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2011年12月20日 (火) | Edit |
前回エントリの最後にご登場いただいた宮本先生ですが、『POSSE』の最新号に掲載されたインタビューで重要な指摘をされています。

--ただ、やはり気になるのは、生活保護制度が改悪されたり、well-beingが安易に賃金の切り下げにつながったり、貧困ビジネスが流入するのではないかということです。また、日本のNPOや社会的企業にその力があるのでしょうか。

それはやはり中間的就労が制度化されていないからでしょう。ヨーロッパでは、中間的就労が社会的企業の主要なフィールドになっているわけですが、それが日本でうまく機能していないのは、こうした制度が整備されていないことが理由にあると思います。90年代の終わりから緊急雇用創出事業にものすごいお金が使われたのに、その位置づけがはっきりしていないため、基金の給付期間が終わると仕事が全然残っていません。安定雇用への接続になっておらず、緊急雇用がその連結点になるように制度を再設計することが重要です。
宮本太郎「アクティベーションの困難と震災後の就労支援モデル」p.126


POSSE vol.13 ダメな雇用創出が震災復興を妨げる?POSSE vol.13 ダメな雇用創出が震災復興を妨げる?
(2011/12/10)
大野更紗、古市憲寿 他

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※ 以下、強調は引用者による。


いやまあ、本号は「ダメな雇用創出が震災復興を妨げる?」という特集が組まれていて、その前にも「反貧困・震災以降のNPO論」などの記事があって拙ブログ的には論点が満載ではありますが、とりあえずのメモとして緊急雇用創出事業についての議論を追ってみると、宮本先生が指摘されるとおり、震災以降の緊急雇用創出事業をどう位置づけるかが、戦後の「労働行政に取り憑いた夢魔」((c)hamachan先生)とまで言われた失業対策事業(失対事業)と緊急雇用創出事業が違うものとなるかの分かれ目になるのではないかと思うところです。

拙ブログでも、CFWのうち「つなぐ雇用」ではなく「みたす雇用」は中長期的に継続する必要がある業務である以上、それに従事する労働者の賃金を中長期的に確保しなければならず、そのためにも復興に従事する公務員を増やすことを考えるべきと指摘しておりますが、宮本先生はそれを「中間的就労」として構想されているようです。もちろん、宮本先生が「ヨーロッパでは、中間的就労が社会的企業の主要なフィールドになっている」と指摘されるとおり、ジョブ型の労働市場が存在するヨーロッパだからこそ中間的就労が可能となっているのであって、メンバーシップ型の雇用慣行で企業に「就社」する日本の労働市場ではなかなか形成されないのではないかと思います。

社会的企業にしても、そこで働く労働者の生活が社会保障制度で十分に保障されているから可能であって、生活保障まで雇い主に求める日本型雇用慣行では社会的企業による雇用が生活を保障することは難しいとだろうと思います。特に、社会的企業という形では、特定の分野に集中的に資金を集めることができても、複数の分野で展開することは難しいわけで、特に経費を要する支援を必要とする層がその支援から漏れてしまう可能性を否定できません。私が「新しい公共」に懐疑的なのも、そうしたゴーイングコンサーンが乏しいと思われる「新しい公共」が社会保障としての福祉や保育、介護の担い手となっても、結局は財源不足の問題に直面してその現物給付を持続させられないだろうと考えるからです。

この点についてはまた別途取り上げる機会があるかもしれませんが、緊急雇用創出事業の位置づけに話を戻すと、本田由紀先生も別項で同じく「中間的労働市場」に関連づけて議論されています。

本田:CFWは地域を良くしていくから失業対策とは違うという考え方にも疑問があります。地域を回していくためには必要だけれど、収益には結びつきにくい仕事をこう適任設定していく。そして労働者は雇用期間の設定や輪番制により滞留しないようにしつつ、事業としては恒久的なものとして政府や自治体が責任を持つという形で、かつての失対事業新しく立て直す。それをCFWと呼べばいいんじゃないかと私は思います。民間産業としての雇用創出とは区別して。

(略)

 とても優秀な人でなくても働ける場を公的に確保していくことが、BIではなく言わば「ベーシック・エンプロイメント」として、生活保護のようなセーフティネットとともに必要だと思うんです。昔は「いよいよ仕事がなくて困ったら国の日雇い仕事でもやるか」というような会話が、貧窮層の中で交わされていたのですが、現在でいうと最賃よりも低い、もしかしたら時給500~600円かもしれませんが、そういう場が確保されているだけで、人々の気持ちがだいぶ楽になる気がするんです。だから、CFWに中間的労働市場の一つとしての展開可能性、連続性を期待しています。
永松伸吾・本田由紀・木下武男・今野晴貴「キャッシュ・フォー・ワークが日本の失業を救う?」pp.110-112


「中間的就労」も「中間的労働市場」も、何らかの事情でフルタイムで働くことが困難な方を対象として限定的な職務内容で就労する機会を提供しようとするものですので、その「何らかの事情」がたとえば震災によって職を失った方が物理的にも精神的にも立ち直るまでの「つなぐ雇用」として、緊急雇用創出事業やCFWが位置づけられているようです。宮本先生も本田先生も「安定雇用への接続」や「展開可能性、連続性」の重要性を指摘しているように、被災地においては当面の「つなぎ雇用」からの次の展開が新たな課題となっているといえます。マスコミとか議会からは「何人の雇用を創出したのか」という「実績」しか聞かれませんが、役所としてもその雇用を次にどうつなげていくのかという点を議論しなければなりません。というと、すぐに「産業振興だ」とか「水産業の6次産業化だ」とか威勢のいい話になりがちですが、拙ブログでは権丈先生の説に従って、社会保障の現物給付の拡充によって社会全体の消費性向を向上させることが重要と考えるところです。

なお細かいことですが、緊急雇用創出事業についてありがちな誤解が散見されましたので、気がついた点を指摘しておきます。念のため、私の知っている範囲での指摘であって間違いがある可能性がありますので、詳細については地元の自治体にお問い合わせください。

 POSSEでは、求職中の貧困者・生活困窮者等にたいして、生活、就労、住宅等の必要な支援をおこなうことを目的として厚生労働省が設置している「緊急雇用創出事業臨時特例基金(住まい対策拡充等支援事業)」の助成を受け、上述の送迎事業を実施する予定となっている。
pp.84-85


まず、一番よくある誤解ですが、緊急雇用創出事業を民間で行う際は「委託事業」でしか実施できません。上記の「住まい対策拡充等支援事業」というのは、おそらく23年度は「パーソナルサポート事業」としてモデル的に実施されていた事業でして、これも委託事業ですので助成ではないと思います。一般の方から「被災者を雇用したから緊急雇用創出事業で助成してほしい」というような問い合わせをいただくことが多いのですが、委託事業は「県や市町村などの地方公共団体が行うべき事業を、その事業のノウハウを有していると思われる民間の事業者の実施に委ねるもの」であって、民間が実施している事業に交付される補助金などとは手続きが全く逆になります。つまり、県や市町村などが委託事業として予算化して、それを発注したときはじめて民間事業者が受託して実施できるものですので、民間事業者があらかじめ失業者を雇用して実施している事業は委託事業となり得ません。その点が、民間事業者の事業の実施を前提として交付される補助金などとの相違点となります。

次に、これは制度的に大きな論点となり得る点ですが、

木下:失業対策事業については、やはり短期で一時的であるべきです。いまの緊急雇用創出事業は6ヶ月程度ですが、1年までとか、期間を区切って一回だけにするなどして、他の失業者に回していくべきだと思います。
pp.106-107

微妙なところですが、この議論が被災地の緊急雇用創出事業についてであることを踏まえると、一部誤っているように思います。緊急雇用創出事業のうち、緊急雇用事業や被災地以外の事業は、同一の労働者について6ヶ月の雇用が原則で、1回まで更新して通算1年間の雇用が可能です。ただし、重点分野雇用創出事業、地域人材育成事業、震災等緊急雇用対応事業で被災求職者(平たく言えば被災地とされた県の求職者)を雇用するときには、何回でも期間の制限もなく事業がある限り更新できることになっています。本田先生も「一人がそこで働ける期間については限定をつけるにしても、制度自体はもっと恒久的にする必要があると思います(p.106)」と指摘されていますが、被災地ではすでに一人の雇用者を継続して雇用できることになっているわけです。まさに失対事業の夢魔を連想させますが、だからこそ緊急雇用創出事業の出口戦略が重要なのだろうと思います。

最後に、日本労働弁護団の鴨田哲郎弁護士による記事ですが、

ここに、「賃金、勤務形態等」の欄があるが、多くは「未定」「委託先の条件による」であり、賃金額が示された例の中にもその額の幅が大きいもの(例えば、時給950円~1500円。日給6千円~1万円など)が目立つ。書式の物理的制約上の問題もあろうが、特に「委託先の条件による」は問題が多い。少なくとも、委託をする自治体は、公契約条例運動の流れもふまえ、受託業者に労働者の労働条件を具体的に指示すべきである。
鴨田哲郎「キャッシュ・フォー・ワークを労働法から考える」p.131


もちろん、自治体が委託する際には労働者の賃金などの労働条件をチェックしているはずですが、もちろんすべての自治体職員が労働法規に精通しているわけもなく、チェックし切れていない面はあるかもしれません。ただし、現行法規上、委託者となる自治体が労働条件を決定できる使用者の立場になることは難しく(財政民主主義の下では団交応諾義務とか直接任用の責務とか果たせません)、どの自治体も積極的に賃金水準を設定できない事情があるのではないかと思います。というか、こうした労働法制上の制約については鴨田弁護士の方がお詳しいのではないかと思うところでして、そうした現行法上の制約に触れず「公契約条例運動の流れもふまえ」なんていわれても対応しようがないと思うのですが、なんとなく日本労働弁護団らしいなとも思います。

というわけで、とりあえずのメモと書きながら長くなってしまいましたが、本号についてはまた機会を見て取り上げるかもしれません。
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コメント
この記事へのコメント
マンマークさんのところで取り上げていただいたようです。
http://manmark.blog34.fc2.com/blog-entry-581.html

> 相棒「被災失業者か平成23年3月11日以降に失業した人を募集しました。でも、普通の失業者しか来ませんでした。だったら、その普通の失業者を雇って事業を実施すれば、緊急雇用創出事業の中の震災等緊急雇用対策事業として認めるそうです」
> 私 「はあ?」
> 相棒「そうらしいです」
> 私 「それってさ、被災地どうこう関係無しのバラマキじゃねぇーの?」
> 相棒「でも、そういう事らしいです」


「被災地どうこう関係無しのバラマキ」というマンマークさんのご指摘の通り、今回の緊急雇用創出事業の拡充は震災どうのこうのは関係ありません。というのも、「震災等緊急雇用対応事業」(順列組合せがヒド過ぎる…)は円高にも対応するものとなっておりまして、結局のところ日本全体が対象となっています。

「平成23年度厚生労働省第三次補正予算案の概要」7ページ
http://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/11hosei/dl/h23_yosan_gaiyou.pdf
> 2 震災及び円高の影響による失業者の雇用機会創出への支援(「重点分野雇用創造事業」の基金の積み増し(全国))2,000億円
> 被災者を含めた震災及び円高の影響による失業者の雇用の場を確保し生活の安定を図るため、都道府県又は市町村による直接雇用又は民間企業・NPO等への委託による雇用を創出する「震災等緊急雇用対応事業」を実施する(震災対応事業の拡充・延長)。


緊急雇用創出事業そのものが拡充やら要件緩和やらで訳が分からない状態となっているところですが、本来の緊急雇用創出事業が23年度までだったのを事実上延長するものと考えられます。

失対事業の夢魔へ一歩一歩近づいているような気がするところですが…
2012/01/09(月) 22:40:44 | URL | マシナリ #-[ 編集]
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