2011年07月12日 (火) | Edit |
昨日で震災から4か月が経過しました。先月は震災から3か月目に震災とは直接関係ないエントリを書いておりましたが、震災から日が経つにつれてその対応について見解が分かれてきていて、正直なところ、どの対応が悪いとか遅れているという議論が個人的に整理し切れていなかったのがその理由です。現時点でも、整理しきれないままではありますが、それを並べるだけでも一定の議論ができるかもと思いましたので、以下思いつくまま挙げてみます。なお、重ねてのお願いですが、一地方公務員が見聞きした範囲での断面的な情報である点に十分留意してご覧いただくようお願いします。また、3月以降のエントリで書いたことのフォローアップも一部含まれていますので、過去ログなど参照していただけると幸いです。

1 地方分権の病

先日、国が市町村の要請に基づいてがれき撤去を直接行うという特例法が閣議決定されましたが、震災後4か月が経とうする時点まで法制化されなかったというのはあまりに遅いといわざるをえません。ただし、ここまで遅れたのは決して菅政権の対応が遅れたという単純な理由ではないように思います。

がれき特例法案 与野党で修正して成立を2011.7.9 03:01 (1/2ページ)

 東日本大震災から4カ月を迎えようという今ごろになってようやく、被災自治体に代わり国が直接、がれきを処理できるとする特例法案が閣議決定され、国会に提出された。遅きに失したばかりか、中身も被災地への配慮が十分とは言い難い問題法案である。

 まず、被災地で対応しきれないから特例法が必要なのに国は現地の要請を待って処理を代行するとしている点である。国直轄でやると明記すべきだろう。

 次に費用面の問題だ。市町村に一定の負担を求めているが、すでに3月末に、国が100%負担する方針を決め、現行の廃棄物処理法に基づく地元負担を交付金で補填(ほてん)するとしていたではないか。

(略)

 国の対応の遅れもあって、撤去できているがれきはまだ、全体のわずか3割だ。がれき処理は本来、市町村の担当ながら、被災地の行政機能は低下しており、仮置き場の確保さえ難しいのだ。

※ 強調は引用者による。


現地の要請を待って処理を代行するというような「地方自治は基礎自治体中心に行うべきだ」という考え方は、拙ブログでもよくやり玉に挙げる「補完性の原理」に代表されるものですが、実際のところその判断基準はかなり曖昧であって、スローガンとしては意味があるとしても、実務上は使い物になりません。結局、「小さな政府」とか「行政のムダ排除」が最優先されるこのご時世では、補完する立場にあるとされる都道府県や国は、基礎自治体に対して「自分でできるか」を厳しく問わなければなりませんので、生活保護で問題とされる水際作戦と同じことが起きてしまいます。つまり、「補完性の原理」を建前に、「お前のところの市町村はまだ自分でできるだろ。なんで都道府県や国がやらなきゃならないのかきちんと説明しろ」ということができてしまうわけで、つい最近辞任した「チームドラゴン」の方はこの流れに沿って発言したに過ぎないともいえそうです。

長らく日の目を見なかった地方分権論が、90年代の規制緩和とゼロ年代の自己責任論を背景に一気に加速したという経緯を考えれば、震災時であってもその文脈で地方分権が語られてしまうのはやむをえないのかもしれませんが、被災地の実態は地方分権を位置づけ直す必要性を示しているものと思います。

2 エアポケットとなる自宅避難者

避難所には行政が常駐したり定期的に支援団体が訪問したりしますし、仮設住宅についても設置・管理をする行政が一元的に責任を持って運営にあたりますが、自宅避難者(という定義があるかはわかりませんが)の方には義捐金も支払われず、行政の支援対象から外れてしまうのが実態です。特に、リソースが限られている被災市町村では、当面は津波の被害を受けた臨海部にリソースを集中せざるをえないため、市街地から離れた集落などでは未だにがれきの撤去も生活支援もままならないところがあります。となると、市街地から離れた集落で自宅が残っている方々は、ほとんど行政の支援を受けることができなくなってしまうという状況に陥ってしまいます。

こうした状況にある自宅避難者の方々で、元々の仕事場が市街地にあって被災で仕事がなくなってしまった方は、途端に収入がなくなってしまいます。当座の資金については、社会福祉協議会の生活福祉資金や震災後申し込みが急増した緊急小口貸付の制度がありますが、これも窓口で低所得や被災の条件が求められるのが実態で、申し込めば誰でも貸付を受けられるわけではありません。最後の手段である生活保護についても、従来から指摘されているように、そもそも水際作戦によりすべての生活手段が絶たれた状態が支給の前提とされますので、いったん生活保護に入ってしまってから仕事を再建するまでのつなぎという意識を維持できるかという難問があります。さらにいえば、被災地は元々高齢化が進んだ過疎地でもあるので、生活資金だけではなく医療や介護・福祉の支援も欠かせません。これらすべてを被災した地元市町村が担えるわけもなく、その点からも地方分権ではない取組が必要と感じるところです。

3 民間団体の支援の限界

行政の目の届かない自宅避難者に対しては、地元のNPOや海外のNGOが中心となって物資の支援や聞き取りなどを進めている事例もあります。ここで彼我の違いを見せつけられるのが海外のNGOでして、地元のNPOが年間数百万程度の資金で活動しているのに対して、海外のNGOは億円単位の設備や個人宅に必要な家電などの物資をさっさと準備してしまうだけの資金力を持っています。

ただし、それぞれの団体ごとに子供や高齢者など支援対象が決まっており、当然のことながら資金力にも限界があるので、ドネイションに対するアカウンタビリティ上からも自宅避難者をすべて網羅できるわけではありません。特に、医療・福祉サービスはハードな設備と同時に整備される必要があり、物資支援を中心とする民間団体の支援の範疇を超えてしまいます。さらに、地元で再起しつつある小売・飲食店からすると、被災者に対する物資支援は地元での売上を奪ってしまうことにもなりかねません。「民間にできることは民間に」というスローガンも、実務上はいろいろな問題を孕むものといえそうです。

4 必要なのは色のついた財源と人

こうした被災地の現状を間近で見ていると、「市町村の裁量の拡大」や「財源の移譲」ということが問題の解決につながるとは到底思えません。被災した市町村では、裁量を発揮しようにも目の前のがれき撤去、仮設住宅の管理、避難者への対応、現地視察と称して続々と訪れる政府要人や他市町村、都道府県への対応(これがロジを含めて大変な負担です)に追われていて、じっくりと事業を考える状態にはないのが実態です。いま現地で求められてるのは、ある程度使い道の決まった財源で事務を効率化しながらとそれを使って事業を実施できるマンパワーです。この点からいえば、 国や都道府県が予算化した事業を現地に入って自ら直接実施することが喫緊の対応として必要であることは明らかなのですが、「地方分権」の大義名分のために、被災市町村が「これ以上ムリです」というまで放っておいたというのが、冒頭で引用したのがれき撤去の対応が遅れた理由ではないかと思います。

また、経済学の議論では、企業や家計の効用が変わりなければ財・サービスの選択は「無差別」といわれ、「色」が付いていない方が「歪み」がなく効率的とされるのですが、政府の財源は「無差別」ではありません。日本国憲法第25条第1項で「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」とされているとおり、国が徴収した税・保険料はその使途を限定されているという点で「色」が付いています。むしろ、政府の予算編成というのは財源に「色」をつける作業であって、たとえば事業化して現場で事務を行う公務員が不足しているということは、そのために投入される「色」のついた財源が不足しているということの現れといえます。

もちろん、「色」の付き方にはグラデーションがあって、一般的な税金は特に使途が特定されないことから、一般会計(普通会計)で扱われて、国会(議会)の審議を経て決定されますので、「色」は薄くなります。一方、特定の目的のために使うことを約して徴する税金は「目的税」と呼ばれ、その多くは他の使途と区別するため特別会計で扱われます。もちろん、目的税の具体的な使途も国会の審議を経て決定されますが、使途がある程度特定されているという点で「色」が濃い財源といえます。これらの税金と比べると、社会保険料は拠出の義務に対して受給の権利が対応し、原則として国会の審議を経ずに個別の支給額が決まるため、もっとも「色」が濃い財源となります。権丈先生が社会保険料の財源調達力を重視するのも、社会保険料のこうした「色」の濃さ故でしょう。

ただし、財源に「色」をつけることはある程度事務的な手続で可能ですが、マンパワーに適切な行政事務を行うという「色」をつけるのは一朝一夕でできることではありません。そうした人材の養成を曲がりなりにも可能にしてきたのが、年功序列的な終身雇用に代表される日本型雇用慣行だったわけです。全国の自治体がこれを否定しながら新卒採用を絞りに絞ってしまっており、被災地はもちろんのこと、被災地を支援しようとする他の自治体にもマンパワーは余っていません。震災が起きてしまっては後の祭りですが、今さら軌道修正したところで適切な事務執行をこなせるようなマンパワーが育つのは相当先になりそうです。
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