2011年08月03日 (水) | Edit |
前回エントリで取り上げた雇用関係以外にも、個別の政策分野はそれぞれの立場からの評価があると思いますが、それらすべての政策を実現するための財源については、相変わらず増税か反増税かという単純な議論が繰り広げられています。誰からとるか、いくらとるかも大事ですが、それを誰に配分するのか、現金・現物をどれだけ配分するのかも同じくらい大事です。増税か反増税かで議論する方々の視界からは後者の論点がすっぽり抜け落ちているようで、まあ、おそらく後者の論点を言い出したら、国民負担率が先進国でも最低水準にあって、先進国並みの所得再分配が行われていない実態を正面から論じなければなりませんから、その点には言及したくてもできないのでしょうね。

実をいえば、私自身も以前は単純に考えていたんですが、橋本内閣で消費税率をアップしたことがその後の不況の要因であるとの主張があります。しかし、過去30年程度の租税負担率の推移を見てみましょう。

国民負担率(対国民所得比)の推移」(財務省)

すると、好景気のときに負担率が上がっていて、不景気のときには負担率が上がっていて、累進課税によるビルドインスタビライザーが教科書どおりに機能しているとみることができます。逆にいえば、累進率が引き下げられた1990年代半ば以降はビルドインスタビライザーの機能は低下していて、2007年までの景気回復期でもバブル期の1990年に記録した27.7%には及ばない24.5%に留まっています。

つまり、租税負担率は長期トレンドで低下傾向にあるわけで、一方、社会保障負担率は一貫して上昇しています。これらを合わせた国民負担率は、1990年にいったん38.4%とピークを迎えた以降1994年まで低下し、その後増減を繰り返しながら長期トレンドで上昇して、福田-麻生内閣時に40.6%とピークを迎えます。ここで民主党政権に移行して、2011年は再び1990年とほぼ同水準の38.8%となり、晴れてOECDで下から7番目の低負担率の国となっているわけです。

えーと、これをもって「増税が不況を招く」という主張はどのように解釈すればよいのでしょうか。社会保障負担率が一貫して上昇しているのは、その給付である社会保障支出が一貫して上昇していることを担保しているので、原則的に景気には中立と考えられます。ただし、厳密には、保険料収入の上昇より給付の上昇の方が多く、その不足分を一般会計で借入をして繰り入れているので、税収を通じて景気にも影響があります。租税負担率は上記のとおりビルドインスタビライザーとして機能しているようですし、教科書的には「租税負担率は景気安定効果を発揮している」といえそうですが、浅学な私には「橋本内閣の消費税率アップで不況を招いた」とか「増税すれば震災不況だ」という主張がどう説明されるものかよくわかりません。偉い経済学者の方に解説をお願いしたいところです。

もっといえば、バブル景気まっただ中の1988年に消費税が導入されましたがネットでは減税となり、その後3年間日本経済はバブル景気が持続しました。一方1997年の消費税率アップの際は、アジア通貨危機を反映して租税負担率はむしろ低下しており、これは、村山内閣時に先行減税が行われていたので、税収は中立だった上にビルドインスタビライザーが機能したからではないかと。

1 消費税の導入


 大平内閣(昭和53年-昭和55年)の「一般消費税」構想や、中曽根内閣(昭和57年-昭和62年)の「売上税」構想の挫折を経て、竹下内閣(昭和62年-平成元年)は、消費税の導入を政権最大の課題とした。昭和63年12月、「消費税法」(昭和63年法律第108号)が「税制改革6法」の1つとして成立し、平成元年4月に、税率を3%とする消費税が導入された3。消費税は、ほとんど全ての国内取引(商品とサービス)と外国貨物に課税される4。消費に対して広く薄く負担を求めることで、所得課税中心の戦後税体系を見直す端緒が開かれた。
 消費税の導入にあたっては、所得税、法人税等の大幅な減税が実施されたため、ネットでは2.6兆円の減税となった5。しかし、食料品などの生活必需品を含めて一律に課税される点や低所得者層の負担が重い「逆進性」への反発は大きかった。
事業者の納税事務負担を軽減するための諸制度(帳簿方式、事業者免税点制度、簡易課税制度、限界控除制度)は、新税の円滑な導入に役立った。しかし、零細・中小事業者への手厚い措置は、消費税の一部が事業者の手元に残るとされる「益税」への批判を招いた。
(略)


3 平成9年の税率引き上げ


(略)
 日本社会党委員長を首班とする自社さ連立政権である村山内閣(平成6年-平成8年)は、所得税を減税して消費税率を引き上げる「所得税法及び消費税法の一部を改正する法律」(平成6年法律第109号)を、平成6年11月、第130回国会で成立させた。所得税は、累進構造が緩和され、人的控除の見直しによって課税最低限度が引き上げられた。消費税は、新たに導入した地方消費税を含めて5%(国4%、地方1%9)に税率が引き上げられ、益税批判に対処するため、中小事業者への特例措置が大幅に縮減された(巻末別表A)。具体的には、① 限界控除制度の廃止、② 事業者免税点制度の範囲縮小、③ 簡易課税制度対象の縮小と精緻化が実施された。また、事業者の運用益を更に抑制するため、年4回の申告納税が必要となる事業者の範囲が拡大された。
 所得減税は平成7年度から実施される一方、消費税率の引き上げを含む消費税法改正の施行は、平成9年4月となった。この改正では、先行する減税と社会保障支出の増加によって、国民負担はほとんど変化しなかった10。なお、税率については、平成8年9月までの検討条項が設けられており、平成8年6月、橋本内閣(平成8年-平成10年)は、法定された5%(国4%、地方1%)での実施を閣議決定した。


3 消費税の導入と改正については、竹下登・平野貞夫監修『消費税制度成立の沿革』ぎょうせい,1993, pp.299-449;森信茂樹『日本の消費税』清文社,2000,pp.29-92;渡辺裕泰「消費税法の沿革と改革上の諸課題」『租税法研究-消費税の諸問題-』34号,2006.6,pp.81-101.などを参照した。
4 税の性格上非課税とされた金融・不動産取引と、政策的配慮から非課税とされた医療・福祉・教育の一部を除く、ほぼ全ての取引が課税対象となった。
5 所得税(3.3兆円)、法人税(1.8兆円)、相続税(0.7兆円)、個別間接税の調整(3.4兆円)の減税合計は9.2兆円に及び、消費税の導入(5.4兆円)と課税の適正化(1.2兆円)の合計は6.6兆円に過ぎなかったことから、ネットでは2.6兆円の減税となった。
(略)
9 厳密には、地方消費税の税率は、国の消費税率の25%とされている(地方税法第72条83)。税率3%の導入当初は、全て国税とされ、25%相当が消費譲与税として地方へ移転されていた。
10 所得税・個人住民税(3.5兆円)、相続税(0.3兆円)、社会保障支出の増加(0.5兆円)で、減税・受益の合計は4.3兆円。消費税率の引き上げ(4.1兆円)と消費税の課税強化(0.3兆円)の合計は4.4兆円。


「消費税を巡る議論」国立国会図書館 ISSUE BRIEF NUMBER 609(2008.2.28.)(注:pdfファイルです)2ページ


つまりは、これまでネットでの税収の長期的トレンドはほぼ一貫して低下し続けていたわけで、「増税」といえる増税はこれまではなかったといえそうです。それでもオリンピック後の不況、2次にわたるオイルショック、バブルの崩壊、リーマンショックと不況は繰り返されていて、増税なんかよりもっとほかの要因を気にした方がよさそうな気がします。

こうした歴史的経緯には一切触れずに増税を「財務省の陰謀」とかいう方もいらっしゃいますが、その税収でより豊かな暮らしを享受できるのは低所得者層だったり、その方々に社会保障の現物給付を行う公的セクター(私もその一員です)や医療・福祉分野に従事する労働者なんですね。高橋洋一氏もその機能を認める「官庁内閣制」(行政学的には「官庁内閣制」というより「省庁代表制」の方がこの趣旨に合いそうです)の下では、これらすべての関係者も財務省の陰謀に荷担しているというのでしょうね。それならそれで、おおっぴらに財務省に肩入れしましょう。税収増の恩恵を受ける低所得者層や社会保障の現物給付を行う労働者がおおっぴらに支持すると、もはや陰謀論ではなくなってしまいますが。

まあ、最近は陰謀論に限界を感じたのか一部では「御用一般人」といういい方もされているようですが、それぞれに立場があって生活している普通の国民を指していうのであれば、その言語センスにはついていけそうもありません。普通の言葉で言えばそれぞれの立場にあるただの利害関係者が主張しているだけであって、それを調整するのが政治や行政の役割なのだろうと思いますが、昨今の政治状況ではそれがすっ飛ばされる傾向にあります。そうした中で利害も関係なく主張している方ももちろんいますが、それは政権奪取戦略によって合理的無知をエクスプロイトされた被害者ともいえそうです。それを「御用一般人」などと蔑視するのは、政権奪取戦略に勝らずとも劣らないこうとうせんりゃくですね(棒読み)
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