2011年09月25日 (日) | Edit |
震災から半年が経過して特に書くことがなくなったというようなことを書いておりましたが、仕事の関係でちょっとばかり違う分野の本を読み進めていたこともあって、震災とか労働とかの話題にまで手を広げられませんでした。というわけで、そちらが一段落したところで本屋に行ってみると、雇用・労働関係の新刊が多くてどれから手を付けようかという状態でしたが、とりあえずいつものとおり(?)海老原さんの新著を拝読してみました。
就職、絶望期―「若者はかわいそう」論の失敗 (扶桑社新書 99)就職、絶望期―「若者はかわいそう」論の失敗 (扶桑社新書 99)
(2011/09/01)
海老原 嗣生

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・・・これはなかなかの問題作ですね。

というのも、これまでの海老原さんの著作と同じく、一見突拍子もないようなことを主張されていながら、読み進めていけば自分の実体験と照らし合わせて腑に落ちる説明となっているのですが、地方公務員としてはやはり「第3章 なぜ行政は失策を重ねるのか」の論調にはにわかには同意しがたいものがあります。というわけで、第3章については最後に回して、今回の著作で海老原さんが主張されている「一見突拍子もない」ことの導入部をざっくりとまとめてみると
  1. 日本型雇用慣行の弊害として指摘される新卒一括採用を厳格に運用しているのは大手に限られる(ただし、大手でも第二新卒採用はある)ので、卒後3年以内を新卒扱いしても、大手に採用されるような(超)一流大学以外に効果はない。
  2. むしろ、大手が卒後3年以内を新卒枠と競合させてしまうと、新卒者や(超)一流大学以外の就職浪人生には大手はさらに狭き門となる可能性が高い。
  3. それよりは、新規大卒者の5人に4人が就職する中小企業に目を向かせて、多様な働き方があることを示す方が実現性も効果も高い。
という3点になるのではないかと思います。

本書では、この3点について、どうしてそういう議論になるのか、求められる改革の方向性は何か、その具体的な内容は何かというそれぞれの観点から議論が進められていきます。繰り返しになりますが、本書でも海老原さんの主張はちまたに繰り広げられる議論を否定しながらも、その内容は腑に落ちるものとなっていると感じます。特に、大学3年~4年に就活しているときの心情の移り変わり次のように指摘されていて、自分の学生時代を思い出してしまいました。

 夏休みにさしかかる6月と7月の間に、大きな変化が生まれている。
 それまでは、「過去の私生活」や「本人の志向」などが企業選びの大きな理由だったものが、この月を境に、「社内の人材」「説明会等の内容」へと変わる。そう、認知度やイメージ、周囲への見栄などから現実的に合格可能性の高い企業へと、志望がようやく変化するのだ。この就職活動生の変化を、同研究所(引用注:リクルートワークス研究所)で「転換イベント」と命名している。

「大企業病」から覚めるまで数か月

 就職や転職というものに明るくない人からすると、なぜ、こんなに時間がかかるのか、理解できないところだろう。だから、「キャリアカウンセリング」などの手法によって、しっかり採用相場を教育すれば、こんなリードタイムは不要になる、などと主張する人も出てきてしまう。しかし、これが難しいのだ。いくら市場相場をさまざまな手法で伝えても、学生たちは自分が真剣に「落ちる」までは、絶対に納得はしてくれない
 いや、学生に限ったことではない。転職エージェントに相談に来る社会人とて、まったく同じ状況なのだ。転職エージェントにエントリーしてから転職が決定するまでには、大体、5か月ほどかかっている。
海老原『同』pp.77-78

※ 以下、強調は引用者による。

私自身は、諸事情により大手企業の採用時期をそもそも逃してしまってから就職活動を始めたので、正確にはこのタイムスパンとは違ったのですが、実体験として「メジャー大手を諦める→マイナー大手の資料に目を向ける→マイナー大手も間に合わない→外資系、中小企業でもいいところがあるんじゃないかと探す→外資系はそれなりに情報があるけど、中小に目を向けようとしても情報がない→外資系にエントリーするも引っかからず、途方に暮れる」という経路をたどった者としては、「そうだよなあ」と苦笑いです。

まあ私自身は、そのときたまたま実施された試験に受かって地方公務員となってしまい、中小企業へ就職することはありませんでした。実は、取り上げる暇がなくて拙ブログではスルーした形になっていましたが、海老原さんが編著名義となっている『中小企業ミシュラン《2012年版》 ずっと働きたい「従業員300人以下」の会社選び』では、公務員への就職活動についての記事がありました。『「いっしょに働きたくなる人」の育て方』の著者である見舘先生の記事ですが、「意外な」公務員の仕事をイメージできると思います。

 このように「多様な人々と協働できる力」があって初めて、公務員という仕事を長く続けることができるのです。にもかかわらず、もともと対人志向が低い人が入職するため、こうした環境に耐えられずに休職してしまうことも少なくないと聞きました。それは教員でも同じでしょう。モンスターペアレンツやいじめ、不登校などに耐えられず退職するのと同じ問題といえます。
 逆に、民間企業を希望する学生も、公務員の仕事は魅力的ではないと思っている節があります。私の二年生向けの授業で、区役所の職員の方に仕事内容ややりがいなどをお話ししてもらったことがあります。内容は刺激的で、たとえば建設局用地課の仕事は、市が建設する道路・公園・河川などの用地取得の交渉です。土地については値段交渉、建物については他の場所に移転を補償する交渉をするのです。相手は千差万別。頬に傷がある人だっているのです。いずれにしろ、相手の立場を理解しながら、決してひるまず、毎日通って信頼を勝ち取りながら交渉することが大事だそうです。
 これを見る限り、公務員の仕事は民間企業のトップの営業担当者と大差ない力が必要に思えます。講演後、学生が書いたアンケートを読むと、「公務員の仕事のイメージが変わった」「刺激的で面白そうだと思った」「正義感を感じた」など、公務員に魅力を感じた学生が多くいました。
 このように、公務員は、公務員が向いていない学生が希望し、向いている学生は公務員を希望しないという、果てしないミスマッチが起きているのが現状です。
pp.160-161

中小企業ミシュラン《2012年版》 ずっと働きたい「従業員300人以下」の会社選び中小企業ミシュラン《2012年版》 ずっと働きたい「従業員300人以下」の会社選び
(2011/07/20)
海老原 嗣生

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拙ブログでは常々、「公務員の仕事は利害調整だ」と言い続けているわけですが、利害調整するための必須条件が利害関係者との信頼関係でして、その意味で公務員には信頼性が求められるのだろうと考えています。つまりは、「民間企業のトップの営業担当者と大差ない力が必要」というのは、そうした信頼関係を築きながら粘り強く交渉の目的を達成することが求められるのだろうと思います。もちろん、行政には最終的な代執行という強制手段が与えられていたりするので必ずしも民間企業と同列に論じることはできませんが、代執行や行政訴訟にもコストがかかるわけで、そのコストを避けるためにもそうした「営業力」が求められることになります。

ところが、こうした公務員の仕事が「意外だ」と受け止められているからこそ、公務員を志望する学生にミスマッチが生じるのだろうとは思います。まあ、ことは就職の際のミスマッチにとどまらず、見当はずれな天下り批判とか私腹を肥やす官僚というイメージにもつながっていくのではないでしょうか。というところで、海老原さんの『就職、絶望期』に話を戻すと、私が冒頭で勝手に要約した3点からすると厚労省の施策が「格差の主因は非正規雇用」という都市伝説を利用していると指摘されます。

 要は、お役所の人たちは、こんな「都市伝説」がかなり大げさに作られた虚像だということをすべてわかっている。なのに、あえて反論しない。
 その理由を一言で言おう。こうした「都市伝説」により、予算がガッポガッポ増えていくから。私にはそうとしか思えないのだ
 たとえば、麻生政権の緊急景気対策として09年補正予算の中には、緊急人材育成・就職支援事業という名目、要は、騒がれていた「ワーキング・プア」問題を利用して、7000億円の予算が計上された。目的はこれにより「35万人の職業訓練や、その間の生活保障」などをすることだという。
 この予算はどう使われたか? 1年で使い切ることは難しいために、3年間の基金となり、「中央職業能力協会」の管理となる。ここから、職業能力開発という名の下、失業者の教育訓練給付関連にバラマキの連鎖が始まる。中央職業能力開発協会には訓練の機能がなく、入札の結果、「わたしの仕事館」で悪名高い「雇用・能力開発機構」が応札。しかし、ここも訓練実施機能はなく下請けに…。
 結局、厚労省が天下り先の「中央職業能力協会」「雇用・能力開発機構」に税金をバラ撒いただけ、と問題視した民主党政権は、予算の半分を凍結した。
 ところが、その民主党が政権を握った10年になって、厚労省の雇用・人材育成事業に3000億円超が補正予算で積み増しされた。一度握ったお金は、死んでも離さないという意気込みや良し!とでもいうべきか。
海老原『同』pp.120-121

…何というか、「厚労省が天下り先の「中央職業能力協会」「雇用・能力開発機構」に税金をバラ撒いただけ」というのも十分に「都市伝説」のような気がします。「雇用・能力開発機構」をはじめとして、都道府県所管の職業訓練校も内部労働市場を優先する日本型雇用慣行の中で弱体化されていて、その体制では1年で使い切ることが難しいような額の補正予算を「政治主導で」組んだ方にも問題があるのではないでしょうか。さらには、その弱体化された「雇用・能力開発機構」に訓練実施機能がないといっても、基金訓練として委託することは可能であって、その委託事業としての公共サービスを享受するのがスキルを求められる求職者であることを考えれば、「税金をバラ撒いただけ」という指摘は早計に過ぎるように思います。

いや、もちろん海老原さんもこうした「都市伝説」を虚像だとわかって書いていらっしゃるのだろうと(期待を込めて)考えています。それでもこういったセンセーショナルな書き方の方が売れるのでしょうし、巻末の城繁幸氏との対談でも海老原さんの発言は奥歯に物の挟まった感じがしますので、いろいろな民間同士のしがらみがあるのではないかと余計な詮索をしてしまうところですが、これも「都市伝説」なのでしょうか。。

(付記)
本エントリでは否定的に取り上げてしまいましたが、私自身は本書で指摘されている政策提言には賛同するものが多くあると考えています。厚労省の打ち出す施策が的外れではないかということについても、拙ブログでは緊急雇用創出事業への批判という形で指摘しているところです。本書で賛同できる点については、別エントリで取り上げておりますのでそちらも合わせてご覧ください。
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