--年--月--日 (--) | Edit |
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


2012年07月10日 (火) | Edit |
私自身は緩やかにリフレーション政策を支持する立場でして、「リフレ」にトッププライオリティを与えなければ「反リフレ派」とか「デフレ派」と罵倒するような先鋭的な「リフレ派」には距離を置く必要性を感じていることもあって、拙ブログでは「一部のリフレ派と呼ばれる方々」という言い方をしております。

でまあ、一部のリフレ派と呼ばれる方々の復興関連の本を立て続けに読んでみたのですが、あまりにあんまりなもので気分が落ち込んでおります。「一部のリフレ派と呼ばれる方々」ってのはどうやら陰謀論に傾きやすい性質を持っているようで、それはご自身の理論が正しいと信じるあまり、その理論が実現されないのはよからぬことを企んでいる誰かの仕業か、はたまたどうしようもない馬鹿ばっかりが政策運営を担当しているからという「俺様だけが正しい」論を信奉してしまうからなんでしょう。とはいえ、復興関連でも鬼の首を取ったかのように「俺様だけが正しい」論を喧伝しているのを拝見すると、復興の現場にいて被災された方々の現実を目の当たりにしている者としては、怒りを通り越してむなしさだけが読後感として残っています。

個人的にはモチベーションを下げられてしまって明日からの仕事をどうしてくれるんだという思いはあるのですが、そういう意見があるということも現実として受け止めなければなりませんので、備忘録としてメモしておきます。まず一冊目が、「お手軽に批判対象を公共の敵に仕立て上げようとする、せこいトリック」を駆使したタイトルでおなじみの本でして、著者のお二人は言わずと知れた陰謀論的リフレ論者です。正直にいえば、私自身がリフレーション政策を知るきっかけの1つが著者のお一人の田中先生なのですが、私が現在の日本の政府支出の中でも極めて貧弱と考える所得再分配や社会保障については「経済学の理論にうまく組み込めない」とさじを投げてしまう方でもありまして、財政政策という政府による財政支出の使い道には無頓着かつ陰謀論な方であることが、この本にも如実に現れているように思います。

結局のところ、経済学者として経済学の理論なり実証なりについてご専門の領域の範囲内で議論されていれば有益な議論になると思うのですが、たとえば私が比較優位をもつ労働とか雇用関係の記述を見るといかにもなトンデモ論になっているわけです。経済学の理論なり実証の中で「正しい」と考えられる理論について述べていながら、それを現実問題に落とし込む際にトンデモ論でコーティングされてしまうと、「正しい」理論であっても「使えない」理論にしかなりません。たとえば、

 さらに不況下では、新しいイノベーションを生み出すはずの若い人たちが、まったく働けなくなっている。しかも、不況が深刻になるほど、若年層の失業率が高くなる。そうすると、「日本的な雇用システムが問題である」と言い出す人がいるけれど、日本的な雇用システムなんて、そもそも会社の9割をしめる中小企業とかベンチャー企業は全然採用していないから。
 シュムペーターが理想としている、不況の過程の中で、新規の小さい企業が集まってイノベーションを起こすというのは空想論で、そういう企業こそ、不況の中で立ち行かなくなってしまう。だから、不況下ではイノベーションが生まれないというのが現実です。
 むしろ、重厚長大型で、資産だけが豊富で、しかし、新しい投資機会があまり見つけられないような企業に限って、資産を切り売りし、何とか生き残ってきた。そういう保守的な企業のほうがサバイバルできてしまった。結果、既存の社員はなるべくクビを切らずにいこう。だから、新卒はとらないでいこうということになり、若年者失業率が上がったんです。
p.90

「復興増税」亡国論 (宝島社新書)「復興増税」亡国論 (宝島社新書)
(2012/01/10)
田中秀臣(たなか・ひでとみ)、上念司(じょうねん・つかさ) 他

商品詳細を見る

※ 以下、強調は引用者による。

「日本的な雇用システム」というのが具体的にどのようなものを指すのかはわかりませんが、中小企業とかベンチャー企業が採用していないというのであれば、「終身雇用」とか「年功序列」とか「企業別組合」というような「三種の神器」で新卒一括採用するのが、ここでいう「日本的な雇用システム」と考えてよさそうです。ところが、「会社の9割をしめる中小企業やベンチャー企業」が採用していない、ということは、「重厚長大型」で「保守的な企業」が採用している「日本的な雇用システム」では「新卒をとらない」としたために、「若年者失業率が上がった」んだそうです。

上記の意味の「日本的な雇用システム」を9割を占める中小企業やベンチャー企業が全然採用していないというのは、これ自体もかなり怪しい前提ではありますが、まあ百歩か千歩ぐらい譲って間違っているとまでは言えないかもしれません。しかし、その残りの1割の重厚長大型で保守的な企業が新卒採用を控えたことによって若年者失業率が上がるという議論は、ご自身がおかれたその前提があるからこそ成り立っていないように思います。さらにいえば、「不況の過程の中で、新規の小さい企業が集まってイノベーションを起こす」というのはシュンペーターの理論ではなく、シュンペーターを誤読した方の議論ではないかと思われるところ(シュンペーターは企業家と経営者を明確に区別し、「新結合」をもたらす企業家はごく少数のリーダーでしかなりえないことを指摘していますし、不況とか小さい企業はその要件とされていないはず)ですが、まあ、経済学については専門家でもない私が間違っているのでしょう。

リフレーション政策そのものは経済学の理論として考えれば「正しい」だろうとは思いますが、その実現を主張する方の認識がこれでは、リフレーション政策が実現することはないのだろうなと思ってしまいます。

そうした思いを持って読んでしまっていますので、その他の記述もなんだかなあという印象です。

田中 つけ加えると、常に増税をしたがる財務省なんかは、「消費税を上げると、翌年の税収がガクンと減るという人がいるけれど、その後は緩やかに回復していきます。という話をするんです。でも、そんな話に騙されてはいけない。財務省は、全体の税収の変化を見ずに、消費税収の変化だけをとらえて、消費税を増税すれば税収が増えると言ってしまっている。
 確かに、消費税は、増税後しばらくすると伸びているけれど、ほかの税収が下がってしまうというのは、図表4から明らかなんです。
田中・上念『同』p.140

いやまあ、1997年の消費税率引き上げのときは、「先行する減税と社会保障支出の増加によって、国民負担はほとんど変化しなかった」んですが、本書にはその点についての記述が一切ありませんね。1997年はアジア通貨危機があった年でもありますし、消費税率引き上げだけを取り上げて、全体の国民負担にはほとんど変化がなかったことに触れずに「増税によって税収が減った」というのがいまいちよく理解できません。経済学ってそういうことだったのか。

ここまで読んだだけ自分を褒めたいところではありますが、それはともかく二冊目への布石なんですが、

田中 まず復興資金の必要額としては、今回の被害総額を埋めるためには、20兆円から30兆円くらい必要であると。そして、過去の事例から、震災が起こった初期に一気に復興資金を投入しなければいけないという視点に立つと、初年度でそのうちの大半、今回でいえば20兆円近くを一気に投入するのが望ましいということがいえます。
 しかし今、マスコミから漏れ聞こえてくる報道を見ていると、政府が出す復興資金は、まず4兆円くらいといわれています。そして、夏ぐらいにまた追加の復興資金の話が出て、第2弾が2兆円ぐらいになるのではないか、さらに、第3弾として年末ぐらいに1兆円ほど出すのではないか、というのが僕の見立てです。で、合計7兆円。そういう規模の復興資金を政府は提示してくるんではないかと思うんですよ。もしかしたらこれより少額になる可能性すらある(※)。

※ 第3弾時のみ11.7兆円と見立てが外れているが、国民にとっては少しはましであった。

田中・上念『同』p.191

見立てが外れた割に、だからといって政府を褒めることもないようではありますが、復興には「20兆円から30兆円くら必要」と1.5倍の範囲でのおおざっぱな見込みを基に、政府案では7兆円規模になりそうなことをたいそう批判されています。さて、これに対する一部のリフレ派と呼ばれる方の見解はいかに?
スポンサーサイト


コメント
この記事へのコメント
 震災から1年4ヶ月になります。連投でお元気そうで何よりです。

>さらに、第3弾として年末ぐらいに1兆円ほど出すのではないか、というのが僕の見立てです

 3次補正については、震災直後から各省庁から国公立大を含めて予算策定の依頼が行ったはずですが、「一部のリフレ派」は、はずれされたということですね。空想的な数字に終始しては怖くて依頼できなかったというべきでしょうか。
 
>田中 つけ加えると、常に増税をしたがる財務省

 常に減税を求めたがる民間企業の要望は、毎年のように上がっています。また、消費税と関税・間接税全般の改革については、消費税の目処が出た時点で小さな記事でしたが、関税の見直しに動いている財務省についてはどう見ているか問いただしたいところです。
2012/07/10(火) 18:55:42 | URL | hahnela03 #DgdRcaA.[ 編集]
田中先生はご著書「雇用大崩壊」で
不況期の若者の就職のために
公的資金をいかに使ったらよいかを
考えていらっしゃったかと思いましたが、
うろ覚えなので
今のもろもろのご意見との
整合性がよくわかりません。
2012/07/11(水) 02:36:48 | URL | S #EBUSheBA[ 編集]
> hahnela03さん

お心遣いありがとうございます。おかげさまでなんとかやっております。

> 常に減税を求めたがる民間企業の要望は、毎年のように上がっています。

当然のことながら、税金を取られる側は増税に反対し、国家の財政運営を預かる側は税金がないとやっていけないので増税しようとしますが、財務省職員も日銀職員も消費税は支払わなければならないわけで、単純な二分論では議論できないんですよね。まあ、こういえば「天下りでおいしい思いするんだろ」とか反論をいただきそうですが、天下りだって体のいい肩たたきにすぎず、天下ろうが消費税は払いますし、いずれにしろ「とる側」「とられる側」という単純な二分論ではありません。まあ、hahnela03さんのように複眼的な見方のできる方というのはなかなかいらっしゃらないようで。。
2012/07/13(金) 07:09:35 | URL | マシナリ #-[ 編集]
> Sさん

私は不勉強ながら田中先生の『雇用大崩壊』は未読ですので、そちらとの整合性はよくわかりません。田中先生の雇用能力開発機構に対する批判を見ると、公的セクターに対する攻撃性という点ではそれなりに整合性があるような印象はありますが。
2012/07/13(金) 07:13:48 | URL | マシナリ #-[ 編集]
情報かく乱は敵国指令か
 個人的にコーティングという安易な言語が大嫌いです。しかもソーシャルエンジニアリングのキーワード。かつてのタグチメソッドを思い出すのでやめてほしい。
2013/06/02(日) 20:05:25 | URL | 産総研 #-[ 編集]
コーティングビジネスの末日
 そうそう。とんでも論反対。産総研さん胡散臭いDLC野郎をどうにかしてください。
2013/07/03(水) 19:43:35 | URL | 矢野研究所 #-[ 編集]
オルレアン一掃プロジェクト
CNTはゴミレベル、鉄鋼材料の6倍はSMAGIC。
2014/02/18(火) 23:01:25 | URL | 学術のクリーン化 #-[ 編集]
学術的な洗脳ですね
 日立金属さんのSLD-MAGICは凄いらしいですね。これはコーティングではありません。特殊鋼の表面に自己潤滑物質をつくりすべりを滑らかにするといういままでにない鉄鋼材料。
 とにかく証券会社はリーマンショック以前に構築された経済予測モデルにしがみついていて技術革新に疎い。ニューラルネットワークアルゴリズムで出来た地球経済予測モデルはかなり劣化している。なぜなら開発人員を布陣できるほどの余力はなく、その一部の人間が金儲けするシステムにダメージを与える新たなハード技術が開発されてきているからだ。あまりネット上に拡散しないが、IT洗脳の終結が訪れている。
2014/10/05(日) 18:34:17 | URL | オイルマン #-[ 編集]
カーボン東レ
 DLCもゴミレベル。
2014/12/13(土) 22:10:47 | URL | オルレアン #-[ 編集]
今や時代はS-MAGIC
 そうですねマルテンサイト系鉄鋼材料でここまでの自己潤滑性能を実現したことはノーベル賞級の画期的なことだと思います。
2015/12/01(火) 19:02:37 | URL | ディープラーニング研究者 #-[ 編集]
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。