2011年12月12日 (月) | Edit |
今日で震災から9か月が経過しました。日曜日ということもあってかいろいろとイベントが組まれていたようで、テレビや新聞でも震災関連のニュースが多く取り上げられていたように思います。先日は復興庁という組織の設置も決まったとのことで、相変わらず総論だけで語る政治部的な社説が出ていました。

復興庁の権限―地方移管へ検討続けよ(asahi.com 2011年12月11日(日)付)
とはいえ、国直轄の事業は国土交通省の東北地方整備局や農林水産省の東北農政局など、各省の出先機関が実施していく。現場では、出先機関の職員が復興局員に併任されるという

 これで復興庁に、どれだけ実質的な権限が渡るのか。野党の修正要求によって、事業の予算要求から各省への配分、箇所づけの権限も与えられ、政府案より権限は強まったというが、本当にそうだろうか。

 出先機関の衣替えに終わらないのか。時間をかけた割には、あいまいな部分が多い。

 ふたつめは、地域主権改革、地方分権の視点がまったく欠落していることだ。

 政府は「自治体の使い勝手がいいように工夫した」と胸を張る。だが、結局は自治体が復興資金を得たり、特区制度を使ったりするには、政府に認められねばならない。これまでの中央集権の構造は何も変わらない。

 野田首相は、政府の出先機関の原則廃止に向け、関連法案を年明けの国会に出すよう関係閣僚に指示している。とはいえ、いざ本格復興に取りかかろうという時に、被災地の出先を全面改編しようというのは現実的ではないだろう

※ 以下、強調は引用者による。

政治部的には、「国直轄の事業は国土交通省の東北地方整備局や農林水産省の東北農政局など、各省の出先機関が実施」というきわめて実務的な対応が「非現実的」に見えて、「地域主権改革、地方分権」という絵空事の方が大事なようです。確かに「本格復興に取りかかろうという時に、被災地の出先を全面改編しようというのは現実的ではないだろう」というのは一面ではその通りだと思いますが、震災復興のために山積みとなった業務を目の前にしている自治体職員に対して、チーキシュケンの名の下にさらに仕事をさせようという社説子の考え方の方がよほど非現実的でしょう。本格復興に取りかかるためには国レベルの所得再分配で財源を確保し、脚光を浴びやすい産業の復興だけではなく地域医療や地域福祉を復興させなければならないわけで、そのために必要なのは権限ではなく、その公的サービスを提供する人員です。公的サービスですから、事業の実施主体が市町村だろうが県だろうが国だろうが、雇われる方が地元の方であれば問題はありません。この期に及んで「国だから中央集権だ」とか「自治体にやらせればチーキシュケンだ」という実務を無視した議論がまかり通ることに脱力せざるを得ません。

こういう政治部感覚全開の社説に比べれば、こちらの社説はまだ実務への配慮が感じられます。

復興庁法案合意 被災自治体の支援を強化せよ(12月7日付・読売社説)
 政府案は、復興庁の役割を政府の施策の総合調整や被災自治体の一元的窓口などに限定し、国直轄事業は国土交通など他省が行うとしていた。野党側は、復興庁を、国直轄事業も担う「スーパー官庁」とするよう主張した。

 だが、各省は既に復興事業を進めている。今さら、各省と出先機関から復興担当の職員と権限・事務を切り離して、復興庁に統合するのは、あまりに非効率だ。

 修正案では、国直轄事業は各省に残すことにした。復興庁には復興予算を一括して要求し、各省に配分する権限や、復興事業全体を統括・監理する権限を与えた。

 これにより、他省に対する復興庁の立場は強化される。現実的で意味のある修正と言えよう
(略)
 特に大切なのは、被災自治体が復興計画作りで直面する膨大な事務作業を、政府が積極的に支援することだ。各自治体では早くも、都市計画などの専門家や技術者の不足を懸念する声が出ている。

 事務作業が滞り、肝心の復興が進まない――。そんな不幸な事態を避けるため、政府は、関係府省などから応援要員を各自治体に派遣し、計画作成作業を初期段階から後押しすべきだ

(2011年12月7日01時20分 読売新聞)

震災により2割を超える職員を失った自治体からすれば、専門家や技術者に限らず行政事務そのものを担う職員が不足しているのですが、まずは都市計画や公共事業を円滑に実施できる体制の整備が急務でしょう。つくづく今回の震災が公務員削減が熱狂的に進められた後に起きたことに自然の非情さを感じます。

言うまでもなく、被災地の自治体職員は自らも被災した方がほとんどですが、被災地では、役場の公務員だったかどうかが支援される側と支援する側とを分けているという状況です。昨今の公務員バッシングの中でなかなか意識されませんが、コームインだからといって何か特別な訓練を受けた強化人間でも何でもなく、毎日食事をして活動して寝て起きて…というサイクルの中で仕事をしている普通の人間でして、感情もあれば疲労もします。「被災者」というくくりであれば「支援が必要だ」といわれるわけですが、それがコームインとなった時点で意識されなくなり、むしろバッシングの対象となってしまうという過酷な状況にあるのが被災地自治体の職員の現状といえます。

そうした「支援する側」に回らざるを得ない自治体職員や消防隊員などの状況については、加藤・最相『心のケア』が詳しいです。

日本の保健システムというのは、都道府県が各地域に保健所を置いていて、そこがあるエリアを統括し、その下にある市町村が独自にいろんな地域保健活動をしています。たとえば乳幼児の三ヶ月健診や一歳半健診、などです。それよりもむずかしい、たとえば感染症や難病、精神障害になると、自治体によって違いはありますが、都道府県の保健所が直接担当することもある。要するに、都道府県と市町村でそれぞれ棲み分けをしているんです。それが日本が世界に誇るべき地域保健システムです。これまでの災害はそれを基盤にいろんな保健活動、心のケア活動も支えていくことができたわけです。
(略)
 ところが東日本大震災では、この世界に冠たる日本の保健システムが壊滅的なダメージを受けたわけです。南三陸町などは役場の建物がなくなりましたから、事務的なこと、実際的な保健業務もできなくなっている。うかがった話では、町の職員の方が三割も犠牲になって、かつ年度替わりで退職された方もいるので全体で四割減ぐらいになっているそうです。そのうえ、無事だった方もそれぞれ被災されていますから…
pp.28-29

外部支援者と違って、地元の人たちは一時的にそこにいるわけじゃないですからね。南三陸町では町の職員の方三十人が庁舎の屋上に逃げたのですが、そのうち二十人の方が流されてしまったそうです。目の前で自分の同僚が流されていったから、生き残った人たちはものすごい罪悪感を抱えている。想像もできないくらいの罪悪感だと思います。しかも、自分自身も家族を失い、知人友人もたくさん亡くなっている。そんな状況で役場の仕事をしなきゃいけないわけじゃないですか。よくあることですが、被災された方というのは怒りの矛先がないのでお役所に対してきついことをいうんです。どうにかしてくれと。職員はそれを一身に引き受けなきゃいけない。遺体の処置もやならければいけないし、外部から来る人の調整もしなければならない。そういう状況が長く続くわけです。
p.30


心のケア――阪神・淡路大震災から東北へ (講談社現代新書)心のケア――阪神・淡路大震災から東北へ (講談社現代新書)
(2011/09/16)
加藤 寛、最相 葉月 他

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政治部的感覚とか旧自治省的感覚ではまだまだ仕事をしろといいそうな被災地自治体の職員のこうした状況を考えたときに、権限があったところで手が足りないことは明白なわけで、仕事をよこすなら地元のために働く人を雇わせろというのが被災した自治体の思いではないでしょうか。もちろん、そのときに専門的な知識や経験の豊富な専門家に支援していただくことも重要ですが、復興に必要な人員はそうした高度な専門家ばかりではありません。筆者の一人である加藤医師が阪神・淡路大震災で避難所になった中学校で経験したことだそうですが、

 ぼくが一番ショックだったのは、医師よりも看護職のほうが断然役に立つことです。西市民病院の看護師さんたちは自分たちも被災しているんですが、それでも熱心に非難している人たちの見守りをしているんですよ。あそこの教室のだれだれさんはこんな持病を抱えてはるけど薬がないとか、あのおじいちゃんは夜がちょっと大変で気をつけないとあかんとか、よく知っている。外から来られた保健師さんたちも、トイレの衛生管理をばっちりされていく。さすがだなあと思いました。
 医者はなにもできないから、彼女たちの後ろをついて歩くだけです。

加藤・最相『同』p.108

というように、特に社会保障の現物給付の現場では、そのサービスを受ける住民の情報を持って適切なサービスを提供できる人員に比べれば、いかに高度な専門家であってもできることは限られているわけです。程度の差こそあれ、お役所仕事は全国一律でできる部分ももちろんあるでしょうが、住民にとっての重要なサービスはそれを補完する些細な部分にこそ現れます。だからこそ紋切り型のお役所仕事は批判されるのであって、特に復興期における生活支援で必要なのは、繰り返しになりますが地元で地元の住民に必要な公共サービスを提供する人員なわけです。

そして、前回エントリとも関連しますが、公共サービスを提供する人員は必ずしも短期的にめざましい成果を上げるようなエリートである必要はありません。公共サービスを提供することで「支援する側」に回る人であっても必ず疲れますし、適度に休む必要があります。加藤医師が震災直後に被災地に入ったときの状況ですが、

被災者は疲労困憊している。でも自分たちも疲れている。災害支援では誰もがいわば躁状態だ。交感神経が活発に働き、攻撃的になる。悲惨な場面に遭遇することも多いため、過酷な任務に従事し続ければ脳へのダメージも大きい。救急医療対も通常、二泊三日で交代する。被災地に害を与えず迷惑をかけず、任務を果たし、健康を損なわずに帰還する。そうでなければ次の支援が続かない。支援に必要なのは短期の英雄的行為ではなく、小さなことを細く長く続けること--。

加藤・最相『同』pp.214-215

というように、一つ一つは小さなことかもしれませんが、被災された方々一人一人に向き合って話を聞いていくということの積み重ねが、大局的に見れば被災された方の復興への歩みを進める大きな力となるのではないかと思います。本書の最後のエピソードで語られる加藤医師の次の言葉は、被災地の支援に当たる方々だけではなく、被災地の復興を考えるすべての方にも知っていただければと思います。

「でも想像してみてほしい。学校の屋上で子どもたちがなにを体験したのか。心がうちふるえてあたりまえだと思うし、被災から二ヶ月経ってもいまだに避難所にいるわけでしょう。どこで泣けたんだろう。どこで友達を悼むことができたんだろう。まだなにも喪の作業ができていないのだから、心の中に不安がしみついているのは当然なんですよ。彼らにはまだ被災が続いているんだから
(略)
 被災者は、心を病んだ人じゃないんです。彼らが生活再建に向かってエネルギーを発動するのを手伝い、見守っていくのが本当の支援だと思うよ。」

加藤・最相『同』pp.225-226



(付記)
毎日新聞に被災地自治体の人員不足についてのアンケート記事が載っていましたので引用しておきます。

東日本大震災:きょう9カ月 被災42自治体、3割「事務能力限界」--毎日新聞調査

 ◇復興計画進展に差
 東日本大震災から9カ月を機に、毎日新聞は被害の大きかった岩手、宮城、福島3県の42市町村長を対象に復興の現状アンケートを実施した。最大の課題は「財源」が4割弱で最多だが、3割弱は「事務能力や人員の限界」を挙げた。被災地域の高台や内陸への移転は、4割近くが住民合意が進んでいると答えたものの、半数は合意に至っていない。震災半年時点の調査より復興計画の完了時期が早まった自治体がある一方、遅れる自治体もあり、復興の進み具合に差が出ている

 3県沿岸部の37市町村と、福島第1原発事故の警戒区域や計画的避難区域にかかる5市町村の首長計42人全員から回答を得た。

 最大の障害・課題は15人が「財源」と答えたが、半年時点の26人からほぼ半減。国の第3次補正予算については、35人が「ある程度評価する」と答え、財政面で一定の保証を得たと受け止めている。ただ、税収減や生活保護費の増加、自治体負担事業費の支出などが見込まれるとして、今後の財政状況は半数の21人が「かなり悪化する」、11人が「やや悪化する」と回答した。

 復興の最大課題で11人は「自治体の事務能力や人員の限界」を挙げ、阿部秀保・宮城県東松島市長は「事務量が従来の40倍以上」と回答。福島の7人は「原発事故」と答えた。

 復興計画は、12年6月とした福島県富岡町以外、全て年度内に作成する。計画完了予定時期は震災半年の時点と比べ、同県いわき市など7市町村が前倒ししたものの、岩手県釜石市など6市町は遅れが生じていた。

 一方、沿岸部37市町村の首長には、集団移転計画地域の住民合意について質問。3人が「全地域で」、7人が「多くの地域で」、4人が「半数程度の地域で」、おおむね合意を得ていると答えた。これに対し18人は「住民に説明中」「計画策定中」などと回答。うち4人は復興の最大課題に「住民の合意」を挙げた。残り5人は「計画はない」とした。

 37市町村で集団移転を想定しているのは計約1万7500戸、地盤かさ上げは計約8600戸だった。

 被災地で規制緩和や税制優遇を行う復興特区法が今月7日に成立したが、42人中25人が「具体的に活用する計画がある」、17人が「活用したい」と回答。震災後の人口流出は、「大変懸念している」が17人、「ある程度懸念している」も19人に上った。

 42市町村の担当者によると、災害公営住宅(復興住宅)建設は少なくとも計約1万6500戸を予定。がれきの最終処理完了は24自治体が14年3月を予定するが、県外引き受けが決まっているのは7自治体。全261漁港のうち水揚げを再開したのは53%の139港だった。【まとめ・北村和巳、池田知広】

毎日新聞 2011年12月11日 東京朝刊



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