2011年06月11日 (土) | Edit |
海老原嗣生さんから新著『もっと本気で、グローバル経営』をご恵投いただきました。いつもながら場末のブログを気に留めていただき、改めてお礼申し上げます。

正直なところ、グローバル経営と聞いてちょっと畑違いの本をいただいてしまったかなと思いましたが、読み進めて納得の海老原節(?)でした。雇用や人材マネジメントを専門とされる海老原さんがグローバル経営を取り上げた理由については、「おわりに」で端的に書かれています。

 まず、グローバル経営について、見当違いの薄っぺらな議論が、ビジネス誌をはじめとしたマスコミで、いつものことながら、なされていたこと。私がここ数年、臨戦態勢をとってきた、雇用関連の諸問題とまったく同じ構図であり、人事や経営など大して造形も深くない論客たちが、ここに参戦せいていることに苛立ちを感じていた。そういう意味で、このテーマを選んだ理由の一つがここにある。
p.205

もっと本気で、グローバル経営 ―海外進出の正しいステップもっと本気で、グローバル経営 ―海外進出の正しいステップ
(2011/05/20)
海老原嗣生

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ここで海老原さんは明記していませんが、雇用・人事を専門とする海老原さんがグローバル経営について「本気」の本を書けるということが重要ではないかと思います。グローバル化についての「薄っぺらな議論」では、「日本の製造業には国際競争力がある」「これから日本は高付加価値の製造業で生き残るしかない」という聞き飽きた議論がよくされます。しかし、その国際競争力なるものの内実は必ずしも明らかではありません。たとえばそれが「日本が誇る高度な技術力」であるならば、その技術を開発する日本の教育機関が優れているのでしょうか。ところが、製造業に従事する労働者は必ずしも高学歴ではありませんし、そもそも学校教育が職業に結びついていないという「職業的レリバンスの欠如」(@本田由紀先生)が問題だということは、拙ブログでは常々指摘しているところです。

では、「きめの細かい作業による高品質」とか「アフターサービスの充実」とか「先行商品の改良技術」というものが日本企業の国際競争力なのでしょうか。個人的な考えではありますが、そうした日本製製品の特長を可能にしているものが日本型雇用慣行であって、それがまさに日本企業の国際競争力なのではないかと考えております。海老原さんはこの点について、コア・コンピタンスという言葉を使ってこう指摘されています。

 そう、成熟業界でもまだまだヒット商品は生み出せる。しかしそれには、顧客の「無理難題」、そしてその声を拾う営業力、それを前向きに受け止める開発スタッフ、そして何とか形にしてしまう熟練の技。これが、今の日本企業の「底力」=コア・コンピタンスといえるだろう。
海老原『前掲書』p.26

※ 強調は原文。


顧客との信頼関係を培う営業力や、自社製品をカスタマイズできる経験、それを形にするまさに熟練の技というのは、長期的なスパンで培われるものです。多くの会社では、そうしたスキルを持つ社員を「戦力」として自社で囲い込むことで、他社に対する競争力を維持しようとします。いくら非正規が増えているといっても、それをアウトソーシングする会社はほとんどないでしょう。日本企業が海外に生産拠点や営業拠点を持とうとするとき、国際競争力の強化を可能とするためには、そうしたコア・コンピタンスを十分に生かした会社経営を現地で行うことが必要不可欠というのが本書の肝ではないかと思います。

もちろん、長期的雇用を可能とした日本型雇用慣行が揺らいでいることは事実ですし、特に単純労務部門は海外との競争によって疲弊してしまっています。さらに、品質を維持し、アフターサービスを充実させるために現場の労働環境がブラック化していくという問題も、日本型雇用慣行が解決しなければならない課題です。しかし、日本企業の国際競争力がそうした労働環境によって成り立っていたものであったという点を踏まなければ、ただ闇雲に「グローバル経営」と称して成果主義などのアメリカ型経営を導入し、強化しようとした日本企業の国際競争力の基盤をかえって破壊してしまうことになりかねません。

少なくとも、「日本が生き残るためには高付加価値の生産が云々」という議論をしようとする方がいらっしゃれば、あらかじめその具体的な進め方について本書をお手にとってご確認いただくとよいのではないでしょうか。

なお、震災からの復興においても、短期的にはCFWなどの取組による短期雇用で生活を維持しなければなりませんが、このコア・コンピタンスとしての日本型雇用慣行がキーとなると思います。被災された方の多くはもともと何らかの職業的スキルを有している方々です。その方がいかに円滑に次の職業(それが従前のものと同じ職業か否かとなるかは地域ごと、業種ごとに異なると思いますが)に移行できるかは、長期的な雇用でそれを活用することができるかにかかっているものと考えております。まあ、それが一番難しい課題でもあるわけですが。。。
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