2011年05月22日 (日) | Edit |
ほぼ1か月ブランクが空いてしまいました。某所からご依頼を受けた件でしばらく手が回りませんでした(期限を過ぎてしまい申し訳ございませんでした>某所の皆様)が、やっとそちらも形ができましたので、ぼちぼち再開していきたいと思います。

震災から2か月が過ぎ、多くの被災地はすでに緊急の段階から復興へ向けた具体策を実行する段階に移行していると思います。ただ、津波の被害が臨海部に限られて市街地が機能しているところでは、全体としてみれば通常の生活が戻っているといえるものの、被災された方は未だに避難所生活を余儀なくされており、そのコントラストが微妙な雰囲気となっているところもあります。もちろん、役場をはじめ市街地そのものが被災したところでは多くの方が避難生活を送っており、生活再建などはまだ先の話という状態にあります。そうはいっても、すでに2か月以上が経過している中では、復興に向けて動き出さなければ、現地の疲弊感が募っていくだけではなく、県や国全体の経済活動が滞ってしまいます。

しかし、緊急事態ではそれほど対応に裁量の余地はありませんでしたが、復興を見越した動きが出てくるといろいろな利害関係の対立やしがらみが顕在化してきます。そこで利害調整の専門家たる公務員の本領発揮の場面なんですが、国と市町村の間にあって中途半端な立場にある都道府県にはどうもそうした意識が希薄なように思います。たとえば、宮城県と岩手県がそれぞれ策定した「宮城県震災復興基本方針(素案)」と「東日本大震災津波からの復興に向けた基本方針」を比べてみると、

(5)県全体の復興の方向性
○ 今回の震災・津波被害は甚大で、県民生活全般に極めて大きな影響。
○ このため、県政全般について分野毎の復興の基本的な方向性を示す。
○ 施策を展開する上では、県全体の防災や産業振興のあり方を抜本的に見直し、被災地を中心に、最適な公共施設や設備の配置などの基盤づくりを図る必要がある。
○ 県民生活の復興を図りさらなる発展に結びつけるため、各分野とも、復旧期・再生期・発展期の各段階を踏まえた効果的な施策の展開を図る。
○ 最終的には、本県の長期総合計画である「宮城の将来ビジョン」に掲げた「富県宮城の実現」、「安心と活力に満ちた地域社会づくり」、「人と自然が調和した美しく安全な県土づくり」の政策推進の基本方向に基づき、県民が県勢の発展を実感できる地域社会を実現していく。
① 環境・生活・衛生・廃棄物
② 保健・医療・福祉
③ 経済・商工・観光・雇用
④ 農業・林業・水産業
⑤ 公共土木施設
⑥ 教育
⑦ 防災・安全・安心

資料3-1 宮城県震災復興基本方針(素案)(概要版)」(宮城県震災復興会議-第1回震災復興会議


(3) 復興に向けて取り組む内容
 復興に向けて取り組む内容については、次のように想定していますが、具体的内容については、委員会の意見を踏まえて定めていきます。また、項目の追加や変更もあるものです。
① 市町村行政機能の支援

  • 被災市町村における復興計画策定支援
  • 被災者の生活再建の支援
  • 復興段階を考慮した被災者向け住宅の供給
  • 地域コミュニティの維持・再生の支援 等
② まちづくり
  • ハード、ソフトの両面からの災害に強いまちづくりの推進
  • 故郷への思いを生かしたまちづくりの推進
  • 防災を考慮したインフラの復旧と整備
  • 地域と地域を結ぶ広域的な道路ネットワーク形成 等
③ 水産業等
  • 漁業協同組合機能の回復
  • 水産施設(個人施設を含む)の再建と漁業・流通・加工業の再構築
  • 農林業の生産基盤の再生 等
④ 学校・教育
  • 学校・家庭・地域が一体となった「学びの場」の再生
  • 児童生徒の心のケアへの対応
  • 学校・地域における文化・スポーツ活動の再始動 等
⑤ 医療・福祉
  • まちづくりと連動した保健医療福祉体制の整備
  • 福祉コミュニティの再構築
  • 被災者の心のケアへの対応 等
⑥ 経済産業・雇用
  • 事業所再建と地域産業の事業継続支援
  • 各地域の特色あるものづくり産業の復興と経済産業の基盤構築
  • 科学技術振興やベンチャー支援などによる新産業創出
  • 被災等による離職者の雇用の確保 等
⑦ 観光
  • 観光施設等の再生
  • 風評被害への対応
  • 新たな観光資源の開発
  • 復興のアピールと賑わいの回復 等

東日本大震災津波からの復興に向けた基本方針」(いわて復興ネット


この二つで「宮城県」と「岩手県」を入れ替えても何も問題はありませんね。強いていえば、宮城県よりは岩手県の方が市町村の行政機能の回復に力を入れているといえそうですが、それは宮城県震災復興会議のメンバー岩手県東日本大地震津波復興委員会のメンバーの違いによるのかもしれません。前者は、旧帝大の地元ということもあってか全国的に活躍されている有識者を中心としているのに対し、後者は地元の関係団体の長というある意味無難なメンツとなっており、それが岩手県で市町村の行政機能回復が重要視される理由の一つと考えられます。

ただし、この点を少し掘り下げてみると、両県で市町村の行政機能回復の取組に違いが出るということは、地方が主体となって独自に取り組むべき分野はその程度しかないことの裏返しでもあります。地方分権が行政機能の議論に終始してしまうのも、実務上はそうした行政上の事務の権限移譲でしかないことの現れです。宮城・岩手の両県での「復興に向けた取組」にほとんど違いがないのは、その他の医療・福祉、産業・雇用、教育、都市計画などの分野で取り組むべき課題には、地域によってそれほどの違いがないという実態を反映したものというべきです。

したがって、県レベルでは、県内の業界団体や地域ごとの被災状況、相互支援可能な分野などを調整して、コーディネートしていくことが求められることになります。もちろん、役場機能が失われている市町村については、さらに踏み込んで行政機能の代行や他市町村からの支援のコーディネートも重要な役割となります。その点で、岩手県東日本大震災津波復興委員会のメンバーは無難といえるのですが、そこで出された復興の取組は各団体の関係分野を羅列しただけにみえますので、どこまで利害調整に踏み込んでいこうとしているのか疑問が残るところです。

ところが、この機に乗じて「道州制」とか「特区」というコーゾーカイカク、チホーブンケンチックな言葉が、総務省やら全国知事会方面から声高に主張される事態になっています。拙ブログでは何度も指摘しているとおり、市町村を合併しようが、都道府県を合併しようが、地方支分部局を廃止して道州制に移行しようが、目の前の住民間に歴然と存在する利害対立が消えるわけではありません。その利害調整については、ミクロのものであれば市町村、ミクロだけではしがらみに囚われてしまうものは都道府県、より大規模な利害集団(業者団体、富裕層と貧困層、現物給付を担うマンパワーの養成システム等)のものは国と、それぞれに属する公務員が担うという仕組みができているわけです。

国レベルでは利害関係が巨大になって、傍目から見て利権などの想像が働きやすくなるので、「省庁代表制」とか「省益ばかり考えて国益を考えていない」もいわれてしまうのですが、では、その利害関係をミクロに細分化していって市町村が利害調整できるかというとそんなわけはありません。同様に、現に存在するミクロの利害関係を「道州制」などとマクロな関係の中に埋め込んでいったところで、前述のとおり目の前の利害対立が消えるわけでもなく、むしろそれこそが「中央集権」的な現場を見ない利害調整だったはずです。チホーブンケン教の方々がこのような矛盾しきった主張をするのは今に始まったことではありませんが、未曾有の災害の中でその矛盾を押し通そうということであればまことに憂慮すべき事態だと思います。
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