつ生物の世界でそのような状態を放置することは、その生物が依存して生活する社会そのものの維持を不可能にしてしまいます。ここからいつもの再分配論の議論につながっていくわけですが、現在被災が深刻だった地域で問題となっていることにつなげて考えてみると、雇用情勢の改善が伝えられてはいるものの、実際にはなかなか雇用の確保に結びついていないという現状があります。

求人0.92倍 被災3県は1倍台 東北6月(2012年08月01日水曜日)

 厚生労働省などが31日まとめた6月の東北の有効求人倍率(季節調整値)は、前月比0.01ポイント下回り0.92倍だった。14カ月ぶりに悪化したが、全国平均0.82倍を上回り、東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島で高い水準を維持した。3県とも建設、サービスなど復興関連の業種がけん引している
 県別の有効求人倍率は表の通り。宮城は8カ月連続の上昇。5月と同じ全国3位だった。宮城労働局は「しばらくは1倍を超える状態が続くだろう」と話している。
 宮城の新規求人倍率(季節調整値)は前月を0.07ポイント下回ったが、1.91倍で全国最高。ハイブリッド車向け電池製造など製造業が堅調で、人材派遣では派遣先が自動車部品や電子部品など製造業が半数以上を占めた。
 公共職業安定所別の有効求人倍率(原数値)では、仙台1.13倍と8カ月連続で1倍超え。製造業が集積する大和出張所は1.27倍と高い。沿岸では石巻0.88倍、塩釜、気仙沼がともに0.71倍と前月を上回った。
 前月を下回った岩手、福島の各労働局は「わずかに悪化したが、求人倍率は堅調に推移する」と分析している。
 岩手は沿岸で回復基調が強い。釜石が0.94倍で県内最高。大船渡0.90倍、宮古0.78倍だった。0.90倍の北上、0.88倍の盛岡など内陸部と同水準まで回復した。
 岩手労働局は「内陸、沿岸の格差がなくなってきている。県全体、全業種で求人意欲は強い。今後も大きな下ぶれはないだろう」とみている。
 福島が1倍を超えたのは1993年5月(1.02倍)以来で19年1カ月ぶり。福島労働局は「復旧作業で県外から訪れる人が多く消費も好調。サービス業の求人も多い。今後2~3カ月は高水準で推移する」と分析する。地域別では相双1.01倍、平0.93倍と沿岸が好調。内陸の郡山も1.01倍だった。

有効求人倍率が1倍を超えているということは、6月末の時点では仕事を探している求職者よりも企業などが求人している人数の方が多いということ(季節調整値ですので実数ではまだ求職者の方が多いのですが)になります。この数字から雇用情勢をどのように把握するのかというのはなかなか難しいところでして、そもそもの話からすれば、ハローワークを通じた求人、求職の数がその地域の求人や求職をどれだけ反映しているかという点が不明です。リクナビとかの就職サイトもありますし、被災地のような小さなマーケットでは店頭での求人とか口コミとかでの就職もそれなりのマーケットとして機能しています。昔は「2割ハローワーク」という言葉もあるくらいに、ハローワークを通じた求人・求職は実際の労働市場の一部に過ぎないのではないかという指摘もありました。

もちろん、実数のボリュームを見ると、総務省が公表する労働力調査における都道府県ごとの完全失業者数と厚労省が広報する一般職業紹介状況での有効求職者数にそれほど大きな乖離がないわけですから、ハローワークを通じた求職者の数はそれなりに実態に近いだろうとは思います。特に、雇用保険の受給資格者は、ハローワークで求職活動しなければ失業給付等の基本手当を受給できなくなりますし、雇用保険が次の就職へのインセンティブを有していることが統計上もアクティベーションの面からも重要な機能を果たしていることの表れでしょう(話は変わりますが、雇用保険業務を職業紹介から切り離すような地方分権は、上記の通り求職活動に対するインセンティブの面からも重大な問題を孕みます)。

ただし、統計的な数字の上では求職者数よりも求人数が多くなっているとはいえ、実際に生活を支える仕事として就職に結びつく求人が限られているために就職件数が伸び悩んでおり、特に中高年齢の求職者が滞留する傾向にあります。このような状況を指して「求職と求人のミスマッチ」といわれるわけですが、そうした方々の実態を見ていると何とも表面的な言葉に思われます。求職している方が仕事を探す条件はさまざまあるわけですが、とりもなおさず当面の生活費に切羽詰まっている方はそれに十分な賃金の額を必要とします。そうなると、交渉上は不利な状況に追い込まれてしまうため、最低賃金に張り付いたような仕事でもしなければ生活そのものができないということになってしまい、そのような方が就職しても、その後の賃金が上がることはほとんど期待できません。そうしたことを見越して就職が進まないということであれば、雇用の確保のために必要なことは、緊急雇用創出事業による雇用創出などではなく、適正な労働条件で仕事ができる環境であり、それを実現するための労使関係を再構築することなのだろうと思います。

でまあ、労使関係の中で労働条件を向上させていく仕組みが、日本国憲法28条に基づいて労組法・労調法が規定する集団的労使関係なわけでして、これもいつもの集団的労使関係の再構築の話にしかなりませんが、上記で触れた緊急雇用創出事業による雇用創出にも無関係ではなくなっています。この点については、昨年12月に「震災以降の緊急雇用創出事業をどう位置づけるかが、戦後の「労働行政に取り憑いた夢魔」((c)hamachan先生)とまで言われた失業対策事業(失対事業)と緊急雇用創出事業が違うものとなるかの分かれ目になるのではないか」ということを述べておりましたが、改めてhamachan先生が指摘する失対事業の問題点を引用させていただくと、

 失業対策事業に使用される労働者は公共職業安定所の紹介する失業者でなければならず、その賃金は労働大臣が定め、しかもその額は一般の賃金額よりも低く定められることとされた。失業対策事業が他にどうしても職のない失業者のために実施される最終的かつ臨時的な労働機会の提供であり、失業者は他に適職ある際はその日からその適職に就くべきとの趣旨からである。
 また、この性格から、雇用期間は長期間であってはならないことが要請され、このため法文上は雇用期間の定めはないが、行政運営上雇用期間は1日限りとし、日々適職の有無を確認し、日々失業の認定を行って、その者が他に職なき場合に限り、その日だけ失業対策事業に就労させることとした上に、同一人を長期間にわたって就労させることは事業本来の目的に反するとして、公共職業安定所は原則として6ヵ月以内に定職に就くように就職斡旋に努めることとされた。これがその通り実行されていれば、その後の問題はなかったかもしれない。しかし、現実は、就労者の滞留、固定化が進み、失業対策事業は労働行政に取り憑いた夢魔と化していき、その打ち切りが数十年間にわたる課題として行政にのしかかっていくことになる。
p.123

労働法政策労働法政策
(2004/06)
浜口 桂一郎

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失業対策事業の夢魔をごく乱暴にまとめると、雇用期間を長期間としないよう6か月以内に定職に就くよう就職斡旋に努めることとされながら、実際には滞留・固定化が進み、さらに事業そのものの終了時期が明確化されなかったために、「最終的かつ臨時的な労働機会」であるはずの失業対策事業が「定職」となってしまい、「全日自労」という労働組合が結成されて失対事業を紹介するだけの公共職業安定所に対して団交を申し入れる事態にまで発展し、結局1995年まで半世紀近く事業が継続してしまったことでした。

ここで注意すべきなのは、雇用期間を長期化させないことによって、労働大臣が賃金を低く抑えることとされていたことです。つまり、労働組合を結成することによって失業対策事業の賃金などの労働条件を向上するための交渉をさせないような仕組みをもくろんでいた(と思われる)のですが、滞留・固定化によって雇用期間が長期化するにつれて労働組合が結成され、団交申し入れが行われるようになってしまったわけです。

で、昨年11月に改正された「緊急雇用創出事業実施要領」をみてみると、

② 労働者の雇用・就業期間
ア 緊急雇用事業
 新規雇用する労働者の雇用・就業期間は6か月以内とし、1回に限り更新を可能とすること。
 ただし、新規雇用する労働者が被災求職者である場合には、2回以上の更新を可能とすること。
イ 重点分野雇用創出事業
 新規雇用する労働者の雇用・就業期間は1年以内とし、更新は不可とすること。
 ただし、若年者(40歳未満の者をいう。以下同じ。)の雇用機会の確保を目的として実施する事業(平成22年度に開始したものに限る。)である場合は、1回に限り更新を可能とすること。
 また、新規雇用する労働者の雇用・就業期間が6か月以内である場合には、1回に限り更新を可能とすること。
 上記にかかわらず、新規雇用する労働者が被災求職者である場合は、2回以上の更新を可能とすること。
ウ 地域人材育成事業
 新規雇用する労働者の雇用期間は1年以内とし、更新は不可とすること。
 ただし、介護福祉士の資格取得を目指すことを目的とする事業及び若年者の雇用機会の確保を目的として実施する事業(平成22年度に開始したものに限る。)については、1回に限り更新を可能とすること。
 また、新規雇用する労働者の雇用期間が6か月以内である場合には、1回に限り更新を可能とすること。
 上記にかかわらず、新規雇用する労働者が被災求職者である場合は、2回以上の更新を可能とすること。
エ 震災等緊急雇用対応事業
 新規雇用する労働者の雇用期間は1年以内とし、更新は不可とすること。
 ただし、新規雇用する労働者の雇用・就業期間が6か月以内である場合には、1回に限り更新を可能とすること。
 上記にかかわらず、新規雇用する労働者が被災求職者である場合は、2回以上の更新を可能とすること。
 なお、被災求職者を優先的に雇用すること。
オ 生涯現役・全員参加・世代継承型雇用創出事業
 新規雇用する労働者の雇用期間は1年以上とし、更新を可能とすること。

緊急雇用創出事業実施要領(注:pdfファイルです)」(厚生労働省

となっており、「被災求職者」については雇用期間の制限がなくなっています。なお、「被災求職者」とは「東日本大震災等の影響による失業者(青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、千葉県、新潟県及び長野県内の災害救助法適用地域に所在する事業所を離職した失業者又は当該地域に居住していた求職者)」とされており、このうち岩手県、宮城県、福島県は全市町村が災害救助法適用地域ですので、全域で「被災求職者」の定義が適用されます。ということで、失業対策事業が雇用期間を制限できなかったために労働組合が結成され、失業対策事業の継続による雇用が維持されていった状況と同じ状況が現出されつつあるといえます。

ただし、私自身は、上記の実施要領で規定された地域では緊急雇用創出事業での雇用期間に事実上の制限がなくなった(もちろん上記の実施要領の「10 基金事業の終了等」で事業の終了時期が明記されているので、その時期が来たら終了することにはなっていますが、現時点の緊急雇用創出事業も当初は平成23年度で終了する予定が24年度まで延長されており、今後延長がないとはいえない状況です)以上、緊急雇用創出事業で雇用されている労働者の組織化は避けられないだろうと考えています。そのときに緊急雇用創出事業の使用者性が問われることになるわけで、民間に委託している委託事業なら民間が使用者といえるのか、委託元の県や市町村が法人格否認の法理によって使用者性を有するのかという問題がありますし、直接雇用している事業であれば県や県から補助金を受けている市町村が使用者となるのか、それをさらに進めて国が総元締めとして使用者性を有するのかという問題もあります。

いずれにしろ、雇用のミスマッチという言葉によって仕事内容はもちろんのこと、労働条件が希望と合わないことを指すのであれば、その解決方法として集団的労使関係を考える必要があるのですが、かといって、緊急雇用創出事業でそれを構築することは失対事業の夢魔を繰り返すことにつながりかねません。とはいえ、被災地を含めた当地では、集団的労使関係なんてものが見向きもされない状況にあるのが実態でして、お盆に杞憂してばかりいるのも詮無いことではありますね。
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