2011年10月12日 (水) | Edit |
今日で震災から7か月が経過しました(エントリをアップするころには昨日になってしまいそうですが)。ここしばらく新刊ラッシュのため震災とは関係ないエントリとなっておりましたが、節目ということで永松先生の『キャッシュ・フォー・ワーク』を取り上げたいと思います。
キャッシュ・フォー・ワーク――震災復興の新しいしくみ (岩波ブックレット)キャッシュ・フォー・ワーク――震災復興の新しいしくみ (岩波ブックレット)
(2011/09/08)
永松 伸吾

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本書は、キャッシュ・フォー・ワーク(CFW)の由来やそれが適切に機能する条件を整理しながら、阪神・淡路大震災や新潟県中越地震で取り組まれた事例を紹介した上で、今現在岩手、宮城、福島の各県で取り組まれている事例を紹介し、最後にこれからのCFWの取組について考察を加えています。

私自身、CFWの取組に一部関わっていることもあって、永松先生に冊子としてまとめていただいたことでCFWについての考え方が整理しやすくなったと感じています。本書の導入部から引用すれば、CFWの起源はエチオピアの干ばつに対応するため、農地を改良して食料を自力で生産できるようにする公共事業としてのフード・フォー・ワーク(FFW)であり、ケインズ経済学的な穴を掘って埋めるような失業対策事業とは違う点を指摘した上で、

失業対策事業が世界的に広まった背景には、ケインズの経済理論があることは言うまでもありませんが、ケインズ自身の言葉を借りれば、穴を掘って埋めるような公共事業であっても雇用が生まれるだけ良い、という考え方が失業対策事業には少なからずあったように思います。
 これに対して、CFWの本質は、FFWがそうであるように、被災者自身が被災地をより良くするための活動に関与するためのしくみを構築することにあります。どのようなしごとでも良いというわけではありません。被災地を復興させ、よりよい将来を構築するということが、被災者の雇用を維持することと少なくとも同等に重要視されるのです。

永松『前掲書』p.11
※ 以下、強調は引用者による。

と主張します。つまり、被災地の復興そのものを被災者が自らの仕事として実行していくということが、CFWの本質となります。この後、2004年のスマトラ島沖地震や2008年のミャンマーでのナルギス台風などでCFWが活用された事例が紹介されますが、個人的に興味深かったのは2005年のハリケーン・カトリーナ災害の事例です。米国連邦危機管理庁(FEMA)が実施した地域雇用プログラム(local hire program)として実施されたとのことですが、

 ルイジアナ州の州都であるバトン・ルージュにはFEMAによる現地調整本部が設置され、最大で約3000人のスタッフが勤務していました。
(略)
 採用された被災者は約一ヶ月の研修を受け、ワードやエクセルなどの基本的な職業訓練を受けます。その後三ヶ月程度、FEMAの災害対応業務補助として勤務します。例えば、被災者からの相談を受けるコールセンターのオペレーター業務はそのひとつです。
 地域雇用プログラムはわずか三ヶ月の雇用ですが、採用に当たって職業訓練を行うため、契約が切れた後はそれまでよりも職を見つけやすくなることが期待されています。またFEMAの正規職員として採用されることもあります。基本的には、これはFEMAの現地での業務を円滑に実施するために必要な労働力を現地で調達するしくみですが、被災者の就労支援としての性格も有したプログラムになっています。

永松『前掲書』pp.24-25

採用に当たって職業訓練を行うというのもさることながら、正規職員として採用されるという点については、ただでさえコームインが多すぎると批判される日本のCFWでは考えられないことだと思います。職業訓練についても、「とにかくスピードが第一だ」といわれてしまうと、現地で被災された方に職業訓練を受けてもらって業務を担ってもらうよりも、「とにかく行政が雇用を作りだして被災者を雇え」という緊急雇用創出事業(正確には重点分野雇用創造事業のうちの重点分野雇用創出事業と震災対応事業)ばかりが先走ってしまいます。特に、被災して職員を失った自治体においては、通常業務に加えて復旧・復興業務を担う必要があるわけで、被災前よりも大幅な人員増をしなければならない状態にあります。にもかかわらず、被災者を公務員として採用して復旧・復興事業を担ってもらうという議論が全くといっていいほどされていないのが実情です。

まあ、こんな話をすれば「民間企業が復活すればすぐに働き口ができるんだから、コームインなんかになってられるか」という声も聞こえてきそうですが、その肝心の民間企業が防波堤・防潮堤や道路などの社会インフラの構築、消費者の物流を支える小売店の立地を決める都市計画の策定、各種手続を円滑に進めるための事務作業などを前提としているものである以上、少なくとも公共部門の再構築も同時並行で行わなければなりません。政府の復興計画が遅いとか地元市町村の復興計画が中身がないとか批判されている一方で、その作業を担う人員を増やすべきという議論は相手にされないわけで、それでは公共部門の手続が進まないのも当然ではありますが、そうした事情を理解している方がどれだけいるのでしょうか。その理解がないままチーキシュケンなどと復興計画の策定だけが先走ってしまえば、そのツケを払うのは地元住民になるのではないかと懸念されてなりません。

もう一点気になったことといえば、被災地での現状を踏まえて見直しが必要と永松先生が考えているCFWの賃金水準です。もともとCFWでは

4.CFWで支払われる賃金について

  1. CFWの主要な目的は地域経済活動の自立的復興を促進することにあり、CFWが既存の産業と労働市場において競合することがあってはならない。
  2. このため、CFWで支払われる賃金は、市場で支払われる賃金より低めに設定されるか、少なくとも上回ってはならない。 なお、途上国の事例ではおおよそ20%から30%程度低めに設定されることが一般的である。
  3. 賃金水準が通常の経済活動よりも低く抑えられることによって、CFW以外に生計手段を持たない人だけが参加を希望することになる。これは、本当に雇用を必要とする人にCFWによる雇用機会を確実に提供する上でも重要である。

CFW提案書」(Cash for Work-Japan


と、賃金水準を最低賃金かそれ以下にまで抑えるべきということが指摘されていました。これは経済学で言うところの「価格差別」によって、その賃金水準で効用を得る人にだけ仕事を与えようとするものと考えられます。しかし、本書では、

CFW-japan提案書の中では、賃金水準を低めに設定することによって、平常の経済活動への移行を促すことを推奨していましたが、その後様々な実例を観察する中で、賃金水準を低く抑えることが必ずしも問題解決につながらないように思うようになりました。
 もちろん、市場の賃金水準よりもCFWでのそれが高ければ、平常の経済活動が阻害されることは目に見えています。しかし、同程度の賃金であれば、必ずしも経済復興が阻害されるとはいえないように思います。なぜなら、CFWにおけるしごとは、一時的で、その後の失業リスクがより高いからです。
 また、CFWによる賃金を低く抑えれば、CFWの早期解消に役立つかといえば、それは極めて疑問です。賃金を低く抑えることで、CFWから離れようと思う人は、あくまで平時の労働市場で就業機会を獲得できる人だけです。そもそもそこで排除されている人々は、CFWでの賃金水準が低かったとしても、それを甘んじて受けるより他はありません。CFWの縮小と撤退は、もう少し広い視点から考え直す必要があるように思います。

永松『前掲書』pp.77-78

と、もともと雇用情勢の厳しい被災地において、CFWよりも高い賃金の仕事がそうそうあるわけでもない実情が意識されています。これにぶっちゃけた話を追加すれば、雇用保険の失業等給付で失業前の賃金の8割程度を支給されている被災者にとって、それより低い賃金のCFWの仕事は、短期に失業するリスクを考え合わせると、就業する際の選択肢となりにくいという現実もあります。実際に、自治体の臨時職員の最低賃金すれすれの時給での求人にはほとんど応募がないのに、時給1,000円程度(それでも都市部のコンビニバイト程度ですが)の求人はすぐに埋まってしまいます。

被災者自らが復旧・復興に携わるというCFWの本質を踏まえるならば、少なくとも雇用保険の失業等給付で働かずに生活するよりも、高い賃金で収入を得て、地域経済に還流させていく方が望ましいと考えます。もちろん、出口の戦略は適切な時点で明確に打ち出す必要がありますが、この10月からさらに90日支給が延長された被災地域では、CFWまでもが低賃金に抑えられることによって地域の経済活動が縮小していくことが懸念されるところです。

その点からも、本書で上記引用部の直後で示されている「つなぐ」CFW(労働市場を一時的に代替するp.78)と「みたす」CFW(通常の労働市場では評価されない労働に対し、CFWの手法を用いて雇用を創出(p.80))のうち、特に後者の取組が重要ではないかと思います。それはいわゆる公共財であって、冒頭で引用したような公共部門での正規職員を増強することによって「みたされる」雇用でもあります。正規職員となればCFWの範疇を超えてしまいますが、CFWの出口戦略としてそれを実現させる(要は、役所のコームインを増やす)ことは十分に検討に値するのではないでしょうか。

なお、余談ではありますが、臨時的かつ短期的に低い賃金で就労する場は震災前からすでにあります。それがシルバー人材センターでして、請負により会員に支払われる配分金は賃金に該当しませんので、最低賃金の縛りを受けません。まあ、シルバー人材センターのそもそもの出自が国に対して団交申し入れまで行われた失業対策事業であったことを考えれば、失業対策事業ではないというCFWがシルバー人材センターの就労形態と類似するのは必然なのかも知れません(現全国シルバー人材センター事業協会の初代会長が大河内一男先生で、2代目が氏原正治郎先生ですし)。それはともかく、実際に被災地のシルバー人材センターの会員の方々は、自らが被災しながら、被災した家屋内の泥の除去や障子貼りなどで活躍されています。これもCFWの出口戦略の一つと位置づけることが可能ではないかと思うところです。
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