2012年02月28日 (火) | Edit |
昨年の震災直後から、被災地には国内のみならず全世界からも支援の手がさしのべられたことに改めてお礼申し上げるところですが、震災から1年が経過しようとする時期になると、その支援の内容にもいろいろと考えるべき点が見えてくるようになります。

たとえば、被災地の自治体には「「たとえばビルの8階とか9階とかで会議をしているとき、『いますぐ、ここから飛び降りろ!』と平気で言います」という方が創業して、現在も会長も務めているワタミ」の代表取締役が参与として迎えられていたりするんですが、この件で馬脚を現していたようです。

ワタミ社員の過労自殺を認定 入社2カ月の26歳女性
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2012022101001979.html
わたなべ美樹
https://twitter.com/#!/watanabe_miki/status/171926030666309632
[引用]労災認定の件、大変残念です。四年前のこと 昨日のことのように覚えています。彼女の精神的、肉体的負担を仲間皆で減らそうとしていました。労務管理 できていなかったとの認識は、ありません。ただ、彼女の死に対しては、限りなく残念に思っています。会社の存在目的の第一は、社員の幸せだからです

 この場合の余計な一文とは「労務管理 できていなかったとの認識は、ありません」であって、これが「労務管理はいま以上にしっかりやりたいと思います」であれば炎上することはなかったでしょう。何というか、適切な日本語の使い方の難しさというのは非常にアレだなあと思うところですが、結果としてワタミのブラック企業な感じがネットでより強く印象付けられる結果となってしまいました。

 一方で、サービス産業比率の高まりゆくわが国において、外食産業のもたらす雇用というのは影響が非常に大きいものがありまして、そういう産業が旧態依然とした体育会系チックな労務管理を続けていくと疲弊してしまうんじゃないかなあとも思います。これでシルバー採用とか進めたらどうなってしまうのかと。

 ワタミは介護事業に進出されたり、有機栽培、ケータリングなど異業種では相応に存在感を示しているだけに、いわゆる働き詰めさせて利益を追求していくように見えるビジネスモデルはやっぱり叩かれるよなあと感じる次第。

ワタミの過労死労災認定問題で、社長の渡邉美樹さんの漢の下がりっぷりが歪みない件について(修正あり)(2012.02.22)」(やまもといちろうBLOG(ブログ)
※ 以下、下線太字強調は引用者による。


不在になった切込隊長に替わって「やまもといちろう」となった山本一郎氏は、この件についても大人の論評をされていますが、「これが「労務管理はいま以上にしっかりやりたいと思います」であれば炎上することはなかったでしょう」と言えるかは甚だ疑問に思うところです。

ワタミ株式会社の代表取締役である渡邉美樹氏は、震災直後から物資提供やボランティアの送迎(?)に尽力されたとのことで、現在は岩手県陸前高田市の参与に就任されているわけですが、

 東日本大震災の後、私は縁あって陸前高田市の参与に就任し、この市の復興に関わらせていただくことになりました。公益財団法人スクール・エイド・ジャパンを通して、累積で支援物資は13トントラックで33台分送りましたし、ボランティアの人たちもバス70台以上、のべ2000人以上を送り込みました。

 ただ、まだ何か足りない。店を流され、家を流されながらも、「もう1度商売をしたい」という人たちがいる。この方々を支援することで地域経済を復興することが、私にできる一番重要なことではないかと考えました。経営者である私が今まで経験し、身につけてきたノウハウをこの地域の人たちに伝えることができます。

私が陸前高田市を支援する理由「もう1度商売したい」から生まれる復興パワー(2011年11月28日(月))」(日経ビジネスオンライン


この部分を読むと大変まっとうなことを述べられていると思うのですが、では、ワタミ(の関連会社を含む)が被災地でどのような商売を展開しているかというと、最低賃金ピッタリの時給でのコールセンター業務だったりするわけで、地元の経営者の皆さんにも「最低賃金ピッタリの時給で雇いなさい」と指南されているのかと思いきや、「外食企業はなぜ、創業から時間がたつと弱るのか」と大変示唆的なエントリがありました。

組織は人を食いながら成長していく

質問:右腕を育てる方法は?その人物を選ぶポイントはありますか。

 組織は人を食いながら成長していきます。

 会社は人そのものであり、社員は家族です。しかし右腕となると、非常に冷たいことを言うようですが、売上高10億円規模のときに非常に重要だった人が、売上高100億円規模になったときに重要かどうかは分からないということです。つまり、組織とともに人が成長しているならば、常に一緒にやっていけるでしょう。しかし、組織と人が一緒に成長するのはなかなか難しい。私の経験からすると、ほぼ不可能です。そうしたときに、その組織に必要な資質や技術、経験を持っている人間を外から採用する。本来ならばこれが正しい形です

外食企業はなぜ、創業から時間がたつと弱るのか 社員を幸せにするための5つの基本(2012年2月20日(月)2/6ページ)」(日経ビジネスオンライン
※ リンク先の閲覧のために日経BPの無料会員となる必要があります。


だいぶ前のhamachan先生経由ですが、「その組織に必要な資質や技術、経験を持っている人間を外から採用する。本来ならばこれが正しい形です」というのは、拙ブログでも議論させていただいたことのあるラスカルさんが指摘されるように、

 こうした「際物ども」は別にしても、一見、自由な経済活動を行っているグローバル企業が、支払うべき「コスト」を支払っておらず、結果的に、社会から「補助金」を受け取る存在になっているのではないか、ということが、本書の問題提起となっている。ひとつに、地球環境に関わる外部不経済の問題があり、貿易における関税や補助金の問題があるが、こうした視点は、特に目新しいものではない。しかし、本書の範疇はこれらにとどまらず、社会の中の信頼や、インフラについても言及し、グローバル企業が、地域住民の「負担」によって利益を得ている、という視点を多面的にえぐり出している。*2

*2:以前、グローバル企業とはいえないまでも、ある中堅規模の経営者が、海外企業から原材料を買い付けるバイヤーを採用したいが応募がない、ということについて不満を漏らすのを聞いたことがある。不思議なことに、この経営者には、自社でそうしたバイヤーを育成したいとの意向がまったく感じられなかった。自社で育成せず、他社で経験を積んだバイヤーを採用するのであれば、育成のためのコストを支払わない分、それ相応の負担をする必要があるだろう。この経営者には、自社のために社会が支払う「負担」というものへの感度がないらしい──バイヤーは、どこで誰によって育成されるのであろうか?

デイヴィッド・ボイル、アンドリュー・シムズ(田沢恭子訳)『ニュー・エコノミクス──GDPや貨幣に代わる持続可能な国民福祉を指標にする新しい経済学──』(2011-08-14)」(ラスカルの備忘録


ここで取り上げられている経営者と同様、渡邉美樹氏も社会が支払う「負担」というものへの感度は持ち合わせていないようです。そんな渡邉氏はさらにこう続けます。

 介護職員はだいたい一般の職員に比べて給料が低いというのが世の中の通説です。この分を戻してあげないといけない。私の理想と社員の給料をのどちらを優先するのかを考えて、「この不足分を埋めるだけの入居金をいただこう」というビジネスモデルに変更しました。まず最初に社員の衣食住ありきだからです。



「恒産なくして恒心なし」

 衣食住足りたけども、明日どうなるかも分からない。そんなところには幸せはない。安定しているということが幸せの条件だと思っています。「恒産なくして恒心なし」。一つの安定したものがあるから、安定した心でいられるのです。

 ですから社員の幸せを考えたとき、社員の給料を上げたいと思いました。逆に、給料を上げすぎてはいけないと思いました。つまり会社の経営を圧迫することになっては元も子もない。衣食住を守るためには会社が安定していなければならない。安定した生活を提供することが経営者としての大前提だと思います。

外食企業はなぜ、創業から時間がたつと弱るのか 社員を幸せにするための5つの基本(2012年2月20日(月)4/6ページ)」(日経ビジネスオンライン
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そりゃまあ、「介護職員はだいたい一般の職員に比べて給料が低い」といっても、ワタミの一般の職員が最低賃金で働いているなら「このぶんを戻し」たところで世間並みなのではないでしょうかねえなどと思ってしまうのですが、その直後に「給料を上げすぎてもいけない」と正直な言葉が並びます。で、この記事の標題でもある外食産業が衰退する理由については、

 なぜ外食産業の企業が創業から時間が経つと弱くなるかというと、店長の年齢がどんどん上がって行くからです。無制限に店が増えるわけではないので、年功序列だと店長全体の給料が上がっていき、損益分岐点が全店とも上がってしまう。一方で、店は古くなるから売り上げは落ちていく。結果として経営負担が大きくなり、最悪の場合には倒産してしまう。そのことに私は会社を作って5~6年目に気がつきました。

 ここはヘッジしなければなりません。なおかつ社員の幸せから考えても、正しいと判断し、社員の給料をすべて職務給にしました。つまり一般社員、課長、部長は職務が同じならそれぞれ同額です。毎年、給料が上がることもありません。ワタミはこういう給与形態になっています

外食企業はなぜ、創業から時間がたつと弱るのか 社員を幸せにするための5つの基本(2012年2月20日(月)5/6ページ)」(日経ビジネスオンライン
※ リンク先の閲覧のために日経BPの無料会員となる必要があります。


「年功序列では経営が悪化してしまうから定昇なんかするか」というのは労使交渉の場で定昇を求める組合側に対して使用者側がよく言う台詞でして、これって全然外食産業に限った話ではないよなあと肩すかしを食らった気持ちです。これまたhamachan先生経由ですが、まあこういう台詞を吐ける経営者というのは結局ブラック企業への道を進むほかはなくなるのでしょう。

まあでも面白いよね。定昇無くして組織への帰属から役職への帰属にモチベーションを振り替えて、なおそれで企業としてのガバナンスをちゃんとしようとしたら、日本型組織がもっとも苦手なコンプライアンスをベースにするしかなくなるよ
コンプライアンスベースの労使関係って、今ただちによーいどんしたら、困るのは労働側じゃなくて使用側だからね。
サービス残業とかサブロク協定とかみなし残業とか裁量労働とか週40時間とか男女雇機均とか、コンプラベースに乗っけたらどれも真っ黒クロスケ出ておいでだ。それを組織へのお義理でグレーに薄めてるだけ。組織潰れたら困るだろ?いまさら新しいとこ行くのアレだろ?じゃあちょっとくらいは目をつむれやと、そんなヤクザな諒解の上に乗ってる裸の王様なわけでしょ。

http://h.hatena.ne.jp/yellowbell/243586370633253978


定昇もなくその代わりに会社に忠実で「一緒に働きたくなる」ような社員であることを強いるわけですから、ブラック企業になるのも当然の成り行きですね。

最近昔の動画を漁っているところなんですが、裸の王様が被災地に乗り込んで真っ黒クロスケを量産している光景というのは、「お前もブラック企業にしてやろうか!」と呪いをかけられているような気がしますね。



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