2011年08月07日 (日) | Edit |
最近は現地の動きが個別具体的になってきてしまったので、匿名ブログとしては見聞きしたことをそのまま書くわけにいかないのが苦しいところですが、先日報道で取り上げられた取組がありましたので備忘録的にメモしておきます。

大船渡の仮設団地 北上市が支援員配置…岩手

困り事相談、清掃 沿岸自治体手助け
 岩手県北上市は、沿岸地域の仮設住宅団地の運営を支援する事業を始める。

 大船渡市の仮設住宅団地など39か所に支援員を配置し、困りごとや要望の連絡相談、清掃や除雪、コミュニティーづくりなどを行う。自治体がほかの自治体で事業を実施するのは極めて珍しい。北上市は「被災者支援になるとともに、被災自治体に余力が生まれて復興、前進につながる」と意図を説明する。

 北上市は、県の緊急雇用創出事業を利用して支援員約70人を現地で新規雇用し、団地の規模に応じて1~3人配置する。支援員は談話室や集会所などに常駐し、行政情報の発信や困りごと・要望などの連絡相談、交流イベントやサロンの開設などを行う。総事業費は1億7800万円。

 市沿岸地域被災者支援プロジェクトチームの小原学班長によると、県やNPOとの話し合いの中で、沿岸自治体の職員が通常業務に加えて震災復興に伴う仕事があり、手いっぱいの状態だという話が出たのがきっかけ。「北上市が、仮設住宅団地の運営の一部を肩代わりできれば、沿岸自治体職員の負担を減らせる」「県の緊急雇用創出事業を使えば、被災地に雇用が生まれる」と具体化した。

 北上市では委託先を8月3日まで公募、支援員の配置は9月1日~来年3月末になる予定。小原班長は「大船渡市と連絡をとりながら、被災者のコミュニティーづくりや生活課題の解決を手助けしたい。支援員には、高齢者や主婦らを考えている」という。

 一方、支援を受ける大船渡市では7月中に仮設住宅がすべて完成し、8月中旬には入居できる予定。同市都市計画課は「震災復興で次から次に仕事があり、職員の手が足りないのが実情。北上市の申し出はとてもありがたいし、地元の雇用にもつながるので助かる」としている。

(2011年7月27日 読売新聞)
※ 以下、強調は引用者による。


これがCash for Work(CFW)の動きの具体例となっていまして、記事によれば、被災された方々に雇用の機会を提供すると同時に、被災した沿岸市町村の行政機能を側面から支援する役割も持っていとのことです。雇用の場そのものが流されて、役場も流されてしまっている被災地では、いくら政府が「緊急雇用創出事業で雇用を確保」なんていっても、肝心の役場に事業化する事務体制が大きく損なわれていますし、そもそも事業を予算化するためには事業の実現可能性を含めて議会に説明しなければならず、雇用する場がないのにどうやって実施するのかという点を説明しきれずに予算化を断念するというのもよくある話です。そうした状況からすれば、雇用する場を仮設住宅に求め、被災した市町村役場に代わって近隣市町村がその事務を代行し、おそらく事業実施主体も被災市町村以外から選定することになるというこの取組は、被災地自治体にとっては朗報となるでしょう。

しかし、どんな取組にもメリットとデメリットがあるもので、仮設住宅に自治組織があった場合に、支援員の業務をどこまでとするかという線引きが難しくなります。これは、支援員の賃金をどの水準とするかにも関係します。被災前に雇用保険の被保険者だった方は、実質的に失業状態にあれば失業給付(基本手当)を受給することができますので、失業給付よりも低い賃金では働くインセンティブがありません。実際に、被災地のハローワークでは失業認定の日は混雑していても検索機には人がまばらという状況で、緊急雇用創出事業求人はおろか一般の求人でも、数か月求人を出しっぱなしで応募がないということはざらにあります。

したがって、賃金水準と失業給付のバランスと、それを決定する業務内容をどうするかという点をクリアにしていく必要があると思われます。といっても、仮設住宅の支援員を失業給付以上の賃金水準とすると、元々自治組織でボランティアで動いていた方とのバランスが難しくなります。さらにいえば、仮設住宅に入った方にはそうして支援策が講じられるにもかかわらず、地震の直接の被害がなかった地区の住民は後回しになっています。沿岸部で津波の被害を受けなかった地区というのは、水産業や製造業といった産業基盤のない中山間地域であって、そもそも買い物が困難だったり医療・介護施設の不足した地域だったわけで、震災への対応が優先されてしまうとその状況はさらに悪化してしまうことになります。仮設住宅では人件費をかけて支援員を置いてケアをする一方で、中山間地域は震災前よりも悪化した状況の中で支援策が講じられないという事態になりかねず、住民同士の利害が対立してしまうことが懸念されます。

要すれば、拙ブログでもしつこく指摘しているとおり、所得再分配の現物給付が絶対的に不足しているこの国で、被災自治体が震災復興にそのリソースをつぎ込めば、直接被害を受けなかった地域はより厳しい状況に置かれることとなります。となると、結局「復興」とはどういう状態を指すのか?という問題に立ち返ってしまうわけで、もともと過疎化が進んで公共サービスが貧弱だった地域にどれだけの水準の公共サービスを提供するのかが問われているわけです。

まあ、この点を真剣に考えなくて済むマジックワードが、チホーブンケンやらチーキシュケンで「地元が決めれば皆ハッピー」というお気楽なスローガンでもありますが、そのスローガンが好きな方に限って、全国で納められた税金や中央政府が発行する国債を当てにして「使い勝手のいい交付金」を求めるという、理解しがたい矛盾を平気で主張されるわけで、そりゃもちろん、地域で必要な財源をいくらでもくれるなら「使い勝手のいい交付金」かもしれませんが、足りるかどうかも分からない財源を交付して、「後は地元でよろしく」なんてのは、地元の利害調整の現場でもみくちゃになりながら仕事をしている自治体職員からすれば使い勝手が悪いことこの上ないはずです。

その結果が、たとえばこれです。

焦点/自治体職員の病気休暇増加(2011年08月01日月曜日 河北新報)

 東日本大震災の津波で甚大な被害を受けた岩手、宮城、福島3県の自治体で、病気休暇を取得した職員が増加傾向にあることが31日、河北新報社の調べで分かった。震災に伴う業務量の増加や仕事へのストレスなどが、体調を崩す要因とみられる。

◎激務、心身に負担/石巻4割増

<PTSD発症>
 震災による死者が100人を超す主な21市町を対象に調査した。4月から6月までの3カ月間に、何らかの理由で病気休暇の取得を申請した職員の延べ人数は表の通り。
 前年同期より取得者が「増えた」と答えた自治体は10市町で、ほぼ半数を占めた。「減った」は5市町、「同数」は2市町だった。岩手県大槌町など4市町は、庁舎が津波にのまれてデータ自体が流失し、比較ができなかった。
 「増えた」と回答した自治体の多くで、震災による心的外傷後ストレス障害(PTSD)や、業務の負担増による過労などを理由に挙げた
 宮古市で病気休暇を取得した4人はすべて、PTSDやうつ病、過労による休暇だった。昨年より4割増となった石巻市でも、震災が直接の原因でPTSD、うつ病を抱えた職員が数人いた。
 前年比減少か、横ばいだった自治体も、多くは「業務が落ち着いたころに疲れが出てくるのではないか」と懸念を抱いている。

(略)

◎対策乗り出す各自治体/釜石、問診票配り面接

 自治体職員の疲労感が増すに従い、被災地の市町も対策に乗り出している。
 病気休暇の取得者数が前年比で4割も増加した石巻市は6月、約80人の管理職を対象に、メンタルヘルス研修を兼ねた面談を始めた。
 「家族が行方不明になった部下もいたが、家族を捜しに行かせてやれなかった」「通院しながら職務を続けている職員もいる」
 3人の管理職とL字型に向き合い言葉を交わすのは、東北大大学院教育学研究科(臨床心理学)の若島孔文准教授。現場の職員たちへのケア方法を伝えるとともに、自身が抱える問題についても話し合った。
 若島准教授は「災害時の行政職員の職務は、救助や捜索を担う自衛隊などとは異なり、住民の否定的な反応を受けやすい。その分、精神的負担も大きくなってしまう」と説明する。
 その上で「心と体の疲れは連動している。長丁場となる災害業務では週2日の休みを徹底させることが肝心」と訴える。


長丁場だからこそ平時のプロフェッショナルの兵站が必要だということは拙ブログでも指摘しておりましたが、現実はやはりそう簡単にはいかないわけで、こうした問題はこれからも正面から対処していかなくてはなりません。もしかすると、公務員の人件費は削るべきでムダな公務員なんか辞めさせろと常々主張されている方々にとっては、どんな形であれ被災地の公務員が減っていくことは望ましいのかもしれませんが、それで日常生活に支障が出るのは被災地の住民生活であるという現実もお忘れなきよう。ついでにいえば、被災地の住民生活は日本という国の経済社会システムの一部であって、東京電力が福島に原発を設置していたことに象徴されるように、その地域が機能しなくなることは日本の経済社会システムにとっても少なからず影響があることにもご留意ください。
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